絹上愛子作品集「かわいいと言わせたい!!」

王道恋愛ものの良さを感じる短編集 #1巻応援

絹上愛子作品集「かわいいと言わせたい!!」 絹上愛子
兎来栄寿
兎来栄寿

周りからは「かっこいい」と言われているけど、内心では好きな人に「かわいい」と言われたい女子は問答無用で素晴らしいと日本書紀にも書いてある気がします。 表題作「かわいいと言わせたい!!」を始めとする、絹上愛子さんの短編が5つ収録された短編集です。 幼いころ、並み居る男子よりもドッジボールが強いクラスメイトの女の子に「か、かっこいい……」とときめいたことがあります。『可愛いだけじゃない式守さん』が人気を博す現代、「かっこいい」によって男子から惚れられる女子のお話はもっともっとあっても良いのではないかと思う今日この頃。首肯される方には、こちらの『かわいいと言わせたい!!』をそっと差し出させていただきます。 ″出来る事ならカイルの体積内容量全部 私の作ったもので形成したいと思ってる″ と、ほんのちょっぴり強火で料理をしてくれる、かわいくてかっこいいヒロインの物語です。 そう、絹上愛子さんの作品はファンタジー系のラブストーリー多めなんですが、個人的にはそのコメディ部分がかなり好きです。 魔女ロリおばあちゃんがとてもかわいく、悪魔とのハーフでありながら無能な父と、普通の人間の母とのクォーターという情報量盛り盛り「血婚コントラクト」。 唯一ファンタジー要素のない「イケメン殺しの朝森さん」は、正にラブがコメっており、ヒロインの朝森さんが黒髪ロングの清楚な外見とは裏腹にどぎついことを言ってくるギャップ、そして最後の1ページが堪りません。 シリアスめのファンタジーな「ササとヤシロの千夜一食物語」、「ノアの赤い瞳」を含め全体的に、王道展開ですがそれがいい。目新しいものはなくても、読んでいて安心するものがあります。こういう王道が読みたい瞬間、確実に存在します。 残念ながら電子書籍でしか出されていないのですが、それを勿体なく感じる1冊です。こういう王道を小〜高校生くらいの読者に読んで育って欲しい。どんどん上手くなる絹上さんの作品が、今後もっともっと広く読まれるようになるといいなと思います。

だから私はメイクする

誰のため、なんのためにメイクをするのか

だから私はメイクする シバタヒカリ 劇団雌猫
ゆゆゆ
ゆゆゆ

メイクを主題に、さまざまな女性たちのストーリーが描かれている。 そのメイクにはビフォーアフターが話題になるレベルの、凄腕メイクの人たちも含まれる。 正直、私にとってメイクはものすごく面倒くさいことだ。 生来不器用なのも相まって、すぐおざなりになる。 ちょっと気合があるときに調べてみたら、若い頃に絶賛されたやり方はよろしくないとあるだけでなく、あれを塗れこれを塗れそれをはたけ指でやれ指でやるな。 ちょっとくらいの気合では、ポキリと折られそうなほど奥が深く、そう、面倒くさい。 でもこの漫画を読むと、メイクっていいな。素敵だなと思える。 こんなことが自分でできたら、人生変わるかなと憧れてしまう。 メイクというものに夢を持たせてくれる。 千原ジュニアがマリー・アントワネットにかわるなんて、なりたいものになれるその腕が羨ましい。 男ウケを考えず、なりたい理想へ突き進む姿がかっこいい。 10代の頃のメイクに対する憧れを呼び覚ましてくれるというのだろうか。 現状の自分はおいておいて、「メイクって素敵だな」と思えるマンガなのだ。

はだしのゲン

戦争やっぱやめた方がいいような・・・

はだしのゲン 中沢啓治
酒チャビン
酒チャビン

戦争しようとする人たちはシゴウしゃげたるしかないですね。争いごとはやめた方がいいと思いました。 よくサバイバルとかの「地球の終わりもの」のマンガを読むのですが、そのどれよりも真に迫っていて心にこたえました・・。夏江さんたちに比べたらサトルとか全然ピンチじゃないですよ! マンガというおもにフィクションとして考えられたことよりも、ダンゼン現実のできごとの方が悲惨に感じたということなのですが、これはつまり、人間が想像できること以上に悲惨な出来事が、実際に起こってしまったということだと思うので、今後はやめていきたいです。 楽しいマンガを読んで、ほがらかな気持ちをはぐくんでいけたらと思います。 ■勉強になった点 ・ピカの候補地が小倉・広島・京都・新潟だったこと (わたくしごとで恐縮ですが、母方の実家が新潟で父方が小倉です) ・「しょうがない」とあきらめることは良くないということ (最終的に気合ということ) ・広島カープが広島の人に熱狂的に愛されている理由 (ピカで焼け野原にされて夢も希望もなくして暗い気持ちの広島市民が作ったチームだから) ■面白かった点&好きなシーン ・うれしいとすぐおしっこ漏れそうになる点 ・勝子と夏江さんの洋服が売り切れるシーン ・相原が野球に希望を見出すシーン ・夏江さんがツボを完成させたシーン (直後に元に割られたときは、うすうす意図はわかったもののかなりショックでした。自分なら死にます。)

最終兵器彼女

不器用な男女の恋愛話+α

最終兵器彼女 高橋しん
ゆゆゆ
ゆゆゆ

2巻まで無料で読めるとのことで、ものすごく久々に読み直した。 当時付き合っていた人が、この漫画を読むと、ものすごく優しい気持ちになれるんだと言っていた。 相手の発言と、漫画のタイトルと作者と表紙と。 内容を予測できないまま読んで、想定していなかった内容に衝撃を受けたのを覚えている。 不器用な男女の恋愛マンガであるけど、戦争マンガ。 そして兵器。 改めて読み直してみても、モノローグが時々過去形になるのがとても苦しい。 すべてはもう終わったことなんだと思えて、その先を知りたいような知りたくないような、複雑な気持ちに支配される。 ほんのわずかなモノローグなのに。 恋愛以外の要素が大きすぎて、「最終兵器彼女」は読んでいてつらい。 優しい気持ちになるどころか、つらさに飲み込まれて抜け出せない。 あの頃は思わなかったけど、ときどき作中で描かれる戦時下の通常にも、しんどさを感じる。 戦争でメディアが絶たれ、一般庶民には何が起きているのかわからない情況であっても、日常生活は続けていかなければいけないところが、やけにリアル。 無料分の2巻分だけでも、怒涛の展開と二人に幸せになってほしさで、つらさがあふれるので、ぜひ体感してみてほしい。

宇宙の卵

すべての人がインスタント殺人能力を持った世界 #完結応援

宇宙の卵 程野力丸
兎来栄寿
兎来栄寿

程野力丸さんは、読み切りの「毒で探して三千里」も尖ったセンスを感じさせてくれていました。そして、ジャンプルーキーで金賞を獲ったものをリメイクしたこの連載版『宇宙の卵』も、その独特のエッジを更に研ぎ澄まして送り出してきています。 最初の1ページから、主人公・ルイの祖父による ”世の中はな… 「事象の連続」に過ぎん” ”…遠い未来からこの世を見るとな… ”戦争”も”飢饉”も”虐殺”もただの"事象” 出来事でしかないんじゃよ” と、非常に俯瞰的かつ示唆的なセリフから始まり、ちょっと普通ではない雰囲気が溢れ出します。それは、個人的にかなり好みな雰囲気でもあります。 そして、1話目にして世界は劇的な変化を迎えてしまいます。世界人口の2割が死滅した後、「人を数秒見つめるだけで殺す能力」を世界中のあらゆる人間が持つようになってしまうのです。当然、秩序は崩壊し世界中が滅茶苦茶になるわけですが、そんな世界でルイが自責を感じながら祖父の教えを胸に、学習をして世界の事象を変えていこうとする物語です。 かなり破天荒な設定でその気になれば重箱の隅をつつくような指摘はいくらでもできそうですが、さまざまな状況に対する仮定を立てて楽しむことができる、想像力の凝らされた設定は魅力です。また、一見すると荒唐無稽な殺人が能力の行使によって行われますが、そのメカニズムを検証しながら突き詰めて真相に迫っていくところも面白いです。宇宙の卵とは一体何なのか? それによってもたらされる事象にはどのような法則があるのか? といったさまざまな謎に対して、段々核心へと迫っていくところは引きが強いです。 圧倒的な貧困に喘ぎ、差別され、迫害され、教育すらまともに受けられなかった持たざる者であるルイが、学ぶことを始めて少しずつ考える力を伸ばし成長していく姿も王道的な気持ちよさがあります。参考文献からも、実際の世界にある様態を問題意識を持ちながらリアルに描いていることが伝わってきます。ただ、強いテーマ性を込められながらもしっかりとマンガとしてのエンターテインメント性もあり、そのバランスが秀逸です。 上下巻で綺麗にまとめられているのも素晴らしいです。とりあえず上巻だけ、と買ったら続きが気になって仕方ないと思いますので、2冊同時に買ってしまうことをお薦めします。 程野力丸さんには今後も独自の路線を驀進して欲しいです。