青年マンガの感想・レビュー15409件<<495496497498499>>リアリティのあるディストピア社会を描くえれほん うめざわしゅんANAGUMAさまざまな仮想社会を描いた短編が3本収録された短編集。 萌えキャラを象徴と仰ぎ「リア充アジー」を弾圧する一党独裁国家、鼻歌を歌うだけでも厳罰となる知的財産権管理が超厳格な社会、母親とつながった臍の緒を切ると死んでしまう「臍子」の居る世界…。 いずれも大胆かつ緻密な世界観設定で、読むのに僕はかなり頭使いました。 秀逸な設定と連動してキャラクターの心がグラグラと揺れ動くことで物語が駆動していくのですが、そのリアリティがすごい。 「ありえるかも」という絶妙な法律や制度が仮想されていて、それを受けたキャラクターが「こう感じて、こう行動するだろう」という感情の表出に説得力があります。 自分は本作を読んで『リベリオン』という映画が頭をよぎりました。特に一作目の『善き人のためのクシーノ』などは、おそらく意識して描かれていると思うのですが。 『リベリオン』では制度を守る人間を主人公に据えることで、制度の内側からその歪みと悪辣さを指摘し、社会の閉塞状況を打破することをある種反証的に肯定していました。 『えれほん』においても同様の構造が採用され、読者は制度に囚われた人物の視点で、その欺瞞と息苦しさを反芻し、世界のあり方を仮想する箱庭的な思考実験に望むことになります。 『リベリオン』では現状の制度を否定し、異なる社会を提示する「外への働きかけ」が首肯されますが、本作では物語の結末は徹底して登場人物個々が「内へ潜心」することで決着するのが非常に印象的でした。 乱暴にまとめれば、彼らは「気持ちひとつ」で制度との関わり方を変えていくのです。 息苦しいことやネジ曲がった制度をスカッとブチ壊す物語はいくらでもありますが、本作の登場人物たちが見せるこの捉え方はとても魅力的に思えました。簡単に答えを出さず、ちょっとのことでは世界は変わらないけど、それでも踏ん張って思考を重ね続ける姿は非常に前向きで、僕は大好きです。 簡単なハッピーエンドと言えるものはひとつもなく、禅問答のような作品群ですが、圧倒的な読み応えがある一冊です。グラフィックノベルの常識をくつがえす挑戦的作品!サブリナ ニック・ドルナソ 藤井光書肆喫茶mori店主グラフィックノベル初ブッカー賞ノミネート!早川書房が発行!と話題の多い本作! ある日突然サブリナという名の一人の女性が失踪する。彼女の恋人とその友人、そしてサブリナの妹を中心に物語は進んでいく。 驚くべきは、一部のコマを除き、登場人物たちの顔が、表情筋がないかのような、点と線というシンプルな描線で描かれていること。 その表情は、たとえシビアで悲痛な場面であっても、あたかもアルカイックスマイルのような微笑みを浮かべているようにさえ見えるのだ。 視覚的要素と内容とがチグハグな印象を与え、この作品に言いようもない不気味さを加えている。そして失踪事件にまつわる顛末をいっそう衝撃的なものへと導いている。 グラフィックノベルの常識をくつがえす、グラフィックノベルの新たな境地を追求する、挑戦的な作品です!八雲さんの隣に住みたい八雲さんは餌づけがしたい。 里見U大トロ未亡人ってやっぱりみんな可愛いエプロンつけてるんですね。 高校球児と未亡人の微妙な距離感がたまりません。 でも全然エロとかではなく爽やかです。高校球児なので。裁判員制度の光と闇サマヨイザクラ 郷田マモラマウナケア裁判員制度導入が話題になったころ、それを題材に扱っていたために興味をもった作品です。まずは、まだ制度としてスタートする前に漫画でシミュレーションするという試みに、相当下調べをしたのだろうなと感心。そして読み進めて感嘆したのが、決して多いとはいえないページ数で、よくこれだけ多くの登場人物の人間模様を入れ込んだものだ、ということ。簡単な絵にも関わらず、性格がにじみ出てくる人物描写が巧いですね。人任せの男や苦悩する弁護士、悪辣な隣人、揺れまくる主人公と強い意志を持ったヒロイン…、市民が参加する裁判の裏側で絡み合う人々の様々な思惑がよくわかる密度の濃い内容です。作中に登場する地獄図の説明コラムを見て著者が伊勢出身ということに気付いたのですが、この地獄図もイメージとして世界観によくマッチしていると思います。 男芸者の異名を持つ関脇・恋吹雪の活躍を描く嗚呼どす恋ジゴロ 平松伸二マウナケアこのところ揺れ続けている角界ですが、こっちの方のスキャンダルだったら、あまり大ゴトにならなかったかもしれません。「男芸者」の異名を持つ関脇・恋吹雪の活躍を描く物語…、といってもその異名通り、半分は夜の取組のお話です。一夜を共にした女性は艶と運を手にするという噂があり、彼はもちろんモテモテ。しかしおごることなく、土俵でもベッドでも手を抜かない、という信条に従い必ず四股を踏んでからコトに及ぶという、かなりぶっ飛んだ内容です。ただ、これがよくありがちな破天荒力士という方向へいかず、男としての色気、という道を突き進んでいくのがいいですね。土俵上の技でお客に喜んでもらい、さらに女性も満足させて幸福に、という異色のコラボを見事に実現させています。さりげなく”相撲最強”伝説を匂わせてくれるのもたまりません。さらにあのリッキー大和もゲスト出演してるなど、ニクイ演出もありオールドファンには感激ものです。傑作愛人 [AI-REN] 特別愛蔵版 田中ユタカ名無しおすすめから読んでみましたが、傑作… ボーイミーツガールで目が合っただけではにかむ漫画もいいけど時々こういう漫画を読みたくなる 生と愛伝説のギャンブラー「マイダス」が活躍する痛快ギャンブルアクションマイダスの薔薇 黄金のギャンブラー 金井たつお 宮﨑信ニマウナケア薔薇の名前であり、伝説の王様の名前でもあるコードネームを冠したチームが活躍するギャンブルアクション。美女に金、そしてケレン味もたっぷりの王道路線であり、ゲームのルールに疎くても素直に読めます。前半はキャラ紹介的なストーリー。登場人物の設定にはなかなか味があって、主人公・通称ボーイは驚異的な動体視力と暗算能力の持ち主。アンクルことバロンは指先に第三の眼をもつ男。レディことスカーレットはルーレットで赤が出ることを予知することができ、実はもうひとつの秘密も。そして博徒風のグランパこと銀蔵。彼らがその技術を駆使して悪徳同元を退治し、それが後半の世界一ギャンブラー決定戦への布石となる構成です。前半は必殺仕事人的な流れだっただけに、この後半への場面展開はちょっと意外。ですがそれぞれの通り名から連想されるファミリー要素をふんだんに盛り込んで、最後はうまくまとめてくれてます。ま、私にとってうれしいのはイカサマの手口などをきちんと説明してくれているところなんですがね。麻雀でこっそりとか、宴会で使えないものかなあ、なんて…。 二十一世紀科学小僧二十一世紀科学小僧 唐沢なをきマウナケア多作で知られる唐沢なをき。むかしN○Kとのやらせトラブルがニュースになってしまいましたが、本当のところ、トラブルの元凶であるインタビュアーは著作をちゃんと読んだことがあるのか、今でも疑問に思います。特撮をテーマにした近作しか読んでないのでしょうね。ちょっと近いSFというテーマでも、この作品のように、ユーモアが詰まっている作品が、それこそ山のようにあるのですから。主人公は1(ピン)太郎という少年で近所でも有名な天才科学者。でも彼は相当マセてます。こんな顔してしょっぱなから「虚構と欺瞞に満ちた社會に鉄槌を」とか「若い女性を肉奴隷として調教する」などなんとも勇ましい。そんな高尚?な心意気で数々の名発明をするものの、やはりろくでもない結末に。この適度に気の抜けた感が著者の持ち味。ここがわからないようなら、そもそも唐沢を語る資格などないでしょう。そんな、オバカなお話をオールカラーでお楽しみください。押切ワールド全開の脱力ホラーギャグ!でろでろ 押切蓮介猫あるく押切先生の絵はなんだかあったかくて読んでると楽しい気持ちにさせてくれる。ゴリゴリのギャグマンガだけどたまにちょっとキュンとさせられたり、大事なこと言っていたりと何かと忙しいドタバタ感が楽しい。そして犬が全漫画の中で最高に可愛い。連載で毎週読みたいフリマアプリで転売してみよう カレーとネコましゅまろほのぼのコミックエッセイみたいな絵柄で繰り広げられる鋭いギャグが良かった…好きです。 「NAVERまとめで得た浅い知識で転売やってんじゃねーよ!!」は草 https://twitter.com/kareneko02/status/1134824625756467200?s=20 ヤンマガのターゲットに合っているのか?テッペン~那須川天心物語~ 高橋伸輔starstarstar_borderstar_borderstar_bordermampukuこの話を美しい、エモいと感じる人に刺さる漫画というのはわかった上で、敢えて私的な感想を述べるとするならば、父親の自己陶酔的な独善とディテールのツッコミどころの多さが気になってあまり楽しめませんでした。 「独善」と表現した根拠としては、息子・天心の「自由意志」あるいは「将来的に得られる幸福」のためではなく、父親個人の理想のために動いているようにしか見えないからです。「那須川天心の半生」と銘打っておきながら彼本人の人格が見えてこない。 ツッコミどころの例としては、時代錯誤的なシゴキを美談化している点(事実に基づき捻じ曲げずに描いているとしたらその点は評価したいが)試合でもセコンドの父が根性論を振りかざしそれに黙って従うだけの人形としか描かれない天心。これほどリアリティの感じられない格闘技の漫画は読んたことがない…。 ストーリー展開に不満があるわけではなく、「これから面白くなるかも」と期待を持てるタイプの失望ではないので数話目ですがもういいかな…笑えるラブコメはお好きですか?恋愛の神様 鈴木マサカズstarstarstar_borderstar_borderstar_borderかしこなぜか森高千里ネタが多くてウケる。主人公が渡良瀬橋渉なんて無理やりすぎるのに名前が出てくるだけで笑っちゃう。ストーリーとしては奥手なサラリーマン渡良瀬橋渉が恋愛の神様にアドバイスされながら同じ会社の森高里子と恋を育んでいくラブコメ。社会人恋愛モノによくある一話ごとに女の子が変わるんじゃなくて、ずっと同じ相手なのもいい。あとタイトルにもなってる恋愛の神様がそれほど役に立ってないのもいい。恋の渡良瀬橋を渡れ!渡良瀬橋渉!は名シーン。実体験をもとにした漫画家漫画遺跡の人 わたべ淳マウナケア著者の実体験をもとにした「漫画家漫画」。突然仕事がなくなった漫画家が、再び机の前に戻るまでを描いた作品です。主人公のモデルは著者自身。彼がアルバイトとして選んだ遺跡発掘作業の現場にはいろんな人物がいて…。と、人物観察や特殊な仕事という面を描くだけでもお話にはなりますが、この漫画は漫画家漫画、そこに主眼はありません。まるで旅をするかのように遺跡発掘の現場を通り過ぎていく人たちを自分と重ねることで、迷走する自分の寄り立つ場所を確認し、そこに戻っていく物語。人気がなくなった漫画家の事情をリアルに表わしていてちょっと切ないですが、何もかもさらけ出してるところに好感が持てます。この作品には”ダメ人間”といわれてる人がたくさん出てきますが、きっと彼らも「もうひと旗」と思って頑張ってる。そう感じたからこそ、著者はこの漫画を描けたのでしょうね。最後の章に描かれた、そんな人たちのその後の姿が妙に後を引きます。 じっとりとしたドSFキヌ六 野村亮馬なかやま主人公の「キヌ」と「六」の掛け合いが面白い全2巻のSF作品 ずっとSFを書いている作者さんで、巻末の設定画とコメントがSF好きの想像を誘います。 超人類の「キヌ」と一般市民の「六」が「キヌ」を追う組織から逃げながら火星船団を目指すストーリー 自分が気に入っているのは ・全2巻ながらすっきり読める事 ・相続力を掻き立てる設定 それに加えて、独特な作画 絵作りは影の印影が強めに出ていて、ゴツゴツ感が強く、日本の漫画というよりもバンドデシネやアメコミなど海外漫画っぽさがあります。なんとなくBLAME!の時の弐瓶勉氏の作風に似ています。 濃ゆいSFを読みたい方は是非(全2巻ですしゲコにケロッを指南するカエル似の酒妖怪ゲコガール 魚田南名無し私はそこそこに酒は飲める。 だがかつて先輩社員が新入社員に酒を強要して 急性アルコール中毒にして病院送りにして、 さらに私を下手人に仕立て上げて以来、 下戸な人に酒を勧めることは一切しない。 酒は美味しいし気分が良くなるし、 料理の味も引き立ててくれるし酒席を和やかにしてくれる。 とはいえ、酒に強い弱いは体質的な面が大きいし 下戸な人にあえて酒を勧めるよりは勧めないほうを選んできた。 なのでこの漫画は凄く面白いしタメになるのだけれども それをそのまま現実に実践する気は無い。 ましてや下戸の主人公に獲り憑いたのが ゲコっと鳴くカエル似の妖怪だとか 酒の妖怪なのに自身も一杯しか飲めないとか、 「ヒネリも深みもまるで無いじゃねーか」 「舐めてんじゃねーぞ」 という第一印象しか受けなかった。 だが下戸相手だからゲコッと鳴くカエルの妖怪かよ、 という軽すぎる印象も、後々に ケロッと鳴くシーンが登場して 「・・だからカエルか、上手いこと言うじゃねーか・・」 と妙に納得した(笑)。 このカエル似の酒妖怪の酒指南は 「いいから呑め」だけではない説得力がある。 現実にはそこまで上手く(そして美味く)は いかないかもしれないけれど うーん、そういうものなのかも、と思わせる面は感じた。 下戸な人にも酒ドリームを抱かせる美味さのある漫画 なのではないかと思った。 私は下戸ではないので、この漫画の通りに飲めば 下戸の人も酒を克服できるかどうかは判らない。 基本的には体質とか生物学的な問題だし。 というか下戸の人がこの漫画をどう思うか判らない。 だが、下戸の人でも他人に強要されずに飲むことが可能な時間とか 最悪、翌日に夕方まで寝込むことになっても大丈夫な時間とか あるならば、試してみたら、というか、 この漫画を読んでみたら、くらいにはオススメしたい。 もっと続いてほしかった拷問トーナメント 高遠由子 アオイセイ十六夜咲夜つまんねとか言う人は見ない方がいいと思う。普通に面白いです。エロいし過激なシーンが多いけど。 逆にこれで完結なのが…もっと続いてほしかった。 自分も卓を囲みたくなるスーパーヅガンアダルト 片山まさゆきマウナケア今でこそ打つ機会は減りましたが、20代のころはよく徹マンをやっていたものです。麻雀とは不思議なもので、どれだけ注意深く他家の捨て牌を確認しながら打っても、危険牌ばかり寄りついてきて負ける時はバカ負けする。そう、「スーパーヅガン」の豊臣くん状態です。対して夜の2時もすぎるころになると、やけに神経が研ぎ澄まされてきて、ヒキだけで勝ちまくるなんてことも。こちらは明菜ちゃん状態ですね。よく雀荘でこの漫画を読んでたなあ、役作りのこととか、美しい牌の待ち方とか考えなくてゆる~く読めるからいいんだよねぇ…と懐かしんでいたら、続編があることに気づきました。あの豊臣、ヤス、信太郎、明智も社会人になってるんですね。しかしながらやってることは一緒で、豊臣が3人にカモられるという構図は変わらず。しかしながら明菜は最初は登場せず、豊臣の彼女らしき人物がいて…? 読んでる途中から自分的には盛り上がってしまいました。あのころの面子を集めて久しぶりに卓を囲みたい~。空手少女ではなく「空拳乙女」空拳乙女 湯浅ヒトシ名無し入学した女子高に空手部がなかった。 なら自分で立ち上げようと頑張る少女。 仲の良くなった級友がなんだかワケアリ風で・・ 初回がそんな話だったので、漫画では良くある話だな、 廻し蹴りでのパンチラ・シーンとか交えながら 仲間を集めて空手を真面目に頑張るという チョイエロ交じりの青春ストーリーか、と思っていた。 ところが、まだ第一巻しか読んでいないのだが 実際に廻し蹴りパンチラは登場してきたが、 なんだかんだであっというまに コスプレ美人女子高生による地下格闘技的大会に 参戦することになるという 意外に派手な展開に。 イマドキは美女が主人公のバトル物は珍しくない。 それどころか美少女で達人ぐらいではありきたりで 爆乳半裸美女戦士が色々と揺らしまくったりしながら 戦う漫画やアニメは世の中にゴロゴロしている。 とはいえ現実を考えると、 爆乳半裸美女戦士が登場するストーリー展開、 いわゆるエロゲー的な展開は、やはり 非現実的なありえないものがほとんどだ。 爆乳半裸美女戦士とかコスプレ格闘家とかが登場した時点で、 漫画としては格闘漫画というよりはエロ漫画と 評価せざるを得ない内容になるものがほとんどだ。 「空拳乙女」はわりとそのへんがしっかりしていて 急展開で予想外ではあるが、コスプレ格闘技大会に 参戦することになるまでの過程は、それなりに 納得のいくストーリーになっている。 そりゃ漫画的な都合の良い展開は多々あるが あきれるような無茶な展開とまでいうほどではない。 「エロいにこしたことはないでしょ」 という考えはあっただろうが、 エロ重視でストーリー軽視、という漫画ではない。 考えすぎかもしれないが題名が空手少女ではなく 「空拳乙女」になっているのもそういう意味合いかと思った。 空手少女、だったら話にコスプレ格闘技を介入させるのは 無理が有りすぎる。 だが空拳というのが「徒手空拳」を意味し、 「己の力で素手で困難に立ち向かう」という意味を強調 するための題名なのだとすれば、わからないでもない。 主人公が体をはって部の設立、練習場の確保、 その過程での仲間作りとか空手やコスプレ格闘の世界に 「徒手空拳」でチャレンジしていくことを表している、 みたいで。 それと、良くも悪くも湯浅先生の描く 「パンチラ」や「コスプレ」はそれほどエロくない。 色々と揺らしまくったりはほとんどしない。 そういう意味ではエロ要素ありの格闘技漫画ではあるが、 エロ嗜好より本格格闘技嗜好の漫画ファンのほうが 楽しめる漫画だと思う。 そういうこの漫画が、漫画ファンのニーズに 爆乳半裸美女戦士が登場する漫画よりも あっていたかどうかは不明。 私はこの漫画も爆乳半裸美女戦士が登場する 漫画も好みだが。震災後の「スカイハイ」天間荘の三姉妹 スカイハイ 高橋ツトムナベテツ想像を絶するような災害に遭った時、創作者はどんな言葉を紡ぐことが出来るのか。東日本大震災の後、多くのクリエイターが様々な表現で向き合いましたが、この物語もそんな状況と対峙した作品の一つです。 この作品の前に描かれた「ヒトヒトリフタリ」の基底に感じられたのは怒りと前に進む意思でしたが、本作はより深い哀しみと、前を向く希望でした。 作者の代表作の一つであるスカイハイシリーズの中で、本作は恐らく最も広範な読者に受け入れられる作品なのではないかと思います。 自分の好きな劇作家の鴻上尚史さんの文章に、「現実の出来事に対して、演劇は無力であり、涙の根元の原因を無くすことは出来ない。ただ、その涙をそっと拭うハンカチのような作品になれば幸いです」といった主旨の言葉があり、この作品にもそんな想いが感じられました。 災害で辛い気持ちを抱えている人の現実に、何か出来ることがあると思うほど傲慢ではありません。ただ、自分のいる所で日々出来ることをする。他者に想いを馳せる想像力のきっかけにとなる作品の一つなんじゃないかと思っています。 男子たるもの、一生に一度ぐらいはバイクで日本一周したい日本をゆっくり走ってみたよ 吉本浩二マウナケアそうそう男子たるもの、一生に一度ぐらいはバイクで日本一周!なんて思うよね。それは自分探しの旅だったり、まだ見ぬ日本各地の風景に憧れたり。その旅が終わるころには何か新しいものが待っていて、道中の経験が明日への糧になる、みたいな清々しさがこの手の物語にはあるはずなんですが、ああなのにこの作品はとっても息苦しい。主人公は30代半ばの連載が終了して先のあてがない漫画家。秘かに憧れる女の子に告白するため、強い男になってくると奮起して旅に出る…、などど20代ならともかく、これ実話って言ってしまっていいの?って感じ。で、旅先でもやたら変な人に声かけられるし、風俗にも飛び込めずウジウジするしで、もうイタさオーラ全開。”てめーしっかりしろよ”って突っ込み入れたくなってしまいます。引いてしまう人は多いかもしれません。でもね、ダメ男の日本一周なんてこんなもの、とありのままに見せてくれてるのが潔いとも思うのです。最後はなんだかんだ思っても”頑張ったな”と言いたくなりましたもの。まあ、強くなってはいないぶん小声で、ですけどね。本宮ひろ志、政治家を目指すやぶれかぶれ 本宮ひろ志マウナケア今ならウケると思うんだけどなあ。時はロッキード事件で日本が揺れていた1980年代初頭。漫画家・本宮ひろ志本人がなんと参議院選挙に打って出て、その過程をルポ漫画として描くという意欲作。ですが、一般人にはわかりにくい政治の実態を漫画に、という面ではこの発表形態では失敗だった、と思います。なにせ掲載が少年ジャンプ。子供向けではないし、文字も多く詰め込み過ぎてこのページ数では読みづらい。ただ、大人になってから読むと違和感はそれほどでもない。政治家に真正面から斬り込む姿勢に好感を持てるし、むしろ漫画として深い内容になっていると感じます。一般誌で時間を割いて、というのが一番でしょうが、それができる時代ではなかったのでしょうね。30年早かったか。田中角栄との会談や、編集部とのやりとりなど内幕暴露話として面白い部分もあって、見るべきところは多いだけにもったいない(あと若き日の菅直人も)。当時の少年は一度読んでみるといいですよ。また後の『大いなる完』『実録たかされ』にこの経験は生かされているので、そんな面から見るのも一興です。難しい事なのにわかりやすいフラジャイル 草水敏 恵三朗名無しただ難しい専門用語を並べまくってストーリー的には面白くない漫画、多そうなのですが、これ面白い! なんででしょう、わかりやすい! しかも自然と感情移入できるしキャラクターも立ってるんですよね… 漫画的な部分もありリアルなところ、業界あるあるもあり… すげー!って感じです 語彙力ないですけどいや本当に メディアミックスと同時多発コミカライズ武士道シックスティーン 安藤慈朗 誉田哲也starstarstarstarstarひさぴよ「薬屋のひとりごと」が話題になってますね。なろう原作の大ヒットからのコミカライズですが、2019年現在、別々の雑誌(「月刊ビッグガンガン」「月刊サンデーGX」)で同時期にコミカライズを連載するという事態になってます。これはまぁ、色々とメディアミックスに関わる事情があってこういう事が起きてるんでしょうか。 で、過去にも同時コミカライズパターンあったな〜と思い出したのが、この「武士道シックスティーン」です。2009年に、「アフタヌーン」と「マーガレット」が同じようにコミカライズを展開していたのですね。結局どっちの方が売れたのか?今更ながら気になるところですが、とりあえずここではアフタヌーン版の感想を書こうと思います。 作画は安藤慈郎。「しおんの王」のコミカライズを経験し、次の作品で今度は武士道シックティーンの作画を手掛けています。他作品と比較してみて、特に違いを感じるのはキャラの性格付け。個人的にはアフタ版の方が地味…いや、落ち着いた雰囲気があって好きです。逆に、「地味なのは嫌!」という人はマーガレット版を読むのがいいかと。 キャラの性格の違いについて。剣道エリート・磯山香織に関して言うと、表情の変化こそ少ないものの、武士のような真剣味や生真面目さ、気迫のこもった表情が良いんですよね。これは、青年誌だからこそ磯山の「男っぽい」部分をより上手く引き出せたのかなと。 対する西荻早苗についても、ウザくなりすぎない天真爛漫さ(←ここ大事)と、舞踊の経験から来るしなやかさ、芯の強さを感じます。磯山と西荻、どちらも過不足なく、対比の描き分けが秀逸です。 メディアミックス化作品の場合、小説、映画、漫画のどこから触れるかで、作品の印象は変わるものだと思います。そういう意味では、最初にこの漫画から読めたのは自分にとって幸せなことでした。フェチズムを感じる短編集福島鉄平短編集 アマリリス 福島鉄平名無し大人の都合で心や体が傷つく子供たちの話が多い。 個人的には青年誌向けにもっともっと攻めた作品を描いて欲しい! もうひとつの短編集も読みたい。<<495496497498499>>
さまざまな仮想社会を描いた短編が3本収録された短編集。 萌えキャラを象徴と仰ぎ「リア充アジー」を弾圧する一党独裁国家、鼻歌を歌うだけでも厳罰となる知的財産権管理が超厳格な社会、母親とつながった臍の緒を切ると死んでしまう「臍子」の居る世界…。 いずれも大胆かつ緻密な世界観設定で、読むのに僕はかなり頭使いました。 秀逸な設定と連動してキャラクターの心がグラグラと揺れ動くことで物語が駆動していくのですが、そのリアリティがすごい。 「ありえるかも」という絶妙な法律や制度が仮想されていて、それを受けたキャラクターが「こう感じて、こう行動するだろう」という感情の表出に説得力があります。 自分は本作を読んで『リベリオン』という映画が頭をよぎりました。特に一作目の『善き人のためのクシーノ』などは、おそらく意識して描かれていると思うのですが。 『リベリオン』では制度を守る人間を主人公に据えることで、制度の内側からその歪みと悪辣さを指摘し、社会の閉塞状況を打破することをある種反証的に肯定していました。 『えれほん』においても同様の構造が採用され、読者は制度に囚われた人物の視点で、その欺瞞と息苦しさを反芻し、世界のあり方を仮想する箱庭的な思考実験に望むことになります。 『リベリオン』では現状の制度を否定し、異なる社会を提示する「外への働きかけ」が首肯されますが、本作では物語の結末は徹底して登場人物個々が「内へ潜心」することで決着するのが非常に印象的でした。 乱暴にまとめれば、彼らは「気持ちひとつ」で制度との関わり方を変えていくのです。 息苦しいことやネジ曲がった制度をスカッとブチ壊す物語はいくらでもありますが、本作の登場人物たちが見せるこの捉え方はとても魅力的に思えました。簡単に答えを出さず、ちょっとのことでは世界は変わらないけど、それでも踏ん張って思考を重ね続ける姿は非常に前向きで、僕は大好きです。 簡単なハッピーエンドと言えるものはひとつもなく、禅問答のような作品群ですが、圧倒的な読み応えがある一冊です。