ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章 完全版

巨大で不気味な「魔」の魅力

ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章 完全版 藤原カムイ 小柳順治 川又千秋
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

ゲーム「ドラゴンクエスト」の世界観を基にした漫画作品として、『ダイの大冒険(以下ダイ大)』と双璧をなす『ロトの紋章(以下ロト紋)』。いずれも独創性に溢れた、感動的な物語だが、作品の雰囲気はだいぶ異なる。 ロト紋で印象的なのは、敵対する魔王軍側のキャラクターの気味悪さだ。 バラモスゾンビ、知性を失った海王、ヤマタノオロチ、冥界の王、そして大魔王・異魔神……肉体がまるでアメーバや粘菌の様に広がり、触手を伸ばし、猛スピードで再生する彼ら。 スミベタで表現される闇の世界で、敵の余りの巨大さと不可解さに、手に負えない絶望的な戦いを強いられる勇者達。 ここで描かれるのは、人間の価値観の埒外にある者達の生き方、分かり合えなさだ。 ダイ大が、敵味方無くキャラクターの葛藤や成長を描き、読者の倫理観と共鳴する(大魔王バーンや冥竜王ウェルザーを除く)のに対して、ロト紋の敵キャラクターは、しばし倫理を根底から無効にして、読者を絶望させる。 そして不思議な事に、そんな絶望を、何故かもう一度味わいたくて、私達はこの作品に再び手を伸ばす。絶望からの回復が欲しいのではない。絶望の深淵を覗き込む事で、退廃的な安らぎを得る為に。

交響詩篇エウレカセブン ニュー・オーダー

いくつもある『エウレカセブン』の物語のひとつ

交響詩篇エウレカセブン ニュー・オーダー BONES 深山フギン 大野木寛
ANAGUMA
ANAGUMA

『エウレカセブン』が作品によってストーリーや世界観、キャラクターの設定が異なるちょいと厄介なシリーズなのはファンなら周知の事実。 『ニュー・オーダー』は元はTV版放送完結時のアニメイベントで「51話」として公開アフレコが行われたオリジナルストーリーの朗読劇です。 映像は本編の再編集で、物語はそのイベントのためだけに作られたものという、非常に特殊なコンテンツでした。(今となっては『エウレカ』の作り方として定着した方法な気もしますが) そんなスペシャルなストーリーのコミカライズが放送終了から7年後に刊行されるというのもシャレが利いています。なんと言っても再編集でなくすべて書き下ろしですからね…。 それだけでもファンなら読む価値アリです。 『ニュー・オーダー』はエウレカがすべてを手放していく物語です。 ニルヴァーシュとの出会い、ゲッコーステイトとの出会い、そしてレントンとの出会い…。思い出を手放していく過程は、コーラリアンとしての悲しい運命が本編よりも色濃く出ているんじゃないかなと思ったりします。 そんな悲しいストーリーでも、深山フギン先生の絵がかわいらしくて、読んでいると「あぁ、間違いなくエウレカの物語だ」という幸せな気持ちになってしまう。 ラストカットは本編に比肩する尊さだと個人的には感じています。 『エウレカセブン』は沢山の物語がある分、何度でも楽しめるボリューム満点のコンテンツだと自分は思っていいます。 この『ニュー・オーダー』のコミックも、その厚みを増す役目を十二分に果たしてくれていますよ。

屋根裏の私の小さな部屋

世界の真理に迷い込む子等

屋根裏の私の小さな部屋 大庭賢哉
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

書籍で好みの挿絵に出会うと、いっその事、この絵で物語を漫画にしてくれたら、と思う事がある。 大庭賢哉先生の挿絵のお仕事は、物語を邪魔することなく、不思議な空気感やワクワクする世界観を伝える。しかし反面では、この絵で物語世界の空想が動き出す程の、強い魅力を持っている。 その魅力を漫画として(あのユリイカに!)連載し、単行本にした青土社の慧眼!名久井直子氏の端正な装丁に包まれ、送り出される世界観は、子供目線から見た世界の裏側、秘された真相、空想と現実のあわい。鋭く根源的な発見と、優しい読後感に満ちている。 その画面の質感と、闇と光のあわいを見据える表現は、例えば五十嵐大介先生や漆原友紀先生と比較されてもいいかもしれない。 今後も独特なポジションでの漫画表現を、見続けたい。 ●おるすばんと嵐 お母さんは僕より先に死なないよね?嵐の中、僕を脅し、唆す声に負けない! ●猫のリリー 気に入った猫を、結局飼わなかった。後日、その猫が友達に飼われたと知る。自分が選んだかもしれない可能性。 ●小人の小人の話 現れた小人には、さらに小人がいる。全ての小人にはその小人がいる?嘘だ!証明して! ●斜め前のヨシムラさん 学校でも家でも空想逞しいヨシムラさんは、嘘つき扱いされがち。彼女の空想に寄り添い、現実に繋ぎ止めるのは私だと、ぼんやり気付く。 ●ひみつのへや 引っ越しが悲しいタカコが、新居の自室を開けると……ここ前の家だ! ●となりのカナちゃん 僕は家族と似てるよね?クラスの女子に一番似てると言われ、不安になる。 ●かえりみち 公園に最後まで残っている転校生は、本当に家に帰ってる?みんなは? ●わたしの日 成長していく自分の、内面の成長を感じられず、落ち込む。周囲の方が変わっていく気がして……。 ●鳥の世話 学校で飼育する九官鳥の、本当の名前を巡る、飼育委員の女子と、二人の男子のお話。 ●朝の夢と夜の風 はじめて海に入る前に、母を振り返り安心するように、はじめての恋に踏み込む時、振り返る。 ●カミナリを捕まえる話 雷が落ちると言うなら、拾える筈じゃない?完全武装で嵐の中へ。 (画像は137ページより引用)

郵便配達と夜の国

闇に遊び、光へ帰る子等

郵便配達と夜の国 大庭賢哉
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

日常に倦む子供達は、ふとそこに潜む闇……影、死角、秘密の空間……を見つける。自分だけの楽しい「夜の時間」は、本当は危うくて、触れてはいけないと知る。 ----- 大庭賢哉先生の二冊目の単行本は「ユリイカ」の青土社から。『トモネン』より線が整理された、親しみやすい絵。ハードカバーも漫画には珍しく、名久井直子氏の装丁で「大人の児童書」の雰囲気を醸す。 子供達は世界に疑問を持ち、見えない世界を空想し、その世界に迷い込む。現実への帰還を巡り、時にシビアな冒険と決断を経て、子供達は、現実世界を生きる勇気と希望を手にする。 子供も大人も、ちょっぴり怖い空想世界にドキドキした後に、前向きな気持ちになれる作品集だ。 ●今日、犬が届く 届いたプードルはやたらでかい。対して動物園の白熊が妙に可愛い。明らかにおかしいのに、名付けられ、定義された彼らに何も疑問を持たない人々の中に……。 ●郵便配達と夜の国 現実に倦んだ少女は郵便配達夫と旅に。見知らぬ場所に行けると思ったのに……。 ●森 弟が産まれてから、家族に構ってもらえない女の子は、家出して変な森に迷い込む。そこで会った少年は……誰? ●逃げたオオカミ 怖がりの弟に「狼と七匹の子ヤギ」の狼の最期を端折って話したら、弟は狼の行方が怖くなった。曲がり角の向こうには……? ●お引っ越し 幼稚園の先生は、僕らが帰った後、幼稚園を独り占め?確かめようと隠れていたら……。 ●隣のミミ子 裏山にフクロウがいるかも!翌日現れた転入生に、夜の森に誘われて……。 ●まねっこさがし ガサツなヨリ子が隣町で目撃された。どうやら自分の偽物がいるらしい。捕まえるため、ちょっとおしとやかに変装。しかし……。 ●きつねしばい 幼稚園の劇でキツネ役になりきったサチコ。役のままで道を歩いていると、動物の言葉が分かるように!そのまま動物のテリトリーへ。 ●6:45 地下坑道を抜け、日のもとへ。昼から夜、そして昼へと歩き続ける少女と犬の、見開きイラスト集。 ●ひきだしのなか 自分の机が欲しい少女は、海岸で古びた机を見つける。少しずつ自分の秘密を作っていく。 (画像は30ページより引用)