あらすじ
地球が居住不可能となった未来、人類はスペースコロニーでの生活を余儀なくされていた――。新鋭マチュー・バブレが圧倒的な画力で描く悲しく美しいディストピア。スペースコロニー「ティアンズ」。21世紀に起きた天変地異のせいで居住不可能となった地球に代わり、人類は宇宙空間に漂うその場所での生活を余儀なくされていた。人類の大半はコロニーの現状に満足しているが、中には不満を抱き、反乱を企てようとしている人々もいる。そんな折、ティアンズ各地の原子力研究所で不可解な爆発事故が続発し、上層部の依頼を受けたスコットが、調査に乗り出す。調査の結果は深刻で、コロニー全体が危険にさらされていることが判明する。スコットは一刻も早く対策を取るよう提言するが、なぜか上層部は動こうとしない。同じ頃、「ホモ・ステラリス(星のヒト)」と呼ばれる新人類を創造し、彼らを土星の衛星タイタンのシャングリ=ラ平原に送り込むプロジェクトの存在が明らかになり、人々の間に動揺が走る。そんな中、辺境の研究所を訪れたスコットは、衝撃的な光景を目の当たりにする――。気鋭の作家による美しくも悲しいディストピアSFバンド・デシネ。
『テヅコミ』にも『メトロポリス』の二次創作を寄稿していたマチュー・バブレ氏が2016年に出版したディストピアSFです。先月に邦訳版が発売され、その電子版もこの度配信され始めました。 太陽が超新星爆発を観測しようとする青年からスタートするプロローグ。そこから100万年後のお話としてストーリーが始まるスケールの壮大さにまず惹かれます。 広大無辺の宇宙空間における、ちっぽけな人間にとってはあまりにも巨大すぎる現象も含めて、美しいヴィジュアルで物語られていきます。 バンドデシネらしい緻密な画風で、ほとんどのコマが背景までみっちり描き込まれているので物語への没入感を強く高めてくれます。コロニーの中の小さなユニットでの生活が見てとれるような描写など、好きです。 「音楽は? 文学 芸術…学問は? それは無から心の奥底から立ち現れる恩寵の輝き 人間は消費のみの存在ではない」 といったセリフに見て取れる言葉選びも好きです。 とある衝撃的なシーンと、そこで爆発する感情には大きく心を動かされました。どんな遥かな未来となりテクノロジーが進歩しようとも、人の人たる所以ら変わらないのはSFらしいテーゼを感じられるところです。 反物質、ホモ・ステラリス、アニマロイドなどさまざまなSF的単語が飛び交いながら、ドラスティックに進んでいくドラマに、気付くと夢中になってページを捲っていました。 ハードで骨太なSFを楽しみたい方にお薦めです。