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矢口高雄は1939年に秋田県雄勝郡西成瀬村(後の平鹿郡増田町、現・横手市)に生まれました。漫画家としては石森章太郎(1938年)とほぼ同年代ということになります。
奥羽本線の十文字駅の南側を国道342号線が走っており,少し東に行く国道沿いに旧増田町があります。増田町には全国的にも珍しい「まんが美術館」があり,ここは郷土の漫画家矢口高雄のフィールドワークを紹介するとともに,マンガ文化の歴史や国内外の著名な漫画家の原画を展示したギャラリーを備えています。
そのまま342号線を進むと東成瀬村となります。この村は面積203km2,秋田県の南東端に位置しており,東は岩手県,南は宮城県に接しています。住民アンケートにより他の市町村とは合併しない道を選びましたので,古い村名がそのまま残されています。
旧西成瀬村は東成瀬村の西側にあり,面積は東成瀬村の1/4ほどですので1955年に合併の道を選択しています。矢口は自分のエッセイの中で「秋田県平鹿郡増田町狙半内(さるはんない)字中村。行政的には町を名乗っているが,町の中心部から20kmほど奥羽山脈に分け入った戸数70戸たらずの小さな村である」を記しています。また,作品中には「奥羽山脈の山襞に抱かれた山村であり,冬には3mもの積雪がある豪雪地帯です」と説明しています。
東成瀬村の手前で国道から県道274号線に入り,10kmほど行ったところに旧西成瀬村があります。現在は近くには横手天下森スキー場があります。雄物川水系の狙半内川が南から北に流れており,旧西成瀬村はその狭い谷あいに位置しています。谷が南北方向に開けているため,日照時間は少ないようです。
作品中にある日暮村は架空のものであり,最寄り駅は奥羽本線の「十文字」であり,そこから30kmほどのところとなっています。
自然に恵まれた環境で過ごした少年時代の矢口高雄はマンガ少年であり,釣りキチ少年であり,昆虫少年でもありました。この時期の生活体験が「ふるさと」を始めとする矢口高雄のマンガ作品の原点となっています。
「かつみ」に出てくるゆきしろヤマメ釣り,「ニッポン博物誌」に登場するカジカ突き,「ふるさと」に出てくるクヌギの台木で夜にねらうオオクワガタ捕り,あけび取りや桑の実ジュース作りなどの多くは作者の少年時代の実体験だったのでしょう。
現在の日本ではこのような素晴らしい体験ができるのはもう本当にひとにぎりの子どもたちになってしまいました。田舎の子どもたちでも自然と親しむことよりテレビゲームの好きという方がメジャーになっていることでしょう。
図鑑や情報で知っているということと,実際に自然の中で観察したり触れてみることはまったく異なることであり,自然との共生とか自然を大切にするこころは頭の中で考える前に原体験をもつ方がずっと深く強いものになるのではと考えます。この作品の冒頭で作者はふるさとの絵を背景に次のように書き述べています。