あらすじ竜医――様々な姿かたちを持つ竜と呼ばれる生き物を診(ルビ:み)る医者。ルカが目指すその職業は、ただ美しいだけのものではなかった。突如、ルカたちの前から姿を消した指導教官のシグフリード。彼が残した手紙には、今は亡きルカの父・ギデオルと共に竜医として従軍した際の戦争の記憶が綴られていた。――ルカは知ることになる。父の残酷な一面を。かつて竜が兵器だった歴史を。シグフリードが体験した地獄を。辛く厳しい現実を知り、少女たちは何を思う――。
『鍵つきテラリウム』の平沢ゆうなさんの新作は、竜を治療する「竜医」になるべく奮闘する少女たちを描いた医療ファンタジー。三度のご飯よりもドラゴンをこよなく愛する身としては、たまらない作品です。 本作の最大の魅力は、竜に関する独自設定。医療監修が入っていることもあり、竜のそもそもの身体的な作りであったり、傷病に対する診断や治療の方法やそれに必要な道具や補助具がかなり作り込まれています。パッと見は完全にファンタジーですが、読んでいると医療ドラマを観ているような感覚も生じます。 舞台となるコーグニール竜学高等学院での授業や生活様式、また竜の糞は″落とし物″と呼ばれ処理すると補助金をもらえ優れた肥料にもなるなど、この世界独自の暮らしやルールが提示されていくのが面白いです。竜と言っても動物に近い種類も数多くいるようで一般的に「竜乳」が飲まれているらしく、一度飲んでみたいです。幕間では更に細かい世界設定が補足され、こうしたディティールが世界の存在感と説得力を生み味わい深い魅力となっています。 ドラゴンという存在自体は古くからあらゆる作品に出てきますが、そこの解像度を上げるとこうして新たな作品として成り立つという良いお手本です。 そして、『鍵つきテラリウム』のときに顕著でしたが平沢ゆうなさんの描くカラーイラストはやはり美しく魅力的です。このファンタジー世界もカラーが映えるので、今後のカラーページや表紙絵も楽しみです。 なお単行本1巻は4話までですが、その続きは今現在コミックDaysにて読むことができます。個人的に5話がこの作品を一段階上の面白さに引き上げたと感じる部分だったので、良ければぜひそこまで読んでみてください。