あらすじ父がのこした手帖に導かれ、食の冒険へとおもむく朔良(さくら)。終電の向こう側には、彼女の知らない世界が広がっていたーー「ハタの刺身にまんさくの花 特別純米生原酒」「ローストチキンに志賀高原IPA」「赤鶏塩ユッケに水神 純米大辛口」、「ホッピーにもつ焼き」「カツオの藁焼きに酔鯨 特別純米酒」……今宵も深夜にひとり、舌鼓を打つ
素敵なお酒の飲み方を教えてくれる作品。 日常を洗い流すように飲み干すだけがお酒じゃなくて、誰かと楽しく騒がしく飲むだけがお酒じゃなくて、大切な宝物をそっと撫でるような静かなお酒がここにはありました。 朔良が深夜に1人で父の手帳に記された店を巡るのは、決して悲しさや寂しさ故のものではなく、父のことをもっと知りたいという気持ちからくるものなのかなと思いました。 故人と話すことは叶わないけれど、歩んできた道を振り返ることで見えるものがあるんだなと感じました。 亡くなった父の遺した手帳を辿るという、ある意味では後ろに進むような行為が朔良の血となり肉となる。 この物語の構造が何よりも素晴らしいなと思いました。 死者へ祈りを捧げられるのも、美味しいお酒と料理を楽しめるのも、生きているからこそできること。 今日のような寒い夜に、誰かを想いながら読みたくなる作品でした。