神田ごくら町職人ばなし

溜息が漏れるほどの凄まじい描きこみ #1巻応援

神田ごくら町職人ばなし 坂上暁仁
兎来栄寿
兎来栄寿

先日『今村翔吾×山崎怜奈の言って聞かせて』というラジオ番組に出演させていただいたのですが、その際にパーソナリティのお二方が共に歴史好きということで、まだ単行本は出ていないものの是非ともお薦めしたいと思っていた作品がこちらです(なお本番ではバトルマンガや知識になるマンガを求められたため紹介できず終いでした)。 2020年の末に行われたマンガプレゼン大会では、作者である坂上暁仁さんの『火消しの鳶』を紹介された方がいました。 https://note.com/manba/n/n62e97c7ae279 プレゼン者に「ボクはこの見開きに惚れて今この場に立っています」と言わしめるほど、圧倒的に精緻な絵で描かれた打ち壊される家屋の見開きが視聴者の中でも話題となりました。その描き込み力は本作でも存分に、いえますます魅力的に発揮されています。 描かれるのは、タイトル通り江戸の街で活躍する職人たちの業と、それによって生み出される品々。 出来上がった品は現代でもその辺で意識せずに見られるようなものが多いのですが、染め物をする工程の荘厳さであったり、木桶のひとつひとつの木目や刀の凍えるような美しさであったり、その製作過程や出来栄えの圧巻のヴィジュアルに呑まれ、見惚れます。職人芸の美しさを、絵で語ってくれる一冊です。 他方で、「畳刺し」の話のような人間味溢れるエピソードもまた良い味わいを醸し出しています。読んでいると、まるで賑やかな江戸の地の喧騒の中にタイムスリップするような錯覚に陥らせてくれます。 ある種、アートブックのようにも楽しみめる作品です。森薫さんのような、微細で美麗な描きこみが好きな方には強くお薦めしたい作品です。 百聞は一見に如かずで、まず1話だけでも試し読みしてみてください。余談ですが、海外に持って行ったら日本の3倍以上の値段でも喜んで買う方がたくさんいるのではないでしょうか。

火消しの鳶

江戸の魅力が濃縮された60ページ

火消しの鳶 坂上暁仁
なかやま
なかやま

350年前の江戸に住む人々を繊細に描きつつ、魅せるアクション部分は迫力のある見開きとセリフ回しで、非常に読み応えのある一作 江戸時代の「火消し」をテーマに取り扱った本作品 当時の江戸は紙と木で出来た世界的な人口過密都市 そのため、火事は人々の命取りです。そんな人々を火事から守るのが町火消でした、彼らは町人で構成された消防隊で、普段は大工などの本職をこなしつつ火事の際には現場へ急行します。 ※タイトルの「鳶」は「鳶職(とびしょく)」の事を表していると思います そんな町火消は江戸の人々のヒーローだった! ■この作品の魅力 『その1:画力とスピード感』 表紙にもなっているシーンが当時の消火方法 「建物を壊して火を止める」まさにそのシーンとなっています。 建物を壊すまでの流れがスピーディー&ダイナミック&カッコイイが揃っています。 流れるように壊していくのですが、そのスピードに自分も巻き込まれるような引き込み力があります 『その2:書き込みと読み応え』 もしお手元にこの作品があるのであれば、最初は勢いに任せて読み そのあと、ひとコマひとコマ絵画を見るように見てください おそらくこの作品にはモブと言われる登場人物は存在しません、描かれている江戸の人々全員に生活が見えてきます。 この部分は元々作者さんの二年間の火消しの研究成果としてアウトプットが本作品の出自ということがあると思います。 『その3:鳶の目線で描かれる江戸』 主人公たち火消しは「鳶職」をしているため、作中に高い目線での江戸の町並みがこれまた繊細に描かれます。 自分はあまり、江戸という町をこの目線で多く描く作品を見たことがなく新鮮でした。 ■こんな人にオススメ シンプルなヒーロー物作品としても読んでもいいですが、味わえば味わうほど味が出る作品で、1話読み切りでありながら色々な想像を膨らますことが出来る作品です。 普段同人誌読まな無いけど、読み切り作品が好きな人に是非読んでもらいたい一作です。 この作品は2020年2月のコミティア131にて発行された同人誌です ※同人誌にも関わらず登録してくださったマンバさんに感謝、ありがとうございます https://twitter.com/sakakky1090/status/1227121287186636800