人は死後、煉獄での裁判ののち天使が管理する天国と悪魔が仕切る地獄に送られて暮らすという設定を令和にアップデートするとこうなるのか!!という嬉しい驚きがありました。 家族とともに何者かに惨殺された少年ダンテが自身に秘められた謎と事件の真相を求め、地獄の悪魔ヴィーナスとともに復讐に動き出す…という筋書き自体はシンプルですが、とにかく次々登場するキャラクターたちが魅力的。地獄や天国のビジュアルとダンテの秘密をめぐる人物の動き、どちらも海外ドラマっぽいリッチさがあって引き込まれます。 今っぽさと懐かしさが両方感じられる軽妙なやり取りのおかげで気分が重くなりすぎずに読めるのも嬉しいです。絵も抜群にうまくて人物の表情で魅せるレイアウトがツボでした(特に1話!) ダンテを取り巻く陰謀の規模の大きさが匂わされるまでが1巻。ここで読むのやめられる人がいたらすごいなと思う区切りでした。 ダークファンタジー好きな方は要チェックの作品だと思います!
数々の名作を生んできた刑事漫画というジャンル。その深く広いジャンルの中で「この手があったか」と思わされたのが国際事件の捜査を手掛ける刑事×警察通訳という組み合わせ。しかも解決するのは東京というサラダボウル化している都市で起こる外国籍の人が絡む事件ーーということで面白くないわけがありません。まだ男性社会の中の女性刑事、同性愛者と解決側をマイノリティにしていることもまだ何かありそうな気がして先が楽しみです。#1巻応援 サラダボウル化した都市といえばニューヨークが有名ですが、いろいろな数字を見たり生活を振り返ったりすると東京も徐々にサラダボウルになっています。具材のひとつとして、わたしたちはどう振る舞うべきかも考えさせられます。
この作品は強迫性障害やPTSDなど社会の中で生きづらさを抱える人たちが暮らすシェアハウス「エンカウンター」が舞台の作品です。 登場人物は皆「普通にできない苦しみ」を抱えていて、このシェアハウスはその苦しみを解消するためではなくその人のありのままを受け入れる場所だとシェアハウスの大家である鬼頭史樹は言います。 この作品はそんなシェアハウスの入居者たちが共同生活の中で他の入居者たちの、そして自分自身のことを受け入れていく様子が描かれていくのですが、 では、なぜこの作品のタイトルは『"人質"たちのシェアハウス』なんでしょう…? その答えが気になる方は是非単行本1巻を最後まで読んでみてください。 1巻まで読了
自身が人狼であることを隠しながら人間社会の中で暮らしていたヨエルという少年。 ある日彼の棲む村は人狼を狩る吸血鬼たちに襲われ、ヨエルはたった1人逃げ延びます。 そんな彼を助けたのがアデリアという女性。 人狼だと知りながら優しくしてくれるアデリアを慕っていくヨエルでしたが、ある出来事をきっかけに彼女もまた吸血鬼であると知ることになります。 この作品はそんな2人が種族の差、境遇の差を超えて"家族"になっていく物語です。 もちろん障壁はたくさんあるんですが、不器用ながら少しずつ"家族"に近づいていく2人の様子に心温まる作品です。
代表作『氷室の天地』にもアナログゲームを登場させた磨伸映一郎先生のアナゲ漫画が単行本化! 「放課後さいころ倶楽部」からストーリーをごっそり削って ゲームとギャグを増強した感じの作品です。 主人公達がカードゲームやボードゲーム、サイコロぶん投げゲームで キャッキャ ウフフと楽しく遊びます! 具体的には スペイン産お遍路ゲーム「四国」で同調圧力に屈し "ゆかいなゲーム"「狂気山脈」で狂気の歯車がガチッと噛み合い 本能寺カードでノッブを焼きます 次々に登場するトンデモゲーム!ツッコミの嵐!! いつもの磨伸漫画やん… じゃあ面白いやん… グループSNEの「GMウォーロック」で連載されていますが、雑誌が年4回しか出ません。 1巻は14話収録なので・・・2巻は4年後? 現時点で単行本電子化の予定は無いそうです(多分いつかすると思います) 雑誌の関係で左読みです。ページもセリフも左→右です。ご注意ください。 ゲーム未経験でも興味があれば楽しく読める(多分)、一緒に遊んだ気になれる超特急! 「次はどんなゲームだろう?」と毎回ワクワクする漫画です!!
婚活に人生賭けている主人公の話。 その主人公の設定がいやにリアル。 容姿が恵まれているのに、結婚できていない人。 特に、ミス〇〇とか、元モデル(読者モデル含)みたいな多少バックグラウンドもあるのに、出来ていない人。 自分のまわりにもいて、既視感がありました。 そうなんです。 この主人公のように、理想が高い上に、性格う○こなんです。 そして過去の男の経歴にすがって、気づけばアラフォー、アラフィフ。 なんか、主人公と重ねてしまいグッと親近感が湧くと同時に、あるある、そうそうと納得してしまいました。 全体的には、あらゆるジャンルの婚活に参加して、そこで苦悩する様がテンポよくコミカルに描かれて面白いです。 また、同僚の青島さん(婚活歴8年のベテラン)との掛け合いも、漫才のようで楽しいです。 婚活に悩める女性の一助にはならないかもですが、 笑って溜飲を下げることはできる・・・かもしれません。
いた"付喪神"たち、そして祖母の家の守り神である"妖狐"の白尾と出会う物語です。 人間は嫌いだけど遥斗の祖母に恩がある、ということで遥斗にもツンデレ気味に接する白尾や見た目が可愛らしいけれど祖母には見えていない付喪神たちと過ごす遥斗のほのぼのとした夏休みの日常をが楽しい作品です。 1巻まで読了
五年間もスルーし続けた定食屋さんに初めて入ったところ、美味しさに惚れ込んでしまった高校教諭の女性。美味しさを伝えたいのに語彙がない! 一方お店を切り盛りする女性は、やっと来てくれた彼女とコミュニケーションしたいけれど、なかなかできない。もじもじしたり、すれ違ったり、同時に話しかけたり……中学生か!というもどかしさに笑ってしまう本作は、次第にこのお店の良さを伝えたい女性教師の、妙な情熱と迷走を描きます。 味は良いのに微妙に流行らないこの定食屋。何故?……お店に通い詰めながら何かと協力するうち、相手の言動にときめいてしまう二人。 そこにある女性教師の感情は「思い入れ」でしょうか。 味への信頼、好みの環境、そして店員への好意。大切に思い、その人のためになりたいと思う結果……ネギ配布ですよ。 "推しごと"って本当に楽しい。それはマンガでも定食屋でも同じです。そこまで出来る程思い入れられる出会いを祝福したい、そんな作品です。
この作品は下校中の小学生・トモが不思議な子供・リツと出会い、話をしているうちにリツが住む異世界に迷い込んでしまうことから始まる作品です。 突然異世界に迷い込んでしまい、元の世界への戻り方がわからず困ってしまうトモでしたが、実はトモは日々の暮らしの中で自分の居場所が見つけられずにいて、そのせいで"自らを閉じ込めてしまっている"ことが彼を異世界に留めてしまっているようなのでした。 そんなトモが現実世界への帰り方を探しながら、リツや異世界の住人たちと優しい日々を過ごす、心温まる、でもどこか不思議な異世界日常ファンタジーです。 1巻まで読了
人事コンサルタント派遣会社で働く人見まもるという女性がひょんなことから出会った左京詩織という男性に気に入られ、彼が経営するブラック企業の人事マネジメントを担当することになるという物語です。 人事の仕事に熱量を持っているけどもやりたい仕事をさせてもらえていなかったまもると、仕事には真摯だけど社長として現場での営業ばかりしているために社内管理まで手が回っていなかった詩織が本気で社内を改革しようと頑張るという物語なんですが、作者あとがきによると登場する社員は、"「こんな人いるいる」を煮詰めて滅多にいない感じになった"ようなキャラばかりです。 そんな濃いキャラクターの社員たちに対して、極めて真面目に、でもハイテンションに立ち向かっていき、ブラック企業を「ホワイトニング」していくドタバタコメディです。 1巻まで読了
主人公は37歳独身の派遣社員・赤木ユカ。 これまで男を切らしたことのなかった彼女が彼氏と別れたことをきっかけに「婚活」という名の戦場に身を投じる姿を描く作品です。 しかし、婚活なんて余裕だろうと思い上がり露骨な好条件狙いをする彼女の婚活は案の定うまくいきません。 そこに、彼女の同僚で自称「婚活歴8年のベテラン」という明らかにダメそうな女性・青島も登場し、どんどんから回っていくユカの婚活模様が描かれるコメディ作品です。 1巻まで読了
大きな洋館に一人住んでいる美しい英国女性・マリアと、その洋館に下宿している日本人の学生・杏奈。二人が日々、ティータイムを共にしながら暮らす物語は情報量が多いのに、とこかホッとする。 そんな気分になれるのは、二人が完璧ではないからかも。マリアは落ち着いているけれども破壊的に不器用。それを助ける杏奈はしっかり者だが、頑張りすぎる性質。しかしマリアのサポートと美味しい紅茶で、気持ちを軌道修正する。 偶然出会った二人は、これ以上無い程のパートナーシップを築く。マリアに因縁のある男性は登場するが、この二人は揺らがないと確信が持てる。 紅茶について、多くの知識や英国人の思いが程良い密度で伝えられるのも楽しい。大切な人に対して"You’re precious my cup of tea."と伝えられる時、目の前の一杯の紅茶も、相手の存在も掌中で慈しむ感覚が伝わってくる。
「るなしい」は,意志強ナツ子先生の新刊です。今のところ,既刊は1巻のみ。 掲載誌はなんと小説現代。 意志強先生の過去作は,「魔術師A」と,あとは「りゅうのすけくん」だけ読んだことがありました。 http://leedcafe.com/webcomic/exmanga019a/ どちらも面白いのですが,エロ比重が大きすぎて,正直自分の中で持て余していたところ, 本作は,(少なくとも1巻の時点では)直接的な描写はなく,比較的読みやすい作品になっています。 主人公の「るな」は,学校内でいじめをうけている,もっさりした感じのメガネ女子高生。 彼女は,広報委員会に所属しており,その中では「オタサーの姫」的な扱いを受けています。 一方で,彼女は,学校内で,処女の血がしみ込んだモグサを売って, 希望者にお灸をする(しかも有料)という,やや怪しげな活動にも手を出している人物。 そんな彼女が,ふとしたことから背の高いイケメンと仲良くなって…というところからストーリーが始まります。 …こう書くと,なんだかラブストーリーが始まりそうですが, 意志強先生のお話ですので,そうではなく, 中心になっていくのは「やや怪しげな活動」の部分です。 るなの「おばば」は, るなを「神の子」とするリアルな「信者ビジネス」を営んでおり, その考え方は,ほぼカルトです。 悩みがある者を焚き付け,家族と切り離し, 奇跡を見せて,取り込んでいく…。 もちろんガッチリお金をとる。 るな自身も,そのことを充分に把握したうえで, これに加担し,背の高いイケメン(ケンショー君)を取り込んでいく…。 破滅が確定している結末に向けて, 不穏さばかりが増していく物語。 オバケが出てくるわけでもないのにホラー感は強く, ゾクゾクするような読み味であり,きっと名作になるであろうと予感させてくれる作品です。
石川出身のアパレルデザイナー・加賀ひまり(28)は、このご時世の例に漏れず目下リモートワーク中。そんな彼女の楽しみは、お取り寄せグルメを探して賞味する事。 お取り寄せするのは、主に故郷石川、そして北陸の味。主食もお酒もおつまみも、多様な北陸グルメは美味しそうだったり味の予想がつかなかったり。 そんなお取り寄せグルメは、時に他の女性と共に食される。フェミニンで明るいひまりは、会社の後輩女子や隣人の女性、さらには宅配のお姉さんまで虜にする、なかなかの人たらし。ふわっと柔らかいひまりの笑顔と優しさに、こちらもドキッとしてしまう。ひまりと女性達の関係を追いたい、百合漫画として最高の魅力に溢れた作品なのです。 ……ところで。 主人公の名前と「北陸」と聞いて、すぐにピンとくる方もおられるでしょう。 そう、この加賀ひまりさん、同じちさこ先生の『北陸とらいあんぐる』の主人公でもあります。 『北陸とらいあんぐる』では高校生だった彼女。ちょっと雰囲気違いますよね?大人になるとこうなるんだ……というのは興味深い。そして本作でお酒を楽しむ彼女を見ると、時の流れを感じるのと北陸グルメの紹介の幅が広がるのと、両方の面白みがある。そして『北陸』の登場人物も……。 興味のある方は『北陸とらいあんぐる』も是非!
中編2つ+それぞれの後日譚が収められた作品集。いずれも人間からは少しずれた存在がもつ「心」の、少し普通ではなくてかなり大きな有り様が描かれていて、心を揺さぶられる。 ●魔王と女王 時を止めた遺跡の街を守る「女王」を街の外に連れ出したい「魔女」の物語。 複雑に前後する語りと細かな設定に幻惑されるが、街の謎を解き女王を解放しようとする魔女の、軽い様で真っ直ぐな想いに打たれる。そして無表情な〈つくりものの〉女王に、却って〈心〉の動きを想像してしまう。 ●魂の関所にて 死者の魂を管理する所で、仕事をしながら自分の死因を思い出せずにいる新人の女性と、彼女を気にかける先輩の女性。 新人の過去話……身分違いの女性との複雑な関係性は切ない。そこに寄り添う先輩は後輩に強い想いがあるのは確かなのだが、その理由が見えて来ない。和風な死後の世界の美しさを目で楽しみながらも、優しさと不安感がひしひしと胸に来る。
普段から百合漫画を中心に描いてらっしゃる犬井あゆさんは、実生活でも"彼女"と同棲しているとのこと…!え、尊…!即買いして読みました。 これただのカップル同棲エッセイとして読むと完全に惚気マンガでしかないんですけど、このふたりは百合好き・アイドル好きな趣味が合うのに対して性格が正反対だったり、すごく絶妙なバランスで成り立ってるふたりだなと思うのと同時に、出会うべくして出会ったような気もして、あたたかい気持ちで読めました。エピソードのあいまに読者からの質問にふたりで答えるコーナーもあるので、同性パートナーとの今後に迷いや不安があったり、似たような境遇のひとにとってはとても参考になると思います。 ネガティブなことはほとんど描かれてないので、とにかく幸せがあふれたエッセイ漫画でした。
この作品は人とうまく話すことができないと悩むのOL・小宮祥子が、ひょんなことから人の言葉を話すことができる"ハツカネズミ"の根津さんを助けたことで、根津さんからの恩返しとしてコミュ障を治す手助けをしてもらうようになるという物語です。 恩返しといっても、根津さんの手助けは人と話すときのちょっとしたアドバイスのような感じで、その内容もけっこう体当たり式だったりします。でもそんな中で祥子は少しづつコミュニケーションを頑張るようになり、次第に周囲の人々とも打ち解けていきます 祥子と根津さんのやり取りも楽しくて、気付いたらほっこりさせられている、そんな、ハートフルなコメディが展開されていく作品です。 1巻まで読了
身の回りで加速度的にFF14にハマるヒカセンが増えていて、自分も誘われ続けていたのですが、今日までやらずに「FF14はいいぞ」という情報だけが積み重なっていっていました。そんな状態で本作のことを知って「えっ!?なんで咲がFF14を!?」となり、興味を抑えられず手に取ってみました。(ちなみに咲のこともほぼ知らない) 読むまでは全く知らなかったんですが、ゲーム内に麻雀が実装されていて遊べるんですね。「麻雀が実装されているファイナルファンタジー、なに?」と思ったんですが、これがコラボの理由なのは一応納得できました。(けどあんまり麻雀はしてない) そしてFF14も咲も知らずに楽しむことは出来るのか。 結論としては出来ます。 みんな楽しそうでほっこりしちゃう。 両作に親しんでいるひとだったら味わいが何倍にもなるだろうネタなんだろうな、というのが沢山詰まっていて、ちょっとFF14やりたくなったし咲も読みたくなったな…。とりあえず友だちのヒカセンにコレ読んだよって話をしたいと思います。 #1巻応援
この作品は恋人である小鳥遊双葉を失った主人公の高校生・幸春道が、過去にタイムリープすることができる謎の鍵を手に入れたことで双葉を助けるために過去への跳躍を繰り返していくタイムリープサスペンスです。 物語のキーとなる春道が双葉を失う原因となった事件ですが、ただの事件ではなく、2人の担任の教師・岡が生徒30人を殺害するという大量殺人事件。 タイプリープ前の最初の事件では、春道自身も半身不随となる大きな傷を負います。 その事件を回避し、そして最愛の彼女である双葉の命を救うため、心身ともに傷つきながら春道が同じ時を繰り返していき、そして1巻終盤にはある衝撃的な事実が判明する、謎と狂気が入り乱れるタイムリープサスペンスです。 1巻まで読了
冴木仁という刑事が空き巣の通報を受けて丘の上の豪邸を訪れる場面から物語は始まります。 屋敷の持ち主と連絡が取れなかったもののただの窃盗事件として捜査が始まったのですが、その屋敷の地下室から13人もの子供の遺体が発見される、という導入の作品です。 その後、屋敷の持ち主の知り合いという人間が現れて徐々に事件の全容が見え始めるのですが、捜査の途中である事実が判明し、ただの担当刑事だったはずの冴木の運命をも狂わせる大きな謎が彼の前に立ちはだかることになります。 そんな、物語が進めば進むほど謎が謎を呼ぶ壮大なノワールサスペンスです。 1巻まで読了
今とても熱いレーベルのひとつであるコミックアウルから、新進気鋭の才能により放たれた鋭利なる一撃。 「これが令和の『罪と罰』だ!!!」と帯に銘打たれていますが、読んでいる時の常在的な息苦しさはまさにドストエフスキー作品を読んでいる時のそれです。 「中年になっても性欲はみじめに残る 俺は生きているだけで害悪だろうか」 と吐露する40歳中年男性がこの物語の主人公です。幼い頃は「お父さんみたいな人と結婚したい」と自分を慕ってくれた娘が思春期になると自分を汚物のように嫌悪してくるようになり、奔放に浪費する妻を尻目に辛い労働に勤しむ日々。 ぱっと見は普通の中年男性なのですが、娘のブラジャーを見て劣情を催したり、醜く毛が突き出た自分の手指を見て「俺 指も汚な…」と自己嫌悪を深めるシーンなどディティールの積み重ねによる絶望感が利いてきます。 父としても夫としても自分の存在意義に悩む主人公は、ある日15歳の訳ありパパ活少女と遭遇します。彼女もまた、とある事件とそれに起因する鬱屈した日常を送る人間でした。若い身体に価値がある内に小銭を稼いで海の見える遠い町で花屋を営み穏やかに生きて死にたい、と願う少女。二人の歪みが重なり合うことで生じる奇矯な関係性から、物語は駆動していきます。 とにかく本作はさまざまなシーンでの表現力と迫力が見どころです。全力の嫌悪感や全力の絶望感、背徳感と欲求との鬩ぎ合いが、叩き付けるような描写によって暴力的に繰り出され続けていきます。ひたすら辛いのに、ある種の疾走感すら覚えるほどです。 表紙のかわいい女の子からは想像しにくいかもしれませんが、読感としてはビーム系の作品に近いです。かわいい女の子を描けるからこそのギャップが非常に活きていると言えるでしょう。 闇の深い物語を好きな方には強く推します。
母子家庭でありながら母親が僅かなお金だけ置いて失踪してしまい、11歳の美少女・凛子が50万円でイケメンのヒモ・春乃を飼う物語です。「ひもすがら」と「ヒモ」が掛かったタイトルなわけですね。 「普通」に家族と暮らし、「普通」に色々な将来の夢を持って過ごすクラスメイトたちと対比して、温かいご飯を家で食べることすら経験できずに育ってきた不憫な凛子。彼女の欠けた部分を、働きはしないけれど家事全般は得意で優しい言葉もたくさん与えてくれる春乃が埋めていってくれる、奇妙な関係が成立していきます。 しかしながら、春乃の優しさも歪さが生んだものであることが段々明かされていきます。それでも凛子が現状で心を保って生き長らえるためには、それが解り切った空虚であったとしても必要なものであるという構造がエモさを醸し出します。メリハリのある心情描写がとても心地良く感じます。 そして七瀬八さんの絵がとても良く、苦痛に歪む表情も、見渡せば美しさが広がる世界も、総じて綺麗に描かれます。春乃は本当にだらしのない立派なヒモなんですが、顔が良い。ヴィジュアルも中身も、とても良いおにロリです。 母親が残した金額は僅かであり長い間春乃を養えるほどではないのが明白で、物語の期限を思わせます。ただ、1話の冒頭で凛子の幸せな未来が描かれているのが救いです。すべての黒髪ストレートロング美少女の安寧と幸福を祈ります。
とんでもない傑作でした。沼にハマったことのある全ての人に配って贈りつけたい最高の推しごとコメディでした。 漫画読んでて「あまりにも萌えすぎたためいったん本を伏せて休憩」ってよくあると思うんですけど、笑いすぎて休憩取りまくった漫画はこれが初めてです。そのせいでものすごい時間をかけてさきほど読み終わったのですが、今年まだあと1カ月ありますけど2021年一番好きな漫画は『やくざの推しごと』に決まりました。 まずはこの表紙をご覧ください。 ▽八田てき『やくざの推しごと』1巻表紙 https://i.imgur.com/bwCPiBw.jpg 美ッッッッッッ もはや美しい通り越して変態ですよね。マジマジと眺めてなんか綺麗なの光ってる〜と思ったらペンライト!コミックナタリーのニュースをチェックしててこの作品を知ったのですが、このペンライトに気づいた瞬間ジャケ買い決めました。 そんで1巻表紙めくってすぐのカラー絵よ。画力に連続で殴られてビビりました。見て↓ https://manba.co.jp/boards/147767 いま感想描き始めて気づいたのですが、時間かけて読みすぎ&笑いすぎでもはや序盤の方の記憶がやや曖昧になってます。 そもそも主人公である若頭・健の沼へのハマり方があまりにも模範的&理想的すぎて本当にヤバい。 ・パフォーマンス映像で推しと出会う ・ライブ初参戦で神ファンサ ・グッズ収集開始 ・推しの公式アカウントの投稿をチェックし始める ・それと同時にSNSで最新の情報収集/推しへの想いをツイート開始 ・初めてのグッズ交換 ・推し(と自分)が登場する創作小説を投稿 ・推しが訪問したカフェ(の座った席)に聖地巡礼し同じメニューを食べる ・ファンイベントの抽選の当確に一喜一憂する ・初期ファンしか持ってないグッズを欲しがる みんなこれ見たこと・やったことあるでしょマジで。もう本当に休憩挟まないと読めないくらいおもしろい。ごくドゥさんのアカウントフォローしたいよ……! 健の推しである『ジュン』と『MNW』に対する、ファンゆえの高解像度の理解力を見ていると推しのいる人生って最高だなと、しみじみ思わされました。 ▽第1話(※2・3話も公開されてます) https://twitter.com/yatsuda_tk/status/1461650733942534145?s=20 ヤクザのおっさんのくせにリア恋レベルで推してる健も面白いのですが、そもそも健を沼に突き落としたお嬢がまたすごい。 1人の女の子の中に、ヤクザの娘らしい気迫とただのアイドル好きの女子高生が矛盾なく同居してて最高。1話の健の顔にチケットぺちぺちしてるシーンの堂に入った仕草はただのJKには出せない。先輩ファンとして健を導いていく姿も頼れます。かっこいい。 そしてこの漫画のすごいところは、アイドルさん達が本当にK-POPアイドルの顔してて美しくて説得力が半端ないとこですね。 あの独特のメイクの感じや韓国のモテ顔って感じの顔立ち……「花の顔(かんばせ)」と呼びたいくらい本当に麗しくて。楽曲聞いたり人柄をくわしく知ることのできない読者ですら思わず拝みたくなるようなカリスマが出てる。顔から。 超画力だからこそ描ける推しの尊さの説得力がここにはあります。 ▽八田てき『やくざの推しごと』第2話 https://i.imgur.com/a0oGNp3.png こんだけ書いても1mmも良さが伝わってる気がしない。 このページをグーッと下に行ったところにAmazonやらいろんな電子書籍サービスへのリンクがあるのでとりあえず買ってください。それしか言えねえ……。 もうあまりにも面白くて、なんでこんなすごい漫画を今まで知らなかったんだろう。もっと早く出会いたかった……という気持ちでいっぱいだったのですが、作中に登場する古参ファンのお姉さんの「これが自分にとって必要なタイミングだった」という言葉を噛み締めて今日を終えたいと思います。
まさか、あの『蟹工船』がこんなSFバトルマンガにされるとは小林多喜二氏も想像もしなかったことでしょう。 この『新約カニコウセン』は、日々命懸けで「蟹」との死闘を繰り広げる立場の弱い奴隷のような労働者と、彼らを支配する者を描いた作品となっています。 恐ろしい進化を遂げた「蟹」とのバトルシーンは非常に激しく、緊迫感があります。傷つけ過ぎると商品としての価値が損なわれるのでただ殺せばいいというわけではないのは、モンハンでの捕獲の難しさを髣髴とさせます。 アクションも良いのですが、この作品の一番の見どころは何と言っても原作『蟹工船』に通底するテーマ性です。原作が書かれてから100年近くが経ちましたが、労働者の苦しみは今の世でも不変。もう少し未来になれば、AIなどによる労働が普及して人間が働かなくていいようになり事情も変わっているかもしれませんが、過酷な労働を課せられて命まで絶ってしまう人は令和になっても存在します。 しかし、もし仮に人間が全く働かなくて良くなったとしても、別の面で人間は互いを相対比較してマウントを取り争いを起こし優越感に浸る体験を求めて止まないし、それによって傷つき悲しみを抱える人間は尽きないであろうなという絶望感を感じさせるエピソードが描かれます。 SFバトルアクションになりはしましたが、一見した印象とは違い深奥のテーマとしてはしっかり『蟹工船』を踏襲しており、リスペクトも感じる内容です。 時代を越えて人間の普遍性へ響く名作の力を感じずにはいられませんでした。
人は死後、煉獄での裁判ののち天使が管理する天国と悪魔が仕切る地獄に送られて暮らすという設定を令和にアップデートするとこうなるのか!!という嬉しい驚きがありました。 家族とともに何者かに惨殺された少年ダンテが自身に秘められた謎と事件の真相を求め、地獄の悪魔ヴィーナスとともに復讐に動き出す…という筋書き自体はシンプルですが、とにかく次々登場するキャラクターたちが魅力的。地獄や天国のビジュアルとダンテの秘密をめぐる人物の動き、どちらも海外ドラマっぽいリッチさがあって引き込まれます。 今っぽさと懐かしさが両方感じられる軽妙なやり取りのおかげで気分が重くなりすぎずに読めるのも嬉しいです。絵も抜群にうまくて人物の表情で魅せるレイアウトがツボでした(特に1話!) ダンテを取り巻く陰謀の規模の大きさが匂わされるまでが1巻。ここで読むのやめられる人がいたらすごいなと思う区切りでした。 ダークファンタジー好きな方は要チェックの作品だと思います!