るなしい

加速していく不穏な物語 #1巻応援

るなしい 意志強ナツ子
toyoneko
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「るなしい」は,意志強ナツ子先生の新刊です。今のところ,既刊は1巻のみ。 掲載誌はなんと小説現代。 意志強先生の過去作は,「魔術師A」と,あとは「りゅうのすけくん」だけ読んだことがありました。 http://leedcafe.com/webcomic/exmanga019a/ どちらも面白いのですが,エロ比重が大きすぎて,正直自分の中で持て余していたところ, 本作は,(少なくとも1巻の時点では)直接的な描写はなく,比較的読みやすい作品になっています。 主人公の「るな」は,学校内でいじめをうけている,もっさりした感じのメガネ女子高生。 彼女は,広報委員会に所属しており,その中では「オタサーの姫」的な扱いを受けています。 一方で,彼女は,学校内で,処女の血がしみ込んだモグサを売って, 希望者にお灸をする(しかも有料)という,やや怪しげな活動にも手を出している人物。 そんな彼女が,ふとしたことから背の高いイケメンと仲良くなって…というところからストーリーが始まります。 …こう書くと,なんだかラブストーリーが始まりそうですが, 意志強先生のお話ですので,そうではなく, 中心になっていくのは「やや怪しげな活動」の部分です。 るなの「おばば」は, るなを「神の子」とするリアルな「信者ビジネス」を営んでおり, その考え方は,ほぼカルトです。 悩みがある者を焚き付け,家族と切り離し, 奇跡を見せて,取り込んでいく…。 もちろんガッチリお金をとる。 るな自身も,そのことを充分に把握したうえで, これに加担し,背の高いイケメン(ケンショー君)を取り込んでいく…。 破滅が確定している結末に向けて, 不穏さばかりが増していく物語。 オバケが出てくるわけでもないのにホラー感は強く, ゾクゾクするような読み味であり,きっと名作になるであろうと予感させてくれる作品です。

おとりよせしまっし!

re;東京で楽しむ北陸ごはん百合! #1巻応援

おとりよせしまっし! ちさこ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

石川出身のアパレルデザイナー・加賀ひまり(28)は、このご時世の例に漏れず目下リモートワーク中。そんな彼女の楽しみは、お取り寄せグルメを探して賞味する事。 お取り寄せするのは、主に故郷石川、そして北陸の味。主食もお酒もおつまみも、多様な北陸グルメは美味しそうだったり味の予想がつかなかったり。 そんなお取り寄せグルメは、時に他の女性と共に食される。フェミニンで明るいひまりは、会社の後輩女子や隣人の女性、さらには宅配のお姉さんまで虜にする、なかなかの人たらし。ふわっと柔らかいひまりの笑顔と優しさに、こちらもドキッとしてしまう。ひまりと女性達の関係を追いたい、百合漫画として最高の魅力に溢れた作品なのです。 ……ところで。 主人公の名前と「北陸」と聞いて、すぐにピンとくる方もおられるでしょう。 そう、この加賀ひまりさん、同じちさこ先生の『北陸とらいあんぐる』の主人公でもあります。 『北陸とらいあんぐる』では高校生だった彼女。ちょっと雰囲気違いますよね?大人になるとこうなるんだ……というのは興味深い。そして本作でお酒を楽しむ彼女を見ると、時の流れを感じるのと北陸グルメの紹介の幅が広がるのと、両方の面白みがある。そして『北陸』の登場人物も……。 興味のある方は『北陸とらいあんぐる』も是非!

咲とファイナルファンタジーXIV

咲もFF14もほぼ知らずに『咲とファイナルファンタジーXIV』を読んだ

咲とファイナルファンタジーXIV 小林立 木吉紗 ファイナルファンタジーXIV開発/運営チーム
名無し

身の回りで加速度的にFF14にハマるヒカセンが増えていて、自分も誘われ続けていたのですが、今日までやらずに「FF14はいいぞ」という情報だけが積み重なっていっていました。そんな状態で本作のことを知って「えっ!?なんで咲がFF14を!?」となり、興味を抑えられず手に取ってみました。(ちなみに咲のこともほぼ知らない) 読むまでは全く知らなかったんですが、ゲーム内に麻雀が実装されていて遊べるんですね。「麻雀が実装されているファイナルファンタジー、なに?」と思ったんですが、これがコラボの理由なのは一応納得できました。(けどあんまり麻雀はしてない) そしてFF14も咲も知らずに楽しむことは出来るのか。 結論としては出来ます。 みんな楽しそうでほっこりしちゃう。 両作に親しんでいるひとだったら味わいが何倍にもなるだろうネタなんだろうな、というのが沢山詰まっていて、ちょっとFF14やりたくなったし咲も読みたくなったな…。とりあえず友だちのヒカセンにコレ読んだよって話をしたいと思います。 #1巻応援

私が15歳ではなくなっても。【単行本版】

中年男性とパパ活少女、それぞれの絶望 #1巻応援

私が15歳ではなくなっても。【単行本版】 あむ
兎来栄寿
兎来栄寿

今とても熱いレーベルのひとつであるコミックアウルから、新進気鋭の才能により放たれた鋭利なる一撃。 「これが令和の『罪と罰』だ!!!」と帯に銘打たれていますが、読んでいる時の常在的な息苦しさはまさにドストエフスキー作品を読んでいる時のそれです。 「中年になっても性欲はみじめに残る  俺は生きているだけで害悪だろうか」 と吐露する40歳中年男性がこの物語の主人公です。幼い頃は「お父さんみたいな人と結婚したい」と自分を慕ってくれた娘が思春期になると自分を汚物のように嫌悪してくるようになり、奔放に浪費する妻を尻目に辛い労働に勤しむ日々。 ぱっと見は普通の中年男性なのですが、娘のブラジャーを見て劣情を催したり、醜く毛が突き出た自分の手指を見て「俺 指も汚な…」と自己嫌悪を深めるシーンなどディティールの積み重ねによる絶望感が利いてきます。 父としても夫としても自分の存在意義に悩む主人公は、ある日15歳の訳ありパパ活少女と遭遇します。彼女もまた、とある事件とそれに起因する鬱屈した日常を送る人間でした。若い身体に価値がある内に小銭を稼いで海の見える遠い町で花屋を営み穏やかに生きて死にたい、と願う少女。二人の歪みが重なり合うことで生じる奇矯な関係性から、物語は駆動していきます。 とにかく本作はさまざまなシーンでの表現力と迫力が見どころです。全力の嫌悪感や全力の絶望感、背徳感と欲求との鬩ぎ合いが、叩き付けるような描写によって暴力的に繰り出され続けていきます。ひたすら辛いのに、ある種の疾走感すら覚えるほどです。 表紙のかわいい女の子からは想像しにくいかもしれませんが、読感としてはビーム系の作品に近いです。かわいい女の子を描けるからこそのギャップが非常に活きていると言えるでしょう。 闇の深い物語を好きな方には強く推します。

凛子ちゃんとひもすがら

ハートフルヒモ飼いおにロリ物語 #1巻応援

凛子ちゃんとひもすがら 七瀬八
兎来栄寿
兎来栄寿

母子家庭でありながら母親が僅かなお金だけ置いて失踪してしまい、11歳の美少女・凛子が50万円でイケメンのヒモ・春乃を飼う物語です。「ひもすがら」と「ヒモ」が掛かったタイトルなわけですね。 「普通」に家族と暮らし、「普通」に色々な将来の夢を持って過ごすクラスメイトたちと対比して、温かいご飯を家で食べることすら経験できずに育ってきた不憫な凛子。彼女の欠けた部分を、働きはしないけれど家事全般は得意で優しい言葉もたくさん与えてくれる春乃が埋めていってくれる、奇妙な関係が成立していきます。 しかしながら、春乃の優しさも歪さが生んだものであることが段々明かされていきます。それでも凛子が現状で心を保って生き長らえるためには、それが解り切った空虚であったとしても必要なものであるという構造がエモさを醸し出します。メリハリのある心情描写がとても心地良く感じます。 そして七瀬八さんの絵がとても良く、苦痛に歪む表情も、見渡せば美しさが広がる世界も、総じて綺麗に描かれます。春乃は本当にだらしのない立派なヒモなんですが、顔が良い。ヴィジュアルも中身も、とても良いおにロリです。 母親が残した金額は僅かであり長い間春乃を養えるほどではないのが明白で、物語の期限を思わせます。ただ、1話の冒頭で凛子の幸せな未来が描かれているのが救いです。すべての黒髪ストレートロング美少女の安寧と幸福を祈ります。

やくざの推しごと

圧倒的画力で描き出されるK-POPアイドル沼という熱き侠(おとこ)の世界 #1巻応援

やくざの推しごと 八田てき
天沢聖司
天沢聖司

とんでもない傑作でした。沼にハマったことのある全ての人に配って贈りつけたい最高の推しごとコメディでした。 漫画読んでて「あまりにも萌えすぎたためいったん本を伏せて休憩」ってよくあると思うんですけど、笑いすぎて休憩取りまくった漫画はこれが初めてです。そのせいでものすごい時間をかけてさきほど読み終わったのですが、今年まだあと1カ月ありますけど2021年一番好きな漫画は『やくざの推しごと』に決まりました。 まずはこの表紙をご覧ください。 ▽八田てき『やくざの推しごと』1巻表紙 https://i.imgur.com/bwCPiBw.jpg 美ッッッッッッ もはや美しい通り越して変態ですよね。マジマジと眺めてなんか綺麗なの光ってる〜と思ったらペンライト!コミックナタリーのニュースをチェックしててこの作品を知ったのですが、このペンライトに気づいた瞬間ジャケ買い決めました。 そんで1巻表紙めくってすぐのカラー絵よ。画力に連続で殴られてビビりました。見て↓ https://manba.co.jp/boards/147767 いま感想描き始めて気づいたのですが、時間かけて読みすぎ&笑いすぎでもはや序盤の方の記憶がやや曖昧になってます。 そもそも主人公である若頭・健の沼へのハマり方があまりにも模範的&理想的すぎて本当にヤバい。 ・パフォーマンス映像で推しと出会う ・ライブ初参戦で神ファンサ ・グッズ収集開始 ・推しの公式アカウントの投稿をチェックし始める ・それと同時にSNSで最新の情報収集/推しへの想いをツイート開始 ・初めてのグッズ交換 ・推し(と自分)が登場する創作小説を投稿 ・推しが訪問したカフェ(の座った席)に聖地巡礼し同じメニューを食べる ・ファンイベントの抽選の当確に一喜一憂する ・初期ファンしか持ってないグッズを欲しがる   みんなこれ見たこと・やったことあるでしょマジで。もう本当に休憩挟まないと読めないくらいおもしろい。ごくドゥさんのアカウントフォローしたいよ……! 健の推しである『ジュン』と『MNW』に対する、ファンゆえの高解像度の理解力を見ていると推しのいる人生って最高だなと、しみじみ思わされました。 ▽第1話(※2・3話も公開されてます) https://twitter.com/yatsuda_tk/status/1461650733942534145?s=20 ヤクザのおっさんのくせにリア恋レベルで推してる健も面白いのですが、そもそも健を沼に突き落としたお嬢がまたすごい。 1人の女の子の中に、ヤクザの娘らしい気迫とただのアイドル好きの女子高生が矛盾なく同居してて最高。1話の健の顔にチケットぺちぺちしてるシーンの堂に入った仕草はただのJKには出せない。先輩ファンとして健を導いていく姿も頼れます。かっこいい。 そしてこの漫画のすごいところは、アイドルさん達が本当にK-POPアイドルの顔してて美しくて説得力が半端ないとこですね。 あの独特のメイクの感じや韓国のモテ顔って感じの顔立ち……「花の顔(かんばせ)」と呼びたいくらい本当に麗しくて。楽曲聞いたり人柄をくわしく知ることのできない読者ですら思わず拝みたくなるようなカリスマが出てる。顔から。 超画力だからこそ描ける推しの尊さの説得力がここにはあります。 ▽八田てき『やくざの推しごと』第2話 https://i.imgur.com/a0oGNp3.png こんだけ書いても1mmも良さが伝わってる気がしない。 このページをグーッと下に行ったところにAmazonやらいろんな電子書籍サービスへのリンクがあるのでとりあえず買ってください。それしか言えねえ……。 もうあまりにも面白くて、なんでこんなすごい漫画を今まで知らなかったんだろう。もっと早く出会いたかった……という気持ちでいっぱいだったのですが、作中に登場する古参ファンのお姉さんの「これが自分にとって必要なタイミングだった」という言葉を噛み締めて今日を終えたいと思います。

新約カニコウセン

小林多喜二もびっくり #1巻応援

新約カニコウセン 原田重光 真じろう
兎来栄寿
兎来栄寿

まさか、あの『蟹工船』がこんなSFバトルマンガにされるとは小林多喜二氏も想像もしなかったことでしょう。 この『新約カニコウセン』は、日々命懸けで「蟹」との死闘を繰り広げる立場の弱い奴隷のような労働者と、彼らを支配する者を描いた作品となっています。 恐ろしい進化を遂げた「蟹」とのバトルシーンは非常に激しく、緊迫感があります。傷つけ過ぎると商品としての価値が損なわれるのでただ殺せばいいというわけではないのは、モンハンでの捕獲の難しさを髣髴とさせます。 アクションも良いのですが、この作品の一番の見どころは何と言っても原作『蟹工船』に通底するテーマ性です。原作が書かれてから100年近くが経ちましたが、労働者の苦しみは今の世でも不変。もう少し未来になれば、AIなどによる労働が普及して人間が働かなくていいようになり事情も変わっているかもしれませんが、過酷な労働を課せられて命まで絶ってしまう人は令和になっても存在します。 しかし、もし仮に人間が全く働かなくて良くなったとしても、別の面で人間は互いを相対比較してマウントを取り争いを起こし優越感に浸る体験を求めて止まないし、それによって傷つき悲しみを抱える人間は尽きないであろうなという絶望感を感じさせるエピソードが描かれます。 SFバトルアクションになりはしましたが、一見した印象とは違い深奥のテーマとしてはしっかり『蟹工船』を踏襲しており、リスペクトも感じる内容です。 時代を越えて人間の普遍性へ響く名作の力を感じずにはいられませんでした。