ローラ・ディーンにふりまわされてる

恋愛クズに振り回されるな! #1巻応援

ローラ・ディーンにふりまわされてる マリコ・タマキ 三辺律子 ローズマリー・ヴァレロ・オコーネル
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

「恋愛クズ」という存在は確かにいる。自分がモテることに自信があって、恋愛をゲームのように楽しんで、いつも自分が好かれていないと嫌で……という人物であると気付いた時には既に振り回された後。あぁぁクズ、お前に割いた時間を返せ! 本作の主人公は、人気者のクズ女に振られては復縁し、を繰り返す女子。別れるたびに友人達に慰められるけれども、何が辛いってクズ女しか見ていない主人公が、次第に親友をなおざりにしてしまうところ。 舞台はアメリカの、同性愛もポリアモリーも当たり前になっているコミュニティー。そこでは多様なパートナーの形、恋愛の形が描かれ、女性同士の恋愛も当然のことと描かる。それゆえ視線は別の点にフォーカスされる。 画面がとてもPOPだったり、ちょっとサイケだったり。ピンク+スミの二色で鮮やかな画面が楽しく、しかしそのピンクは、恋愛に振り回される主人公の閉塞感、息苦しさを演出するようでもある。 恋愛にはまり込んで大切な物を失うのはもったいない、ということがひしひしと伝わる。もっとバランスよく恋愛できないのか……とヤキモキし、渦中にいると気付かない恋愛の難しさに思いを馳せ……と一段上の次元に視点を誘う本作。恋愛と人生の見方がクリアになる、かも。 ※余談だが、本作の「恋愛クズ」はポリアモリーなのかというと、「当事者同士で合意をとった上で行う複数間の関係」がポリアモリーの定義で、それには当てはまらない。作中でも「ノンモノガミー」と紹介されている。

寿々木君のていねいな生活

「好き」への否定を否定してくれる優しい物語 #1巻応援

寿々木君のていねいな生活 ふじもとゆうき
兎来栄寿
兎来栄寿

『ただいまのうた』、『キラメキ☆銀河町商店街』、『シェアハウス金平糖北千住』などでお馴染みのふじもとゆうきさん最新作。 今回もまた、一際優しさが沁みる作品となっています。 長身で強面な主人公・寿々木薫(すずきかおる)は、見た目に反してお菓子作り、植物の世話、季節のてしごと、裁縫などが好きで得意な少年。 薫が高校入学の日に出逢った同じクラスの春名は、薫とは逆に小柄で美少女のようにかわいい容姿でありながら、柔道が得意で強い男子。仲良くなっていく対照的なふたりを中心に、薫の新しい希望に満ちた生活が始まっていきます。 薫は中学時代に自分の趣味嗜好を否定されハブられてしまっていた経験があり、自分のありのままを受け入れてくれることに新鮮な感動を得て行きます。そこが、何ともハートフルで読んでいてぽかぽかします。 私も思春期の頃にあまり他の男の子がやらないような花の水やりや料理や裁縫など家庭的なことをよくやっていましたし、好きなものを好きでいたら「キモい」と言われる悲しさもよく解ります。昔は今ほどオタクに寛容ではなかったですからね。 しかし、薫が同級生に外見に似合わない趣味嗜好をからかわれて家で凹んでいたときに ″「好きなこと」はこの先も薫を助けてくれる 絶対に大切にした方がいいよ″ と薫の母親が言葉をかけます。何と素敵な言葉でしょうか。好きを否定されて傷ついたことのある人には沁みるセリフでしょう。このお母さんだからこそ、優しい薫少年が生まれ育ったのだろうと思えます。 そして、好きを否定する人を否定してくれる新しい友も得ることができた薫。孫を見守る祖父母のような気持ちになります。 薫とは歳の離れた妹が通う保育園で働く桜子先生への恋や、その桜子先生も外見からでは解らない意外な面を持っているところ、またクラスメイトたちの恋愛動向など、これから面白く楽しめそうなポイントが他にもいくつもあります。 優しい世界の物語に触れたい方にお薦めの作品です。

ハナイケル -川北高校華道部-

折れた枝でも咲く場所がある #1巻応援

ハナイケル -川北高校華道部- 山田はまち
兎来栄寿
兎来栄寿

マーチングバンドの次は、華道! 『みかづきマーチ』の山田はまちさんの待望の新作です。 プロットとしては非常に王道中の王道を行っていますが、それで面白いのが流石です。山田はまちさんの青春ものは、安定して良いですね。 華道をメインテーマとして扱う作品は多くなく、知らない世界である人も多い作品でしょう。私もそこまで詳しいわけではないので、本作で解説される内容は興味深く読んでいます。 「即興花生け」という競技のルールもシンプルかつ面白く、またその頂点である花の甲子園を目指すという目標も非常にわかりやすく、素人であるヒロイン・もみじの目線に沿って物語に容易く乗っていけます。 そして、本作の何よりの美点は、画面で華道の素晴らしい魅力を伝えてくれていることです。『みかづきマーチ』の演奏シーンで見せてくれたような表現力を以て、美しく意趣溢れる花々を生ける姿を描いています。作業中も、完成図も、等しく惹きつけられます。白黒なのに、カラーだと錯覚するような鮮やかさです。 一見使えそうにないものや傷ついたものでも、上手く用いることで素晴らしい作品になる様子は、人間の様態にも当てはまるメタファーのよう。もみじの挫折から始まり、華道という新しい道を見つけて再起していく物語ですが、多くの人に強い共感を呼びそうです。 伸び代のあるもみじのこれからの成長を想うと、ワクワクせずにはいられません。周囲のキャラクターたちも魅力的で、その関係性でも見せ場をたくさん作ってくれそうです。 広くお薦めしたい、秀作です。

メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話

事実はマンガより奇なり #1巻応援

メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話 前田シェリーかりんこ
兎来栄寿
兎来栄寿

最近、ビッグモーターの醜聞が巷を賑わせています。この時代に、そんなことが現実に有り得るのかと思えるほどの話が連日続々と出てきて驚かされます。 ただ、大谷翔平選手や藤井聡太七冠がマンガでも描かれないような大活躍を見せてくれているように、良くも悪くも時として現実はフィクションを超えていきます。 実際に筆者が体験したことを描いたという、この作品もまたある種の現実を超える話です。 異常な元彼に鼻をフォークで刺されるなど一歩間違えれば死んでいたほどのさまざまな暴行を受けて記憶障害が起きた上に、一人の人間としての尊厳をズタズタに侵されてしまう筆者。そのえげつない相手に対して、徹底的に抗戦していく様子が描かれます。 美人のヒロインが鼻にずっとフォークが刺さって痛々しい姿のまま、というのは創作ではなかなかやれないでしょう。岡田あーみんさんや美川べるのさん、東村アキコさん辺りの絵で想像できなくはないですが、9割以上編集に止められそうです。 元彼や彼の親族の異常性が言動からも絵からも滲み出ていますが、恐ろしいことにこういう人種は全然実在するんだよなとも思ってしまいます。警察における暗部が仄めかされる部分も、その範疇です。 ただ、散々な出来事ではありますが、周囲に良い人が多かったのは不幸中の幸いで良かったなと思いました。彼らがいなかった時のことを想像するとゾッとします。 凄まじい体験談ですが、真に恐るべきはあとがきによれば筆者の中ではこれはまだ人生の中でマイルドな話らしいということです。これ以上の話も見たような、見たくないような。 なお、描き下ろしの秘められた想いとその結末も、とてもリアルだなと感じました。

守娘

台湾怪奇譚と抑圧される女性 #1巻応援 #完結応援

守娘 シャオナオナオ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

『陳守娘(タン・シュウリョン)』の伝説を題材にした物語は、墨っぽい美麗な作画で幻惑と苦悩の物語へと私を誘う。 舞台は清代の台南。不思議な祈祷師・守娘と出会うのは、名家のお転婆お嬢様。彼女は謎の水死体を皮切りに、様々な女性の苦しみの声を聞き、寄り添い、行動し……そうしてある巨悪の構造に巻き込まれてゆく。 彼女は当時の女性達がする、纏足をしていない。その分自由に走れる彼女は「女性のために」走る存在。一方で守娘は主人公を導くが、彼女自身も元は苦しむ女性であり、意外と無力な存在でもある。 描かれるのは、女性にあまりにも厳しい家父長制社会。そこで女性達は神や霊に縋り、まじないに頼り……その社会構造を恨むのではなく、その社会構造をなんとか生きのびようとする。その理不尽に、男である私は言葉を失う。 さらに描かれるのは、人間社会の恐ろしさに対する霊的存在の無力さ。膨大な怨念が、せいぜい足に痣を付けて何かを知らせることしかできない。でも、それをきっかけに何かが変わる時……そしてやはり無力な守娘がお嬢様に「諦めない事」を伝える時、そこに残る僅かな希望に安堵する。 しかしその希望を前にして「この時代に生まれなくて良かった」と男の私は言いたくない。この怨念と希望は、何千年も受け継がれ、そしてこのままでは、これからも受け継がれる物だから。 この物語にある「女性の抑圧」は、恐らくあらゆる時代の女性に接続する。『アンナ・コムネナ』は千年前の皇宮でも女性は不自由だった事を描き出す。そして『女の子がいる場所は』は現代の世界中・そして日本の少女への抑圧を描く。 今を生きる男の私は「抑圧はなくなった」「差別は解消しつつある」と簡単に言ってしまいそうになる。しかし現在も抑圧される女性は存在し、その言葉は彼女たちにも届くかもしれない。彼女たちははどう思うだろうか。 この事はあらゆる差別・抑圧に通じる。苦しみは私に見えない所で生まれ続けるだろう事を、忘れずに言葉を紡ぎたい。

ネコと海の彼方

幼いロマンシスと喪失の海 #1巻応援 #完結応援

ネコと海の彼方 星期一回收日 陳巧蓉(巧喵)
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

本作を読み終えて数日が経った。その印象はあまりにも鮮烈で、私は日々の隙間を見つけては主人公と、彼女の大切な人について考える。美しい友愛と、その喪失を。 主人公を暗闇から助け出してくれたあの子。二人の日々は眩しくて、私は自身の幼い恋や友情を思い出す。 ナイショがあってもいい、寄り添うことが相手への想い。そんな二人だけの独特な関係に、心温まりつつ強く魅了される……それだけに、後半の展開は辛い。 主人公は単純に悲しむだけではない。その言動はキューブラー・ロスの「死の受容5段階」がモデルにあるのだろうか。喪失を否定するように怒ったり、取り戻そうとしたり。 「彼女を留めておきたい、忘れたくない」という強い想いはしかし、足掻けば足掻くほど苦悩の深みに嵌まっていく……絶望感を共有する。 しかし生き残った人には、明日が来る。 恐らく友情も恋も、人生の目的ではない。それは人生を支えるもの。大切な物を沢山くれた、特別なあの子を特別なままに相対化する主人公の、漆黒の海に夜明けは来る……その静かで晴れやかな終局は、今もさざなみのように心に打ち寄せる。

ギブギブの悪魔

自己犠牲の強い主人公に強い共感 #1巻応援

ギブギブの悪魔 四ツ原フリコ エイタツ
兎来栄寿
兎来栄寿

刺さる人にはとても深々と刺さりそうです。 競争が嫌いで、自分が得をするために他人を蹴落としたくはない。 自分が得られないことで、他人が得られて幸せになるならそれもまた良い。 小中学生の頃から自己犠牲や譲ることが基軸にあり同級生から「もっと強欲になっていい」と言われて生きてきた私は、かなり深い共感を得た作品です。 常に自分より他人を優先してきて、作曲家崩れのヒモと暮らす女性・ひろ野が、ライトノベル作家・涼と出逢ったことでその考え方や生き方を徐々に変えていく物語です。 本作で、特に印象的だったのはバイト先の後輩である友枝とのエピソード。 ひろ野が慎み深さとは裏腹に「人のために何かをする」という相手の喜びを取り上げているのではないか、という部分は考えさせられました。 相手の好意への遠慮は、語弊を恐れずに言えば相手の好意を摘むこと。遠慮せずに受けた方が良い好意も、世の中にはままあることでしょう。大事なのは、それをしっかり見極められる目を持っておくことでしょうか。 自己評価がとことん低いところも共感してしまうのですが、相手が気に入ったり認めてくれていたりする自分という存在を自分で貶めるということは、相手の考え方をも貶めるということに繋がっています。 謙虚さは、時に自分に優しい者を傷付ける悪魔となってしまう。肝に銘じておきたいです。 程よく笑いも交えながら大事なことをしっかり描いている素敵な作品です。

ぼくとミモザの75日

画力とキャラの魅力に撃ち抜かれる #1巻応援

ぼくとミモザの75日 鬼山瑞樹
兎来栄寿
兎来栄寿

『嫌がってるキミが好き』の鬼山瑞樹さん最新作。 前作の最初から絵が良かった鬼山さんですが、最近ますます魅力的になっています。 正直、物語として見ると荒唐無稽なところがいくつもあり破綻しているようにも感じられます。が、「細かいことはどうでもいい」と言わんばかりに画力で殴られる感じがむしろ気持ち良いです。 何しろ、ミモザの目が良い。 引き込まれそうな虚無の瞳。 読んでいるといくつもゾクゾクするような良い表情のコマが出てきます。 「マンガはキャラクター」というひとつの真理に立ち返れば、この作品はミモザがいるだけで「勝ち」です。 そんなミモザと、主人公の少年・宗人が擬似家族を営もうとする素朴な願い。それだけで十分だと感じます。ミモザは現実に喘ぐ思春期の少年の、ある種の夢の具現化のような存在でもあると感じます。 殺し屋としては脆さであり危ういのですが、絶妙に人間味がブレンドされる瞬間も堪りません。 多分、殺し屋なら臭いがつかないように煙草も吸わない方が良いんですが、絵面がカッコいいのでそんなことはどうでも良いんです。煙を燻らせているときの表情、堪りません。 細かいところではミモザの愛好しているマスコットキャラのCHIKUWABU、好きです。

ネコと海の彼方

唯一無二の友達 #1巻応援

ネコと海の彼方 星期一回收日 陳巧蓉(巧喵)
兎来栄寿
兎来栄寿

陳巧蓉さんが原作を、『綺譚花物語』の星期一回收日が作画を担当する台湾の物語が日本にもやってきました。 子供のころ、マンガを描いて遊んだ思い出はあるでしょうか。名だたるプロ作家が描いていた小学生のころから異常に完成度の高い作品などとは違い、後年にとても読めたものではない恥ずかしいものが発掘され悶えることもあります。ただ、その時に好きだったものや思っていたことがダイレクトに表現されたそれは想い出の結晶とも言えるもの。そして同時に、それを見せたり逆に見せてもらったりしていた当時の友達の顔も思い出します。 本作でも、そんな自作マンガを通して交流する小学生のふたりの少女の友情を軸に、エモーショナルで美しいストーリーが紡がれていきます。 台中の清泉崗(せいせんこう)で育った筱榕(シャオロン)は、近所の人には婚外子であると噂され、教師からはIQが低い子と詰られ、小学2年生までは顔が不細工だからと虐められていた女の子。9歳までひとりの友達もできないでいた彼女が、自分とはまったく接点がないと思っていたかわいくて成績が良くて絵も上手いクラスでも人気者の可蔚(カーウェイ)と、ふとしたきっかけで仲良くなっていくところから物語は幕を開けます。 小学生という自らの情動をコントロールするのにまだ長けていないころ特有の、縺れたり解けたりする繊細で複雑な感情の描き方が巧みで引き込まれます。初めての友達ができた時の嬉しさが蘇ります。メインふたりの関係性が、本当に良いのですよ。 そして、いろいろなイベントが発生する中で、後から解る事実によって過去が今に波濤となって打ち寄せる構成にも心を揺さぶられます。人生も、その時には解らなかったものが後になって理解できて物想うことは多々あります。そんな多層性も持ち合わせている作品です。 何より、今回も星期一回收日さんの絵が相変わらず魅力的です。筱榕と可蔚の絶妙なバランスが、何よりも画によって雄弁に語られています。 1冊完結ですぐ読めますが、何巻分も読んだかのような満足感に包まれます。広くお薦めしたい作品です。

リーマンミーツホスト

美青年が好きなリーマンがホストにハマる #1巻応援

リーマンミーツホスト かわいちひろ
兎来栄寿
兎来栄寿

ひとりの友達も恋人もいない、真の意味での独身サラリーマン・片山秀一が、ホストクラブにハマっていく様子を描いた異色の作品です。 秀一の唯一の趣味は、美青年を見ること。美しい少年や青年を見て心を潤すのは素晴らしいことです。しかし、30代の男性を主人公にしてそういう趣味を謳歌することを描いた作品は多くなく、そこがまず面白いなと思いました。 そんな彼は、チケットを買えなかったアイドルのライブ会場に雰囲気だけでも味わうために行った結果、女性ファンが自分を見る現実的な厳しい視線に晒されて心を折られてしまいます。このシーンに限らず、本作は共感性羞恥の嵐で読んでいて辛くなるシーンが多いのですが、惹き付けられる部分があります。 秀一がどうにもやり切れない感情に翻弄されている時に出逢うのが、ホストクラブルークに勤めるホスト・月城悠。秀一の孤独感を見抜いた悠が、あえて目を見ないで話すなど秀一の心地良い距離感を作って秀一からの信奉を得ていくところの巧さ、その一方でかわいい女の子でもない一人の野暮ったい男性客に対する本心の発露する描写にはやられます。 しかし、同伴やシャンパンを入れるなどホストクラブ定番のイベントをこなしながら徐々にLINEのやり取りなどで「おもしれー男」感を出していく秀一に、悠の中でも若干の特別感が生まれていきます。ただ、そう単純には事が運ばなさそうな感もそこかしこの細かい描写から感じられ、面白いです。 秀一に夜の世界の精髄を教えてくれるみかぴなど、話を動かしてくれそうなサブキャラも今後更に味を増していきそうです。「秀一、実は隠れ美形説」が生かされて行くのかも注目しています。

エロチカの星

それは太古から未来まで人間に宿る普遍性 #1巻応援

エロチカの星 前野温泉
兎来栄寿
兎来栄寿

たっぷり65ページを使った初回を読んだ時、「これは熱い連載が始まった!」と感じました。 漫画家を志望しながら芽が出ないまま32歳になった主人公が、ある日酔い潰れている時に出逢った謎の美少女に 「童貞だからこそ夢のある魅力的なヒロインが描ける」 と見出され、二人三脚で伝説のエロ漫画家への道程を歩んでいく物語です。 第一話でとても良いなと思ったのが、ヒロインのよすがが語るエロ漫画の魅力。古事記の時代から現代に至るまで続いている文化であり、かつエロ漫画のジャンルとしての自由さを説くところは首肯しっぱなしでした。 よすがが語る通り、エロ漫画とは極めて自由なジャンル。それを体現するかのように、今年も『出会って4光年で合体』という怪作も世に出てきました。かつてエロゲーというジャンルが持っていた制約と、そこから生まれた名作が昨今のあらゆる作品にも大きな影響を与えていることとも通底しています。 日本人は、和歌からネット上の大喜利までそうですが、緩い縛りを設けてその中で自由な発想で遊ぶことに非常に長けた民族です。だからこそ、エロという唯一の縛りがあるエロ漫画というフィールドで、時に一般誌では花開くことのなかった才能も開花するのだと思います。 そして、何といってもマンガを描いて一番嬉しい瞬間、読んだ人が喜んでくれるところもしっかりと描写されているので、ニッチなテーマではありますが普遍的な感動や興奮もあります。ジャンルこそエロ漫画ですし、主人公が片や童貞、片や美少女であることでそこに関係性の面白さも乗っかりますが、やっていることの根本は『まんが道』ですからね。 可能性に満ち満ちたエロ漫画というジャンルで、彼らが今後どんな驀進を、あるいは葛藤や障害の克服を見せてくれるのか。 「全人類勃起させるほどの大作を編み出してやるぞ!」 という、よすがの語る夢をどう実現していくのか。そして、二人の関係性はどうなっていくのか。とても楽しみです。

何も知らないけど、キミが好き。

「絶対ハマらない」と思っていた沼こそ危険 #1巻応援

何も知らないけど、キミが好き。 きし晴護
兎来栄寿
兎来栄寿

人生の最推しが2.5次元や3次元になる時の恐怖といったらありません。3次元の人間が、どうやったらあの仙姿玉質・鮮美透涼・晶榮玲瓏・文質彬彬な姿を演じられるというのでしょうか。 かつて、その機会が訪れてしまった時、私は筆舌に尽くし難い慨嘆と憔悴に至りました。愛があまりにも深すぎるが故に要求値は比類無き高さとなってしまっていることは自覚しており、満たされるわけもないと解っていてはいる……それでも自らの目で見て確かめずにはいられず、その結果絶望の淵に立たされる。 その作品がどれだけ他の実写化作品に比べて恵まれていたかは解りました。何なら、監督の原作愛の深さで言えば上位1%に入るであろうレベルでした。私自身その作品への愛ゆえに作品に出演し、その監督やキャスト陣の仕事ぶりを生で見てきたからこそ感じられた部分です。とても雰囲気の良い現場でした。 しかしながら決定的な部分、最愛の人物のキャスティングの解釈違いと、そこだけは無理してでも頑張って欲しかったという部分が妥協されていたことで、原作ファンには概ね高評価のその作品も、私の中では大いなる黒歴史となってしまいました。not for meの極みです。それでも、作品ファンが増えてくれるなら、あるいは原作者が喜んでいるのなら、それはそれで大変喜ばしいことではありました。なので、最早私は無の境地を経た上で原作を愛する以外ありませんでした。 というわけで、第1話で "「実写化」なんて全部ゴミです!!  「劣化」です!!!!" と雄叫びを上げる本作の主人公・愛理の気持ちは痛いほどに解ります。ただ、愛理と私で違ったのは、こちらの次元にやってきた推しの完成度が非常に高かったこと。推しが2.5次元や3次元になるなんて有り得ないと思っていた愛理ですが、それまでは同じ作品を好きな仲間とも共有できなかった推しに対する深い解釈が、推しを演じる2.5次元俳優とだけは合致してしまったのです。そんなん沼りますよ。常に供給のあるナマモノジャンルは恐ろしいと太古から言い伝えられていますからね。 ある種、遠いところにいた人ほど沼の深みにハマっていくパターンはあります。近いところにいた人が普通に持っている物差しがなく、何もかもが新鮮であるが故にの楽しさもあるからです。絶対にハマらないと思っていたからこそ、自分の予想だにしなかったところまで突き進んでいく。共感するわけではないのですが、極めてそれに似た理解の感情が湧き起こります。 また、さまざまなタイプの女オタクの面倒くさい部分やSNSで本当に呟いていそうな書き込みの解像度の高さも秀逸です。既視感を覚えるほどのあるあるがあります。それと共に、2.5次元俳優側の描写もしっかりと行われ、そちらもかなりリアルな印象です。「自分の消費期限」や「需要と供給」に自覚的な彼らの立ち居振る舞いも、目を引きます。 物語全体は、破滅的な濁流に飲み込まれるようなドライヴ感が生じていきます。危うさを覚えながらもこの先どこへと辿り着くのか、引き込まれます。 2.5次元に興味のある方、推しへのガチ恋の沼底や女オタクの闇の部分を覗き込みたい方にお薦めです。

小春と湊 わたしのパートナーは女の子

このふたり甘すぎにつき #1巻応援

小春と湊 わたしのパートナーは女の子 ひあるろん&達磨
兎来栄寿
兎来栄寿

このふたり、カスドースよりもグラブジャムンよりも甘い! しかも驚くべきことに実話ベース! 10歳差の相思相愛な女性同士による日常のイチャイチャや惚気が縦横無尽に繰り出されるお話。百合姫にはそんなお話は無数にありますが、こちらは何と作者のひあるろんさんと達磨さんの実際のエピソードが描かれているそうです。 年上の小春は湊のことをハチャメチャにかわいいと思っており、年下の湊は小春のことをハチャメチャにかっこいいと思っていて。一見すると外見的には逆なのでは? と思えてしまいそうなそのギャップもまたディモールトベネなのですね。 お互いへの矢印が強すぎて、知能が低下し胸焼けしそうなほどの甘々さ加減なのですが、気持ちはとてもよく解ります。ささやかな喜びですら潰れるほど抱き締めるというのに、こんなに大きな喜びが怒涛のように押し寄せる状況ではキャパオーバーになってしまうのも致し方なし。 事実は小説よりも奇なり。創作でやったらやり過ぎではないかと思うようなことも、むしろ現実でこそ行われてしまう。世界の存続と崩壊を天秤にかけている神様すら、この世界もまだ捨てたものじゃあないと思ってくれるであろうレベルです。 ふたりでいるからこそ世界が美しく輝いて見えるし、そんな関係をおばあちゃん同士になっても続けていたいと願える。何と素晴らしいことでしょう。ずっとずっとお幸せでいて欲しいです。 基本的に、ひたすらイチャイチャしてるのを眺めて幸せをお裾分けしてもらう感じですが、「馴れ初め」のエピソードは一味違ってまた別種の良質な栄養素を補給できます。SNSや配信文化のある時代ならではの、そうした文化にも助けられて育まれたふたりの想いの萌芽と成長はとてもとても良いものです。 仲睦まじい女性ふたりのやり取りを見て元気を得られる人にお薦めです。

僕は春をひさぐ~女風セラピストの日常~

女性用風俗のセラピストという仕事 #1巻応援

僕は春をひさぐ~女風セラピストの日常~ 水谷緑
nyae
nyae

最近、女性用風俗をテーマにした漫画が増えたなと感じていたけど、女性用風俗の店自体がコロナ禍をきっかけに急増したと書いてあり、そんなところにも影響があったことに驚きました。 「こころのナース夜野さん」を好きで読んでいたのもあり、同じ作者の新作として気になり読んでみました。 主人公のセラピスト(女性に直接サービスをするスタッフ)・悠はとても真面目に仕事に向き合っており好感が持てるものの、こういう人ばかりではないんだろうなと、風俗という業界である以上、警戒心は持ってしまいますね。一方で、女風きっかけで生活に様々な影響が出ている女性たちを見ると、コントラストの強い光と闇がある奥深い人間模様が描けるのは風俗業界特有の面白さだなと思います。 サービスをする側にも悩みはつきません。半年も持たないことが多いというセラピストの仕事を3年も続けている悠の今後も気になります。 ちなみに作者がこのテーマで漫画を描こうと思ったきっかけのひとつに渡辺ペコさんの1122があったといい、確かにいたな!と思い出しました。あまり詳しくないですけど、セラピストを重要なキャラに持ってきた1122って先進的な漫画だったのかなと思いました。

電脳少女AI

1/65536の純情な感情 #1巻応援

電脳少女AI 吉田小梅
兎来栄寿
兎来栄寿

スマスロの登場や、初代を強く意識した北斗の拳などで久しぶりにホールに足を運ぶ人も現れ、斜陽と叫ばれながらも昨今も盛り上がりを見せるパチスロ。時にはにゃんこ大戦争のような謎の台も登場し、話題に事欠きません。ちいかわとか相性良さそうだな、と思ったり思わなかったり。 そして、世の中にはパチスロマンガというジャンルも存在するわけですが、一般的なパチスロマンガはもう少し実録的な台の攻略や実践を描いた形式が多いです。しかし、本作はかなりストーリーマンガに寄せている珍しいタイプの作品です。 子供がドラえもんを欲するように、パチスロを打つ人なら誰もがこの作品に登場するアンドロイド「AI」が欲しいでしょう。ビッグデータを元に高設定台や据え置き天井直前の台を看破し、強イベント日の良台・悪台を見極め、目押しも完璧にこなし続ける最強のAI。しかも、見た目はかわいくて気立ての良い美少女。 アンドロイドとの関係性を描いたプロットとしては極めて王道ですが、終盤のシーンは感動的です。そこに上手くパチスロならではの要素を組み込んでいるのも、本作ならでは。 「バジ絆の残3」やら「ディスクアップ」やら、パチスロを知らない人には何が何だかわからない部分も多いかと思いますし、『ロックンリール』ほど誰しもに無条件でお薦めできる訳ではないですが、ある程度打っている方であれば楽しめるでしょう。