いろいろな好き
1話から朱里ちゃんの気持ちが痛いほど分かって泣いてしまった…お母さんと言い合いをしても、やっぱり相談しちゃうんだよね…頼りたくなっちゃうよね…。「小さい私のまんまでずっと3人でいれたらよかったなぁ」も共感できてしまって苦しくなっちゃった…。 いろいろな時代の環と周、いろいろな好きのかたち。胸がぎゅうっとなるようなお話ばかりで、一瞬でこの作品の虜になりました。2話の文通のシーンがとても好きで、私も誰かに手紙を送りたくなりました。「あなたの幸せをお祈りいたしますね」大好きなフレーズです。
よしながふみさんの円熟味、精髄をたっぷりと堪能することができる連作短編です。
https://shueisha.online/entertainment/167862
上記のインタビューによると16年前から構想はあったものの、『大奥』と『きのう何食べた?』の2本の長期連載があったため、集英社のラブコールを保留し続けてようやく始まったというこの連載作。
「環(たまき)」と「周(あまね)」。
どちらも円の意味を持ち、古来から男女どちらでも使えるふたつの名前。本作はタイトル通り、すべて時代や性別や関係性は異なれど「周」と「環」という名前を持つふたりを中心にした物語を描いた連作短編です。
よしながふみさんらしく、時代や設定を変えてさまざまな形での人と人との絆が抒情性豊かに綴られていきます。中学生の女の子同士がキスをするシーンから始まるのも、とてもらしさが出ています。
上記のインタビューでも触れられている通り、当たり前の男女のすれ違いを描くだけではなく会話が成立しているけれど上手くいかない部分であったり、希望も絶望も同居しているさまであったり、人間が生きる世界の片隅にあるリアルを鋭敏な感覚と卓抜した手腕で的確に切り取り料理して提示してくれます。さりげないシーンであっても、ひとつひとつのセリフや表情、間に宿る重みに良さが溢れています。
人の裡にあるものは誰にもわからない。周りからどんな風に見えていようと、いかに恵まれた環境にあろうと、そこで抱えている芯にあるものは当の本人にしかわからない。その、当たり前のようで忘れがちなことが切々と語られているところは沁みます。
もし今までよしながふみ作品を読んだことがないという方でも、令和の今お薦めする最初の入門の1冊としても申し分ありません。生きていることに、生きていくことにこの1冊から勇気をもらえる方は必ずいることでしょう。