すくらっぷブックが第一交響曲なら、こちらは第二だ。その中のシベリウスの作品が、本書に最も近いようだ。何よりも親しみやすさが至る所から匂い立ってくる。しかも主人公が飽くまでも穏健なので、そこから光がさして来るのだ。これも日本文学史を語る上で欠かせない名作といえる。少なくとも私は、好きだ!

島崎藤村物語

島崎藤村物語

明治14年、長野県(現在は岐阜県)の馬籠宿から兄弟と共に上京した島崎春樹は明治学院を卒業。明治女学校に英語教師の職を得ると共に女学雑誌社で詩人、北村透谷、作家、星野天地らと親交を深めながら文学の道へと足を踏み入れるが、それは決して平坦な道ではなかった。教え子への慕情と自責、世の中の混乱、愛する人との別れ。一度は悩み、全てを捨てて旅に出た春樹だったが、やがて自らの文学の道を見出し、名を藤村と変えてその道を歩み始める。「夜明け前」「千曲川旅情の歌」などの作品で知られる詩人、小説家の島崎藤村が信州、小諸に居を構える前、文学者として歩み始めた頃を描いた高木達の脚本による演劇を小諸出身の漫画家小山田いくがコミカライズ!

小山田いく まんが昔ばなし傑作集

小山田いく まんが昔ばなし傑作集

日本の各地に古くから伝わる昔話。それらはあるものは面白おかしく、あるものは教訓的な内容をもって今の世に至るまで長く語り継がれて来た。しかし、これらの昔話のルーツをたどってゆくと、その先に見えてくるのは実は人間の情念に彩られた生々しく、そして禍々しい物語なのかもしれない。鶴の舞う村である日突然老夫婦の前に現れた美しい女性…「鶴の恩返し」、藪の中で旅の夫婦に起きた惨事が意外な者の口から語られてゆく「藪の中」、若返りの水を探して一人で山に入った妻を探しに行った夫が見た物は…?「若返りの水」など5作品を収録。「すくらっぷ・ブック」などで若者のみずみずしい青春を、また「風の宿」などで情緒あふれる大人の物語を綴って来た小山田いくが心機一転、新しい切り口で描いてゆく新シリーズ第1巻!

Queen Bee

Queen Bee

花邑姫蜜(はなむら ひみつ)は12歳。蜂と心を通わす事の出来る不思議な女の子。これはそんな姫蜜と、転地養蜂で日本各地を巡る九州は熊本の養蜂一家の物語だ。転地養蜂とは春真っ先に花の咲き始める九州や四国から花を追って日本列島を北上し、ミツバチを育てながらハチミツを採る仕事。今年は春から中学生になる姫蜜を家に残して熊本を発った花邑たち一行だったが、そんな彼らの元に姫蜜が蜂たちをおって家出をしたとの一報が入るところから物語は始まる。やがて花邑たち一行と合流し旅を始める姫蜜。春から夏、そして秋、冬と季節が移り行く中で彼女は旅を続け、時には人と出合い、時には自然の驚異に直面し、時にはその脅威と真っ向から戦いながら蜂たちと寄り添い日々を過ごしてゆく...。日本の四季の中で自然と寄り添いながら生きてゆく養蜂家の生活、そして蜂たちの生態を小山田いく先生が緻密に調べ上げ、丁寧に描き上げた逸品を是非とも味わってみてください。その他、占いを通じ人々に幸せを示すと言われる「吉祥師」が日本屈指の財閥、真田グループの後継者争いに絡む連続殺人事件をその占いと鋭い推理で解決してゆく「吉祥師京太郎の推理」。この恋は本当自分が望んでいた物なのか...今まで単行本化されていなかった幻の作品、恋に悩む高校生の姿を淡々と描いた「ダスト、ジャケット」を収録。小山田いく先生の当時の単行本コメント「昆虫は人間とは全く別の進化の道をたどり、むしろ人間より地球に適応して繁栄している生き物なんだそうです。小さな頃から不思議な連中だとは思っていましたが、やっぱりすごいやつらです。」

くすのき亭の日々

くすのき亭の日々

一昨年母親が急逝してから父と一緒に大衆食堂「くすのき亭」を切り盛りする楠了子(くすのきりょうこ)。以前は色々夢もあったような気もするが、今は淡々と店の仕事をこなす毎日… そんな毎日の筈なのだが、彼女の周りにはいつも不思議な出来事がついて回るのだった。ある日、閉店直後に電話が鳴り、了子が受けるとそれはラーメンの注文だった。自分で調理し出前に行った了子だったが、電話をしてきた女性はこの世の者では無かった。そしてその日から了子の元には閉店後のラーメンの注文が入るようになる。了子は何者かに憑かれたように夜の出前を繰り返すが…。 その他、表題作品「くすのき亭の日々」の他、とあるレストランのオーナーが突然家に友人の娘を住まわせたことからそのオーナーと息子の間に起きる出来事を描いた「すぺしゃる料理人」、昔一緒に遊んだ男の子の面影を追って信州、小諸を訪れた女性の一日をほのぼのと綴る「約束」を掲載。小山田いくが大衆食堂「くすのき亭」の日常にからめて、人間の機微を丁寧に描く珠玉のホラーストーリーの決定版!

五百羅漢

五百羅漢

2006年5月に「五百羅漢」のタイトルで発表されていた小山田いく短編集を今回は3冊に分けて配信。第1巻は表題作品「五百羅漢」の他短編4作品を収録しました。 「五百羅漢」…雑誌「野仏」の専属ライターとして石仏を取材して歩く数巳(かずみ)と恋人の美津子(みつこ)は2人で美津子の実家を訪れる。それは村にある五百羅漢を訪れるためだったが、村ではこの場所は立ち入り禁止という暗黙の了解があった。五百羅漢を訪れてからいつもと違う暗い雰囲気を漂わす美津子と数巳を見て亡き従弟、純生(すみお)の名前を呼ぶ美津子の兄に違和感を覚える数巳。やがて数巳は美津子に隠された秘密を知る事となるが、その時彼を不可解な現象が襲う…。その他、訪れる人もいない山荘を守り続ける老人とそこを訪れた一人の女性。老人はやがて女性に山を愛し、山を描き続けた一人の男について語り始める…「山荘夜話」、薄幸の少女、災子は交通事故で命を落とすがひょんな事から妖怪「猫又」になり?!の「災子、猫又ね!」、とある中学校の庭にある卒業記念の桜とそれを守り続ける教師、朝森(あさもり)。植物を愛する少女、春水(はるみ)は朝森との触れ合いを通してその桜に寄せた人々の想いを知る…「記念樹」、あとわずかで定年を迎える刑事、岩佐の元に配属されてきた新人刑事、栗林奈美。彼女は岩佐が心残りという事件を再捜査するよう、彼に力をかすが、その裏には彼女の隠された秘密があった…「風舞人」。 今回の配信にあたり、特別に録り下ろした『すくらっぷ・ブック』の登場人物・桜井光代のモデル・光代さんのインタビューを掲載しています。

魑魅

魑魅

河童、猫又、人魚など、世の中には昔から正体のわからない生き物が語り継がれて来た。そしてそれらは今も存在する…。私立十種高校には部員がたった二人しかいない生物部があり、その部室の地下には数多くの正体不明の標本が安置されていた…。ある日、この生物部の二人、東森 覚(ひがしもり さとる)と専女 摩未 (とうめ まみ)のもとに2年生の白河啓子(しらかわ けいこ) が猫の死体を抱いて現れた。目の前で車に轢かれて死んだその猫をせめて綺麗な姿で葬りたい、という彼女の願いを受け遺体の修復を引き受けた東森は、その修復の際に地下にあった猫又の手と言われる標本を欠損部の修復に使用した。そして…翌日に彼女は姿を消し、彼女の周りの生徒が次々に事故に遭い始める。果たしてこれは猫又の呪いなのか?! その他、東森が部室に保管してある河童のミイラを返せと必死の形相で部室を訪れた女。その女と河童のミイラの意外な正体は…「河童の巻」、人の怨念が腫瘍になって現れると言われる人面疽。その標本が生物部室から盗まれた。その盗難直前に生物部室を訪れていた少女は夜道でその標本を顔に投げつけられ、やがて少女の顔には不気味な腫れ物が…「人面疽の巻」、生物部室に置かれた哺乳類の内蔵の標本とその中から出てきた人の目玉。調査の先に見えてきたのは人と動物の絆の物語だった…「名のない内蔵の巻」など。古くから言い伝えられる正体不明の動物たち。それらの物語を通じて小山田いくが人の心の機微を描く、感動ホラーコミックの決定版!

合歓リポート

合歓リポート

小春日 合歓(こはるび ねむ)は14歳、小さい頃から身体が小さく、臆病な中学生。両親は大気汚染、河川の汚染などの問題が「公害」と呼ばれた時代に育ったが、彼女にとってはそれは既に昔の事、いや、昔の事の筈だった。小学5年生の時、合歓の友達、省二(しょうじ)が新しくできた道路の脇の池で酸を被ったような状態で亡くなっているのが発見された。それから3年が経ち、合歓は今も現場に建つ地蔵に花を手向けるが、当時一緒にいた本田、千香の二人は目の前の事だけに夢中な毎日だ。そんなある日、地蔵に花を供えに行った合歓は、地蔵の顔が醜く変わっていることに恐怖する。同じ時、合歓の前を通り過ぎた女性があの時と同じように死んだ。そして、あらためて現場を訪れた合歓、本田、千香の3人に恐怖が忍び寄る。その他、海に遊びに来た合歓といとこの早苗が、そこで村の男たちの奇妙な行動を目撃して…「死水母」(しくらげ)、肝試しでとある博覧会の跡地に来た合歓たち。そこで彼女たちが見たのは幻か、恐るべき人類の未来か…「枯れた地平を見ぬように」、誤って学校の地下室に閉じ込められた合歓たちが見た遠い日の飢餓の記憶 「フォメ(飢餓)」 など。現代の人類が抱える数々の問題を小山田いくがホラータッチで鋭く切り込む意欲作! 小山田いく先生の当時の単行本コメント『あなたは何か怖いものがありますか? 幽霊…地震…暴力団…テスト…タレントAさんの顔……。何かあるでしょう? 恥ずかしいことじゃありません。怖いものを怖くなくすことで、街は進歩してきたんですから…。だから今、ほんの少し、自分のまわりを見て、怖いと思ってほしいんです。山ほどある怖いことに、気づいてほしいんです。』

アニマルDr.由乃

アニマルDr.由乃

人と心を通わせ、共に生きる動物をコンパニオンアニマルという。人と心を通わせる彼らにも魂はあり、そして魂の有るところには時として不思議な出来事が起きる…。染井由乃(そめいよしの)は黒崎動物病院に勤める新米獣医師。失敗をしながらも病院を訪れる動物たちに日々真剣に接している。ある日、白猫ルリを連れ動物病院に訪れた少年は、まるで少年の方が病気のようだった。そして…不思議な事に少年が体調を崩す前には必ずルリが体調を崩すという。そんなルリを少年は「運命を知らせる猫」と可愛がっていたが、実はルリは重篤な病気を患っていた。由乃の必死の治療に次第に回復の兆候を見せ、退院していったルリだったが、ある日突然ルリが失踪。ルリを探す由乃はやがて不思議な出来事に巻き込まれて行き…。その他、可愛がっていた子犬の突然の死をきっかけに街を徘徊する様になった老女。老女の娘は彼女に同じパビヨンの子犬を与えて落ち着かせようとするが、何故かやがて娘の方がその子犬に怯え出し…「ペットロス」、黒崎動物病院の建物では以前殺人事件が有ったという。そして、以前はこの家の令嬢に飼われていたというキバタンの「ヒメ」は、その事件にまつわる、ある夫婦の悲しい物語を全て見ていた…「語りつづけたヒメ」など。動物と人間の絆を若き獣医師の視点からオカルトタッチを交えて描く、小山田いくのハートウォーミングストーリー第1巻!

衆楽苑

衆楽苑

昭和の時代、上野駅は北の国から東京へ来る人々たちの玄関だった。多くの人々が夢を追い、この駅へ降り立った。そんな上野駅横で昭和3年に創業した大衆食堂「衆楽苑」。創業以来、たくさんの人に愛され続けているのは、和・洋・中、なんでも美味しいメニューを揃えていることもさることながら、そこに働く人の温かさにもあるようだ。今日も人々は様々な想いを胸に衆楽苑を訪れる…。夢を追い、東京へ出て来た長田と鮎川。衆楽苑で食事をした二人は景気づけにとウェイトレスのおばさんから餃子をごちそうしてもらう。2人は3年後にここで再会する事を約束し、おばさんにそれを告げてそれぞれの道を歩き始めるが…。その他、家族を嫌悪し、東京に出て一人暮らしをしていた若者が体を病んではじめて気づく母親の愛情「赤い爪」、頻繁に店を訪れ昔話をする老人。だが、彼の本当の歴史とは…「歴史」、ある石屋がテレビで紹介された事で昔の仲間から連絡を受けるが、それは終戦直後の彼の許し難い経験を思い起こさせるものだった…「雑炊」など。人々が様々な想いを胸に上野駅に降り立った昭和の時代、その上野駅横にある大衆食堂「衆楽苑」で交錯する人間模様を、小山田いくが丁寧に綴るハートウォーミングヒューマンドラマの決定版! 小山田いく先生の当時の単行本コメント『東北・上信越に住む人にとって、上野駅は特別な駅です。上野駅はそれ自体が、故郷と都会をつなぐ大きな待合室なのです。故郷から都会へ、都会から故郷へ、気持ちを切り替えるための、待合室なのです。そんな、様々な心の交錯する上野駅のような食堂を、描きたいと思っています。』

きまぐれ乗車券

きまぐれ乗車券

九城;興生(くじょう おきお)、高校2年生。兄が経営する九城出版で歴史と文化の雑誌、「おのごろ」の雑用係も務めている。ある日、兄に言われて長野に取材に向かった興生だったが、切符を買おうとする興生の前に一人の女の子が急に現れ、強引に一緒に長野行きの切符を買わされる。彼女の名は江馬 環(えま たまき)。あまりに世間知らずで奔放に振る舞う環に振り回されながらも心配でつい世話を焼く興生だったが、どうも環には厄介なお家の事情があるようで、興生もいつの間にかトラブルに巻き込まれてしまう。そんな中、世間知らずながらにしがらみを振り切って一歩を踏み出そうとする環に、興生は彼女の背中を押す事を決意した。そして、そこから二人の旅が始まった…。緻密な鉄道描写も必見! 鉄道での旅を通じて興生と環、そして旅先で出会う人々との心の触れ合いを描いた小山田いくのハートフルストーリー。巻末には当時の単行本には未掲載の「興生と環の20年後」のイラスト&コメントも収録!

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