名無し

同じビッグコミック系列で似たような作品を挙げるならば『夕焼けの詩 三丁目の夕日』だろう。
ノスタルジーの中にハートフルな物語を時にファンタジーも交えて届けてくれる。読む度に、心の体温計は少しだけ上がり、自然と優しい気持ちになる。
利平さんとこのおばあちゃん』もノスタルジーである。しかし、そのバックグラウンドは異なる。
『三丁目の夕日』が高度成長期の街が舞台であるのに対し、こちらは地方の田舎である。しかも主人公は夫に先立たれた老婆。いわばその時代に削ぎ落とされたものたちの物語だ。
老婆に悲壮感はない。むしろ生き生きとしている。それがまた、このバックグラウンドとあいまって読む者に悲哀をもたらす。いかなストーリーを紡ごうとも、根底にある暗さは拭えないからである。
しかし、だからこそ、そのノスタルジーが響くのである。そのハートフルが胸を打つのである。

利平さんとこのおばあちゃんは人が人として生きるための基本的な感情を偽ることなく教えてくれる。
40年前の漫画だが、今の人々にこそ、その教えを伝えてほしい。

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利平さんとこのおばあちゃん
令和の今読み返したい、昭和の優しいおばあちゃん
利平さんとこのおばあちゃん 法月理栄
兎来栄寿
兎来栄寿
「味のある老人を描く」というのは一際困難がある作業です。まだ若い作家であれば自分の実体験に即して描くことができないので、他者への鋭い観察眼または豊かな想像力が必要となってきます。そもそも、マンガの主な購買層である若い読者を想定して主人公も若くしておくことで共感しやすくするのがセオリーとなっているところもあります。 実際、1000万部以上の累計発行部数を誇るメガヒット作品群を見てみても、老人が主人公の作品というのはほとんどありません。島耕作や『蒼天航路』の曹操は物語が進むにつれて歳を重ねましたが、最初から老人を主人公に据えている作品というのはやはりメインストリームではありません。しかも、現在よりももっと男性作家が多かったかつての青年誌というフィールドで老婆が主人公となっている作品は非常に珍しいです。 しかし、私は老人が主人公の作品が大好きです。読書は想像力の翼を広げてくれる行為。自分の人生では味わえないこと・まだ経験していないことを擬似体験させてもらえるのが物語の醍醐味です。老人を主軸に描いた作品は、これから往く道について教えてくれる存在です。派手でキャッチーな面白さはなくとも、含蓄に富み心に響く作品が非常に多いのです。 『利平さんとこのおばあちゃん』でも、主人公のおしげさんが一話完結のお話たちの中で年の功によって多くの若人の良きメンターとなるシーンが幾度も描かれます。おしげさんや周囲の人たちの人情の暖かさが、法月理栄さんの朴訥とした絵柄との相乗効果で胸に優しく沁み渡ります。旦那さんを亡くしても、在りし日の思い出を心の中の宝物として日々を精一杯、笑顔で楽しく生きるおしげさんのようになれたら素敵だなと思います。 だら、だに、ずらなどの方言、茶畑でお茶を栽培をしている様子、また『ゆるキャン△』でも扱われたシッペイ太郎の民話や「清水港の名物は〜♪」と歌われるシーンなどから、静岡の片田舎が舞台であることが察せられます。法月理栄さんは静岡の島田市出身だそうなので、静岡県民の方が読めば私以上に共感できるポイントが多くあるでしょう。 ところで異端な余所者へは風当たりの強さがある一方で、誰かの子供に何かあったら「村の子供」として村人全員で一致団結して助け合う。そんな所には良くも悪くも田舎らしさ・日本人らしさが凝縮されているなとも感じました。それが当たり前であった昭和の時代をありありと感じられる物語を、令和になった今読むのも乙なものです。
りへいさんとこのおばあちゃん
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