日常と恩寵
間断なく続くかにみえる日常生活には実は無数の分節があって常に枝分かれの可能性を秘めている、そのことを知ってしまったがために、今ある現実をあり得たかもしれない(無数にある)もうひとつの現実以上に重くとることを止めてしまった女の子のお話です。このお話には日常生活が崩壊していく恐怖感と、日常生活に対する諦念とが同居しています(なぜって、そのときはたまたま選ばれなかったというだけの道が無数にあるというのに、いま歩いている道をどうして本当の道と言えるのでしょう)。でもそれだけではなく、このお話には恩寵のようなものがひっそりと、でも確かに息づいています。それは例えば、取るに足らないような微か音や感触であり、普段は目にもとめないような光と影であり、それらはとにかくどの道とも無関係にあるいはどの道とも関係をもって日常生活にひっそりと息づいているのです。人はそれを天使といったり神様といったりするのかもしれません。