セブンティドリームズ

子育てと、終活と。 #完結応援

セブンティドリームズ タイム涼介
兎来栄寿
兎来栄寿

今この世界に生きている私たちは、誰しもがとんでもない確率と幸運の上に生きているーー そんな当たり前すぎることを、逆に当たり前すぎるからこそ忘れてしまいがちです。 生まれてきたこと、生きていること。 そのかけがえのなさ。 そして、それを成り立たせてくれている人々。 それは何も直接関わる家族や知人だけではなく、身の回りにある物品やこれまで飲み食いした物ひとつひとつの向こう側にいるそれに携わった人々も。 70歳で初の出産をする『セブンティウイザン』では赤ちゃんであったみらいちゃんは、数々の困難もありながらすくすくと成長し『セブンティドリームズ』開始時点では3歳になり幼稚園に通うようになりました。 子供を育てることの難しさ、大変さ。 その合間に訪れる、言葉にできないほどの嬉しさや幸福。 みらいちゃんを始めとする子供の目線からの思考や言動が非常にリアルで、自分が子供のころの思い出が蘇ってきます。感情をまだうまく処理できない友達との付き合い方の難しさや、何気ない一言が嬉しかったり傷ついたりする様などなど……。 タイム涼介さんが実際にご自身の子育てで経験したこともふんだんに含まれているであろう粒度の高いひとつひとつのエピソードから、知り合いの子供の成長を見ているような、あるいは自分ではしたことのない子育てをしているような気分にさえさせてくれます。モロー反射やラン活といった言葉は、この作品で学びました。 しかし、希望に満ち溢れたみらいに対して朝一たちは否が応でも残された時間の短さを常に意識させられる日々。子育てと終活、あらゆる人にとって他人事ではないふたつの軸が同時並行で語られていくからこそ、私はあらゆる人がこの作品を読む価値があると感じます。 ときに辛い現実も襲いかかります。2人目不妊や、終盤ではコロナ禍という未曾有の事態に陥った世界で生きる子供たちなど、困難なテーマも描かれます。今この作品を描くのであれば、そこから逃げてはいけないだろうという覚悟も感じました。 人は、人に何を伝えて、何を残していくのか。 何を幸せとし、何を喜びとするのか。 前作『セブンティウイザン』から全体を通して、人間が生きる上で大切なことがたくさん描かれている作品です。 先月、完結巻が発売となりましたが最後の5~7巻は紙媒体では発売されず電子限定となってしまっています。見つけにくくなってしまっているのが非常にもったいなく、多くの人に読まれるべき素晴らしい作品です。いつか『セブンティウイザン』同様に実写化などしてより広く知られて欲しいと切に思います。 子供の目線でも読んで感じるところは多いと思いますし、ぜひ親子で読んで語り合ってみても欲しい作品です。

あたしンち SUPER

令和になったあたしンち

あたしンち SUPER けらえいこ
かしこ
かしこ

2021年個人的に一番嬉しかったのは久しぶりにあたしンちの新作単行本が発売されたことです。あたしンちは子供の頃から読んでいて大学卒業くらいの時に休載したんですが、自分のお金で単行本を買うようになってからは、年一回の発売日がちょうど誕生日に近かったので自分へのプレゼントとして買っていたんです。なので休載が本当に悲しくて、空白の6年が体感として10年に感じるくらい長かったです。それからのAERAでの連載復活のニュース、そして今年になっての単行本化はとっっっても嬉しかったです。しかもその発売日がちょうど私の30歳の誕生日だったので、まるでタチバナ家のみなさんに祝福されているかのような気持ちになりました。 待っている間はあんなに長かったのに、新刊を読んだら「お久しぶり感」がゼロでした。あたしンちの世界もコロナ禍になっていて、お母さんはAmazonで買い物してるし、お父さんはUber eatsを使おうとしてるし、しっかり現代にアップデートされてるのに、いつもと同じタチバナ家の日常にするっと入り込める。こんなに自然な続編を私は他に知りません!でもこれはいつも「当たり前の日常」を汲み取って形にしてきたけらえいこ先生だからこそ成せる技だと思います。これからはいつもの面白さにプラスしてあたしンちの絶妙な進化も楽しめるなんて最高です!!

千歳ヲチコチ

主人公の名前はチコちゃん

千歳ヲチコチ D・キッサン
ゆゆゆ
ゆゆゆ

平安時代を舞台にした、日常系の漫画です。 平安時代なのに日常とは‥と書いていて思いましたが、ほのぼのまったりしています。 当時からするとちょっと変わった性格の女の子が、お友達あてに出した手紙が、お友達宛に届いていなかったところからストーリーは始まります。 届いてないからと言って大騒ぎするでもなく、「なくなっちゃったのかね、仕方ないね」くらいのノリなのがびっくりです。 他人の手紙を勝手に読んだ男が、「勝手に読んじゃってごめんね」と返事を書くことにもびっくりです。 物語はこの女性側と男性側で分かれて進んでいきます。 Amazonのレビューでは、歴史好きな方々が服装がちゃんとしていると褒めていたり。 ちらと出てきたカードゲームを調べてみたら「偏継」という詳細は不明となってしまった、当時の漢字当て?ゲームだったり。 お姫様は走ったりするのははしたなく思われており、膝立ちで歩いていた話が載っていたり。 勉強になるし、おもしろいし、いやはや凄いなぁと思ってしまいました。 歴史ものは、歴史の転換点など激動さが漫画になりやすいですが、本作のようにほのぼの系もいいですね。

まほろば小町ハルヒノさん

「奈良マジエモい部」、私も入りたい #1巻応援

まほろば小町ハルヒノさん ユウキレイ
兎来栄寿
兎来栄寿

現住所は東京ですが、魂は奈良県民なので全力で推したい作品がこちら。 「倭まほろば郷土研究部」、通称「奈良マジエモい部」の活動を通して、奈良の歴史や現在の見どころ、名産やグルメなどを楽しく知ることのできる4コママンガです。 ヒロインの春日大社の神鹿が化けた姿であるハルヒノさんは、ウマ娘ならぬシカ娘といった風情(不敬)。普通の人には人間にしか見えないハルヒノさんですが、東京から転校シてきた主人公の中西ちあきくんにだけは本来の姿に見えてしまうところからふたりの少し特別な関係性も始まりほんのりほんのり進展していきます。 最初は基本を押さえて奈良公園や東大寺などの超有名どころから始まりつつ、ならまちミジンコブンコのスパイスカレーなど近年人気のスポットも登場。 「斑鳩、明日香、吉野もお薦めだぞ」 と、私の故郷である吉野を推してくれるハルヒノさん、推せます。 十津川の谷瀬の吊り橋は高さ54mで全長は300m近く風の強い日には渡るのもかなり怖いですがDQウォークでもランドマークに指定されたところで迫力満点ですし、1巻後半でフィーチャーされる洞川は街全体が昔ながらの温泉街の独特の雰囲気が強く漂っていて素晴らしいですし、作中で描かれる面不動鍾乳洞はRPGのダンジョンのような風情もあってライトアップは綺麗ですし何よりそこに辿り着くために乗るトロッコが非日常感満載で楽しいところなので、ぜひ一度観光に行ってみて欲しいですね(饒舌早口)。 4コママンガですが、1ページまるまる使ったワイドタイプであり背景がかなり精緻なので、舞台探訪欲を掻き立てられます。実際に現地に行ってみたら、ほぼ同じ景色が広がっているので感動することでしょう。 1300年の歴史を身をもって知るハルヒノさんがガイドしてくれる奈良紀行は、とても豊かで楽しい学びです。逆に、そんなハルヒノさんが現代文化に触れるときのギャップの面白さも良い感じで描かれています。 魂が奈良県にある方には問答無用で、そうでない一般の方にも日本の歴史や文化が詰まった作品として推せますし、また奈良に旅行に行く際にはお供として携えていって欲しい作品です。 なお、単行本巻末にはおまけとしてかわいさマシマシなハルヒノさんらの初期デザイン案が載っていますが、個人的には現行のカッコよ美しさマシマシなハルヒノさんがより好きです。

彼女のエレジー

美形シュールギャグの新星 #1巻応援

彼女のエレジー 遊園地迷子
兎来栄寿
兎来栄寿

漫画家の中でも、ギャグ漫画家というのは一際大変であろうと思います。読者を笑わせることのできるギャグをコンスタントに生み出し続けるということの、どれだけ大変なことか。作品を連載していく中で「笑いとは何か」、「面白いとは何か」という正解のない根源的な問に立ち向かい続けねばなりません。 そんな問に悩み悶え苦しむのが、本作の主人公・江萌井哀花(えもいあいか)です。才色兼備の美少女で両親も官僚というスーパーお嬢様ですが、 "‥‥どうして人は金玉という言葉をつくったの?" "私ならきっと安易に「ちん玉」と名付けてた‥ 悔しい‥そこで「金」を出せなきゃプロにはなれない‥‥" と真面目に悩み、ギャグ漫画家を目指している異色の少女です。 学校一面白いとされている田中さんら他のキャラクターたちとの絡みも通しながら、ときに下ネタや変顔などパワー系も交えたギャグをガンガン繰り出していきます。基本的に哀花はお嬢様なので一定の品格はベースとして存在しながらもそこからどんどん崩れていくギャップや、さまざまなツッコミどころ、特異なシチュエーションの面白さなどが病み付きになります。 木村龍介さん名義で描かれていた「【読み切り】青春、失格。」の頃から類稀なるシュールギャグのセンスが好きでしたが、その更に前の「話にならない恋の話」のときから比べても短期間で画力もグッと上がり、哀花のキャラクター単体でも成立するほど外見も中身も魅力的です。 最初に『天才バカボン』を抱えているように、歴代のギャグマンガへのリスペクトを感じる部分も好きです。 『パタリロ』、『B.B.Joker』、『坂本ですが?』、『ふうらい姉妹』、『あそびあそばせ』など、美しいキャラが狂ったギャグを見せる作品が好きな方には強く推薦します。

限界ダンジョンの繁殖事情

ダンジョン復活のためにモンスターを増やす

限界ダンジョンの繁殖事情 文屋リヱ
ゆゆゆ
ゆゆゆ

まさか、ダンジョンのモンスターは生成ではなく、繁殖で増えていたなんて。 勇者たちに倒されすぎて、モンスターが減りすぎ、あっという間にボス居所へたどり着かれてしまうことになってしまった、ダンジョンの主エギン。 エギン自体は勇者たちをかるがるやっつけられるほどのパワーを持つようですが、ボスエリアに来た勇者たちを待ち構えるため、サービスで固い玉座に座って待つお仕事をしていたら、戦う気も起きないほど非常に困った腰痛に‥ 副官に叱咤され仕方なく、「モンスターを増やして、勇者たちをなかなかボスエリアまで来られなくし、ダンジョンを復活させよう(そして腰を癒そう)」という導入です。 繁殖が進まないモンスターたちのために、ダンジョンの主自ら、モンスターたちの不可思議な性癖や不満を解消してあげます。 モンスターを増やして腰も癒したい、それだけなのに一筋縄ではいきません。 第一話のスライムを繁殖させようとしている様子をみていると、こちらの世界で絶滅危惧種の動物を保護している施設での繁殖事情を聞いたときの気持ちを思い出しました。 増やすって、大変です。 その視点はなかったなあと思いながら、おもしろく読んでいます。

殺っちゃえ!! 宇喜多さん

こういう強さも、ある #1巻応援

殺っちゃえ!! 宇喜多さん 重野なおき
兎来栄寿
兎来栄寿

松永久秀、斎藤道三と並び戦国三大梟雄と称される宇喜多直家を描いた戦国4コママンガです。 かわいらしい絵ながら、内容はしっかりとしていることに定評のある重野なおきさん。「梟雄」と呼ばれた男の激烈な生き様を、多分にギャグも交えながらもシリアスに描いていきます。普通に劇画で描かれるとエグい内容になりそうなところですが、重野さんの絵だからこそ重くなりすぎません。ただ、戦国時代の凄惨さもしっかりと感じさせてくれる絶妙なバランスです。 なお、作者自身の注釈がありますが「宇喜多直家については『備前軍記』という軍記物が元となっており真偽不明の部分も多いのであくまで物語として楽しんでください」とのこと。実際、他の戦国三大梟雄についても近年の研究によればそこまで残忍でもなかったということが明らかになってきているそうです。歴史の授業で習うことも少しずつ変わっていきますし、その辺りも逆に醍醐味ですね。 ダメ人間である興家と、豪傑な母親の間に生まれた直家の人生は、大きな没落から始まります。そこから這い上がっていく様は、まさに下剋上のお手本でありドラマチックです。 後に彼と激しく鎬を削ることになる浦上宗景は、「酒宴大好き!宗景さん」というサブタイトルのスピンオフを出してもいいくらいのウェイ感全開面白パリピ兄ちゃん。しかしそんな表の顔の下に、たまに鋭く強かな眼光が宿るいいキャラとなっています。 祖父の仇敵と絶妙な距離感を保ったり、妻の父親を殺す命を受けたりと乱世らしい選択を迫られることの連続の中で少しずつ成長していく直家は、立派で魅力的な主人公です。一風変わった節約術など、治世部分にも面白さが色々とあります。 普通の歴史ものが苦手な人でも、少し違った毛色で楽しめるかもしれません。