今日はカノジョがいないから

浮気はあたしのせいじゃないし #1巻応援

今日はカノジョがいないから 岩見樹代子
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

同級生の彼女がいながら、別の女子に誘惑される女子が主人公の本作。実は1話冒頭に、こんなモノローグがあります。 「だってあの時 君が可愛いって言ってくれれば きっとあたし悪いことしなかったのにね」 ……悪いことするんですね笑 どうやら「悪いこと」に向かって進んでいくようですが、どの様に悪いことに向かって進んでいくのか、誰がどう悪くて、どういう言い訳をするのか……あえて最初に先行き(ネタバレ?)を提示することで、却って内実が気になって仕方ない。下世話なスポーツ紙の「〇〇不倫発覚/か!?」というアオリの様な、強い誘引力(/は新聞の折り目ね)。 そして面白いのは、彼女持ちの主人公を誘惑する「二番目でいいよ」と言う女子。 この子の言い寄り方が巧みで、思わず「浮気するのもしょうがないな!」と感じてしまう程。突然至近距離に近寄り、恋愛可能性とメリットを提示し、駆け引き、取り引き、責任転嫁と、この1巻だけで恋愛心理テクニックの指南書になりそうなくらい。 テクニカルに見えるということは、そこにあるのはやはり、かなり下衆なものだという事。治安の悪い百合、確かに拝領しました!

恋愛ショートアンソロジーコミック

アンソロジー収録作品・作家一覧

恋愛ショートアンソロジーコミック COMICBRIDGE編集部
名無し

▼第1弾【たとえばこんな恋愛様式】 杉田圭「しゃらくさいふたり」 くまぞう「井上くんは今日も変」 ねじがなめた「彼女の素顔」 多喜ざわゆき「二人のための二重奏」 月吉「本能マッチング」 小沢かな「Uninstall」 小鳥遊ゆりか「ハル、キタレリ」 シモダアサミ「つながりたい私たち」 月野まる「ほんかわなふたり」 ぴらにあ。「沼」 のりお「SSRなキミ」 泥川恵「リモートレターズ」 可惜夜季央「恋待ち教習所」 屋乃啓人「推しが思い出になる前に」 ミイコ「スキンシップのリズム」 神山あんず「ゼロ距離別居」 愛内あいる「わたしとちょっと怖い先輩の話」 森乃あち「この恋、美味しくいただきます」 ふじさきやちよ「きっかけは少しの勇気」 源一実「彼と彼女のテレワーク」 夏江ユウ「癒しのマスク王子くん」 水島ライカ「小さい世界」 栗崎三号「思い過ごしも恋のうち」 あららぎ菜名「キミと僕の式」 深田華央「恋を呼ぶ花」 https://natalie.mu/comic/news/447080   ▼第2弾【好きになったらだめな人】 平原明「真昼のスケッチ」 ぴらにあ。「悪意なく、咲く。」 瀬川環「死にたいくらい、好きだった」 栗崎三号「夢で逢えたら」 月吉「痛い恋、痛くない恋」 シモダアサミ「2年目のセフレ」 水島ライカ「叔父さんの喜ぶこと」 多喜ざわゆき「大丈夫じゃない恋」 https://natalie.mu/comic/news/459350

合格のための! やさしい三角関係入門

恋愛を〈疑う〉先にある絆(マンガプレゼン大会2021補遺)

合格のための! やさしい三角関係入門 缶乃
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

2021年12月18日、マンガプレゼン大会に出場しました。ご視聴くださった方、ありがとうございました!まだご覧でない方は、下記リンクよりアーカイブをご覧下さい。 https://youtu.be/Os8KS2MmJHw 私の今回のプレゼンは『合格のための! やさしい三角関係入門』について。女子ばかりの困難な三角関係と、その中の一人の辛い恋愛感情にフォーカスを当てて紹介しました。ここからは、その内容に二つの言葉……恋愛の常識だけ捉えていると見落としがちな視点を添える試みをします。 ★★★★★ 主人公の受験生・真幸の家庭教師・凛は「一人の特別を選べない人」と紹介しました。どうしても複数の人を愛してしまう彼女が指向する恋愛感情・恋愛スタイルには、実は名前があります。 それは「ポリアモリー」と言います。 (引用※1) きのコさん: ポリアモリーは、複数人と同時に関係を持つことが大きな特徴なので、「浮気を肯定している」と言われてしまうことも多いんですけど…それは違うんです。 浮気や不倫のように、パートナーに隠して他の人と関係をつくるわけではなく、全員から合意を得たうえで、複数人と交際をすることを大切にしています。 「本命」や「浮気相手」という優劣もありません。 (引用終わり) 二人の大切な人を失いたくない凛がもし、このような関係を築ければ、それはこの上ない幸せなのかもしれません。しかしそれがとても困難であることは、作中でも描かれます。 何よりも恋愛対象者が、ポリアモリー関係性を拒否すれば、関係は結ばれません。凛が大切に想う一人・親友のあきらは、特別な「一人」との恋愛を夢見る人。また凛は過去に、別の三人組のうちの一人に「私だけを特別に想って」(引用※2)と求愛され、三人組を壊すのを恐れて断った事がある。 他にもポリアモリーの実践には、当事者間にも社会的にも、いくつか困難がある。しかしポリアモリーが (引用※3)「自分自身の愛のあり方について大切な相手に対して包み隠さず正直である」「付き合っているパートナーが、自分が複数人と付き合うことに対して否定的になった際は、そのたびに話し合いを重ね、どうして行くべきか考えていく」(引用終わり) という誠実さを持つ限りにおいて、ふしだらとか人の道を外れているといった誹りからは遠い場所にいるのではないでしょうか。 この「ポリアモリー」という道は、誰よりも目の前の人に誠実な凛にこそ、開かれた道かもしれませ。なにしろ彼女は、関係を継続させるために目の前の人に嘘をつく事は一切しないのです。 ★★★★★ さて、プレゼンにおいて私は、三角関係の中で三人が相手に向ける感情を一つ一つ明らかにしましたが、そこで分かるのは「一つとして同じ感情が無い」という事です。 尊敬・憧れ、強い信頼、理解者への寄りかかりといった精神的な強度を持つ感情がある一方で、キスの肉欲や一目惚れといった本能的な衝動もある。そして彼女達としては、どれも蔑ろにはできない。 一般的に誰かとお付き合いを始める時、そこに恋があるとされる。でもその「恋」とはなんだろうと思うと、途端に不安になる。相手と私の恋は、同じ感情だろうか?同じ強度を持つだろうか?……相手を疑い始め、疲弊するうち次第に自分の心すら分からなくなってゆく。 そして己の恋を実際に分解してみると、確かに強い想いは存在するけれども、それがいつ恋になったか?これが本当に恋なのか?一緒にある肉欲は恋なのか?と分からなくなる。 真幸・あきら・凛それぞれの想いも、確かに強い。でもその中には、恋には見えない物もある。しかしそれも恋かもしれない。もしくは恋と同じくらい強い気持ちかもしれない。いや、そもそも恋である必要があるのか? 相手が大切で、何かしてあげたいと思うのなら、それだけで尊いじゃないか! 「クワロマンティック」というアイデンティティがあります。 ときに「自分の感情が、愛情か友情か分からない人」という(やや雑な?)紹介をされるこの言葉。社会学研究者でクワロマンティック当事者でもある中村香住氏は『クワロマンティック宣言』(※4)の中で、そもそもこの語が (引用※4)「恋愛の指向」や「恋愛的魅力」といった言葉が意味をなさない(引用終わり) と当事者が感じたところから生み出された、と解説します。つまり自分が相手を想う感情が恋愛かどうかについて、尺度もなければ実感もないので、「恋愛」というカテゴライズ自体を拒否する。そして恋愛以外の感情で、一人一人と親密に、それぞれに独特な関係を構築する。この様な「恋愛に振り回されない」親密圏の在り方は(たとえ「クワロマンティック」の傾向を持たなくても)恋愛に疲れた人には魅力的に映るのではないでしょうか。 『クワロマンティック宣言』の中で中村氏は (引用※4)数少ない「恋愛」経験を通して、私には「恋愛」そのものが向いていない、というか「やりたいと思えない」と感じるようになった。たとえば、そもそも日本の「恋愛」規範には、契約としての「付き合う」と「別れる」がある。始まりがあれば終わりがあるという発想がある。それは本当に窮屈なものに私には思えた。それから「恋愛」をしていれば「独占欲」やそれに基づく「嫉妬心」があるに違いないという前提が、私にはとても辛かった。(引用終わり) という告白をする。ここで書かれる疲労感というか、絶望感は、『合格のための! やさしい三角関係入門』においてポリアモリー的感情を抱くために人一倍他人との関係維持に苦しみ、挙句人間関係そのものを諦めてしまった、凛という人の苦悩の描写とどこか重なるのです。 凛という人は必ずしも「恋愛」だけで人と繋がりたいとは思っていない……ように描写される。プレゼンでも引用した『おばあちゃんになるまで三人で…いたかったよ…』(引用※5)というセリフには、情熱的な恋愛というよりは、安心感を得られる穏やかな関係性のニュアンスが感じられます。 しかし、そんな凛が求める繋がりは、関係性の中の誰かが抱いた「恋愛」によって、壊されていくのです……少し「恋愛」が憎らしくさえ感じられますね。 ★★★★★ 『合格のための! やさしい三角関係入門』は2巻しかない小品ではありますが、そこに込められた問題意識は、恋愛観の常識を揺さぶります。 まず「恋愛」は一対一でなくてはならないのか?という事。そして「恋愛」って特別視される割にそれに囚われると辛いばかりだし、他の大切にしたい感情とどれほど差異があるの?という事。 人との繋がりで喜びを得たい筈が、思いもよらない苦しみしか得られなかったりする私たち。そこから逃れるためには、何が必要なのか……本作の斬新な関係が構築される場所で、三人が(特に主人公の真幸が)何を願ったかを読み取ると、恋愛の一歩先にある「強い絆に必要なもの」が見えてくると思います。 ----- 引用 ※1 新R25「結婚しても、1人だけを愛することができなかった」複数人を愛するポリアモリーの恋愛観 https://r25.jp/article/868648564036327116?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=share_on_site&utm_content=pc ※2 『合格のための! やさしい三角関係入門』1巻p72 ※3 Job Rainbow MAGAZINE「ポリアモリーとは?【日本の現状を実践者が解説】」 ライター: Ricke https://jobrainbow.jp/magazine/whatispoliamory ※4 『現代思想 2021 vol.49-10』青土社 ※5 『合格のための! やさしい三角関係入門』 1巻p157 また『現代思想 2021 vol.49-10 特集〈恋愛〉の現在』より、特にポリアモリーについては『ポリアモリーという性愛と文化』(深海菊絵)、クワロマンティックについては『クワロマンティック宣言』(中村香住)より、概念の成立過程から社会における実践まで様々な知見を得、作品の読みを深めることができました。

来陽と青梅

「中学時代」と書いて「地獄」と読む。最悪すぎて最高なジュブナイル・ストーリー

来陽と青梅 深山はな
たか
たか

2021年12月、半年ほど前に知り合いからおすすめされたものの積んでいた『来陽と青梅』をついに読みました。ヤバすぎますねこれは……!なんでこんなに知名度ないのか不思議。ある意味『チ。』ばりにエグくてぶっ刺さる話だからもっと話題になっていいはずなのに。 狭い世界。 未熟な男女交際。 男に媚びて友達を陥れる一人称が名前のクソ女。 シンプルに頭が悪い同級生。 陰口。 同調圧力。 とにかく中学生の最悪なところが全部ブチ込まれています。 私は中学時代「ねぇ〜たかは好きな人いる〜?⤴️」と恋愛体質の女子に絡まれて死ぬほどつまらない恋バナに巻き込まれるのがだ〜〜いっ嫌いだったので、「あはは…今は好きな人いないかな〜」と愛想笑いで流しながら 「なぜ常に好きな人がいる前提で聞いてくるのか」 「仮にいたとして、おめーに話したら確実に次の日には学年の無数の女子にバレるのにそんなリスク犯すわけねえじゃん」 「そもそも対して仲良くもねえお前にそんな大事な情報話すわけねーべ馬鹿か?」 と内心罵詈雑言を浴びせかけつつ、全力で恋バナを回避する努力していました。 本当に仲のいい友達には話しても良かったかも知れませんが、その当時読んだ小説で読んだ「誰が1人に秘密を言うことは世界中に向かって言うのと同じだ」という言葉を噛み締め、『身の安全』には充分気をつけて学生生活を送っていました。 だからこそこの漫画はゲボ吐きそうなくらいしんどい。 自分もほんのすこし何かが違ったら、主人公と同じこの地獄にいたかも知れない……。 「存在しない中学時代の記憶」を眺めているかのようなおぞましさがこの作品の魅力だと思います。 中学時代に味わわされた嫌〜な気持ちがブワーーッと全部まとめて甦ってくる最悪すぎて最高なジュブナイルストーリーです。メンタル元気な時にぜひ……!