にゃーの恩返し

かわいく美味しくもどかしく #1巻応援

にゃーの恩返し 山崎紗也夏
兎来栄寿
兎来栄寿

『シマシマ』、『サイレーン』、『はるか17』などでお馴染みの山崎紗也夏さんが描く、「猫」×「グルメ」×「恋愛」という美味しいものをたっぷり詰め込んだお子様ランチのようなマンガです。 雨の中、怪我をしている猫のミケを助けたことで知り合ったシュウとアヤ。ふたりは何やかんやで同棲するようになったものの、シュウは親の不動産業の手伝いをしており、アヤは看護師で夜勤もあり生活時間帯が異なり少しすれ違う日々。 しかし、それを埋めてくれるのが毎週火曜日にミケが恩返しで人間の姿になって作ってくれる美味しいご飯。シュウもアヤも、まさかミケが作っているとは思わずお互いに料理が上手だなと勘違いしながら食べていく様子が面白いです。 ミケは、毎回共用財布から持ち出した1000円札1枚くらいを使ってスーパーで買い物をし、その日のお得な食材を調達して料理をするので登場するレシピは日常手にできるものばかりで、作ろうと思えば作れそうなものばかりです。作中でも卵1パック220円で買っていましたが、ようやく卵の値段が下がってきて一安心している庶民としては、安心するメニュー。野菜もたっぷり使われていて健康的なので、読んでいて作ってみたくなるものも多いです。コンソメスープに油揚げを入れるのは今度確実にやります。 生活時間がズレているふたりなので個別に食べるのですが、面白いのは後に食べるアヤはいつも残り物を少しアレンジして食べるところ。調味料を少し加えて味変したり、パンやうどんを追加したり。それに対してミケが「ご自由にどうぞ」と優しく見守ってくれているのが癒されます。 猫とご飯部分はひたすら癒されつつお腹が空くのですが、シュウとアヤのふたりの煮え切らない関係性は読んでいてもだもだし、作中のミケの気持ちに同調します。 本編のミケのモデルとなっている山崎さんが飼っている保護猫を描いた巻末のおまけマンガは、我が家の保護ポメも似たような所があり笑ってしまいました。我が家のポメも不在時に美人になってご飯を作ってくれたらなぁ。

ダンジョン飯

『ダンジョン飯』最終巻、丸ごと一冊哲学者だった

ダンジョン飯 九井諒子
mampuku
mampuku

自由にいきるとは何か 欲望とは何か 社会で暮らしていくとはどういうことか 善悪とは何か 食べるとはどういうことか 現実世界を遥かに凌ぐ多様な人種、生物種、民族、価値観が絡まり合いながら各々がそれぞれの“明日”と向き合っていく。 猫のように気ままに振る舞ってきた獣人のイヅツミはいざ自由な地上に放り出されたことで、本当の自由とは何かという問いに直面する。 そんな戸惑う彼女にマルシルは、嫌いな野菜も我慢して食べ、よく運動し、健康で長生きしてほしいと懇願する。すなわち、自由とは何かという深遠なる問いに対する一つの手がかりとして、「健康に生き続けること」こそが自由を叶える方法なのだと一つの“道”を提示したではなかろうか。 というか自由とか欲望とか語りだすと収集がつかなくなるので簡潔にまとめると、たとえファンタジー世界であろうと変な奴らばっかであろうと、飯を食うという普遍かつ不可避な事象の前ではその人なりの哲学や生き様が現れる。人は思考や欲求によって食事をし、食事によって作られた体、食事によって生きながらえた生がまた新たな思考や欲求を生むのだ。

ダンピアのおいしい冒険

未知を既知にするのは何時だって機知に富んだ無知な奴ら

ダンピアのおいしい冒険 トマトスープ
ピサ朗
ピサ朗

17世紀の海賊の航海日誌を膨らませた「事実を基にしたフィクション」の伝記漫画なのだが、とても素晴らしい。 昔の学習漫画のようなシンプル絵柄だが、当時の海賊という事情からも病気や戦闘などのともすればグロテスクな部分も読みやすく、またダンピアも実年齢より若々しく感情移入がしやすいし、異常なまでの参考資料から読み取ったであろう先住民や欧州、東南アジアなど各々の文化を、しっかり漫画に落とし込み、題材となった人物をしっかり主人公として魅力的に描くのは相当な筆力を感じる。 英国生まれの青年ダンピアは、貧困と教育を軽んじる当時の価値観から大学に通えず、紆余曲折の果て、はみ出し者だらけの海賊船に流れ着いた、当初は悲観していたが、誰も知らない事の発見者になれる喜びを噛みしめ、未だ未知なる事に溢れた太平洋の冒険に胸を躍らせる。 当時航海も盛んになっていたとはいえ、人々にとっては日々を生きるのが精一杯というのは珍しくもないだろうし、ダンピアのような青年はきっと多かっただろうけど、どんな状況にあろうと好奇心と探求心に満ち溢れ、恐れず行動し、海賊というヤクザ稼業をすらチャンスとして学ぶダンピアが実に魅力的。 「おいしい冒険」の名の通り、食事に関する描写が豊富だが、当時誰も食べたことの無い未知の食材を調理するその風景は、その航路からも正に「先駆者であることの歓喜と偉大さ」を訴えかけてくる。 しかし食事だけでなく、授業料の無いフィールドワーク、税金にせよ犯罪にせよ許され、実力勝負故に人種差別の薄い海賊という職業、それらもひっくるめてのダンピアの「おいしい冒険」であるのも面白い。 危険に溢れた海賊稼業が「おいしい」と言えるかは人によるだろうけど、職業選択の自由もない時代で、海賊以上に劣悪な環境の海軍の事情なども併せて語っているのでダンピア達にとっては正においしい冒険だったのだというのが伝わってくる。 教科書には載らなくとも歴史を彩る偉人の生涯を実に魅力的に描いていて、とても良い読後感を得られる名作。

お茶の間スイーツガーデン

抑圧されてきたふたりの同盟 #1巻応援

お茶の間スイーツガーデン 佐倉イサミ
兎来栄寿
兎来栄寿

表紙とタイトルからは明るいイメージを抱かれそうですが、蓋を開けてみるとそこそこ闇もある作品です。 『もふっとキャンプ』や『春風ふるさと観光協会』の佐倉イサミさんが新たに描くのは、人生を抑圧されてきた瀧口さんちのサトちゃんと、矢北さんちのスゥちゃんのふたりが作るスイーツ同盟の物語。 サトちゃんは、父親からも母親からも結婚した夫からも自分が本当にやりたいことを許してもらえず我慢して我慢して生きてきて、気付いたらもう人生の終盤になってしまった女性。 本当はかわいいお菓子やケーキを思う存分食べたかった。 本当はみんながしているようなオシャレな服を着て過ごしたかった。 そんなささやかな願いすら叶えることができず老いてしまい、夫を亡くしてようやく独りで好きなことができるようになったサトちゃんが初めての感動を得るシーンには感じ入ってしまいます。 一方のスゥちゃんは、TVに出ている出演者を「低学歴だ」「バカはろくな人生を歩まないから勉強して他者より秀でた人間になりなさい」とのたまう父親の存在によって、友人たちとの遊びも断らざるを得ず猛勉強を強いられている難関校に通う私立中学生。そんな日々の鬱憤を晴らすある行動を日常的にするようになっています。 年齢は大きく違えど、ふたりとも違う形で抑圧を受けそれぞれに性格に歪みを抱えています。そんな自分に嫌気がさしているふたりだからこそ共有できる辛苦があり、楽しみがあります。毎回お菓子作りやできたものの実食を通して結びつくふたりの姿に心のカドが取れてまるくなるようです。4話の、サトちゃんがある失敗をしてしまうお話などは特に好きです。 お菓子作りの際は詳細なレシピも添えられるので、自分でも作ってみたくなります。 ただのスイーツグルメマンガだと思って手に取るとビターな味わいにびっくりするかもしれませんが、カカオ86%のチョコレートのような絶妙な苦味を堪能してください。

鉄鍋のジャン

勝つための料理を追求した男ジャン

鉄鍋のジャン 西条真二 おやまけいこ
六文銭
六文銭

もう28年前?の漫画のようですが、めっちゃ面白かった。 タイトルに記載したとおり、当時のグルメ漫画って『美味しんぼ』や『中華一番!』など、より美味しいものを競ったりや食べる相手を満足させるための要素が強かったと思うのですが、本作はそれらとは一線を画す。 中華料理界において偉大だった祖父の教えを叩き込まれ、とにかく料理とは勝負で、彼が追求するのは勝つための料理。 美味しいとかではなく、勝つためなら何でもするということ。 ここが他の料理漫画とは違う。 最初のうちこそ、祖父のライバルだった男の店「五番町飯店」へ修行にいき、祖父から仕込まれた料理の腕を発揮して、他の料理人を圧倒したり、時に挫折したり、といったオーソドックスな少年漫画的な展開なのですが・・・・ 1巻からすでに、マジックマッシュルームを使って審査員を撹乱させるようなこともはじめていきます。 他にも上げればキリがないのですが、特に最高なのが、若手料理人選手権大会の予選課題「チャーハン」の回の時。 火力がほしいからとガス管潰して自分のところに集中させたり、あげくスプリンクラーをまわして他の料理人のチャーハンを水浸しにするんです。(自分はラップまいて、さっさとその場から逃げる) 基本的に上記であげた料理漫画で出てきたら 「絶対悪役だったろ!」 と言わんばかりの悪行がでてきます・ 料理マンガのダークヒーロー的な存在。 顔つきもドンドン悪くなっていく(気がする) 料理=幸福を与えるもの というのが、ある意味定説になっていただけに、勝つためなら何でもする、主人公の潔さが斬新な作品でした。

ヤンキー君と科学ごはん

けだるい化学教師&弟妹思いヤンキーの化学で学ぶ優しいお料理マンガ!

ヤンキー君と科学ごはん 岡叶
天沢聖司
天沢聖司

これは全人類待望の料理漫画なんじゃ…!?学生が200%言っちゃう「こんなの勉強してなんの役に立つんだよ」を真正面から受け止め優しく教えてくれる素敵なお料理化学マンガでした! メインキャラクターは… ・1人で弟妹の面倒を見てて今すぐにでも働きたいヤンキー・千秋 ・生徒からちゃん付けで呼ばれるタイプの気怠げな化学教師・蘭 の2人。 もうこの設定だけでイイ…! いちおう職務意識はあるので「学校でピザ頼むならもっと上手くやれ〜。あと俺にも分けて」というユル〜い注意になる。一番好きなタイプの先生…! 人当たりがふわっとしてるのでツンツンな千秋との相性もよく、基本ダルいので説教臭さが全然ない。 「なぜオムライスの卵には牛乳をいれるのか」 「なぜ卵はフライパンにくっつくのか」 という普段スルーしがちな料理にまつわる疑問が丁寧に紐解かれ勉強になるし、「人に作ってもらったご飯を食べる」「一緒にご飯囲む」という優しい世界にも触れることができる。最強の料理マンガでは…!? 絵うっま話おもろ!と思ったら『デイズ・オン・フェス』の方だったんですね。なるほど(納得) 早くもつづきがメチャクチャ楽しみです!