凹村戦争

読んだひとだけが闘える世界で 

凹村戦争 西島大介
野愛
野愛

閉塞感を打ち破る何かが欲しい。火星人でも魔法でもなんでもいいから、ここをぶち壊してどこかに行きたい。 外界から隔離された凹村という小さな村。少年少女たちはどこにも行く場所がないと嘆いたり、ここが世界のすべてだと目を伏せていたり、閉塞感に包まれながらも平和な日常を過ごしている。 ある日、物体Xが落下する。 何も変わらないと思っていた世界に、非日常がやってきたらどうする? 宇宙人が侵略してきたら、窓からテロリストがやってきたら、異世界に転生したら。 平和すぎてつまらない日常を変えたくて、ありもしないことを夢想する。起こり得ないと思っているから、誰もが一度は通り過ぎる妄想。 本当に起こったら、どうする?逃げる? わたしは闘う?見て見ぬふりをする?撃ち落とす? 闘う妄想はしていても実際は体が動かないかもしれない。恐怖すら感じず、人ごとのように過ぎ去るのを待つかもしれない。 だって、そんなことあるわけないんだから。 凹村ほど閉ざされてないにしろ、何もない、絵に描いたようなくそド田舎で育った。 日常に疑問すら持たない周囲の人間に辟易しながら、カラオケとかセックスとかお手頃な娯楽を消費する青春を送っていた。 凹村みたいに閉ざされた空間で、インターネットだけが世界だと思っていた。 そんな青春から逃れていつの間にか大人になっていた。 ところで。 どこか新しい場所へたどり着けた? 物体Xが落下したらどうする? 火星人が侵略してきたらどうする? 西島大介先生が描いてみせた答えは、実にクールだ。 クライマックスの怒涛の畳み掛けがもの凄い。滅茶苦茶じゃねえか、投げっぱなしじゃねえかと思う人も少なからずいるのではないか。絶望的だと思う人もおそらくいるだろう。 わたしが見たのは希望だった。 確かな闘い方を、ひとつ教えてもらった。 この世界はつまらないしちっぽけだ、それなのに見えてない部分や知らない部分が多すぎる。何もないように生きることだって、難しい。最悪で滅茶苦茶で容赦のない世界で、わたしたちはは生きるしかないのだ。 ならば。この方法で闘おうじゃないか。 パルプンテなんて待ち望んでる暇があったら、読みましょう。そして、世界と闘おう。 最後まで読んだらきっと、闘えるはず。

私の保健室へおいで…

人が持つ、しなやかな強さ

私の保健室へおいで… 清原なつの
pennzou
pennzou

『私の保健室へおいで…』は2002年にハヤカワ文庫JAレーベルにて発行された作品集だ。収録作品は81年〜90年作までと年代で見れば幅広いが、版元の紹介文に「スタイリッシュなラヴロマン」と謳われている通り、全作に恋愛要素を含んだ統一感のあるラインナップである。 こう書くと、恋愛最中の高揚感であるとかシャープな駆け引きみたいなのを想像されるかもしれないが、清原先生の作品ではもっと引いた視点から恋愛が描かれる。それが清原なつのシグネイチャーとしか言いようのない個性をマンガに宿している。 清原先生は、思い込みや呪縛などによって凝り固まってしまった心がフッと解きほぐされる瞬間を描く。 そういった人が持つしなやかな強さに触れた時、自分の心も軽やかになった気分になる。 この特色は、恋愛要素を主軸とした本書において特に傾向が強い。清原作品における恋愛は誰かと誰かの交流であり、他者により自己が変化することがあるためだ。それが本書を魅力的なものにしている。「新説 赤い糸の伝説」とか本当に最高…… 本書から清原先生に入門した場合、次に読むのは何がよいだろうか。 発表当時のコミックスは絶版であるが、近年に月刊フラワーズでポツポツと発表されている作品を除けば、ほぼ全作品が文庫などで網羅されている。(電子書籍化も文庫については殆ど為されている状況) そのゆえ間口がとても広いので、コレという名前を挙げるのは難しい。各々の関心領域と描かれている題材がマッチしている作品が適していると考える。 本書から遠くないニュアンスのものを読みたいのなら『春の微熱』、もしSFが好きであるなら『アレックス・タイムトラベル』、歴史物であれば『飛鳥昔語り』、性に纏わる領域に関心があるなら『花図鑑』あたりだろうか。これらをまとめた清原先生の総体と向き合うのなら自選傑作集『桜の森の満開の下』。清原先生が生み出した発明的キャラクター・花岡ちゃんが活躍する『花岡ちゃんの夏休み』もいい。 ちなみに、マイベスト清原なつの作品は『春の微熱』収録「群青の日々」です。