ユリビュート

単行本派に贈るバラエティ豊かな百合短編集 #1巻応援

ユリビュート つつい 一迅社アンソロジー 嶋水えけ 純玲 のちむゆ 柏木ツキコ もくはち 辻柚那 tsuke さかさな 篠ヒロフミ 日野アラシ さかなや
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

百合姫本誌を買ってない人は、是非読んでみていただきたい読み切り短編集。2018年〜20年までの掲載作。物語の多様さに百合ジャンルの広がりが見て取れる一方、絵柄は「百合姫らしさ」を感じるものが多く、美しくて読みやすい一方、もっとバリエーションがあってもいいかな…と思うと、時々ちょっと異質な絵柄が登場したりして、全体として飽きが来ない。 —— 各作品の感想を、ツイッター漫画のタイトル風に+一言感想で。 ●君とゆく、(嶋水えけ先生) 己の空虚に絶望した少女がお嬢様に世界を教える百合/互いに足りないものを与え合い、支え合う関係性尊い。 ●スノウトーク(純玲先生) 失声の演劇部員が恋したお姉さんと発声練習する百合/声がよく通りそうな冬と、春の訪れによる変化が印象的。 ●渚にて。(tsuke先生) 海が好きな内気女子と唯一の友人が海に佇む百合/最後のシーンに向けて静かに穏やかに進む感じがたまらない。 ●蔓日々草(さかなや先生) 友人の結婚式のドレスを選びながら友人を手放す百合/愛とか恋とかじゃない関係性でもこんなに尊い。泣けるわぁ… ●わたしのこい(のちむゆ先生) 幼馴染の気を引きたくて市販薬で体調悪くなる百合/執着が昏くて重い、そして切ない。薬を悪用している感じが昏さを増す。 ●あの日の続きをしましょうか(もくはち先生) 私に恋する女子高生の情報に聞き覚えがある百合/十数年後に突きつけられる恋と間違い。どんな感情も間違いということはない。 ●ハイドアンドスイーツ(つつい先生) 恋に恋する女の子が現実の恋の怖さを知る百合/それに気づけたこと、教えてくれる存在の大切さ。最後ほっとした。 ●桜日和のへたれなワンコ(辻柚那先生) 姉が担任になったら親友が姉に惚れたかも百合/これは短編にするのが勿体無いかも。姉と妹、親友との過去が見たい。 ●絵の具の匂いがした(柏木ツキコ先生) 絵のモデルをするうち変な先輩に惹かれる百合/自分の無い人が、独特で強い意志を持つ人に惹かれる話は、先を読みたくなる。 ●お誕生日おめでとう。(さかさな先生) そっくりな親友が同じでいたいのに変わっていく百合/思春期の頃の親密さの、距離感の複雑さと切実さに心を揺さぶられる。 ●ないしょの向日葵(篠ヒロフミ先生) 恋人に真面目に進路を考えろと叱られる百合/好きな人の眼差しに触れて変わろうとする成長譚尊すぎる…真剣さは人それぞれ。 ●軽木さんと荒重さん(日野アラシ先生) 軽薄女子と想いが重い女子が恋愛話する百合/全く価値観の異なる者同士が互いにツッコミ合うトークがたまらなく笑える。

voiceful

ネットの歌姫と引き篭もりの私

voiceful ナヲコ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

こんなに繊細で優しい「救い」の物語が、「コミック百合姫」黎明期に存在した奇跡を思う(「百合姫」の前身、「百合姉妹」から続いた連載)。 キスシーンひとつ無い、女性同士の様々な感情を包摂したこの作品こそが、現在の拡張していく「百合」世界の、感性の基礎になったと言えると思うし、今読んでもその内容は、全く色褪せない。 ♡♡♡♡♡ ネットで出会った歌声に心を救われた、引き篭もりの女子高生は、不意にその「歌姫」と知り合う。会う度に親密になる二人だが、歌姫が歌に打ち込む為、会えなくなると言う時、二人の心は……。 ♡♡♡♡♡ 神様と出会ってしまった女子高生の、浮かれる気持ちと浮かれてしまった後悔、そして会う度に募らせた気持ちが胸に迫る。 一方、女子高生に温かさをもらい、辛い過去を振り切り、勇気を出してネットの世界から出ようとする歌姫もまた、切実だ。 傷を持つ二人が、互いへの想いをよすがに現実へと踏み出す、繊細な友愛の物語。成人誌でも(同性・異性の別無く)傷ついた心を思い遣る関係性を描いて来た、ナヲコ先生ならではの作品と言えるだろう。 (成人誌の作品に関しては短編集『からだのきもち』をご覧下さい)。

さよなら、またね。

優しくて切ない天才の短編集

さよなら、またね。 優
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

この短編集は、オールカラーである……水彩タッチのとても淡く、優しい色彩と、繊細な描線。 「萌え」という言葉にある程度、揶揄が込められているとすれば、優先生の描く造形は、「萌え」に水彩的な「優しさ」を加えて、誰も揶揄する気になれない程にまで美しく、愛らしく突き詰めた芸術品だ……控えめに言って天才だ、と思っている。 『おおかみこどもの雨と雪』『五時間目の戦争』も美しかったが、優先生の本質はカラーにある……と私が思い込んでいるのは、私がはじめて触れた先生の作品が、この短編集『さよなら、またね。』の表題作だったからだろう。 『季刊GERATINE』というカラー漫画雑誌の2010年秋号に掲載されたこの作品。いつ単行本になるのか……と思っていたら、2017年まで待つことになる。 表題作を始めとして、優しい雰囲気の中に描かれるのは、残酷な状況が多い。もう取り戻せない物、気づいた時には失われている恋、否応ない別れ……余りにも切なくて、私は表題作でいつも手が止まってしまう。 この年、優先生は亡くなられ、もうこの様な作品達は生み出されない……という事情を差し引いても尚、この切ない天才の、決して色褪せない作品に、是非一度触れてみていただきたい。まずはこの短編集がいいだろう。そして『五時間目の戦争』を是非。 ①さよなら、またね。 七年ぶりに化けて出た元クラスメートは、生まれ変わるから挨拶に来た、と言う。 ②なくしたことば 自分を模したAIを載せたサイボーグが、眠りから覚めない……何の夢を見てる? ③はるのはな 遠く離れた兄と妹。レシーバーで偶々の交信。人の体でない兄が向かうのは……。 ④なつのいと 先生は私の名を間違える。私とよく似た、婚約者の名前と。 ⑤おかえりなさい 田舎に帰省する姉は、いつも明るい。俺が望んだのと、違う。 ⑥猫の日 飼い猫を助けてくれた級友に、つい暗い本音を話してしまう。彼の反応は……? ⑦きずあと 切りすぎた前髪を、男の子に見せに行く。彼のせいで、残った痕を、苦しい初恋を。

名前はまだない

「眼差し」と「間」で描く恋愛の強度

名前はまだない かずまこを
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

かずまこを先生の作品は、登場人物の強い「眼差し」にやられることが多い。 『純粋アドレッセンス』のななおの向こう見ずさ、『ディアティア』の睦子の、純粋に相手を知りたい感情、『さよならフォークロア』の二人の、現状を乗り越える意思etc……彼女達の「眼差し」が伝える強い感情に胸を打たれ、動悸が止まらなくなる。 彼女達に見つめられた者は、時に目を逸らし、時に見つめ返す。表情を僅かに変えながら、その「間」で思考を巡らせ、言葉を返す。 交わす気持ちの、伝わらなさがもどかしかったり、ふと通じる瞬間にときめいたり……いずれにしても、二人の「間」そのものが愛おしい。 かずまこを先生の作品の描く「眼差し」と「間」は、この短編集『名前はまだない』の各掌編に端的に描かれている。 まずこの短編集で、かずまこを先生の「眼差しと間の強度」を知るのもいいと思う。連載作品にも全く同じ強度があるという、その贅沢さをお伝えしておきたい。 ●3秒ルール 相手の言葉に、返事するまで3秒以内。言葉に詰まったら負け。 ●uracoi 睨んでからコミュニケーションする女子の、佇まいに惚れる。でも告白してくれたら、眼を逸らすなんて……。 ●恋はお静かに わたしが頭を打ったら、寡黙な委員長の饒舌な脳内がダダ漏れ? ●消し去る恋と願いごと 片想いしている先輩が、急に明日スイスに引っ越し!?先輩は私の秘密の願いを知りたがる。 ●名前はまだない(recalculation、interim solution含む) 本心を隠して周囲との距離を楽しむ優等生女子は、ぶっきらぼうな孤独女子が気になる。気を引き、距離を縮め、駆け引きするも、彼女はなかなか厄介で……。 ●匿名プロローグ 保健室の先生と女子生徒の恋物語『純粋アドレッセンス』の冒頭エピソード。

さよならフォークロア

月曜の呪いを、惑わぬ恋が解く。

さよならフォークロア かずまこを
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

その女子校で、まことしやかに囁かれる噂。月曜日に女子に触れると、心中した生徒に呪われる……皆がその噂に怯える中、転校生の真白は、タブーを犯す様に皆とスキンシップを取り、恐れられる。 何故そんな事をするのか……真白の涙と本心を見てしまった先輩の高瀬は、真白に惚れつつも、彼女の願いを叶えてやろうとする。 真白の願いは…… 「恋人のふりをして」 ♡♡♡♡♡ ある目的の為にタブーを犯す真白。自我を通す彼女の真っ直ぐさは(強気な時も涙する時も)最初から最後まで、強烈だ。 先輩の高瀬をからかううちに、変化していく真白だが、その時々の真っ直ぐさは変わらない。 一方、そんな真白に惚れ、彼女の願いのために何かしたいと願う高瀬は、次第に従順な生徒の群れから離れ、自分の意思を表明する様になる。最初弱々しかった高瀬の視線は、次第に強い眼差しとなり、恋と決意の表情にドキッとさせられる。 大切な人の為に、強く真っ直ぐであろうとする二人は、学園の呪いに打ち克つことが出来るのか……。 高瀬が入れられた反省室に隠された、過去の恋人達の手紙など、謎めいた雰囲気に心ときめく。手紙のイニシャルが仄めかすものとは……分かりにくいけどそれがいい!

あなたと私の周波数

複雑な「人の心」にシンクロする百合 #1巻応援

あなたと私の周波数 くわばらたもつ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

ある時、目の前の人が隠し持つ「何か」に触れる。 思いがけない秘密に触れて、その『昏さ』に混乱し、時に何かに気付かされ、時に受け入れ……様々な感情の在り方が、この『あなたと私の周波数』という短編集には描かれている。 その感情はかなり複雑だ。喜びの中に苦しみがあったり、プライドと憧れが混乱していたり、割り切れないまま前に進んだり……それは複雑なのだが、同調できるリアルさがある。 一言では言い尽くせない感情の機微を描いた、読み応えのある物語達。人の心の複雑さを忘れない為に、一つひとつの物語に心をシンクロさせつつ、読んでいきたい。 ●あなたと私の周波数 貴方は私の想いを知らない……そう思っていたOL。ふと見つけたトランシーバーから……貴方の声? ●お前に聴かせたい歌がある バンドのメンバーに「私の死体を埋めるのを手伝って」と頼まれる。……生きてるよね? ●あんたが背中を見せたから 陸上部のエースは転校生に負けてしまう。エースのプライドに対して、転校生は……。 ●君のすべて 弁当屋のバイトJKと、彼女に懐くJC。自分の父親が亡くなった〈らしい〉と聞いたJKは、JCの父が亡くなったと聞く。 ●私たちの長すぎる夜 好きな人に振られた事を引き摺り、泣きながら酒を飲み、女子をナンパしようとする女。

月が綺麗ですね

貴方と歩く月夜が、私の人生。

月が綺麗ですね 伊藤ハチ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

獣耳を持つ種族が暮らす、とある国。そこでは女性同士の婚姻が認められていた。財閥の一人娘・春日ちるは16歳にして、幼い頃に決められた許婚・18歳の東雲千里の元に嫁ぐ。幼い頃の温かな記憶を頼りに、互いに寄り添う生活が始まる……。 ♡♡♡♡♡ 描かれる世界は、明治・大正期の日本がモデルのようだ。懐かしい光景の中、天真爛漫なちると物静かな千里の夫婦が暮らす穏やかな日々に癒され、侍女のカヨや千里の幼馴染のハクとのコミカルなやり取りに、明るい気持ちにさせられる。 「許婚」から始まった二人は、「許婚」を超えて互いの存在を求める。二人とも自分に自信は無いながらも、自分の意思で相手を知り、受容しながら愛情を育む物語は美しい。 一方、登場人物の中には、封建的家父長制の価値観の元で、家の都合・親の意図で、生きる道を選ぶ者が出てくる。彼女達はそれに疑問を持たないのだが、ふとしたきっかけで「自分の望む道」について考えることになる。 ちるの侍女・カヨも、女教師の日和も、明るく後押しするちるや、幼くも強い意思を持った生徒の百(千里の妹)に影響され、自分の生き方に初めて自分の意思を持ち、行動する。 彼女達の決意の表情と、希望に満ちた眼差しに「独立した個」の立ち上がる瞬間を見て、心震える。 明るいやり取りの中に綴られる、自分の人生を「愛する者」の為に歩む物語を、ゆっくり追いかけたい、そんな作品だ。

猫娘症候群

猫娘&猫好き娘の猫喫茶、百合営業中♡

猫娘症候群 ネコ太郎
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

小児のうちに罹患する「猫娘病〈カトルス病〉」。患者には猫耳と尻尾が生え、時には猫に変身!そして何故か、女の子に惹かれるように……。 猫娘病の白椛雪はコミュ障のゲーマーだったが、高校の入学式に猫まみれで登場した彩野りことの出会いで、生活が一変!……私に友達?私が接客?本当に? ♡♡♡♡♡ 疾患としての猫娘という設定は、差別されることもあるが(4巻時点では)それ程深刻なものではないので、猫好きの方が安心して楽しめる様になっている。 様々な品種の特徴を持つ、猫娘高校生達の愛らしい活躍に癒され、更に随所に散りばめられた「猫あるある」や猫の解説を読んでいると(私は猫を飼った事がないので)猫を観察してみたくなる。 雪と共にりこの家の猫喫茶で働く猫娘達は、愛らしい上になかなか「出来る」子達。コミュ障で不器用な雪は引け目を感じるが、他の猫娘やりこに励まされ、辿々しく頑張る雪の姿は却って「尊い」。 菩薩のようなりこに惹かれる雪だが、人間関係を過剰に警戒する雪は何かあるとすぐ躊躇し、ぐるぐる脳内会議を始める。しかし、りこは雪のことが大好きで、優しく、時にグイグイ接触。頑なな雪の心が融かされる様子はやっぱり「尊い」! なかなか笑顔が出せないツンデレ猫娘を愛で、晴れて笑顔を見せる瞬間を待ち続けたい、そんな作品だ。

みみみっくす!

つけ耳ガールは、発・情・寸・前!

みみみっくす! 広瀬まどか
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

近未来の女子の間で流行のファッション、それは「つけ耳」!高校1年生の乃々は、好きな人とお揃いのつけ耳で告白しようとする。 つけ耳ショップの店員・みかんに後押しされ、みかんの幼馴染・ねおんに告白……でもつけ耳には実は副作用が……乃々の副作用は「発情」!? ♡♡♡♡♡ ファッションとして、外科的施術で簡単に装着できる獣耳というアイデアは驚きの斬新さで、動物を選ぶコーディネートの楽しさ、その動物の生態×装着者の性癖による副作用の多様さなど、想像の余地の広い世界観が楽しい。この作品は二次創作したくなる! しかし副作用が強く出る娘は、性的な部分で困ったことになり、エッチなハプニングはしょっちゅう……そこを起点として、ショップのお客達は次々と百合の花を咲かせることになる。ドキドキ……。 そしてショップでバイトを始めた乃々と、みかん、ねおんの三人娘もジワジワと仲を深め、馴染み客の「つけ耳アイドル」も加わり、思惑が交錯する。お客達よりゆっくり進む彼女達の関係も最後に大きく動き、目が離せないドキドキ。 エッチな物がウェルカムな方……この作品は、ジャケ買いして間違いない!表紙絵の神懸った可愛さは、作中でも最後まで崩れない。ドキドキしっぱなし!

三日月のカルテ

優しい研修医と、夜のデート11ヶ条

三日月のカルテ 七坂なな
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

治る見込みの無い難病で陽の光を浴びることの出来ない少女は、人生に絶望し、命を断とうとする。彼女を救ったのは、一人の女性研修医の提案……「お試し恋愛」だった。 興味本位で始まった、夜のデート。少女は11の約束を課して、研修医を試すが、研修医のひたむきさに次第に心動かされ……。 ♡♡♡♡♡ 11話の各話で「11の約束」を一つずつ紹介しながら、二人が恋人の真似事をしながら次第にその気になっていく様子が描かれる。 しっかりしているようで世間知らずの少女は、研修医をあれこれ振り回す。それを受け止める研修医はどこか頼りないが、それでも少女の為に懸命だ。 病院の個室でしっかりした、少し気難しい子供として過ごしていた少女が、研修医の懸命さに安心し、甘えたりする一方、不安や嫉妬の感情を知る……つまりは恋心を知る、その過程が甘やかで、闇の中での逢瀬の「秘密」感と相まってドキドキする。 院内学級があるほどの大病院ですら治療できない難病に、深く絶望した少女の魂を前向きに「生かす」為に必要だったのは、頼りない研修医の強い願いだった。2巻の最後で、少女にかけられた言葉に込められたその願いに、一気に涙腺が緩む。是非、その言葉まで読んでみていただきたい。

セメルパルス semelparous

並行世界からの侵略防衛百合 #1巻応援

セメルパルス semelparous 荻野純
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

並行世界からの侵略者「壊獣」を、緩衝地帯の「壁の中」で殱滅する「防壁師」。共に防壁師を目指していた親友を壊獣によって喪った新更命乃は、親友の為に壊獣と闘うと決める。 闘い続けるうちに明らかになる事実、隠された秘密。バディを組む隊長が口にする「地獄」とは……? ♡♡♡♡♡ 『γ―ガンマ―』で悩めるヒーロー達×怪獣・怪人の闘いと姉妹百合を描いた荻野純先生。今作では並行世界からの侵略との闘いに相棒百合を掛け合わせて、最初から重い世界観を描いている。 人間と似た体型の巨大な「壊獣」、人工的で無機質な地形の「壁の中」、人知れず戦う防壁師……そこはかとなく暗く、冷徹な世界観に、悲観的な先行きを想起せざるを得ない。 世界や敵に関する重要な事は、毎話少しずつ明かされる。プロの防壁師になった命乃にも、少しずつしか事実は明かされない。そしてふと辿り着いてしまった真相が、命乃を混乱させる。 思いがけない事実に苦悩する命乃に、寄り添う隊長も何かを胸に秘めている。力を合わせて闘う、重い物を背負った二人の関係は、切ない程に尊い。 この先の世界と二人の関係に待ち受けるのは、悲劇か、それとも幸福か……命乃と共に秘された世界の全てを見るまで、気持ちが落ち着かなそうだ。 (個人的には、やはりタイトルの「セメルパルス(semelparous)という言葉が気になるところ。一回結実性、つまり多年草植物が生涯に一度だけ花を咲かせ、枯れてしまうこと。竹やリュウゼツランが有名。この言葉は世界観に関わるのか、防壁師の能力に関わるのか、それとも女性同士の関係性に関わることなのか……。他にも色々なワードから作品世界の空想・予想を楽しめる作品だと思います。絶対考察ブログとか書きたくなるやつです!)