TKD@マンガの虫
TKD@マンガの虫
1年以上前
『鉄コン筋クリート』やスポーツ漫画の大傑作『ピンポン』を送り出した 漫画界の生きるレジェンド松本大洋待望の最新作 物語は主人公塩沢が30年務めた出版社を退職し漫画編集者として引退したところから始まり、彼が辞めたことで起こる周りの担当作家や編集者達の変化を丁寧に描写していきます。 私が個人的に松本大洋作品前作で通底して素晴らしいと思う点は『人間の暗い部分弱い部分を逃げずに描写するところ』で、例えば大傑作『ピンポン』でも類稀な才能を持ちながら高い壁にぶつかり一度は卓球から逃げ出してしまうペコという場面で自尊心が打ち砕かれた人間の脆さをしっかりと描写しています。 もちろん今作でもそう言った要素が見事に描かれており 例えば、一度は大ヒットを生み出しながらも長い漫画家生活の中で情熱が擦り切れてしまったベテラン作家長作が様々な葛藤を抱えながらもう一度奮起して漫画に向き合う姿が情感たっぷりに描写されており、 私個人としては「もしかしたらそう言った描写に関してはこれまでの作品の中でも一番なんじゃ?」と思っています。 というのも、今作は漫画に関わる人々というおそらく松本先生から見て最も身近なところに生きる人々を書いているので、人間描写がこれまで以上に切実感とリアルさを持っているのではないかと思います。 ここからは読んだ人向けですが、長作が爆音で包まれるパチンコ屋の中で涙を流すシーンには思わずこちらも涙を流してしまいました。
ひさぴよ
ひさぴよ
1年以上前
昔の学生時代に求人誌を見て、ビルの窓ガラス清掃ってなんとなく楽しそうだなぁと思ってアルバイトに応募しようとしたことがあったけど、高い所の景色が好きだということと、高所で作業することは全く別次元の話だと気付いて結局やらなかった。それでもいつかはビル窓拭きの仕事やってみたいなあと思っていて、今でも高所で作業する人たちにはどことなく憧れを抱いている。 さてこの漫画、90年代に見られるモーニングのお仕事マンガの一つだが窓を拭くだけの地味な漫画と思うなかれ。高所からの構図が半端なく上手く、ザイル、ブランコ、ゴンドラといった道具設備がやたらとリアルに描かれ、高所作業の臨場感といったら凄い。そこに加えてやさぐれた男たちの人間ドラマが展開されるのだから、面白くないわけがない。 主人公は夢を諦めかけているミュージシャン染盛(そめもり)という男。社員ではなくアルバイトという身ながら、現場のトラブルに怒りながら対応し、この危険と隣り合わせの仕事を意地とプライドだけでこなしている。同僚もヤンチャな奴が多くて、すぐ殴りかかってくる奴、薬をキメて現場に来る奴などさまざま。途中、漫画の展開が売れないミュージシャン漫画みたいに変わるが、主人公が大量の葉っぱを一気に吸ってガンギマリになる絵面が衝撃的なのでそこも見所の一つ。 ラストはグッとくる話だが、単行本だけで読み進めると唐突に「川室」という男が突然登場するので?となると思う。 「染盛はまだか 単行本未収録作品集」(2)を読んでおくと、最後に登場する「川室」のくだりが分かりやすくなるんで一緒に読むべし。 ちなみに未収録作品集は各巻110円。 (できれば一冊にまとめてほしかった) https://manba.co.jp/boards/134900 時代を映したガテン系仕事漫画の良作につき、おすすめです。
昔の学生時代に求人誌を見て、ビルの窓ガラス清掃ってなんとなく楽しそうだなぁと思ってアルバイトに...
mampuku
mampuku
1年以上前
 12世紀のイングランドを舞台にした「魔法や呪いの存在する世界でのミステリ」という大変意欲的な作品です。作者は「古典部シリーズ」「満願」「王とサーカス」の人気ミステリー作家・米澤穂信。  超常的な力の働く世界で推理によって論理的に犯人を導くことはできるものかと初めは疑いましたが、ふたを開けてみればその美しい論理展開、美しくも切ないラスト、そしてなにより美しい文章にただただ感動させられていました。推理をする上で足場となるべき我々のよく知る物理法則が働くこの世界とは異なる、魔術が発動し、作用する、ローファンタジー世界のルール。このルールを読者に信じ込ませる圧倒的説得力は見事でした。  原作小説の話はこれくらいにして肝心の漫画ですが、背景や服装の細部にいたるまでかなり凝っていて、一つの漫画作品としては満足度の高いクオリティに見えます。ただ、少女漫画風の美麗で(上手い形容詞がみつかりませんが)クリアーな絵が、小説を読んで想像していた不衛生で武骨な中世世界とは少しイメージとは違っていました。例えばヴィンランド・サガやベルセルクのような……まぁでもこの絵はこの絵で素晴らしいので言うだけ野暮ってもんですかね。