かしこ
かしこ
1年以上前
久しぶりに帰省した主人公は東京で女芸人をしている。父と母は兄の子供である孫に夢中で、90歳を過ぎた祖母はボケてきていた。今現在の時間の流れを主人公の視点で語りつつ、そこにボケて子供に返った祖母の記憶と意識が混ざる構成。 祖母が子供だった頃の村では凶作で食うに困った人達が芸を見せて金をもらい歩いていて、同情した父親が彼らを家に泊めたが、翌朝に物が盗まれていたことがあった。主人公はパソコンの画面越しにネタ合わせしていた相方に「どうして里帰りしたの?」と聞かれ「自分は子供に返りたかったのだ」と気づく。子供に返ってしまった祖母と子供に返りたい孫。二人ともそれぞれの過去と現在のしがらみに苦しんでいる。 物語の最後で東京に帰ろうとする主人公を玄関先で呼び止めて「私からもらったと言うな」と祖母がお菓子を握らせる。おそらく祖母のボケた思考回路の中では、子供心に印象的だった貧しさから盗みをしてしまった人物達と、同じく芸をしている孫を混同しているが、この行為は祖母からの泥棒をしたあなた方を恨んでないというメッセージだと思う。主人公は自分が買ってきたお土産を渡してくる程ボケても子供のように可愛がってくれる優しい祖母だと感じている。 ある意味ここで意思のすれ違いが起きているけれど、同時に祖母も孫も救われている。そこに気づけるのは読者だけ、というのも面白い。 短編集『心臓』に収録されていた作品それぞれに登場したモチーフが数多く見つけられた。高野文子のオマージュのような表現もそう。今回の「あんきらこんきら」で一つの完成形に達したような感じがする。けれども奥田亜紀子の進化はまだまだ続くと確信を持てる傑作でもありました。
せのおです( ˘ω˘ )
せのおです( ˘ω˘ )
1年以上前
2020年、1月に単行本全3巻にて完結です。 普通な日常を過ごしていたのに、急に氷河期を迎えてしまった地球・日本が舞台です。 気候が急変し、避難所へ向かう途中で親とはぐれてしまった女の子・リッカと、大学入学を機に上京してきた青年・ユキが出会い、一緒に生活することになりました。 食料は不足、物価も高騰し、生活するどころか、仕事をしてお金を稼ぐのも簡単でなくなってしまった世の中、ユキの願いは、「一日三食絶対たべたい」!!! しかし、これはユキだけの願いだけでなく、身体の少し弱いリッカのためでもあるのです。 そのため、実はクズな(笑)性格のユキは、危険と言われる外の仕事に就くことになりました。 本編では、なぜ氷河期になったのかなどあまり触れられず、ユキの仕事先でのお話がほとんどです。 そんな中で生まれる、職場のスギタ先輩との辛辣な(笑)会話や、氷河期前の生活を懐かしく思う姿、時々ハッとさせられる仕事に対する姿勢が、とっても面白く読んでいてなんだか元気がでます 私はタイトルを見た時、「グルメ漫画かな?」と思いましたが、全く違いました。 この漫画は、 "絶望的な世界になってしまったけれど、こんな世の中でも自分らしく、自分のやりたいことを叶えるために生き抜く。 そのために、まずはご飯をしっかり食べる!健康で元気にいる!そして自分とその周りの人のために働く!!" そんな漫画でした。 個人的に、リッカとユキの関係が大好きです。 家族でも、恋人でもない、でも友人というには何かが足りない。なんにも無くなってしまった世界でなんとか生きるために、ただお互いを大切に想い合う、そんな素敵な関係です。
たか
たか
1年以上前
こまとちびやフクなど、江戸×猫マンガの名手・山村東先生の最新読切。今回は猫がメインではなく上京してきたお侍さんが主人公。なのに共感度MAXですっごく面白かったです!(なお、ちゃんと猫も出てきます) ▼過去作『フク』 https://comic-days.com/episode/10834108156649962736 いや〜期待を裏切らない良い読切でした…! 物語の主人公は、1カ月前に豊後国(大分)から参勤交代で江戸へ出てきたばかりの侍・清十郎。 50万人が暮らす大都会・江戸は、少しの無礼など誰も気にもとめないし、蕎麦の注文の仕方もよくわからない。しかも名誉なお役目と思っていた参勤交代は、実は誰にでも出来る仕事だったと気づいてしまい、清十郎、めっっっちゃストレス感じまくり…!という、**東京で働く地方出身者にはたまらないお話です(笑)** 猫が居なかったら作中のストレス指数はもっと高かったこと間違いなし! ある日、15、6歳の女の子が巾着切り(スリ)を働く現場を目撃したことで物語が動き出します。 ストーリーも面白いのですが、山村先生の描く精緻な江戸はいつ読んでも惚れ惚れします…!差配さんやこはぜ町ポトガラヒーなど、江戸文化あふれる作品が好きな方におすすめです! ▼本編掲載ページ『Dモーニング』 http://dm.m.eximg.jp/viewer/1540/1542/ (画像は本編より。共感しかない)
こまとちびやフクなど、江戸×猫マンガの名手・山村東先生の最新読切。今回は猫がメインではなく上京...
異世界スキー
1年以上前
昨今の転生モノ市場、これまでにない題材でいかに外角際どめのコースを攻められるかという過酷なレース展開になってきた感があります。 もはやなにが外道でなにが正道か分別つかないバーリトゥードの様相を呈してきたおかげで、逆説的に物語やキャラクターそのものが持っているパワーを見極めやすくなっているのでは?という気がします。(気がするだけか?) それでいうと本作のキャラとストーリーフックはなかなかエネルギッシュで見応えあります。 主人公のユキトは父親に宗教団体の教祖として生きることを強制され、神の依代として「望まぬ死」を迎えることになります。転生後の異世界は宗教も神も存在しない彼にとって理想の社会でしたが、決定的に異なるのが死生観。 異世界の住人は死を恐れず、国の定めによって自らの命を絶つことを厭わないどころか、それを拒む者を「カクリ」と呼称して差別し、その命を奪うことも当然としています。 ユキトはその行為を許せず、皮肉にも彼らに「救い」を与え、神としての権能を振るうことになるのです。 古今宗教とは人間の死生観と密接に関わって発達してきたものです。 死生観が根本からズレている世界で神を描くというのは個人的には非常に興味深い試みに思えます。 特に最新6話では、この異世界には「理解できないもの」に神性を見る原始宗教的な心のあり方が存在しないことが示されました。 神のいない世界で神となり、人間の生死を左右する…。 「キャッチーな装いの下で実は相当に重厚感のあるテーマを描こうとしているのでは…?」とひとりソワソワしてしまいました。 観測していきたいと思います。