兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
好きな人がいて、月曜日に学校に行くのが待ち遠しい……早く月曜日担って欲しい…… そんな感情を抱いたことは皆さんありますか? それとも、月曜日なんて永遠に来ないでくれと願う大人になってますか? 世俗の汚泥に塗れ、穢れ切ってしまった大人にとっては、『天空の城ラピュタ』でポムじいさんが飛行石を見て「すまんが……その石をしまってくれんか。わしには強すぎる……」と言った時と同じような反応を取りたくなるくらい、瑞々しさ・若々しさ・ピュアさに満ち満ちた、旗谷澄生さんの初単行本となる短編集です。 「中庭には猫がいて」 「恋は四角く切り取って」 「永久不変のきらきら星」 「きみだけに春が来る」 の4編が収録されていますが、どれを取っても「そう、こういうの!」と膝を秒間16連打したくなるような学園恋愛物語です。 ヒロインと、その相手役の関係性はどれも異なりますが、それぞれの良さみが非常に深い。 短編集ではありますが、9月にはシリーズ連載として描かれた4編が収録予定の2巻も発売予定ということで①がついています。 旗谷澄生さん、短編も良いですがきっと長編でも悶えるような恋のお話を描いてくださると思うので、今後のご活躍も楽しみです。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
登山家のアカデミー賞と言われるピオレドール賞の、ピオレドール生涯功労賞をアジア人として初めて受賞した登山家・山野井泰史さんの登山人生を描いた作品です。 登山マンガにハズレ無し。 近く、劇場版が放映される『神々の山嶺』を始め、『岳』や『孤高の人』など圧倒的な名作も枚挙に暇がありません。 同じ人間でありながら、極限の環境である山に挑む者たちのドラマにはいつも心が奮え、血が滾ります。 この作品がすごいのは、上記の作品のようなドラマが描かれるのですが、それが山野井さんが実際に経験したものであること。 中学生にして34箇所の打撲と裂傷を負い、親に命の危険があるからと反対されても「自分から登山を取ったら心が死ぬ」として頑として譲らず、「大人の登山クラブで基礎から学ぶ」ということを条件に、日本登攀クラブに入会してそのキャリアを始めていくという出だしです。 登山に命を賭ける人を見て、「なぜそんな危険に進んで身を晒すのか?」と理解できない人も一定数いると思います。しかし、本当に命を賭けても良いほど好きなものがある人にとっては、この気持も理解しやすいのではないでしょうか。 特に、登頂を完了した時に見える至高の景色と共に訪れる達成感は、その気持ちへの共感を掻き立ててくれます。常人の身体能力では無理なことは解っていますが、読むと自分でも指懸垂などで体を鍛えて岩壁に挑んでみたい、こんな景色を見てみたいという気持ちにさせられるくらい、読んでいて熱く掻き立ててくれる作品です。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
『映画大好きポンポさん』シリーズでお馴染みの、杉谷庄吾さんが描くお嬢様学校を舞台にしたeスポーツマンガが爆誕しました。 『ゲーミングお嬢様』や『対ありでした。 ~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~』がますます盛り上がり、そして期待の新星Vtuberとして壱百満天原サロメ嬢がバズりにバズっているこのタイミングで、杉谷さんによるお嬢様eスポーツ。こんな鉄板な作品があるでしょうか。 ゲーム部の施設が整った朝日星学園。 ゲーム初心者でありながら、とあるゲーム向けの能力が異常に研ぎ澄まされている冨永ヒマワリと、とプロゲーマーを夢見る迅御(はやお)ルナが出逢い、寮も同室であると判明するところから物語は始まります。 「ゲームは遊びじゃない!」と豪語するルナに「ゲームは遊びでは?」と返すヒマワリに対しての 「命を削って磨き上げた技術と知識!!  これほどまでに自分の人生における信念と努力と時間を賭けてしまったからには  もう誰にも負けられないという不退転の執念が結晶化された譲れないプライド!!  ……本気でゲームで戦うっていうのは  プレイヤー同士がお互いの胸に輝くプライドという名の  存在証明を潰しあうって事なのよ  だから勝ったら飛び上がるほど嬉しいし  負けたら死ぬほど悔しい」 というルナの語りは、対人ゲームにおける本質を見事に捉え言語化しているもので、序盤から「流石杉谷さんッ! そこにシビれる憧れるゥ!」という気持ちでテンションを高めて読み進めました。 そんな二人がメインにプレイしていく、タイトルそのままの作中作「クロスバーストハニーハニー」は、対人要素もあるMMOで、RPGをプレイして強敵を倒しレベルアップしながらレアアイテムを手に入れていく喜びが表現されています。 そして、仲間であるクナイや、立ちはだかる強豪である鐡のアスラ、福音のスイレンなど魅力的なキャラクターも目白押し。 作劇のツボをしっかり押さえていて、面白くないはずのない物語に仕上がっておりこれから先の展開も純粋に楽しみで仕方ありません。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
仄暗い水の底で鬱屈としている人々に寄り添うようなこういった物語は、現代に求められているものであると強く感じます。 本作の主人公の新(あらた)いつきは、スーパーのチーフとして働いていたものの、部下にも軽んじられ仕事に疲弊していた45歳。貧しい時にはキャベツしか食べれず、牛丼が食べたいと思いながら暮らしていたこともある良いことなどない人生を過ごしてきた男性です。 いつきは、唯一の楽しみである仕事後の酒の最中に潰れて寝ゲロで死んでしまうという、何とも憐れな最期を迎えます。如何にも現代的です。しかしその魂は黒猫へと乗り移り、新たな猫としての生が始まります。 かつて夏目漱石が書いた『吾輩は猫である』の吾輩は知的エリートでしたが、まるで反対のような状況です。 『吾輩は猫である』では、人間の愚かさを論いながらも人間への憧れを抱く猫が描かれていましたが、『黒猫おちびの一生』も人間の愚かしさも含めた魅力を愛おしむ物語となっています。 いつきは、猫であるというだけで人間の時には考えられなかった厚遇を受けることもあれば、鴉に襲われるなど命の危険を覚えることもあり良し悪しです。 それでも、3話で描かれるような自分にとってはささやかで何気ない善行が巡り巡って帰ってくる構図のような、この世界の有り様には目頭が熱くなります。 他にも底辺のような暮らしをする30代半ばの男性が登場しますが、いつきは自分の失敗経験を元に彼が同じようなことにならないように仕向け、少しずつ救われていく様子にも心が暖かくなります。 「仲が深まる瞬間を見るのはいいもんだなあ」 という言葉は、読者の想いそのもの。 猫として生きる世界で、彼が今後どのようなものを見て、どんな人と出逢って、何を思うのか。そしてどのような最後を迎えるのか。見守っていきたい物語です。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
美術系学校を舞台にした作品がここ最近非常に増えてきました。 絶対的な答が存在しない世界での葛藤、創作の困難さと喜び。 それらを共に乗り越えたり挫折したり高め合ったり傷つけ合ったりする仲間。 物語の題材としては、非常に美味しいものが詰まっていると言えます。 本作は、デザイン専門学校の代々木美術学園に入学した新入生・森谷みのり。 みのりは出来る姉と比べられては貶められてきて、かつてやっていたバレエも途中で止めてしまうなど、色々なことから逃げ出し続けてきたことから自信を持てないでいる女の子です。 彼女は代々木美術学校で、ふたりの男子に出会います。 一人は、名前からもそこはかとなくジャイアニズムが溢れる藤岡猛(ふじおかたける)。 もう一人は、「ストイック系王子」と称される、爽やかな優等生、鹿上透真(かがみとうま)。 しかし、これらはあくまで第一印象の話。読み進めていくにつれて、それぞれのキャラクターの深い部分が徐々に見えてきて、それが物語の妙味へと直結していきます。 ヒロインに対してイケメン二人ということで否が応でも三角関係を想像しますし、そういう面ももちろんあります。そういうタイプの恋愛マンガが好きな方にはお薦めできます。が、単純な三角関係に留まっていないところも本作の見どころとなっています。 悩みながらも自分の真っ直ぐな感情によって前へと進んで行くみのりを応援したくなる作品です。
名無し
1年以上前
フランス版アニメ映画、見てきました。 とても面白かったです。 特に登山シーンでは手に汗握るよううなシーンが多々ありました。 アニメなので当然だといえば当然ですが、 実写とくらべて、そこにカメラを設置するのは無理に きまってるじゃん、という角度からの映像化が出来ていること、 小説や漫画に比べて動きのある絵を使うこと、 BGMとの相乗効果が発揮できることなど、 アニメ化する・した事は正しかったなと感じました。 そういうアニメの良さは凄くいかされている感じでした。 一方で小説・漫画・実写にくらべてストーーリー的には かなり大胆に取捨選択をしている内容でした。 羽生や深町や涼子の人間関係や、細かい感情の機微とか かなり割り切って無くなっていました。 羽生の狂気な部分とか深町の葛藤とかもっと描いてほしかった ところですが90分という尺では無理な話だし カットしたのも正解と言えば正解でしょう。 正解と思うのにはもう一つ理由があって、 作品全体から、原作小説や谷口版漫画に対する敬意が あったからゆえにカットしたのかもな、とか感じたのです。 下手に原作に徹底的に忠実にアニメ化したり 逆に自分たち流に手を加えたりするよりは アニメ化できることで活かせる良い面だけに絞って アニメ化をしようと思ったのではないかと。 見終わって、そう感じました。 たとえて言うならば、 夢枕獏先生の傑作小説が料理で言うマグロなどの素材 だとしたならば、 谷口ジロー先生は、高い調理技術と感性で マグロを素晴らしい和風料理フルコースに仕上げた。 フランスアニメ版はあえて中トロだ赤身だ刺身だ煮物だと 手を広げずにアニメという抜群のソースをかけて 極上の一皿の料理に仕上げた、という感じでした。 そう例えるならば日本で制作された実写版は、 マグロを使ってコンビニの期間限定商品を作って売り出した、 という感じですね。 現実的に実写を制作し提供する側に色々な事情が絡むのは 推測できるけれども、 そもそもそんな推測なんかさせないでほしかった、 という感じ。 アニメ版、面白かったしお勧めしますが、あらためて 谷口ジロー先生の、小説を漫画化する能力の高さに 感服もしました。 キャラの感情の掘り下げ方や、マロリーのカメラを中心にしての 話の構成力の高さを改めて感じました。 アニメの観賞と、その後の小説や漫画の読書を 皆さまにオススメしたい気持ちです(笑)