兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
「真剣勝負は  技量にかかわらず  いいものだ  決する瞬間  互いの道程が  花火のように  咲いて散る」 これは『幽★遊★白書』18巻冒頭での軀のセリフですが、この度 #マンバ読書会 を「少年マンガの名バトル」というテーマで行うにあたって思い出したのがこちらです。 技量が拮抗している者同士の白熱した闘いはもちろん、弱き者が強き者に想いや気迫、権謀術数を用いて挑むのもまた堪りません。 『幽白』の中でのベストバウトはどれだろう、と考えながらふと読み返すと、止まれず最終巻まで読まずにはいられない恐るべき吸引力。大人になってから読み返すと、少年の頃には感じ取れなかった細やかな機微をより堪能できるようになっていて、改めて名作中の名作だなと思わされます。 冒頭のセリフが出たシーンである、飛影VS魔界整体師時雨のバトルも僅か1話にも満たない尺でありながらそんな味わい深さを様々に兼ね揃えた非常に優れたバトルのひとつです。飛影に邪眼を授けた医師であり、剣術を施した師でもあるという奇妙な関係性。 時雨は、数百年もの間、雷禅・軀・黄泉の副官であった者たちより圧倒的に強い妖狐蔵馬をして、魔界統一トーナメントで闘った際には「勝てたのが不思議」と言わしめたほどの強さも見せています。飛影と闘った瞬間には軀の77人の戦士の中でも最下位だったということで、飛影と並んで伸び代が大きかったということでしょう。患者の人生の一部を報酬として貰い、飛影には「妹を見付けても兄と名乗らない」という条件を取り付けて兄妹の運命を狂わせる悪趣味さこそ見せ付けましたが、作中でも格を保ったキャラのひとりと言えます。 隣火円礫刀という特徴的な武器を使うところも外連味たっぷりで魅力的です。そして、それに対して飛影がわざと炎殺剣を用いずにかつて時雨から施された剣術の純粋な腕での勝負による勝ちにこだわる、そして相討ちという結果に「悪くない」という感慨を抱くという、それまでの飛影というキャラクターからは考えにくかった人間味ある変化を見せてくれたという意味でも意義深い闘いでした。もちろん、剣豪同士の静と動が研ぎ澄まされた戦闘描写それ自体も秀逸です。 さて、そんな『幽白』におけるベストバウトは一体どれでしょう。 当時の読者による人気投票では蔵馬VS鴉、飛影VS武威、幽助VS飛影がベスト3に挙げられていました(鴉のせいで私はトリートメントを使うようになりました)。 他に王道で行くならば幽助VS戸愚呂弟は筆頭に挙がるでしょう。絶望的な強さで圧倒してくる戸愚呂に、守りたいものを抱えた主人公が受け継いだ力で挑む熱さは王道中の王道。 戸愚呂弟VS玄海の因縁対決も良さみが深いです。玄海VS死々若丸で老獪な技巧を見せ付けながら若返るシーンも無論大好きです。 幽助VS酎や幽助VS陣の気持ちいいケンカバカ対決も好きです。ナイフエッジデスマッチという言葉の語感、良いですよね。 桑原が絡むバトルも、大体単純な強さで圧倒することはできないが故に泥臭い工夫が必要になって面白いものが多いです。 あるいは、単純な強さだけではない頭脳戦という軸を見せてくれた闘いとして蔵馬VS海藤や海藤・蔵馬VS天沼も名バトルです。答えはBのトーチタス。 そんな感じで『幽白』だけでも丸一日考えても結論は出せませんでした。 皆さんはどのバトルが好きでしょうか。 そんなお話をして盛り上がりたいです。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
『嘘解きレトリック』の都戸利津さんによる、通算20冊目となるコミックスということでおめでとうございます! もう都戸さんの作品であれば絶対に面白いことに疑いはなく、全幅の信頼に本作でも応えて頂いています。 特筆すべきは、花ゆめAiというレーベルの作品ですが、少なくとも1巻部分では恋愛要素からは完全に解き放たれて完全に家族愛にフィーチャーした物語となっているところです。 少女マンガであればおおよそ恋愛要素はmust、少なくともあるのがbetterという暗黙の了解がありそうですし、実際同じ花とゆめAiという雑誌でも雑誌名に違わず「恋」や「婚」といった文字が使われている作品も多いのですが、『ホームドラマしか知らない』はそうした縛りから解き放たれた感じがあります。 子供っぽくて生活力皆無な義兄と、家庭環境のせいでしっかりし過ぎている義弟。不器用な二人が織りなすドラマがとにかく心に沁み渡ります。 誰にも必要とされたことのない義弟の視点が主軸となりその心情がたっぷりと語られるのですが、苛立ちも喜びも落ち込みも、まるで自分が体験しているかのように共感してしまいます。 どういう落とし所になるか解りませんが、この義兄弟には幸せでいて欲しいと願うばかり。 やっぱり都戸さんのマンガ、好きだなぁ……。
六文銭
六文銭
1年以上前
ループものって無条件で好きなんです。 同様に「はたらく魔王様」みたいな異世界からきた(逆に異世界にいく)的なストーリーも好きなんですが、 両者に共通するのは「別れの話」だと思っているんです。 なんやかやストーリーはありますが、結局は ループものは、繰り返しの終わりを 異世界からきたものは、自分の世界にどうやって戻るかを こんな感じで、最後に必ず別れを描く必要がある。 どんなに楽しいシーンでも、うっすら漂う終わりを予感させられて、物悲しくて好きなんです。 もちろんそうじゃない作品もありますが、そんな中で、本作「私の神様」は、久しぶりのアタリでした。 ループものを上記のように感じている人がいたら是非おすすめしたい作品です。 その内容ですが、 かつて神様が人間の女性と恋をし、彼女の命を助けるため、人間の少年の姿のまま不老不死の呪いをかけられる。 命を助けられた女性は、同じ呪いを望み、記憶を残したまま、輪廻転生を繰り返し神様の前に何度もあらわれるという話。 かつての恋心を残したまま、ある時はネコで、ある時は鳥で、姿形は変われど、何度も神様の前に現れる。 しかも、そのことを伝えたら、呪いも終わってしまうため、何も言えずただそばにいる。 自分が恋人だということも、あれからずっと一緒にいたことも全て言えないのに、彼を一人にしたくないという一心で、ただ、ただそばにいる。 神様にしてみれば、なぜそばにいるかもわからない。 なんとも悲しい物語。もう、ドツボです。 恋人は現在は、人間の女性「かずさ」として生まれ変わったのですが、成長から老いへと変わる感覚が、神様との別れを予感させて、得も言われぬ不安感がたまりません。 思いが伝わらない焦燥感も悲壮感も、ループものの醍醐味です。 まだ1巻ですが、この後どう転ぶのか、どう別れを描くのか楽しみです。