仏ガール
きっと仏像に会いにいきたくなるマンガ
仏ガール 柚ちえこ
兎来栄寿
兎来栄寿
1コマ目が誕生釈迦仏、2コマ目が軍荼利明王のポーズの真似をする主人公から始まるマンガもなかなかないでしょう。 この作品は、「仏像変態」と呼ばれるほど仏像に偏愛を寄せる美術部顧問の江西先生と、その教え子である城上(しろかみ)さんが主人公の物語です。 江西先生の推しと押しの強さによって、城上さんはさまざまな仏像巡りに付き合わされていきます。 京都・奈良を中心とした寺社仏閣、平等院や永観堂禅林寺などが精緻に描かれ、思わず二重の意味での聖地巡礼をしたくなるほどです(六波羅蜜寺の空也上人像のエピソードでは『空也上人がいた』などもフラッシュバックしつつ……)。 とにかく江西先生のキャラが濃く、 「才能のある後輩やなんで売れてるかわからない作家を見ると気が狂いそうになるわ」 「みんなも早くお酒飲める歳になるといいわねえ  飲んでる間は嫌なこと忘れられるわよ〜」 と、闇の深さ・人間的な弱さを生々しく感じさせます。 一方で、 「私たちは結果が出ない時不安になっちゃうけど… 人間いくつになってもアップデート可能なのよ!」 「人生の時間を使って何かやってるだけで偉いわよ」 といった言葉で教え子を優しく導いていく側面もあり、仏像を通して開いた悟りの境地を感じさせてくれながら読み手である現代人にも寄り添ってくれる内容となっています。 作中でも語られる通り仏像を見ている瞬間に私たちは仏像を通して自分の願いや悩みを見つめ直していて、そうした瞬間を人生の中に持つことは大事であると思います。この作品を読む時間もそれに近しく、間接的にそうした効用も生まれるかもしれません。
異世界女子寮 使い魔いおりとモン娘たちの365日
異世界の「よつばと」を目指して
異世界女子寮 使い魔いおりとモン娘たちの365日 あかうめ
名無し
異世界女子寮というタイトルにはなっているが、読んでみるとこれは**「異世界のよつばと」を目指しているのではないかという気がしている。**     主人公のいおりはホムンクルスであり、とある魔女の使い魔として働いている。 それがちょっとした事故でモン娘たちの住まう女子寮に転送されてくる……という部分が1巻の導入となっている。     しかし何というか、他の女子寮のモン娘といおりでは立場が違う。彼らは住人であるが、いおりは突然の来訪者なのだ。 一緒に生活するという意味では寮らしさはあるが、いおりは使い魔なので家事は得意で進んでやってしまうから、役割分担のような共同生活感はそんなにない(それを逆手に取ったエピソードが1つあり、個人的にはそれが好き)。     恐らくではあるが、この漫画の魅力は「女子寮」的な要素ではない。 **ホムンクルスとして生まれ、魔女の使い魔として生きたきた幼く純粋ないおりを通して、女子寮を中心とした異世界はどう見えるか……というものを読者に伝えたいのだと思う。**     それはよつばというフィルターを通して何気ない日常の魅力を見つけることができる、「よつばと」の世界に近いものがあるだろう。     いおりは飾らず、毎日を全力で生きている。それはもう、読んでいるこちらが「毎日快眠だろうな」と思ってしまうくらいに(精神的に不安定になる日はあるようだが)     真っすぐに、そして素直に生きているいおりだからこそ、ちょっと困っているモン娘たちにシンプルな答えを教えてあげるということが、この漫画では随所に見られ、そこが「良いなあ」と思えるポイントなのだ。     普段ラミアのニア以外はすました顔が多いモン娘たちが、いおりと関わることで普段とは違う顔を見せ始めるのも面白いポイントの1つだろう。     自称エリートのケンタウロスがいおりに名前を呼ばれた直後にツンデレを披露したり、寮の住人から苦手意識を持たれていたアキの秘密を結果として明らかにし、作中1番の赤面顔を引き出したり。     いおりというフィルターを通すことで、異世界の日常もキャラクターもまた輝き出すといったところだろうか。 異世界は非日常ではあるが、これまで数多く描かれてきたところになろう系が流行ったことで、もはや開拓されていない場所はないというくらい異世界は日常化していると感じている。 そういう意味で、**「異世界のよつばと」というコンセプトは、なかなかに面白いと思う。**     ……「異世界のよつばと」なんて、この口コミで勝手に書いていると思われるのは心外なので書いておくが、帯はかなりよつばとを意識していると思う。 https://twitter.com/denplaycomic/status/1319841029843947520?s=20     同じ電撃系のコミックスなわけだし、タイトルは無理でも帯で「異世界のよつばと」ってもう書いちゃってもよかったのではないか。 許可はまあ……降りないだろうが。     ここまで書いて、「**でも漫画は結局キャラだよ!**」という人には、イマイチ本作の魅力は伝わっていないかもしれない。 ここでいおり以外のキャラについて書くよりは、画像を見て判断してもらった方が良いだろう。 公式(というか担当?)はモン娘の中でもケンタウロスを推しているようだ。 https://twitter.com/denplaycomic/status/1320198396020355074?s=20     ただこのモン娘、表紙での扱いはなぜか小さい。作中唯一の読者代表的なツッコミキャラで、ポテンシャルはとても高いと思う。個人的には彼女の魅力をもっと引き出して欲しい。     最後に1つ、この作品の謎を書いておく。 彼女たちは学校に通うわけでもなく、どこかに勤めている雰囲気もない。 **一体、何のための「女子寮」なんだ……。** https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM19201437010000_68/
パーツのぱ
綿密な取材で構成されたパーツショップの内情マンガ
パーツのぱ 藤堂あきと
名無し
当たり前ですが、漫画は漫画雑誌にだけ掲載されているものではございません。一般誌や女性誌のなかには漫画が連載されてるものも多いですし、モデルガンやカードゲームなど趣味性の強い雑誌でももちろん掲載されています。囲碁の雑誌や昆虫の雑誌でも連載漫画をみたことがあります。今は大分少なくなってきていますが、パソコン雑誌が大量に発刊されていたころ、やっぱりさまざまな漫画が連載されていて、そんなにパソコン雑誌を読む方ではなかったのですが、『PCコマンド ボブ&キース』(なにげに単行本が三冊もでていた)という、アメコミ調の漫画がいろんな意味でぶっ飛んでいてよく読んでいました。  この『パーツのぱ』もパソコン雑誌の「週刊アスキー」で連載されている作品です。専門誌で掲載されている漫画は、その性質上、ルポものが多いのですが、『パーツのぱ』は完全なストーリー漫画。秋葉原のパーツショップ「こんぱそ」に勤める魅力的なキャラクターが織りなす日常が描かれております。  パソコンパーツに詳しいベテランで年齢不詳ツインテールの本楽、平凡な青年で特徴といえばドジをやらかすことの入輝、あまりパソコンパーツに詳しくないけど大きくて美しい天戸、仕入れなどの裏方作業を完璧にこなすアフロの手木崎など魅力的なキャラクターが、短いページ数で少しずつ少しずつ浸透していき、ゆっくりと世界が広がっていきます。    とはいえ、綿密な取材で構成されているらしくパーツショップの内情が詳しく描かれています。他店の価格を知るためにあれやこれや画策したり、万引きをあの手この手で捕まえたり、社員の着服が問題になったり…。暗い面もきちんと描かれているのも魅力の一つです。  『パーツのぱ』は、1話が2~4pと、週刊連載漫画の通常である16pに比べると圧倒的に少ないページ数の作品です。だからといって、内容がスカスカなわけでも説明不足なわけでもなく、ゆるく前後の展開とつながりつつも一話ごとに導入うと盛り上がりがあるので、不思議な読後感があります。なんとなくですが、NHKの朝の連ドラに近いような、連綿とつづきながらも飽きがこずに、ずっと読んでしまう感じ。これは、きっと普通の漫画雑誌では生まれてこない読後感なのでしょう。