ゆるさば。

子煩悩父ちゃんの冒険の夢 #完結応援

ゆるさば。 関口太郎
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

『ゆるさば。』ロスです。 登場人物みんな幸せそうなエンディングに、私は一人寂しさを覚えています。終わっちゃうの……? 父ちゃんと三人娘の、退行世界冒険記はとても自由で楽しくて、娘達の成長も頼もしくて……でもその中でも一番楽しんでいたのは、やっぱり父ちゃんだったと思います。 私はおじさんで独身者です。休日には一人、雑木林にきのこを求めて分け入るくらいには冒険好きです。いまは一人でやっていますが、もし家族がいたら……息子でも、娘でも、自然の冒険を教えるかも。だって子供の成長を見るのが楽しそう。 だから父ちゃんが三人娘を遊ばせて、時にウンチクを垂れてうざがられても動じない感じ、分かる。 そう、私はこの作品を、父ちゃん目線で読んでいたのです。だから、読み返して一番切ないシーンは、冒険の終わりを躊躇って、本当に終わりでいいのか?と聞く父ちゃん。ツムギとモモと、リンの「三人娘」との旅の終わり。 この作品、例えば家族でキャンプとかしたくてキャンピングカーを買ってしまうような、子煩悩な冒険好きには凄く同感してもらえるかなぁ、と思うと同時に、そういう人はラストで、私と同じ様に絶対泣くね。

オカルトちゃんは語れない

すごく興味深く読める妖怪などへの新しいアプローチ

オカルトちゃんは語れない ペトス 橋本カヱ 本多創
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

『亜人ちゃんは語りたい』のスピンオフ作品ってだけじゃなく単体として面白い漫画になっている。 ヨーコには他の人には見えないものが見え、感じることができる。 一般的にそれは霊感と言われるようなものだが、この亜人がいる世界では違うように考えることができる。 むしろ、幽霊や妖怪、怪奇現象などはすべて亜人で説明できるのではないか、と。 その発想をきっかけに、ヨーコの周囲で起きる不可解な出来事、存在を分析しその姿をあらわにしていく。 このアプローチは素直にとても面白い。 オカルトめいたものを亜人なんじゃないかという仮設をもとに科学的っぽい切り口で検証、実験し、そして姿を現す亜人の存在によって、あれも亜人なんじゃないかこれもといった具合に可能性がより開けてくるのだ。 僕たちはその世紀の発見を目の当たりにすることができるのだ、一人の女子大生ヨーコの傍らで。 亜人と普通の人間を繋ぐ存在として描かれるヨーコの先入観の無さというか偏見やバイアスがかかっていない感じがとてもいい。 これは現象や妖怪が尽きない限りずっと読んでられるなーと思う。

東独にいた

斜陽の国が舞台の巧妙なストーリー、そして「動く」マンガ

東独にいた 宮下暁
いさお
いさお

「東独にいた」は、解体前夜の東ドイツで発生するテロをめぐる群像劇です。ヤンマガサードで連載しています。 主人公アナベルは軍人です。彼女は小さな本屋の店主、ユキロウに想いを寄せており、足繁く本屋に通う乙女な一面がある一方で、軍人として、テロリストを束ねる反政府組織との壮絶な戦いに身を置いています。 しかし、彼女はもちろんこのことを知りませんが、ユキロウこそ、実はその反政府組織の総指揮官なのです。 本作が描くのは、そんな2人の捻れた関係です。 アナベルは、軍人である自らの所業を肯定するために、斜陽の祖国を愛そうとする。 ユキロウは、祖国を愛するがゆえに、自らの信念に従って、斜陽の祖国を断罪する。 だから、アナベルは、愛国心を裏に秘めたユキロウたちに一種の憐憫を覚えてしまうし、ユキロウは、自らを肯定したい気持ちを裏に秘めたアナベルに、不思議な共感を抱いてしまうのです。 しかし、アナベルとユキロウは、もう引き返せないほどに、互いに相容れない立場に捉われてしまっている。 そんな先の見えない2人の行方に、いつのまにか目が離せなくなっていくのです。 また、本作の魅力は、こうした巧妙なストーリーだけではありません。 もはや「マンガであること」をやめかけていると言っていい独特な表現技法も、本作を語るに欠かせない特徴の一つです。 まず、本作のコマ割りは、非常に「動画性」を意識しているように思われます。何コマも連続して、同じカメラ視点から同じキャラの動きを描く場面が頻繁にあり、パラパラマンガのようにキャラが動いて見えるのです。 また、そのコマ毎のキャラの動きを大きくすることで、瞬間移動のような速さを表現するとか、逆にコマ毎のキャラの動きを極端に小さくして、その間に心の中でのセリフを大量に入れることで、そのキャラの思考の速さ、スローモーション動画のような感覚を覚えさせる、といった表現が多くとられています。 そうした表現に、これまた本作に特徴的な絵の簡素な雰囲気や、白黒を基調とした陰影に溢れた色遣いが重なってくる。 そんな本作を読んでいると、まるで往年の白黒映画を鑑賞しているかのような、静止画である「マンガ」ではおよそ体験しえないはずの不思議な感覚に捉われていくのです!この表現体験、一度は皆さんに味わっていただきたいです! 内容、表現、ともに一級品の作品です。 2019年末に1巻が出たばかりと、すぐに追いつけます。ぜひ、手にお取りください!!

ゆるさば。

退行世界の絶景&美食満喫家族!

ゆるさば。 関口太郎
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

文明の断絶、野生の侵攻……変わり果てた世界に取り残された、父と小・中・高の三姉妹。どうやったら元に戻れる……いやそれより、どうやってここで生きていこう? ……と言いつつ、家族の他に誰もいないこの世界。どこに入っても、何をお借りしても自由!残された文明を遊ぶ家族は、基本楽しそうで、明るい。この自由感、例えば『地球の放課後』(吉富昭仁先生)と同等か、さらにゆるい。 父は「まずは食が大事!」と方針を定め、残された加工食品を費やしつつ、少しずつ野生からの食材調達を試みるが、次第に家族は、ある事に気付く。 「自然旨っ!」 娘達は、素材の味と父の調理技術で大地の恵みを満喫しながら、少しずつ新たな食材を求めて努力を始める。 それはすぐに上手くはいかないが、苦心と労力にはリアルが感じられ、少しずつ新たな挑戦が実る喜びも、共に感じられる。 そして家族が乗り出す世界は、文明の残骸に自然が侵食してきた退行世界。時が止まった寂しさと、巨大な文明を飲み込む自然の雄大さ。この魅力を理解するとしたら…… 恐らく、廃墟マニア。 荒廃した世界に圧倒される子供たちの小ささと、咎める者のない自由の中で躍動する、若い身体を交互に描写し、世界を生き生きと輝かせるこの作品。 絶望なんか追いやって、今を生きることを「ゆるく」満喫する家族と共に、退行世界を楽しみたい。 3巻までの感想。