生きのびるための事務

人生を変える《事務》の捉え方・やり方 #1巻応援

生きのびるための事務 道草晴子 坂口恭平
兎来栄寿
兎来栄寿

建築家で作家でアーティストの坂口恭平さん。マンガ好きにとっては『月刊スピリッツ』での連載のイメージも強いでしょうか。 そんな坂口恭平さんが、noteで執筆していた「生きのびるための事務」を『みちくさ日記』の道草晴子さんがコミカライズしたものがこちらです。 私は元のnote版を少し読んだ程度だったのですが、改めてこのコミカライズ版で通読すると本当に素晴らしい内容だなと感じると共に大きな勇気をもらえました。 皆さんは「事務」というとどういうイメージがあるでしょうか? 「メインの仕事とは別に存在する、やらねばならない多量の雑務」 「面倒くさいもの」 「堅苦しくて地味な仕事」 そんな風に捉えている人も少なくないと思います。かくいう私も、書類作成や確定申告などやりたくもない事務に時間と労力を割かねばならないのが辛く感じる人間です。しかし、この本を読むと「事務」というものの概念ががらりと変わります。 この書は、筆者が普通の就職はできず将来何をして良いのかも定まっていなかった大学4年生のときの筆者が、イマジナリーフレンドのジムを通してどうやって生きのびていけば良いのかを体得していった実体験を描いたものです。 家賃28000円の家に住み、日雇い仕事をして月給12万円ほどだった坂口さんが一体どのようにマインドと行動を変えて1000万円以上を稼ぎながら自由にやりたいことをして生活できるようになっていったのか。 ピカソやデュシャンなど、名だたるアーティストたちも事務をやりながら生きのびていっていたことに触れながら、 「≪事務≫こそが創造的な仕事を支える原点」 「≪事務≫は継続することでどんどん伸びていく」 「冒険があるところに≪事務≫がある」 「死ぬまで好きなことをやる続ける人生において、≪事務≫は好きとは何かを考える装置」 「会社設立は≪事務≫の中でも最高のブツ」 「やりたいことを最優先に即決で実行するために≪事務≫はある」 といったことを語っていきます。普通にイメージする事務とは、大分異なるのではないでしょうか。おおまかに言えば「スケジュール」と「お金」の管理こそが事務なのですが、それを具体的にどのように行なっていけば素晴らしい未来を切り拓いていけるのかが語られ、読んでいるだけでもワクワクします。 ジムは「イメージできることはすべて現実になる」と語りますが、私も他でもよく語られるその言葉は人生の指針のひとつでした。そして、そのイメージをどう具体化して実際の行動に移していくのか。そうしたところも実体験を通して非常に解りやすく記されています。 ・自己を肯定も否定もする必要はなくて、否定すべきは己が選んだ≪事務≫のやり方だけ ・才能というのは毎日やり続けられること ・≪将来の夢≫の前に≪将来の現実≫の具体的なヴィジョンを思い描き書き出し、≪将来の現実≫に楽しくないことは1秒も入れない といった部分も、とても共鳴します。 坂口さんは自身の電話番号を公開して(作中にも登場します)、自殺者を減らすための相談窓口「いのっちの電話」という活動も行っています。この本には、少々クセの強いところもありはしますが、それでもタイトルにある「生きのびるための」という部分が大きな意味を持つところもあります。文字通り、この本を読んだことで生きのびることができる人もきっといるはずです。 自分の好きなことだけをして生きていきたい人、将来何をして生きていけば良いのかわからない人にこの本が届いて欲しいです。すべては、≪事務≫のやり方で変えていけます。

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マンガトリツカレ男
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・読んだ直後に思ったこと ※一番大事!※ 最近読んだ中でも一番良かった。美容の内容はともかくなんでも試すという精神はいいな。おヤナさんに美容の説明をしていくマンガかなと思っていたがそんなことはなかった ・特に好きなところは? おヤナさんの存在。 ・作品の応援や未読の方へオススメする一言! まったく美容については知らない私でも読んで楽しめた。ただ本作を読んで思い出したのは昔トレーニングにハマっていた時期の俺とトレーナーの会話だ。 俺は俺であんまり努力せずに強くなりたかったのでトレーナーに色々質問したりしていた。でトレーナーから常軌を逸した話をきいて俺には無理だなみたいなパターンを終わる。 今でも記憶に残っているのはコーチが筋肉を肥大させたくて試した方法が「空腹の時間を作らない」みたいな感じで絶えず食事を摂るようにする。で寝てる時に空腹になるから枕元に食事を置いて寝て途中で起きたら食って空腹の時間を作らないをやったがいいが寝起きにすぐ飯食ったら気持ち悪くなって吐いたというエピソードだ

恋とか夢とかてんてんてん

こういう″人間″の″物語″を無限に読んでいたい #1巻応援

恋とか夢とかてんてんてん 世良田波波
兎来栄寿
兎来栄寿

何者かになりたくて何者にもなれない人。 報われないと解っている恋をしてしまっている人。 そうした人を優しく刺し穿つ力のある作品です。 貝塚道子29歳、通称カイちゃんは一流企業の食堂で最低賃金で働くフリーター。絵を描くのが好きで、他に取り柄はなかったけれど褒めてくれる人がいたから自分が存在していいと思えたという原体験を持っている女性。そんな彼女が心の支えにしているのが、その企業で働くイケメンの白鷺洸27歳。彼のSNSの裏アカウントを特定すると、 自分と同じ高円寺住まいであることが解り、こっそり遠巻きに眺めていた日々から、あるとき大きく運命が動き出します。 29歳で体験する初めての恋。すべてが行動力に結びついてしまうような無尽蔵のエネルギーが生まれるのも、ほんの少しの関わり合いが生まれただけで世界がまるで別次元のように輝きに満ちるのも、痛いほど解ります。それらを絵で演出したシーンは最高です。 とにもかくにもカイちゃんがあまりにも等身大の主人公で、弱い部分も狡い部分もたくさん見せてくるんですが、それでも愛して応援せずにはいられないんですよね。多くの人はどこかしらカイちゃんと自分が重なるところがあるのではないでしょうか。この絶妙なキャラ造形でもう勝ってると思います。 好きなシーンやエピソードはいろいろとありますが、特に好きなのはカイちゃんの新たな勤め先の同僚である、29歳の千林くん。彼は音楽の道を諦めずにいて、ある種自分と似た境遇にいる人物。そんな彼に対してカイが口にする言葉。それに付随する想いや感情。人間的な、あまりにも人間的な言葉と心で堪りません。 単純な画力の高低では表せない魅力も絵にあって、何よりマンガが上手いってこういうことだろうと思わせてくれます。こんな素敵な作品を描ける方が、どうして初単行本を出すまでに十数年もかかってしまったのか不思議でなりません。 かわいい絵柄ですが、深奥まで響く鋭利さを持った作品です。2月を代表するのはもちろん、2024年一押し作品にも数えていくことになりそうです。 あとがきマンガの中野ローカルな小話もすごく共感できて好きです。失われゆくものでもマンガの中にだったら永遠に残しておけるという感性が素敵です。