琥珀の夢で酔いましょう

付箋を貼って読む漫画

琥珀の夢で酔いましょう 杉村啓 依田温 村野真朱
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

こんなに寄り添ってくれるメッセージに溢れた、胸熱くなる作品ってそんなにあるだろうか……大好きすぎるので6巻までを再読して、大切なところに付箋を貼ってゆく。 クラフトビールの話題が満載な本作。しかしそれと同じくらい、苦しい人・心折れそうな人の再生を描いて切実な物語でもある。 就労地位格差、身体的特性、人種差別、男性性に脅かされる女性性、性差別……さまざまな苦悩を秘めて生きる、大人になりたての登場人物たち。しかし彼らはクラフトビール専門店「白熊」で、次第に前向きになる。 クラフトビールを盛り上げるべく、打たれる幾度かのイベント。好きなものを学び、広げながら、人と繋がる。出会いの中で、自由へと解放されてゆく人たちに共振する……何かを始めたくなる! 燻る現状を告白し合うことで、主人公の派遣デザイナー・七菜は女性俳優の慎と同志になる。ピアノを諦めた同級生に、写真家の鉄雄は作品で、いつの間にか何かを伝える。ページを捲るたびに心が沸き立つ。 一方随所で、冷静かつ痛烈に、私の中にある残酷さ、思い込みや偏見を言葉にして伝える。はっとさせられたり、胸が痛くなったり。それでも西陣麦酒のブランドコンセプト「多様性(ダイバーシティ)と社会的包摂(インクルーシブ)」を取り上げ、ビールを介した人の輪の中でエンパワーメントの連鎖が起こるビジョンを語る本作は、とても力強く優しい。 私の本は、付箋でいっぱいになった。特に3巻と5巻が多いようだ。お読みの方はどうだろうか。

河畔の街のセリーヌ

華やかなパリで、しずやかに沁みる

河畔の街のセリーヌ 日之下あかめ
兎来栄寿
兎来栄寿

『エーゲ海を渡る花たち』の日之下あかめさんによる待望の新作です。今回もヨーロッパが舞台となっており、19世紀フランスはパリの物語。前作に引き続き背景の描き込み密度が濃く、実際にパリの街を歩いているような気分に浸れます。 フランス北部のルーアンの隣村からパリに出てきた14歳の少女セリーヌが、パリの人々を書く本を書きたいものの体が不自由になってしまった70の老人から自分の代わりの目と脚となって、パリのさまざまな場所で見聞を広めてそれを報告して欲しいというミッションを請け負う物語です。 ミッションのために、お針子や雑役女中、百貨店の販売員など多種多様な職業体験をこなしていきます。職業マンガを読むのが好きな人も多いと思いますが、知らない世界のことを知るのは楽しいものです。そういう意味では、毎回違った職業体験を通して色々な世界を見せてくれるこの作品は一粒で何度も美味しいです。とりわけ、19世紀のパリということで現代とは多少感覚の違った部分もあり、その辺りのギャップも面白いものです。 そして、本作の特徴としては主人公のセリーヌの性格。非常に受動的かつ生真面目で、言われたことを頑なに守ろうとする一方で、表情に乏しく、空気を読むのは苦手で何を考えてるのか解りにくいところがある少女です。しかし、そんな彼女もさまざまな場所でさまざまな人と交流することによって少しずつ変化・成長していきます。 ひとつひとつのエピソードも味わいが深くしっとりと優しく心に沁み入ってくるので、セリーヌの様子をずっと見守っていたい、この物語が終わらず長いこと見続けてさせて欲しい、そんな風に思わせてくれる作品です。