月刊コミックガーデンの感想・レビュー13件付箋を貼って読む漫画琥珀の夢で酔いましょう 杉村啓 依田温 村野真朱あうしぃ@カワイイマンガこんなに寄り添ってくれるメッセージに溢れた、胸熱くなる作品ってそんなにあるだろうか……大好きすぎるので6巻までを再読して、大切なところに付箋を貼ってゆく。 クラフトビールの話題が満載な本作。しかしそれと同じくらい、苦しい人・心折れそうな人の再生を描いて切実な物語でもある。 就労地位格差、身体的特性、人種差別、男性性に脅かされる女性性、性差別……さまざまな苦悩を秘めて生きる、大人になりたての登場人物たち。しかし彼らはクラフトビール専門店「白熊」で、次第に前向きになる。 クラフトビールを盛り上げるべく、打たれる幾度かのイベント。好きなものを学び、広げながら、人と繋がる。出会いの中で、自由へと解放されてゆく人たちに共振する……何かを始めたくなる! 燻る現状を告白し合うことで、主人公の派遣デザイナー・七菜は女性俳優の慎と同志になる。ピアノを諦めた同級生に、写真家の鉄雄は作品で、いつの間にか何かを伝える。ページを捲るたびに心が沸き立つ。 一方随所で、冷静かつ痛烈に、私の中にある残酷さ、思い込みや偏見を言葉にして伝える。はっとさせられたり、胸が痛くなったり。それでも西陣麦酒のブランドコンセプト「多様性(ダイバーシティ)と社会的包摂(インクルーシブ)」を取り上げ、ビールを介した人の輪の中でエンパワーメントの連鎖が起こるビジョンを語る本作は、とても力強く優しい。 私の本は、付箋でいっぱいになった。特に3巻と5巻が多いようだ。お読みの方はどうだろうか。19世紀パリのお仕事事情河畔の街のセリーヌ 日之下あかめstarstarstarstarstar_borderゆゆゆ19世紀フランス・パリの雰囲気を体験しているような気持ちになれる漫画だと思う。 細やかなところまで描かれていて、見たことないパリを見たことがある気持ちになれた。 『月から来たような』と先生に表現された女の子セリーヌが主人公。 文字を書くことや裁縫、掃除など、基本的なことはひとつひとつ丁寧にこなすことができるので、ぼんやりとした子ではないのだけど、どこかぼんやりしている印象がある。 パリとは違う街から来た彼女を通して見る、パリを成り立たせている仕事。 100年以上前に存在した街の雰囲気を味わえるのはとても楽しい。 セリーヌの独特なテンポが、一緒に働く人の心を緩めるのもまた楽しい。 絵画のような表紙の漫画だと思って読み始めたのだけど、あとがきで漫画そのものが「印象派が描いたパリに対する憧れ」から描かれたとあり、直感が完全な的外れでなかったようでフフンと思ってしまった。「MARS RED」感想MARS RED 唐々煙 藤沢文翁ニーナ舞台は大正時代だし軍服を着たヴァンパイアが活躍するし…嫌いな訳ないわ(笑) 全3巻にスッキリまとまっているのでとても読みやすかった!パリの女性達を記述する少女 #1巻応援河畔の街のセリーヌ 日之下あかめあうしぃ@カワイイマンガ舞台は十九世紀、膨張をはじめたパリ。十四歳の少女が老紳士に請われるがまま、さまざまな職業を体験する物語。 端正で美しい筆致で、笑わない少女と職業夫人たち(時に男性とも)の出会いが描かれる。派手な演出は少なく、冷静に描かれることで、少女の心の僅かな機微、理性的で正直な思考と行動、その目で捉えた正確な人物像が伝わってくる。 少女は女性たちと触れ合い、少し何かを渡し、何かを受け取り、記述してゆく。そこには少女の頬の赤みのような、微かでも強いエンパワメントがある。 少女が何かの道を極める物語ではない。その歩みは彷徨と呼ぶのが相応しい。しかし民俗学者の採集のような地道さと、少女特有の丁寧さと鋭さで記述されたその彷徨が、どんなパリ職業婦人記として完成されるのか、考えるとワクワクしてしまう。 華やかなパリで、しずやかに沁みる河畔の街のセリーヌ 日之下あかめ兎来栄寿『エーゲ海を渡る花たち』の日之下あかめさんによる待望の新作です。今回もヨーロッパが舞台となっており、19世紀フランスはパリの物語。前作に引き続き背景の描き込み密度が濃く、実際にパリの街を歩いているような気分に浸れます。 フランス北部のルーアンの隣村からパリに出てきた14歳の少女セリーヌが、パリの人々を書く本を書きたいものの体が不自由になってしまった70の老人から自分の代わりの目と脚となって、パリのさまざまな場所で見聞を広めてそれを報告して欲しいというミッションを請け負う物語です。 ミッションのために、お針子や雑役女中、百貨店の販売員など多種多様な職業体験をこなしていきます。職業マンガを読むのが好きな人も多いと思いますが、知らない世界のことを知るのは楽しいものです。そういう意味では、毎回違った職業体験を通して色々な世界を見せてくれるこの作品は一粒で何度も美味しいです。とりわけ、19世紀のパリということで現代とは多少感覚の違った部分もあり、その辺りのギャップも面白いものです。 そして、本作の特徴としては主人公のセリーヌの性格。非常に受動的かつ生真面目で、言われたことを頑なに守ろうとする一方で、表情に乏しく、空気を読むのは苦手で何を考えてるのか解りにくいところがある少女です。しかし、そんな彼女もさまざまな場所でさまざまな人と交流することによって少しずつ変化・成長していきます。 ひとつひとつのエピソードも味わいが深くしっとりと優しく心に沁み入ってくるので、セリーヌの様子をずっと見守っていたい、この物語が終わらず長いこと見続けてさせて欲しい、そんな風に思わせてくれる作品です。終末世界を生きる人間と"生物兵器"たちを描く連作短編集 #1巻応援星をつくる兵器と満天の星 ~中村朝 連作集~ 中村朝sogor25この作品の舞台は、温暖化や資源の枯渇等、様々な要因から世界情勢が悪化し、世界中で戦争が行われるようになってしまった世界。 そんな世界で生活する人々を描く連作短編集です。 全ての物語に大きく関わってくるのが、単行本の最初に収録されている物語『アップルピエタ』の主人公である赤井柊という男性です。 彼は父親が38人もの人間を殺害した快楽殺人犯で、そのせいで学校を卒業したあとの進路が制限されてしまっていました。 そんな彼と、ある組織が研究していた戦争用の人造人間の試作品「インク」との出会いが描かれる物語ですが、物語の導入からは予想することができない真実がこの物語には隠されています。 この物語を筆頭に、終末世界を舞台にしたSF的な要素を織り交ぜながら、人と人の結びつきや生きる上での倫理観を揺さぶる、そんなエネルギーを秘めた短編集です。懐かしい漫画を読むPEACE MAKER 鐵 黒乃奈々絵名無し昔読んだ漫画がふと読みたくなったりすることありますよね ひっさびさにpeace maker鐡読んでみたら懐かしくて…! 昔読んだ時はかっこよくて何回も読み直した記憶あります。 新撰組ネタの漫画に間違いはない 普通新撰組と言ったら人気のあるのが沖田総司、土方歳三とかですがそれ以外のキャラもキャラ立ちしてるので飽きずに読めます。 まだ続巻でるっぽいのでこれを気に買い直して見ようかな〜と。 黒いとつくにの少女 ながべ名無し人外と少女の何気ない日常漫画だと思っていたけど、立派なダークファンタジーだったんですね。見た目も内容もダーク&ダーク。黒の子たちが集まってる絵は黒すぎて何がなんだか分からない。 とりあえず3巻まで読みましたが、毎巻気になるところで終わってるので4巻以降、一体どうなるんだ…という気持ち。2600年の時を超えたアッシリアとギャルJKの邂逅ネオ・エヌマ・エリシュ マミーsogor25瞬間記憶能力を持つギャルJKが古代アッシリア帝国に飛ばされて王に見初められる、という設定盛り盛りな作品。 だけど一本芯が通っていて聡明なところも見せるギャル・英里のキャラクターと、巻末に記載された大量の参考文献で裏打ちされたオリエントの描写が不思議な相乗効果を生み出している。 ファンシーな絵柄で作品全体のリアリティラインが下がっているというのもあるけど、古代人の価値観と英里の熱血気味の性格がいい感じに好対照で、ギャルJKがアッシリアの王や戦士たちと対等に渡り合うという一見荒唐無稽な展開が作品としてしっかり成立している、意外な読み応えのある作品。 1巻まで読了気弱なドラゴンのマイホーム探しドラゴン、家を買う。 絢薔子 多貫カヲ六文銭もうタイトルどおりです。 自堕落ゆえにハンターに卵をとられ、親から勘当されたドラゴン「レティ」が、自身の安心安全を求めて家を買うというお話。 ファンタジーならでは世界観や細かい設定をギャグテイストに巧みに使って「ドラゴンの家探し」をする展開が秀逸。 ダンジョンの如く罠だらけの神殿を紹介されたり 山頂に建てたことで逆に有名になって、勇者がひっきりなしにやってきたり、追い払ったら同族に慕われたり 「召喚獣」としてバイトしたり ゆっくり暮らしたいだけなのに、何かしら欠点がありうまくいきません。 気に入ったマイホームを探す大変さは、人間もドラゴンも変わらないですね。 ドラゴンという一見ごついフォルムですが、優しくて気弱なところが不思議と可愛くて、応援したくなります。 一緒に物件探しを手伝ってくれる、ちょいドSなエルフとのコンビもまた良いです。 ただのビールマンガと侮るなかれ琥珀の夢で酔いましょう 杉村啓 依田温 村野真朱sogor25クラフトビールがテーマのマンガでありながら、見ず知らずだった3人が出会って居酒屋をプロデュースして再建していく物語としても面白い。 1話の導入以降、クラフトビールの紹介メインで既存の酒呑みマンガに近い内容が展開されるが、徐々に主人公3人の人間ドラマへとシフトしていく。ビールから興味を持って作品を手に取ったら気付いたら作品の魅力に惹かれていく構成、特に物語の明確な変換点になっている第5話までの流れが見事。 ビール好きや舞台の京都が好きなら勿論、「Artiste」のような凸凹な関係のキャラたちの成長譚・群像劇が好きという方にもお薦めしたい。 1巻まで読了。「鬼に横道なし」!鬼カッコイイ復讐譚開幕鬼哭の童女 異聞大江山鬼退治 麻貴早人mampukuツイッターで公開されていた1話を読んで即購入。 源頼光麾下、渡辺綱擁する四天王に討伐された悪鬼・酒呑童子が主人公。おどろおどろしいタイトルに鬼気迫る少女の表情、そして帯文「源頼光、貴様を殺す!」。いざ中身を読んでみると、これらから受ける印象とはかなり違った主人公像が浮かび上がります。 とくに第2話で登場する「源頼光、貴様を殺す!」というセリフ、「そうきたか!!」と天を仰ぎました。めちゃくちゃエモいので必見です。 この悲痛な復讐譚はまだ始まったばかりですが、とにかく続きが楽しみです。とつくにとつくにの少女 ながべ大トロ絵本のような絵とダークな世界観が素敵です!
こんなに寄り添ってくれるメッセージに溢れた、胸熱くなる作品ってそんなにあるだろうか……大好きすぎるので6巻までを再読して、大切なところに付箋を貼ってゆく。 クラフトビールの話題が満載な本作。しかしそれと同じくらい、苦しい人・心折れそうな人の再生を描いて切実な物語でもある。 就労地位格差、身体的特性、人種差別、男性性に脅かされる女性性、性差別……さまざまな苦悩を秘めて生きる、大人になりたての登場人物たち。しかし彼らはクラフトビール専門店「白熊」で、次第に前向きになる。 クラフトビールを盛り上げるべく、打たれる幾度かのイベント。好きなものを学び、広げながら、人と繋がる。出会いの中で、自由へと解放されてゆく人たちに共振する……何かを始めたくなる! 燻る現状を告白し合うことで、主人公の派遣デザイナー・七菜は女性俳優の慎と同志になる。ピアノを諦めた同級生に、写真家の鉄雄は作品で、いつの間にか何かを伝える。ページを捲るたびに心が沸き立つ。 一方随所で、冷静かつ痛烈に、私の中にある残酷さ、思い込みや偏見を言葉にして伝える。はっとさせられたり、胸が痛くなったり。それでも西陣麦酒のブランドコンセプト「多様性(ダイバーシティ)と社会的包摂(インクルーシブ)」を取り上げ、ビールを介した人の輪の中でエンパワーメントの連鎖が起こるビジョンを語る本作は、とても力強く優しい。 私の本は、付箋でいっぱいになった。特に3巻と5巻が多いようだ。お読みの方はどうだろうか。