なんくるなんない!

思春期の娘と父×超能力×沖縄 #1巻応援

なんくるなんない! 野原多央
兎来栄寿
兎来栄寿

「なんくるないさー」って、口に出して言いたくなるウチナーグチ(沖縄方言)の筆頭だと思うんですよね。響きが良いですし、その精神性も個人的にとても好きです。 こちらのタイトルは「なんくるなんない」。これも語感はかわいいですけど、なんくるなんないのはちょっと困ります。でも、それも人生。 本作の主役は、38歳の自衛隊の父・比嘉雷吉とその娘で13歳の中学生ハルコ。思春期真っ只中のハルコは、父親のことがどうにも苛立たしい。朝はパンにして欲しいのに、いつも米を出してくる。深い事情を知らないのに干渉してくる。雷吉はハルコのことを愛しているのに、昔から激務でどうしても構っていられないことがあり、寂しい想いをさせてきてしまってきた過去がある。どこにでもある父娘の、愛しく悲しいすれ違いがあります。雷吉の視点でもハルコの視点でも、両方読めて両方の気持ちが解ります。 そんな関係性であったある日、ハルコの身の回りに不思議なことがたくさん起こると思ったら、何とハルコは超能力に目覚めていたことを自覚します。帯文をONEさんが寄せているのも納得です。最近『青ブタ』シリーズを読み始めたので、「思春期ならそういうこともあるよな」と勝手に納得してしまいました。 そして、ハルコ以外にも次々とさまざまな能力を持った存在が現れます。 この作品で面白いのは、雷吉のキャラクター。雷吉自身は優秀な自衛隊員ですが、超能力などは微塵も使えません。しかし、その持ち前の超現実主義な性格と訓練された身体や技能を使って未曾有の現象に対してもできうる限りの対処を行っていきます。サイキックvs普通のおじさん。この不思議な面白味が癖になります。本人は大真面目にやっているからこそ面白い、という類のものです。 立脚点が父と娘という関係性なので、そうした家族の絆にまつわるドラマの部分もやはり見所です。 随所でクスッと笑える部分があったり、一部のキャラクター造形であったり、あるいは意外性のある展開や沖縄という風土に基づいた設定など多くのエンターテインメント性が込められています。 今後も注目していきたい、カラフルな味わいの作品です。

母の元カノと暮らした。

百合と不思議な家族のカタチ #1巻応援

母の元カノと暮らした。 宮城みち
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

母を亡くして引き取り手の無い中学生男子・ゆうくんは、母のはとこの女性・建子(やすこ)に引き取られる。ゆうくんが共に暮らすことになる建子と、同居人のおりょうとさゆりの三人にはある共通点があった。それは、三人ともゆうくんの母親の、元カノという事。 女性と付き合っていたのに、男性と結婚して子供まで産んだゆうくんの母親。様々なわだかまりがあるはずなのに、何故か楽しそうな三人の共同生活。そこにゆうくんが加わる事で、思い出は溢れ出すし三人は張り合い出すし……と動き出す一方で、ゆうくんの保護者として緩やかに協力する。 何となく気の合う「元カノ同士」という連帯は穏やかで良い。三人ともゆうくんの母親に多少未練があるのと、既に家族として安定した関係を築いているためか、この三人間での恋愛が示唆されないのも、子育て物として安心して読める(まぁ先は分からないが)。 三人がゆうくんの母親の思い出を語る時、そこには優しい愛がたくさんある。ゆうくんは三人それぞれの百合を増幅し強化する存在だし、クラスの女子関係も繋げる存在。 沖縄に多く見られるらしい現代の中学校での「姉妹制度」も描かれる本作、百合マンガらしく見えないかもしれないが実際は、とても百合に溢れた作品なのだ。 ※一時機Twitterで話題になっていた沖縄の姉妹制度についてのマンガを描かれたのも、本作の作者・宮城みち先生だったりします。 https://realsound.jp/book/2021/12/post-927924.html

腸よ鼻よ

内臓までエンターテイメントにできる天才

腸よ鼻よ 島袋全優
野愛
野愛

世界一面白い闘病漫画ここにあり。 漫画家を目指すうら若き女の子に突然訪れた悲劇、なんだけど読んだら絶対笑う死ぬほど面白い漫画です。 漫画を描いては入院し手術し、退院して漫画を描いては入院し…という楽しくないはずの日常をひたすら楽しく見せてくれます。 クソな医者にあたったことも、駅のトイレ使っただけで感染症になったことも、成人式行けなかったことも全部全部笑いにするんだから全くん(お姉さんの呼び方で呼びたい)すげえな!かっけえな!ってなります。 全くんがストーマの袋たっぷんたっぷんにしながらプロレス観戦して一緒に写真撮ったスーパーマンタロウの中の人より元気に生きてるもんな。マンタロウの中の人は最近病んでてちょっと心配。嫁かわいいのにな。 いちばん笑ったエピソードは美容師にリーゼントにされて海に行った話なので病気あんまり関係ないですね。 腸があろうとなかろうとこの人は世に出ていただろうという面白さ。自分の内臓までエンターテイメントにできる人間なんてなかなかいないよ、天才としか言いようがない。 ガンマと言えば腸よ鼻よとはずネジが二大巨頭よね。異論は認めません!

はるかなレシーブ

二人の絆が、ボールを繋ぐよ!

はるかなレシーブ 如意自在
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

とかくマスコミやカメラ小僧の下衆な視線に晒されがちな、ビーチバレーという競技。本当はこんなにも魅せるスポーツなのかと、本作を読むと驚かされる。 沖縄の青い空、白い砂浜。 そこを躍動する若い身体! 柔らかい砂地のおかげで、ハードに転がれる特性を活かして、とにかく女子高生達のプレイが伸びやかで、大胆だ。 様々なアングルで、プレイの迫力と勢いを描き、試合をグイグイと読ませる。線が細い事を除けば、マガジン等で連載でもおかしくない、勢いのある表現だ。 一方で、例えば試合用の水着を買うのに、機能性も重要だけど可愛さも大事だよね、という感覚はスポ根的感覚を和らげてくれる。 一度は挫折したかなたの復帰を、元気に後押しするはるかと、それに応えるかなた。二人の息の合ったプレイと、醸成される信頼関係に胸が熱くなる。見ているこちらが照れ臭い二人のやり取りは、明るく真っ直ぐなロマンシス。 (ロマンシス=女子の強固な友情、恋愛に見える程の親しい関係。日本人による造語) 戦略的な部分もかなり緻密で、ビーチバレーの面白さに溢れているこの作品。見開きがド迫力なので、大きめのタブレットで見ると最高!