トーマの心臓
「トーマの心臓」初読感想
トーマの心臓 萩尾望都
toyoneko
toyoneko
私は、自分では漫画オタクのつもりなのですが、結構読んでない作品はあります。特に萩尾望都作品。 大学の漫研で萩尾望都を知って、いろいろ人に勧められましたし、私の嫁も萩尾望都が大好きですし、以前在籍していた職場の上司も萩尾望都が好きでしたし、その他にも、業界での圧倒的な評価とか、「漫勉」のときのTwitterの盛り上がりとか、そういういろいろがあって、知識としては、凄いというのは分かってました。 でも、ほとんど触れてこなかった。 以前、「ポーの一族」を少しだけ、あと「半神」を読んで、良いには良いのだけど、それほどのものかな…?と感じて、それっきりでした。 「百億の昼と千億の夜」は好きでしたが、でもこれはどちらかというと光瀬龍作品でしょうか。 ところで、最近、「トーマの心臓」のプレミアムエディションが発売されました。 https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784091793799 雑誌サイズでカラーも完全収録の凄いやつですが、これを嫁が買ってきたんですよね。 ということで、いい機会だから、遂に「トーマの心臓」を読んでみた、という話です。 そのうえで、感想ですが… 凄かった。これは凄かったです。まごうことなき名作でした。 まずストーリー展開やキャラクター造形が上手い。単純に面白い。 しかしそれ以上に、「愛される資格」とか、「愛に殉ずること」とか、重すぎるけど一方で青臭くもあるテーマを、 ギムナジウムという世界観を中心に据えることで繊細に描ききるという手腕が衝撃でした。 今読んでもこんなに衝撃なのだから、直撃世代がどれほどの衝撃を受けたのかがわかります。 やはり萩尾望都作品はいろいろ読まなけばならないと思い知らされました…。読みます!とりあえず一度ポーの一族を読みます! 読んだことない方もこれを機に是非…! でも幾つか注意点があります。 1 絵は大変綺麗ですが、さすがに古いです。最初は面食らうかもしれません。 2 この時代の少女漫画はみんなそうだと思うのですが、少年愛(BL)は「当然のもの」として描かれます。 これはもう、そういうもんだと思ってください。 3 プレミアムエディションはとても良い本ですが…これでもかというくらい、でかくて重いです。百科事典みたいです(それでも一気に読み切ってしまうほど面白かったのですが。)。 正直、コレクション用です。最初に読むなら、電子版とか文庫版をおすすめまします。
旧約聖書 創世記編
人はなぜ漫画家になるのか
旧約聖書 創世記編 笹野洋子 ロバート・クラム
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し
ロバート・クラムの漫画のことを初めて知ったのは、寺山修司の文章だった。 いや、正確に言うと、寺山の文章を読んだ時には、それがクラムだとは分かっていない。 寺山は、「オランダから出ている地下新聞「SUCK」にのった「JOE BLOW」という漫画」として、作者名も記さずそのストーリーを書いていて(「サザエさんの性生活」)、それが記憶に残っており、後に原書のクラム単行本を読んでいて、「あれ? これ知ってる…寺山が書いてたヤツじゃん」となったのだ。 当然、クラムは、アメリカはサンフランシスコで活動してた漫画家なのだから、オランダのわけがない。「Joe Blow」の初出は寡聞にして知らないが、たぶん自らが発行に参画していた「ZAP」あたりだと思う。それが、回り回ってオランダのアンダーグラウンド・メディアに転載され、それをたまたま寺山が見た、ということだろう。 (「Joe Blow」に興味があるかたは、河出書房新社刊『ロバート・クラムBEST』柳下毅一郎編訳に収録されているので、古本で探してみてください) 要するに、ロバート・クラムの作品は、ミッドセンチュリーのアンダーグラウンド・シーンで一際目立つアイコン的存在だった、ということだろう。 (寺山は、「Joe Blow」の作者がフリッツ・ザ・キャットの生みの親だったり、ジャニス・ジョプリン『チープ・スリル』のジャケットを担当しているとか、全然知らなかったみたいだが) 本書『旧約聖書 創世記編』は、クラムがフランスに移住して後、今世紀になってから描かれた作品で、日本版はなんでか知らないがハリポタの静山社から出ている。 クラムの執拗で変態的かつとても味のある描線で、聖書を「一字一句、できる限り忠実に再現」したもので、この稀代の表現者のテイストを味わうには格好の一冊だし、なに気に、「創世記」読んでみようかなあ…と思う人にとって最適のコミカライズだったりします。 それはともかく。 ロバート・クラム本人を追ったドキュメンタリー映画『クラム』(テリー・ツワイゴフ監督)というのがありまして、これを観ると、「ああ、漫画家というのは、本っ当っにっ因果な商売なんだなあ」と思います。 もちろん、アンダーグラウンド・コミック・シーンの巨匠であるクラムですから、実にエクストリームに悲惨かつユニークで、それを普通の漫画家と一緒にしちゃあかんとは思うのですが、その生まれ育った家庭環境(いや、本当にすごいですよ、母とか兄ふたりとか)を思うとき、そこに「なぜ人は漫画を描くのかということの真実」を、どうしても感じてしまうのです。 『クラム』はすごい(ヤバい)映画なので観ていただければと思うのですが、要するに、 “狂った家族(世界)の中で、唯一ほんの少しだけまともだったロバート・クラムだけが、漫画を描くことでその狂気を外在化し、世界と戦い得た” ということで、そしてそれは、多かれ少なかれすべての漫画家にある「描く理由」だ、と私は思わざるをえないのですね。 いやあ、漫画家ってすごい。