秘身譚

古代ローマが舞台の重厚ポリティカル・アクション

秘身譚 伊藤真美
ANAGUMA
ANAGUMA

カラカラ帝崩御直後の古代ローマの混迷を、ローマ属州の軍指揮官ポリオと謎めいた“少年”エラの視点で描く歴史ファンタジーマンガ。 エラは月の満ち欠けがもたらす特殊な身体能力が備わっているバトル担当。ツインテールがかわいい。 細っこい身体から素早い身のこなしで次々敵を倒していく見ていて気持ちいいタイプのアクションが確かな画力で描かれてます。なかなか攻めた設定のキャラなのでこれは読んで確かめてほしいですね…! 一方のポリオはエラの力を利用しながら政争の渦中に飛び込んでいき、様々な関係者をときには懐柔、ときには暗殺して帝国内で成り上がるのが目的。 巻末の注釈と考証も充実していて、ローマ帝国の政治情勢、社会状況がたっぷり学べるマンガです。 1巻ではエラの能力の秘密などさまざまな謎が散りばめられて、ポリオの政治的駆け引きと合わせて「これからどうなっちゃうの!?」というところで終わるのですが…。 2019年7月現在2巻が出ていないんですよね…! そんな…どうにか、ならんのか…!! (作者の伊藤真美先生は本作以外にストリートファイターのマンガなど描かれているようですので、望みを捨ててはいけない…?) 読み終わったら巻末予告の「2011年夏、2巻発売」の文字を凝視してしまうこと必至の「未完の秀作」です。

拳闘暗黒伝セスタス

壮大な歴史格闘劇!

拳闘暗黒伝セスタス 技来静也
ひさぴよ
ひさぴよ

紀元50年頃、ネロ帝の時代の古代ローマを舞台に、少年拳奴セスタスが拳闘を通じて過酷な運命に立ち向かう物語。奴隷のセスタスに自由は無く、奴隷主にこき使われながら、拳闘の練習に励みつつ、試合があるときは闘技場に連れて行かれ、命懸けで闘わされます。負けた敗者は即処刑されることもあり、生きるためには絶対に勝ち続けなければいけない…。『拳闘暗黒伝セスタス』では、常に緊張感が張り詰める展開が多いです。 体格もメンタルも弱々しいセスタスは、師匠ザファルの指導によって少しずつ腕を磨いていくのですが、その指導法というのが、完全に近代ボクシングや格闘技の理論がベースになっていて、非常に合理的で、素人の私にも分かりやすい説明になっています。(古代ローマにそんな技術があったかどうかは置いといて)現代の技が、古の強者達に果たしてどこまで通用するのか?という魅せ方は、この漫画において最も面白い部分のひとつだと思います。そして、ザファル先生によるアドバイスと至言の数々は心に刺さるものがあります…。優しい純粋なセスタスと、厳しい指導者(トレーナー)との関係性には唯一無二の素晴らしさを感じます。 格闘技漫画でもあるのですが、同時に壮大な歴史ロマンにも溢れていて、愛憎の念が入り混じった濃い人間ドラマもあり、といろいろ盛り沢山の漫画です。 特に、時代考証については、背景の一つ一つ、衣服や食事など細かいところまで描かれ、ローマ、カプア、ポンペイ、ナポリなどの都市文化の描き分けは見事です。名著「ローマ人の物語」(塩野七生)を読んでいるとより深く楽しめると思います。必ずしも格闘技メインの話とはならないのですが、基本的にはセスタスと、ライバルであるルスカやエムデン、そして皇帝ネロを中心としたビルドゥングスロマンであり、彼らを取り巻く複雑な人間関係が物語に奥行きを与えています。 男だらけのマッチョ漫画というわけでもなく、美しい女性も多く登場します。悲劇的でロマンティックな恋愛模様を楽しむも良しです。ネロの母であるアグリッピーナの人物描写は本当に凄くて、そこだけでも別の漫画として成立する面白さです。一人ひとりのキャラクターについて語りだすとキリがないのですが、とにかく多彩な人物がひしめき合っていて、それぞれの人生を必死に闘っているのがセスタスという漫画なのです。