さみしさの音がする

痛切で悲愴で珠玉の文学的百合

さみしさの音がする シギサワカヤ
兎来栄寿
兎来栄寿

今日は中村明日美子さんのお誕生日だそうで、おめでとうございます。 個人的に『楽園 Le Paradis』といえば中村明日美子さん、そして何と言っても創刊号から表紙を描いているシギサワカヤさんです。 シギサワカヤさんの描く諦念と寂しさを感じさせる瞳が昔から好きです。 そして、少しずつ降り積り音もなくすべてを覆い尽くす白雪のように、4年にわたって少しずつ少しずつ積み重ねられ昨年完結したこの『さみしさの音がする』は、シギサワカヤさんの作品の中でもとりわけ好きな物語となりました。 ふたりの女性の深く長い関係性を描いた作品で、いわゆる百合にカテゴライズされる物語ではあります。しかし、この物語においては極めて現実的な要請や抑圧から、一般的な百合ジャンルの作品ではまずされない選択を主人公は行います。それがこの作品ならではの痛切な音色となって心に響いてきます。 田舎故の閉塞感も強く感じさせる上に、優しい肉親の善意の言葉までもが地獄に直結する呪いとなる様の苦しさたるや。どう足掻いても、幸せな未来が見えないふたりはどのような結末を迎えるのか。 私も田舎の旅館で働いていたので、田舎の旅館の娘であるという設定とそこから来る悩みにも人一倍共感しました。 また、単行本の描き下ろしが非常に秀逸でこれによって真に物語が完結した感覚を得ました。最後に演奏される曲がたまたま私が大好きな曲であることもあいまって、深く刺さった作品でした。 狂おしい音色に心掻き乱される百合が好きな方にお薦めしたい、しんと冷気が身を裂く冬に読むのが相応しい1冊です。

たいようのマキバオーW

文太ことヒノデマキバオーの物語、完結!

たいようのマキバオーW つの丸
酒チャビン
酒チャビン

初代から続いてきたマキバオー一族の物語ですが、こちらの作品で文太ことヒノデマキバオーの物語は一旦完結です!!! 前作「たいようのマキバオー」のラストでいよいよG1馬となった文太が、今度は国内最強からの世界最強を目指します!!! 初期に相手にもされてなかった強力なライバルたちも、すっかり衰え、立場も逆転し、引退していくなか、文太はさらなる高みを目指します!! 全般を通して上質なスポ根マンガなのですが、つの丸先生特有のギャグエッセンスも効いていて、心地よいです。 最終巻のめちゃ緊迫している引退レースの本馬場入場のシーンに、渾身のギャグがぶちこまれてるのがすごくギャップがあり、面白かったです。引退レースの結果もすごく良かったと思います。 読み終わった後は、上質のサウナと水風呂からあがったような心地よい疲れとやりきった感があり、毎回読破後はしばらく呆けてしまいます。 一点、★をマイナスするほどではないのですが、たれ蔵が結構有能なトレーナーになっていてちょっと違和感というか、寂しいです・・・ 「んあ〜〜?〇〇なのねん。」的な部分に愛くるしさを感じていた身としては、親戚の子供がちょっと見ないうちに身長170を超え、声変わりしていたときの気持ちになります。成長といえば成長で、それ自体良いことなのかもしれませんが、何か複雑です。

ブレイクダウン

あれサバイバル?やっぱブレイクダウン!

ブレイクダウン さいとう・たかを
酒チャビン
酒チャビン

サバイバルとブレイクダウンの話がごっちゃになったため再読しました。こちらはちょっと新しい(1995〜1997年)のと、少し上の読者層を想定されてるとのことです。なので、少しムードは暗い感じがします。暗ければ暗い方がいいという方は、こちらが好みだと思います。ただ上の読者層向けとはいっても、さいとう先生特有のエロ描写は今作は控えめだと思います。 わたしは個人的には記憶で区別がつかなくなってるほど両方とも同じくらい好きです。 執筆当時の時代を反映してか、地球がピンチになる理由が、サバイバルは地震(+核爆弾?)なのに対して、ブレイクダウンは彗星の衝突(米軍がミサイルを当てたのが原因で軌道が変わった)となっています(1995年は阪神大震災の年なのですが、シンプルに地震にするとちょっとアレだったのかもしれません)。 というかサバイバルって明確な原因の描写がなかった気がしますね。地震とか核爆弾とかの説は出てましたが・・ あとサバイバルでは自然の中で生き抜く描写が多かったですが、ブレイクダウンでは崩壊した街が舞台のシーンが多く、この辺りも世紀末感が出てていて個人的には好きです。