陽だまりの樹

手塚先生による幕末もの

陽だまりの樹 手塚治虫
酒チャビン
酒チャビン

1981年〜1986年にビッグコミックで連載ということで、時代的にはキャプテン翼と同じ連載開始年ですね。感慨深いです。 内容は、鉄板のビッグコミックものですので、ハズレがありません。 よく「手塚先生の先祖(曽祖父)の手塚良庵を主人公とした物語」「手塚治虫のルーツを描いた作品」みたいに紹介されたりするのですが、あまりそこがメインのテーマではないので、ミスリードな感じがします(メインキャラとして手塚良庵はガッツリ出てきますが)。 手塚良庵も結構好感が持てる性格(女好きでだらしないが、やるときの集中力がやばい)で愛せるのですが、もう一人の主人公の伊武谷万二郎もそれとは反対(不器用で融通が効かない正義漢)ですが、かなり愛せます。 二人はいつも殴り合ってるのですが、本当は仲良くて尊敬しあってるところが良いですね。退廃の時代に咲いた一輪の友情の花ですね。現代にこれが連載されていたらBLの同人誌が多数作られていてもおかしくないです。 色々な人に目をかけられるほどの資質を持った万二郎でしたが、その性格のためにあまり出世せずに、最後は悲しい最期を遂げてしまいます。わたしも出世とかは良いので、自分に正直に生きようと思いました。

ゴージャス★アイリン

世界のアラキ先生の初期短編集!!デビュー作も!!

ゴージャス★アイリン 荒木飛呂彦
酒チャビン
酒チャビン

世界の荒木飛呂彦先生ですが、当然その先生にも若手の頃はあられました。その当時の作品です。 アウトロー・マンというデビュー2作目の作品は、集英社の引っ越しの際に原稿が紛失したようで、掲載当時の誌面(ジャンプ?)からデジタル複製されたもので、ちょっと画質が悪いです。バージョンによって収録されていたりされてなかったりするようなのですが、こちらの電子書籍版には、キッチリ収録されておりました。 あと書き下ろしなのか、冒頭に今の画風で書かれた美女が載っています。ぱっと見、徐倫ぽくも見えるのですが、突然の出演すぎるので、誰なんでしょうね??謎です。 内容は、基本的にはJOJOに至るまでのある種修行時代の作品ですので、やはり世界のアラキ先生といえども粗さは否めないのですが、初期の西部劇やSF色が強い作風から、徐々に頭脳戦や特殊能力戦といったJOJOの作風に近づいていってるのが伺えるので、ファンにとっては貴重な資料だと思います。 個人的には魔少年ビーティーが好きなので、それの連載開始前のパイロット版が載っていて満足です。というか、もはやこれは魔少年ビーティーの単行本に収録した方がいいと思います。

星のラブドール

もしも子供に「オナホールって何?」と言われたら

星のラブドール ぴのきみまる
兎来栄寿
兎来栄寿

あなたは何と答えるでしょうか。 主人公の初等科の少年・はるひとが、クラスメイトのじゅんちゃんに「オナホールって何?」と訊ねるところからこの物語は始まります。 表紙からして、非常にファンシーな色彩と絵柄で、キャンディや星が舞い、犬が笑い、クマのぬいぐるみが置かれている中で、よくよく見ればローターやブラジャーとパンティが散在。中表紙にも、表紙と同じクマのぬいぐるみとローターとパンティが。目次にはタヌキやバイブも追加。 でも、考えてみればパンティだって可愛さを追求して作られているものですし、ローターもバイブもピンクなのはある種の可愛さを指向しているからかもしれません。つまり、可愛いが敷き詰められた表紙や中表紙や目次と言えるでしょう。 本作の見所は、そんな前面に押し出された可愛さが溢れる中で、ラブドールのダミィに無垢な少年が恋をしながら性的に教育されていくところです。 まだ年端もいかないはるひとにとっては、「ぬるぬるローション」は回復アイテムに(語感もポーションみたいですしね)、光るバイブは武器に見えてしまいます(動くのはカッコいいですしね)。 子供用に得られる情報が制限されたスマートフォンを握りしめながら放たれる 「″ラブ″は″愛″で″ドール″は″人形″… 愛の人形… 愛の人形 すてきじゃないか!」 や、 「″せいし″が作れるようになったら一番にダミィにプレゼントしよう…」 など、純粋無垢なはるひとの言葉には、ダミィと同じように笑いが溢れてしまいます。しかしながら、根源的な部分に立ち返ればなぜそういったことを「おかしい」と思ってしまうのか。新たなる生命を誕生させる営みは神秘的で尊いものではないのか。 「恥ずかしい」という人間だけが持つ感情は、二足歩行を始めるようになったのと共に発達しヒトの生殖行動にまつわることは隠すのが自然となったと言われています。ほとんどの人がその営みの下で誕生している筈なのに、社会道徳的にはそれを忌避させるのが自然という矛盾は、色々な歪みを生みながら今日まで至っています。 はるひとのピュアな眼差しには、笑いをもたらすと共に普段は封じ込めている問いや真理を剥き出しにする力があります。 「シュールな笑いを誘う作品」や「性癖を捻じ曲げられる作品」といった見方もあるかもしれませんが、丁寧に誠実に大切なテーマに取り組んでいる作品であると思います。

氷の城壁【タテヨミ】

氷が少しずつ溶かされていく

氷の城壁【タテヨミ】 阿賀沢紅茶
Nano
Nano

「正反対な君と僕」の阿賀沢紅茶先生の別作品とのことで、前々からタイトルは目にしてたけど読んでみたらめちゃくちゃいい…まだ序盤の序盤までしか読めてないけどこゆん…!!みき…!!ヨータ…!!みなとぉ…!!ってなってしまう(伝わって欲しい) マンガMeeで読んでいて、少女漫画かな?と思って読み始めたので、冒頭部分で「氷のように人に冷たく接してしまう主人公、だけど本当は…」みたいな甘々な恋愛漫画かと思ったんだけど想像をはるかに超える良さがあった…恋愛だけでなく友情がもうさ…あ~~~!!高校生、青春、いいね…はぁ…。 作中で「高校生ってまだ学校ていう狭い世界でしか生きていない」みたいな話をするんだけどまさにそうなんだよね…本人たちには分からないんだけど本当にそう思う。学校が全てだから学校で嫌なことあるとすごくつらい。学校って楽しいけどそれだけでは絶対ないし、家庭的な事情も一人ではどうにかできなかったり、みんなそれぞれ息苦しさを感じてるんだよなと読んでて共感したし胸がぎゅっとなった。 すごくゆっくり読み進めているけど、こゆん達4人が成長する様を最後まで見届けたいと思います。

自伝板垣恵介自衛隊秘録~我が青春の習志野第一空挺団~

ついに習志野第一空挺団シリーズが単行本にまとまった!

自伝板垣恵介自衛隊秘録~我が青春の習志野第一空挺団~ 板垣恵介
名無し

板垣先生の陸上自衛隊時代の実話を漫画化した読み切りシリーズ。 名高くもこれまで読む機会がヤングチャンピオンでの発表時と一部での再録ぐらいだった98年と99年の、そして22年に少年チャンピオン本誌にそれぞれ2作ずつ発表した新作を単行本にまとめている。 富士山周辺を丸一周(!)する過酷な行軍を描いた「200000歩2夜3日」そして高空を飛ぶヘリコプターから身一つでダイブする訓練にはじめて臨んだ時の体験を描いた「340メートル60秒」は板垣全盛期の熱量タップリで圧巻の読み応え! パラシュートの訓練でいつもヘタレだった同僚が勇気を出して訓練に臨む姿に感化されるくだりがもう最高にかっこいいんだな! この2作を手軽に読めるようになっただけでも大変喜ばしいことと思う! (ここから先は蛇足と捉える人もいると思うので読みたい人だけでどぞ・・・) さて新作の方に話を移すと、文字通り自慰な漫画である「210日900m/m以上?」に関してはノーコメントでいきたいが、「70分600cc以上?」は単行本で「200000歩2夜3日」のあとに前日譚として載っていて、この順番だと初出時よりはしっくり来るなーという印象を持った。同じ生理現象を扱っていてもこちらの方が身近というのもある。あの行軍をまさかXX状態のまんま完遂したとは・・凄いぜセンセイ。 通しで読んでみると、20世紀の2作品ではストイックな努力や素朴な友情、勇気など少年漫画的な王道要素がじつは結構つよいのに気付かされる。初出誌がヤングチャンピオンな割にw そしてそれと対比させるように21世紀を迎えて描かれた新作2作では欲望を描いていて、よく言えば飾らなくなった、悪く言うなれば視野がちと狭くなった。 追い求める目標が崇高なものから単なる生理現象へとランクダウンしたのはなにか意味深である。 思えばバキ本編もケレン味の強い漫画と言われながらもなんだかんだと親子喧嘩の決着までは大きな部分では王道で外してこなかったけど、武蔵編以降は宮本武蔵のクローンを復活させてみたり勇次郎に妙な後付け設定が加わったりで、邪道と言ってしまうとあれだが、そういう「なんか変な方向に行ったような?」という、昔の板垣と今の板垣の作風の変遷を考えさせられるところがこの単行本の意外な収穫と言えるかもだ。