縁もたけなわ

幼馴染を取り巻く″縁″ #1巻応援

縁もたけなわ 岡畑まこ
兎来栄寿
兎来栄寿

幼馴染の結婚式に出席するシーンから始まり、中学高校時代の回想にたっぷりと尺を割いて各々の背景事情と揺れ動く感情の変遷をとても丁寧に描かれていく物語です。 幼馴染……その関係性からしか摂取できない成分は確実にあります。積み重ねた時間の長さの分だけ、さまざまな思い出も想いも堆積しているわけで。知り合って数年では生まれ得ない濃厚なものがそこには確かにあります。 ただ、一口に幼馴染と言ってもそこには無限の色合いがあり形があり化学反応が存在します。冒頭のシーンからも解るように、決してこれは仲睦まじく結ばれる幼馴染の物語ではありません。むしろ、特別で大切な関係だからこそ行なっておかなければならないものを描いています。 それでも、ふたりの間には周囲からは届かず理解が難しいふたりにしか共有できないものがありました。その何ともいえない愛おしさと、綺麗な感情とは裏腹に生じてしまう歪さのリアリティが胸を焦がします。 また、そんなふたりを遠巻きに取り巻く外野の存在の描き方も大変良いです。巻末の描き下ろしは最高でした。 濃厚な学生時代の描写と大人になった後とを読んで、人生は往々にしてままならないけれどこうやって一歩一歩進んで行くものだよなぁとしみじみ感じ入りました。 上質な感情が紡がれている物語です。

犯人は私だけが知っている~母たちは静観する~

ママ友の友情破壊ミステリー #1巻応援

犯人は私だけが知っている~母たちは静観する~ ゆむい
兎来栄寿
兎来栄寿

何の変哲もない日常風景が舞台であっても、殺人のような大きな事件ではなく今もどこかで起きているようなありふれたことを題材にしても、面白いミステリーは描けるという良いお手本のような作品です。 同じバス停から通園する子供を持つ、月村家・西井家・雪田家・高見家の4家族がメインメンバー。ある日、母親たち4人が話し込んでいる隙に子供たちの誰かが高級車に傷をつけてしまいます。一体誰がやったのか? 犯人はわからないまま高額の賠償金を支払わねばならなくなり、それまで仲の良かった4人はその事件をきっかけに諍いが起きたり距離を取ったりすることになり、生活が変わっていきます。 七夕の短冊に「ひとをけしたい」と書いたライムくん。 社宅で起きたボヤ騒ぎ。 続発する自転車のサドル損壊事件。 ある真相を知る人物の存在。 不穏さを煽るできごとが次々と起こりながら、物語は実にサスペンスフルに駆動していきます。 かわいらしい絵柄ながら、人間社会における歪みが表出したキャラクターたちのリアルさが見事です。特に、断片的な情報しか得ていないにも関わらず、真実を知った気になって誰かを断罪しようとしたり、それによって更に当事者を傷つける結果を生んだりしてしまう人間。そして、それに対してほとんど罪悪感などあるわけもないという。現実でも仮想空間でもありふれた人間の在りようですが、非常に恐ろしいです。 ママ友や子育ての闇の部分が、うまい具合にサスペンスの雰囲気と溶け合っています。それでも、醜い部分だけではなく人間の良い面も描かれているところは一抹の救いです。 すべての謎は、最終的に綺麗に氷解します。そこで一旦スッキリはするのですが、その更に奥底にあるものに対して考え始めるとまた大きな難題の壁が立ちはだかるような気分です。1冊完結のミステリーマンガとしては非常にお薦めです。

夫を社会的に抹殺する5つの方法 【単行本版】

殺すだけでは足らない夫への復讐 #1巻応援

夫を社会的に抹殺する5つの方法 【単行本版】 三田たたみ
兎来栄寿
兎来栄寿

三田たたみさん原作の、今年の初めにドラマ化もされた作品です。 元々は縦スクロールのフルカラー作品でしたが、単行本版として一般的な左捲り見開きマンガとしても今回発売されました。 最近また「旦那デスノート」における旦那の飲食物に不凍液を仕込み続けて秘密裏に衰弱させる手口が話題になっており戦慄しましたが、事実は小説より奇なり。とはいえ、言うまでもなく重大な犯罪ですのでそんなことは絶対にしてはいけません。 現実でひどい夫に苦しめられている妻の方は、せめて本作を読んで溜飲を下げるくらいにしておいていただければと思います。 こちらはモラハラやDVが酷すぎる旦那に対して物理的・精神的に復讐を果たしていく物語で、激しい抑圧からのカタルシスが描かれます。読んでいて妻のあまりの窮状がかわいそうになり、ただ殺すだけでは飽き足らない生き地獄を味わわせるための復讐に駆られるのも無理からぬことだと感じます。 主人公にはこんな男のことは人生のゴミ箱からも削除して20代の内に新たな人と新たな幸せを見つけて欲しいと思いますが、それでも復讐せずにはいられないほどの辛み、悲しみ、苦しみ、憎しみが募ってしまっています。 人が鬼と化するほど傷つけられた心というのは外からは見えないですし、ましてや傷つけた方は軽い気持ちでしかないというのがえてして不条理です。 不倫や夫への殺意などのキーワードに引っ掛かる方にお薦めします。

子供が欲しくて、でもいらない

小梨vs子ありの会社内の摩擦と、夫の「妊活」への拒否感

子供が欲しくて、でもいらない とさとし
天沢聖司
天沢聖司

「妊活」をメインテーマに、会社での子持ち・子無しさまざまな社員らとの摩擦、劣悪な家庭環境にあった夫と”平凡”な幸せな家庭に育った妻とのすれ違いが描かれます。 【登場人物】 ・主人公…平凡な幸せな家庭に育った子無し女性 ・彼氏…無邪気で優しい性格。現在も奔放な母親に「あんたなんて産まなきゃ良かったと今でも思ってるけど、孫が出来たらかわるかも」と暴言を吐かれ、精神的に中出しができなくなる。 ・子育て中 リモート勤務女性社員 ・独身 ベテラン女性社員 ・妊娠中 女性社員 ・若手 男性社員 それぞれの立場から言う愚痴は、Twitterの一番汚っったねえ部分を掬ってきたかのような切れ味で不快感たっぷり!読むほどにイライラしてきます。もちろん救いとなるような言葉もあるのでお楽しみに。 ただ主人公が幸せな家庭育ちで想像力すらなく、なーーーんにも彼氏のことを理解しようとしたり寄り添おうとしてないところが一番ムカつく。別に幸せな家庭に育ったことは悪でもなんでもないけど、想像力がないとこは悪だと思う。実際それで彼氏傷つけてるし。 このカップルのすれ違いと亀裂がどこまで広がるのか目が離せません。