BLUE GIANT

音が聞こえる漫画と話題だそうです

BLUE GIANT 石塚真一
ゆゆゆ
ゆゆゆ

「BECK」といい、「デトロイト・メタル・シティ」といい、音楽漫画は、漫画なのに頭の中で音が聞こえてくる瞬間がたしかに楽しいですね。 アニメ映画化とのことで、広告がたくさんうたれているっぽい本作。 映画あらすじを先に見たせいか、一巻で高校生活を終えて、その後はジャズプレーヤーの日々が紡がれるのかと思ったら違いました。 ジャズにはまったからといって、一人でひたすら練習なんて、早々にできません。 良い意味で馬鹿です。 なりふり構わない、というか、気にしてもいない。そういう人がものすごい人物になるんでしょう。 巻末にある、未来の知り合いからの「あの人を語る」は、先を読んでないのに未来を想像させてくれて、なかなかジーンとしました。 音が聞こえる漫画は良いと冒頭で書きましたが、最初のころはサックスの音がバカでかかったようなので、音が聞こえない漫画で良かったと思いました。 想像の音しか聞こえないので、音量しかり、詳細が描写されたときは「あ、そうだったの?」というビックリ展開にもなっていて良かったです。 今なら4巻まで無料で読めるみたいなので、映画化記念にあなたもどうぞ。

盤上の向日葵

将棋×ミステリー×ヒューマンドラマのコミカライズ #1巻応援

盤上の向日葵 雨群 柚月裕子
兎来栄寿
兎来栄寿

2018年に本屋大賞で2位となり、NHKで連続ドラマ化もされた名作のコミカライズです。 作画を手がけるのは雨群さん……って『麻衣の虫ぐらし』などの雨がっぱ少女群さんじゃあないですか!! 『ぼくたちの離婚』に引き続いての原作付き作品コミカライズですが、これだけ描き分けられるのが凄いです。あとがきマンガによると『麻衣の虫ぐらし』の方をかなり無理して描いていたそうで、しかも本当は前作で漫画家を引退する予定でありながらも本作を諸事情で最終作にする予定だとか。 これで終わりになるのがあまりにも勿体ないと思うくらいに、このコミカライズが素晴らしい出来栄えです。主人公たちはもちろんのこと、敏腕刑事の石破であったり端役の老人たちであったり、歳を重ねた人をしっかり魅力的に描き分けています。 ピンポイントですが、特に仙台の佐々木喜平商店の奥さんの表情の絶妙さはあまりにも素晴らしいので見て欲しいです。表情でこれだけ魅せられる人はなかなかいません。 本作は将棋がストーリーに密接に関わり、大きな謎が軸としてありながら、もうひとつヒューマンドラマとしての側面があります。雨群さんの絵の説得力が、作品の持つ世界観とも絶妙にシナジーを生み出しているのです。原作の評価もあり物語の面白さは保証済みですが、そのコミカライズとして本当に最適な人選であり担当編集さんは良い仕事をしたなと感じます。 将棋、ミステリー、ヒューマンドラマ。ひとつでも興味があれば読んでみることをお薦めします。

ニャリウッド!

創作で最も大事なのは◯◯と◯◯だ! #1巻応援

ニャリウッド! 杉谷庄吾(プロダクション・グッドブック)
兎来栄寿
兎来栄寿

映画化され、その映画がテレビ放映もされて『映画大好きポンポさん』の素晴らしさを知る人がますます増えていることが非常に嬉しい今日この頃。 「ポンポさんの新作が来ったぞー!」 というわけで、本当に今度こそ新作を出すつもりはなかったそうなのですが諸般の事情により描かれたという新作にして新シリーズ『ニャリウッド!』が発売されました。巻数表記もあり、今後も続いていきそうなのは非常に嬉しいです。 読む順番に関しては、作者の杉谷さんが直々に解説されているのでシリーズ初読の方は参考にしてください。 https://twitter.com/pompothecinema/status/1630703345680920576?s=46&t=o8eGKefj56WcuC_a_1RGww 『ニャリウッド!』1巻のサブタイトルは「映画大好きマズルカちゃん」ということで、前作(『映画大好きポンポさん』3巻)の最後で「映画撮るのって楽しすぎる……」と、自分でカメラも撮れる映画監督になりたいと志したマズルカを主軸にした物語となっています。 『ポンポさん』シリーズは常に最高で大好きなのですが、やはりセリフが良いです。そして、それがそのままキャラの魅力にも直結しています。 ″自分に自信が無い奴は心に余裕が無いから 失敗する事が何よりも怖い 他人にカッコ悪い姿を見られるのが何より怖い だから何も行動を起こさない 何もしなけりゃ何も失敗しねえからな そういう奴から見れば夢に向かって 突き進もうとするオメーの姿は 我が事だという自覚の有る無しにかかわらず 臆病で守りに入った自分の生き方を 真正面から糾弾されているようで腹が立つ… というより怖いんだな だから自分の不安を打ち消すために 上からの立場でオメーの夢を全否定するんだ 無意識のうちに脊髄反射でオートマチックに 人の夢をバカにするようなつまんねえ連中は 全ての責任は何もかも絶対他人の中にあると思い込まないと 自分の人生が格好悪い失敗作だと 自分で気付いちまうからな″ といった本質を突いたものや、 ″他者の介在しない世界で 自らが定めた目標に向けて自らを研鑽する それこそが「本物の自由」よ 本能のままに生きる事が出来ない動物と違って 人間は…人間だけが自由に…自らの意志によって 自らの命の価値を高めることができるのよ″ という魂を熱く燃やしてくれる名言が本作でもガンガン出てきて心に響き渡ります。読者に響くセリフは、当然作品の中のキャラクターたちにも響いて気持ちよく駆動してくれます。 マズルカが初めて取り組む脚本執筆という作業に悪戦苦闘し、もがき苦しみながらも少しずつ前へ進んでいく姿、ビビが真っ直ぐな気持ちで愚直に努力して成長していく王道感も熱いです。そして、遂に到る「創作で最も大事なのは◯◯と◯◯だ」という境地。そこで行われるのは物語を□□ということ。痺れました。その詳しい内容は、ぜひ読んで確かめてみてください。 作中でさまざまな創作論が出てくるのも健在。下手な創作論の本を読むよりも、『ポンポさん』シリーズを読破する方がよほど勉強になりモチベーションも湧く気がします。私も今温めている脚本を気合いを入れて書き上げたくなりました。 そして、書き上げた暁にはウインナー入りチーズグラタンを食べたいと思います。