あの子の子ども

16歳で結婚できなくなる時代に読みたい教書 #1巻応援

あの子の子ども 蒼井まもる
兎来栄寿
兎来栄寿

2022年4月から民法が改正され成人年齢が18歳に引き下げられると共に、女性が結婚できる年齢は16歳から18歳に引き上げられます。 身体的な機能は成人と同様となっても結婚できるまでには今まで以上のタイムラグが生まれることにより、今後この作品で扱われている「高校生の妊娠」というテーマはより重い意味を持ってくることになるでしょう。 本作では本当にどこにでもいそうな普通の子が主人公となっています。また、この手の作品では代表的な『14歳の母』では妊娠させた彼氏は年相応に子供っぽく無責任な性格でしたが、『あの子の子ども』においては珍しく彼氏側が大人びていて非常に誠実です。最初から二人の問題として、一緒に乗り越えて行こうという姿勢を見せてくれます。しかし、たとえそんな素晴らしい彼氏であっても一筋縄では行かない難題であるということが逆に浮き彫りになっていきます。 私は、この作品を小学生高学年くらいからの性教育と並行して読んで、学んで考えてみて欲しいなと思います。 いざ妊娠した時、それは自分だけの問題としてもあまりに大きいものです。体調の変化やメンタルへのダメージ、周囲との関係性。妊娠した後の想像以上の大変さを妊娠する前からリアルに考えられる子は少ないでしょう。 そして、自分のことだけではなく家族や周りの人間にもどれだけ大変で辛い思いをさせることになるか、というのが物語を通してよく伝わってきます。 そうした想像力を補ってくれる、意義のある作品です。彼らがどんな決断をしてどのように歩んで行くのか、見守りましょう。

派遣社員あすみの家計簿@comic

意外?とタメになる節約#1巻応援

派遣社員あすみの家計簿@comic 雨野さやか 青木祐子
六文銭
六文銭

お金を貯める一番のコツは生活水準を上げないこと という名言のもと、日々生きております。 おっしゃるとおり、無駄な支出を減らすことが一番大事。 本作は、超優良企業で働いていた主人公が、とある金持ち経営者と結婚を期に寿退社する・・・はずだったが、実は、金持ちというのも、経営者というのも全部ウソで、職も結婚も、そしてお金も何もかもなくなってしまったという流れ。 結婚詐欺・・・といえるかわかりませんが、 絶望の中で、それでも生きていくために日々の生活を見直していきます。 お金を貯めるガチガチのビジネス書よりは、非常にとっつきやすく、 つい買ってしまう無駄なものとか、我慢の難しさ、我慢との適度な付き合い方とか、よくある落とし穴に首がもげそうになるほど、うなずいてしまいました。 特に家計簿。 市販の家計簿って謎に書く欄多いすよね。挫折させるつくりになっているとしか思えないっす。 主人公のように、ただのノートになぐり書きで十分だと共感しました。 これまでの生活から急変しても、意外と適応能力の高く、必死に学ぶ(やらざるを得ないだけかもですが…)姿勢のある主人公が応援せざるをえません。 新たな恋の予感もあり、これまでの経験をいかしてどう発展していくのか続きが楽しみな作品です。

天使1/2方程式

とにかくハイテンションな少女漫画

天使1/2方程式 日高万里
野愛
野愛

少女漫画をあまり読んだことがないのでこの作品が異質なのか王道なのかよくわからないけれど、普通の女の子が王子様に見染められ適度に邪魔が入りつつ陰ながら男子人気は高いけど本人は気づかない…こんな要素盛りだくさんなことある? めちゃくちゃハイテンションでアッパーなノリに圧倒されつつ、なんか面白くて読み進めてます。 くせっ毛と唇の荒れに悩む女の子・ゆい子がカリスマ的人気のイケメン・マナ様に気に入られリップケアを教わりつつ、ずっとイチャイチャしてるお話。 傍観者からするとイチャイチャだけど、本人たちはお互いの気持ちがわからずすれ違ったり、マナ様のファンから嫌がらせ受けたりイベントが多数発生します。 2010年代の作品でスマホも当たり前に登場しますが、ゆい子は携帯持ってない&門限厳しい設定なので通常よりすれ違いイベント多めな気がします。 まだ途中までしか読んでないので、携帯持ってない門限厳しい唇荒れてるってめちゃくちゃ貧乏で栄養足りてないとかじゃないよな…虐待されてるとか家庭事情複雑とかないよな…と変に勘ぐってしまってます。このハイテンションさでそんな展開嫌だからずっと平和だといいな…。 とにかくいろんなイベントがテンポよく都合よく大発生してお腹いっぱいになれるので楽しいです。 期待を裏切らない特大ハッピーエンドを信じて最後まで読みたいと思います。

犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい

犬飼いである私に猫も飼いたいと思わせるチカラがある

犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい 松本ひで吉
さいろく
さいろく

よく「チワワはうるさいよね」「トイプーは懐っこいよね」みたいに種類で偏見的な意見をお持ちの方がいらっしゃいますが(当てはまることが多いのは事実だけど!) 犬も猫も個性があり、表現があり、一つの個体・生命体として千差万別なのです。 一般的にチワワはよく吠えるし大人しくはないと(病院とかで大暴れしたり噛んだりする子はよく見る)いう印象ですが、うちのチワワは驚くほど大人しくて吠えないし家族以外が大の苦手の引っ込み思案です。 世の中のすべての犬猫も個性に溢れていて、家族として迎えることはそうかんたんなことではないのですが、松本ひで吉先生は「迎えることが出来たらこんなに幸せなんだよ」というのを本作で存分に教えてくれてます。 犬も猫も誇張表現があるであろうけれども、本当にこういう子なんだろうなーというのも想像しやすくて萌え死ぬ。 先生の描く猫のツンデレぶりやドジを誤魔化す様がたまらんです。 犬は無償の愛をくれるよねーそうだよねーうんうん、ってうなずきまくり。 本当にタイトルの通りでそれ以外の何者でもないんだけど、それが素晴らしい。 そんな作品です。

ぱんだぱんち 福々

珍本?パンダ専門の漫画誌という試み

ぱんだぱんち 福々 山野りんりん 藤凪かおる 前田とも 岡井ハルコ ほしのなつみ 中森ゴセン 角光 ぱんだぱんち編集部 ゆきなきなこ しゅりんぷ小林 みかみふみ へげ鴨子 つるんづマリー 高橋まい がっち 三山ナミ キビクラチサト 南幅俊輔
チャンピオンスキー

「ねこぱんち」ならぬ「ぱんだ」オンリーの描き下ろし漫画を集めた、少年画報社のコンビニコミック。パンダ専門の漫画本というのは初の試みだそうで、シリーズの続き期待していたが、結局この一冊だけになってしまったな…。 この本は角光先生の「パンダのこ」繋がりで知ったのだけど、掲載作「おやこdeパンダ」は「パンダのこ」とは別作品。しかし、よく見ると知ってるキャラがいるような…?探してみると面白いかも。 しかしこれだけパンダ漫画家が集まってると、角光先生のパンダ愛がいかに飛び抜けてるかよくわかる。無双といっても良いくらいである。ねこぱんちの作家さんもチラホラと見かけるけど、猫と熊猫はやはり親和性高いように思う。 ただ、「日本パンダ奇譚」(つるんづマリー)だけは、他の作品と違い独特の異彩を放っていた。これは可愛いというよりも話が摩訶不思議すぎて面白い作品だった。岡井ハルコの作品も設定こそ奇抜だが、やはり漫画が上手いというか実力者なんだなというのがわかる。 可愛いだけでなく風変わりで面白い漫画も多く収録されてるので、パンダ好きの人に限らず読んでみてはいかがだろうか。 (参加漫画家) 角光 高橋まい しゅりんぷ小林 岡井ハルコ ほしのなつみ みかみふみ 前田とも 中森ゴゼン キビクラチサト 山野りんりん 三山ナミ へげ鴨子 南幅俊介・がっち ゆきなきなこ つるんづマリー 藤凪かおる

女ともだちと結婚してみた。

恋の無い結婚に愛はある #1巻応援

女ともだちと結婚してみた。 雨水汐
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

同性婚が法制化された日本を舞台に、二人の女性が試しに結婚してみる、という物語ですが、同性婚についてだけではなく、もっと広く結婚について考えさせる内容だと感じました。 女性同士、友達関係のまま恋愛をすっ飛ばして始める結婚。性格も生活スタイルも違う二人だが互いに生活能力はあり、男女の結婚のような性役割がないので、お互いにどうしたいかを話し合って進める結婚生活は理想的に見えます。 その中で、奔放な相手に恋しているが、その奔放さを愛する故にそのまま受け止めてそれ以上を求めない女性の愛の在り方に打たれる。私はこんな見返りを求めない、大きな愛を持てるだろうか……。 そしてその愛に少しずつ気付く、奔放な女性。彼女が相手を大切にしたい、という感情を獲得する過程……それは思い遣りという、小さな愛を積み重ねる過程。 恋から始める結婚だって、半ば賭け。恋が冷めた時、そこに愛が残るかはその時になってみないと分かりません。盲目な恋の先に残ったのはよくわからん人だった、という可能性は高い。 そんな曖昧な恋に頼るよりも、お互いに過ごしやすい、気楽にいられると感じる相手と暮らた方が、楽しい生活を送れる確率は高い。もし「積み重ねた時間の分だけ愛が生まれる」と言うなら、なおさら一緒にいて楽しい友達と結婚する方が、理屈は合ってる。たった1巻で強い絆を結びつつある二人を見ていると、そんな風に思ってしまうのです。

終末世界百合アンソロジー

「百合」は終末世界を自由にする

終末世界百合アンソロジー 一迅社アンソロジー
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

終末世界は「二人」の関係を強化する。 多くの人が死に絶えたり、滅亡が身近にあったりすれば、どうしても隣の人が大切になる。人は一人でも生きていけるが、会話をする相手がいて初めて心が動く。二人という最小単位から「物語」が生まれる。 描かれるのは、死の影が濃い終末世界。何故人は生きて、ただ意味もなく死んでいくのか……そんな思考に陥りやすい状況だが、様々に生きる女性二人の物語達はとても自由だ。それは「百合」という枠組が「生殖」や「社会秩序」という枷から自由だからかもしれない。 「百合」は困難と絶望の終末世界を自由にする。 ●『introduction』(しろし先生)…地上採掘団に加わりながら本を求めて外に出たい女性と、彼女を見つめる女性。 ●『海は何色』(結川カズノ先生)…外の世界の海を夢見る管理官は無気力な女給の秘密に触れる。 ●『SPUTNIK』(吐兎モノロブ先生)…遺伝子操作で生み出された新人類の二人はロストテクノロジーを求めて荒野を駆ける。 ●『Touch me if you can』(田口囁一先生)…一人生き残った少女と都市管理AIと、発見してしまったセクサロイドのボディ。 ●『卵の殻を破らねば』(岡ぱや先生)…学園都市に暮らす優秀な二人は、優秀すぎた故にある真実を見てしまう。 ●『チュウ虎シャングリラ』(くわばらたもつ先生)…汚染が広がる世界で敵対する二つのグループ。代表二人の決闘に皆沸き立つが……。 ●『トワイライトにおやすみ』(tsuke先生)…永い時を生き、信仰を集める聖女は、自分に好意を寄せる少女にあるお願いをする。

コーラル ~手のひらの海~

勇気を持った子どもたち

コーラル ~手のひらの海~ TONO
pennzou
pennzou

『コーラル ~手のひらの海~』は2007年から2014年にかけて『ネムキ』(朝日新聞社、朝日新聞出版)および『Nemuki+』(朝日新聞出版)にて連載された、TONO先生による長編作品です。全5巻の単行本に纏められています。 交通事故に遭い入院している少女・珊瑚。事故当時、珊瑚の母は珊瑚には本当の父親が別にいると言い残し、家を出ていってしまった。珊瑚はコーラルという人魚を主人公とした、人魚がいる世界の物語を空想している。人魚たちは人魚の兵隊を使役する。人魚の兵隊は人魚を守るために命を与えられた、男の水死体である。 人魚の兵隊・ソルトの姿形は、珊瑚が入院先で仲良しになり、そして亡くなってしまったサトシをモデルにしています。珊瑚が空想する物語にソルトが登場することは、珊瑚がサトシを(物語の中で)生かし続けることを意味します。 このように人魚の世界は珊瑚の空想でできているので、珊瑚の思うままです。ソルトを登場させるだけでなく、もっと願望を重ねた理想的な世界にすることだって出来るはず。物語が現実逃避の手段であるなら、なおのことそうするのが自然な気がします。しかし珊瑚はそうしません。人魚は、その血肉が万病に効くという理由で人間に襲われるし、身体を蝕んでくる回虫などから常に身を守らなくてはいけない。さらに人魚たちも一枚岩ではなく、それぞれに悪意もあるし意地悪さも持っている。そういう風に人魚の世界は作られています。それはちょうど、現実の珊瑚の身の回りに不安やノイズがつきまとっていることが反映されたかのようです。 珊瑚は、どうして人魚の世界をそのように空想するのでしょうか。 TONO先生のマンガには、ハードな状況に対峙する勇気や強い気持ちをもった子どもたちがたくさん描かれています。それはTONO先生が、子どもたちという存在に対しての信頼というか祈りというか、そういった希望を載せてマンガを描いているからだと思います。同時にそれは、現実世界や大人たちのイヤな部分を克明に描いているということでもあります。 この傾向は『チキタ★GUGU』や『ラビット・ハンティング』に顕著でしょうか。21年10月現在の最新作である『アデライトの花』も4巻で特にその傾向が強まったと考えます。 本作においても、珊瑚やコーラルはそういう勇気を持った子どもたちとして描かれていて、人魚の世界がハードにできているのはこれを描くためだと自分は考えています。勇気を持って頑張るコーラルの物語を想像することで、珊瑚は現実で勇気を持つことができる。大雑把な捉え方ではありますが、これは自分が物語全般を読む・見る理由のひとつでもあるので納得感もあります。 ただその上で、自分がもっと重要だと思うのは、勇気を持った子どもたちが描かれることは大人をも肯定することなんじゃないか、ということです。なぜなら、大人は子どもが育っただけだからです。(いい意味での、『少年は荒野をめざす』の日夏さんですね) 大人と子どもの違いって色々あるように思ってしまうけど、加齢していることと、大人には子どもに対して責任があること、本当のところはそれぐらいしかなんじゃないでしょうか。 そういうのもあって、自分はTONO先生の作品を読むと、現実社会を、時に勇気を持ってでも真摯にやっていかなきゃな…という気持ちになります。本作だと、ラスト付近の展開なんかに強くそう思わされます。 絵について書きます。『チキタ★GUGU』の連載後に開始された本作の段階で、TONO先生の絵柄はかなり確立されていると思います。キャラクターのみならず、背景の、例えば模様のような印象をもつ海藻などにも、TONO先生の絵!としか言いようのない独自の魅力があります。単行本表紙イラストなどの、淡く、それでいて少しくすんだような色合いの水彩で描かれたカラーは、きらびやかなだけでない人魚の世界を表しているかのようです。 先述の通り本作では現実と対峙するための方法として空想の物語を大きく扱っていますが、それ以外の方法も扱っています。そういうところも自分はとても好きです。 好きついでに、自分の本作の特に好きなところを挙げると、4巻途中(ボイルというキャラクターがね、めちゃくちゃいいんですよ…ポーラチュカ……)からガッとギアがシフトアップして物語の一番深いところまで達し、そこから少しずつ凪いだ水面に向かっていく、あの感じです。これは『チキタ★GUGU』にも同じようなところがあるので、TONO先生の作家性なのかもしれません。 最後に『薫さんの帰郷 (TONO初期作品集)』の表題作のモノローグを紹介させてください。以下引用です。 「勇気がいるな 幸せになるにはいつだってね 楽しい毎日を送るにはどうしてもね」(『薫さんの帰郷』、朝日ソノラマ、1998年、p174)