あらすじ人も文明も、穏やかに終わりを迎える世界。ロボットの人 蘇芳は、犬の人ミュートを連れ添い自身の設計者《ご主人様》を探す旅を続けていた。鉄道の発着駅のある街で、宿を営む青年と出会った蘇芳達。祖父を亡くした青年を元気づけるために、蘇芳は形見である祖父のレシピを再現しようと言い出して…。そんな中、街には《ご主人様》の研究所へ向かう無人列車が近付いていた――…。もうすぐ終わる世界を巡る、終末スローライフ。
自己を形作っているのは、それまでに出会った人々なのかもしれない。それが失われる事を「輪郭が失われる」と表現するこの作品、かなり深くて優しい作品である事は保証します。 メイド服を着た少女型の機械生命体・蘇芳。AIより人に近い、自立した思考を持ち学習する彼女は、自分を作った設計士=ご主人様を探すべく、犬のミュートと共に旅をする。人語を話し、機械の義手を持つミュートは頼れる存在。蘇芳の成長を見守ります。 旅をするのは、多くの人が死んだばかりの終末世界。残された文明は高度だが、維持が間に合わず、かなり崩壊している。そんな中で印象的なのは、ごはん大好きな二人の食事。 食料調達から調理まで、食事は蘇芳の担当。ミュートも感心する腕前で作られる料理は、旅の途中で出会う人達にも振る舞われます。 出会う人達の様々な事情。ひと月ほどの間に出会ったほんの少しの人達は、ご主人様しか知らなかった蘇芳に人との繋がりと思い出を与えてくれる。一方、見守るミュートに去来する思いは……? 3巻の間にしっとりとした世界観と様々な思索の種が埋め込まれ、蘇芳とミュートの物語もこれ以上ないくらい切なく温かく、充実の一作でした。