青い海とかわいい犬に囲まれた再起の物語

小さな離島で毎日海を眺めながら絵を描き、愛犬と穏やかに暮らす生活。でもそこにはしっかりスマホもPCもあるという適度な文明化。これ、ひとつの理想形では? 私は引退した後は大量のマンガと共に山奥に隠棲したいと考えていますが、こういう風に描かれると海辺も良いよなあと思わずにはいられませんでした。 そんな羨ましい暮らしをしている青年・大崎穂高ですが、しかしそれは都会の生活で負った心の傷を治療するためのもの。楽園のような島の生活ですが、その裏に暗い影を感じさせます。 そして、穂高が住む島に漂着するのが嵐の日に波に流されてしまった海洋生物研究者志望の七倉海都(ななくらかいと)。そこから、彼らによる斬時の共同生活が始まっていきます。 波野ココロさんの絵が美しく、キャラクターも背景も非常に魅力的です。特筆すべきは、穂高と一緒に暮らす愛犬のビケット。フランス語で「かわいい」の名を冠するビケちゃんが最初から最後までたくさん愛らしく描かれており、筆者の犬愛が伝わってくるようでした。 人間関係や芸術は綺麗事だけでは済まず辛い部分も多いですが、それを乗り越えて再生していくひとりの人間の美しい物語として面白く読ませてもらいました。 BLとしての側面ももちろんあるものの若干薄めなので、そちらを求める方は物足りなさを感じるかもしれない一方で、普段あまりBLを読まない方にもお薦めしやすい作品です。

兎来栄寿
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