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山川直人は東京都出身,高校時代から同人誌活動を始め,卒業後はフリーターで生活費を稼ぎながら漫画家を目指しました。1988年に「シリーズ間借り人」で商業誌にデビューしています。
しかし,作品リストで見る限り,1989年から約1年間「ヤングチャンピオン」誌で連載され,1991年に刊行された短編集「あかい他人」から2002年にビームコミックスで発刊された「ナルミさん愛している」までは商業出版がありません。この間は同人誌活動がメインだったようです。
山川直人の作品は特異な絵柄と暖かいストーリーが特徴です。ストーリーが暖かいと言われてもピンとこないかもしれませんが,なかなか他に適当な言葉が見つかりません。
山川作品のストーリーはひねりもなければオチもありません。(ときどきファンタジーやSFの世界にワープすることはありますが)日常的な出来事をそのまんま表現しているのです。
でも・・・,そのような話に退屈することはなく,読後感は心が暖かくなるという不思議なものです。強いて言葉で定型化するなら『大人のメルヘン』ということになります。
単行本の帯には『漫画界の吟遊詩人』という表現がよく見られます。山川直人の漫画家人生における1990年代はほとんど同人誌活動と作品の自費出版で費やされました。
彼の作品のいくつかには売れない漫画家の話が出てきます。それは,おそらく自分自身を投影したものだったのでしょう。商業誌でデビューを果たしても,彼の独特の絵柄と刺激の少ないストーリーは読者の大きな支持を受けたとは思えません。
そのため,山川は活動の場を同人誌に移し,自分の世界を発信し続けてきました。この姿勢こそが『漫画界の吟遊詩人』と形容されるべきものであり,2000年代に入って商業誌でも売れるようになってから付けられたキャッチコピーにはいささか抵抗があります。
それでも,商業誌で売れるようになってからも,同人誌活動を継続する姿勢はやはり『漫画界の吟遊詩人』だねと自分を納得させるようにしています。同人誌活動は吟遊詩人の創作活動の源泉になっているようです。
山川直人の独特の絵柄は最初からそのようになっていたのか手持ちの作品を比較して調べてみました。もっとも早い時期の「シアワセ行進曲(1995年・自費出版)」と最近のものを比較すると,「シアワセ行進曲」はページ全体が少し白っぽい感じがしますし,人物の線が細いように感じます。
言ってみればユニークな絵柄ではあるけれど現在よりもだいぶ普通の漫画に近いということです。それが,「ナルミさん愛している(2002年・商業出版)」になると人物線は太くなり,細かい効果線の描き込みによりページ全体が黒っぽくなっています。この時期には現在に続く独特の描画スタイルが確立したようです。