現代柔侠伝(7)
昭和31年8月、柳勘一は、熊本・鎮西高校の一員として、全国高校柔道選手権大会に出場する。この大会でも勘一は、無類の強さを発揮して連戦連勝。ことに決勝戦では、“宿命のライバル”、薩南商の辺見一郎と先鋒戦で対戦し、「電光投げ」で、かろうじて勝利する。勘一の活躍もあって、団体戦は鎮西高が優勝するのだが、肉親の愛情に恵まれなかった勘一にとって、何よりうれしいことは、この大会には、父・勘太郎も、母の朝子も応援に駆けつけてくれたことだ。吹雪牧場の茜の“プレゼント”と同じくらい嬉しいでき事だったのだ。そして、優勝後、勘一は残りの夏休みを謳歌する。しかし、そのころ熊本では、県会議員に立候補した赤松勇造の選挙事務所が、銃とダイナマイトで武装した4人組に襲撃される。これは、実の母親を妾にした赤松勇造への遊子兄弟の復讐劇で“天誅”のようなものだが、ほかの多くの復讐劇に見られるように、見事に失敗してしまう。3人の兄弟を一瞬のうちに亡くし、途方に暮れる遊子。若い怨念の火も消え、すべてが潰え去ったのだ。それでも、赤松勇造は県会議員にトップ当選し、遊子は懲役2年の実刑に服することになる。また、東京都下砂川町では、土地収容問題で闘争が大々的に盛りあがり、大変なことになるが、柳勘一はまだまだ熊本で平和で熱い柔道人生を送っている。青春真っ盛りなのだ。勘一よ、たゆまず進め!
現代柔侠伝(13)
昭和34年12月、九州炭鉱に労働争議が勃発。経営側の1000人の指名解雇に対し、組合側は、無期限ストライキで応じたのだ。石炭から石油エネルギーへの移行が時代の流れとはいえ、働く者達の暮らしや諸権利というものもある。そういうものをあまりないがしろにするわけにもいかないのである。そうして、争議は、ますます過激化、先鋭化し、日常的に「スト破り」などとの対決も求められるようになる。ヤクザの鉄心会もこの争議には、全国から1000人もの応援部隊を動員し、スト破りにも余念がないのであった。一匹オルグの山本さんが殺されたのも、このスト破りのため。柳勘一の無念さ、悲しさは察するにあまりあるものなのだ。また、鉄心会に対して、体の芯から怒りを感じているという滝村と辰は、組合側を支援するため、九州・大牟田へ。鉄心会の戦力をたたきつぶすまでは、東京にも帰らない覚悟なのだ。もっとも、世界柔道選手権の代表にも選ばれている独眼竜・柳勘一も柔道は、「社会の諸悪を敵として、正義を実践するため用いる武道」だという自己の信念のもと、滝村のもとに馳せ参じる。鉄心会との戦いは、ますます可烈化の度を深めるが、柳勘一は、いつでも勇猛果敢に先頭に立って戦うのであった…。そしてそれはこれからも絶対にそうであろう。それはそうとして、厳しい戦いのなか、柳勘一と吹雪茜の関係は順調に進展。また、九州・大牟田で知り合った「哀しき淫売」、お炭(すみ)さんとの関係は、完全にお炭さんの一方的な片思いで寂しく推移、悲しい結末を想像させる気配だ(!?)……。辺見一郎と上川路漁子の関係は、相変わらずブキミだし、労働争議にとどまらず、まだまだいろんなトコロに目の離せない、ハラハラドキドキの展開は続くのであった。

現代柔侠伝

げんだいじゅうきょうでん
ジャンル:歴史スポーツ
最新刊:
2014/10/24
本棚に追加
本棚から外す
読みたい
積読
読んでる
読んだ
フォローする
メモを登録
メモ(非公開)
保存する
お気に入り度を登録
また読みたい
※本棚・フォローなどの各アクションメニューはこちらへ移動しました(またはフローティングメニューをご利用ください)