あらすじ夢野すみれの事故死は、マネージャーの島田のせいだと考えていた加勢。一方の島田は、自分を偽ってアイドルしていた夢野すみれの前に加勢が現われたことで、彼女の精神的なバランスが崩れてしまったと考え彼を恨んでいた。いずれにしても二人は、夢野すみれが事故死する原因を作ったのは“お前だ!”と考えていた因縁深い二人。最初は反発しあっていた加勢と島田だが、次第にお互いが夢野すみれのことを気遣っていたことを知る。そんなことも束の間、加勢のもとに突然、転勤の話が持ち上がる……。
幸せか?と訊かれて、ためらいなく頷くことが出来る大人は、どれくらいいるのでしょう。少年の日に思い描いていた大人と今の自分との間に、どれくらいの距離があるのか。殆んどの人間はそんなことを忘れてしまうんでしょうけれど、この作品は、くたびれた大人になった主人公を「ハッピーにしてあげる」という謎の美少女が出会い、始まります。 ピュアであるということは、必ずしも良いことではないと分かるくらいには老成してしまった人間は、彼女の問いかけに対して恐らく言葉をなくしてしまうのではないかと思います。それでもこの物語を読んでしまうのは、恐らくある種の郷愁があるからではないかと思います。もう戻ることの出来ない時代があると理解して、ただ喪ってしまったことを嘆くのではなく、手にしたものをいとおしむことが出来る大人になったと自覚すること。星里もちる先生は、物語の中に数滴の「毒」を混ぜる人なんですが、この作品はそのバランスが絶妙だと思いますし、その毒を包む糖衣は比較的受け入れられやすいと思います。