あらすじ

遊び人とその仲間が相次いで殺された。伝手を辿ると浮かんできたのは、あぶな絵描きの町川浪春。だが、浪春もやくざ者と刺し違えて死に、残された美しい妻女と下男が何かを知っている……?(「春の絵」)島抜け人にまつわる殺しの下手人を探るうち、浮かんだ人物。それは市の居合い斬りの師匠・荒木玄斎だった。市が、恩人に刃を向ける!?(「狂い水」)複雑に絡む江戸の人間模様を、佐武と市が解きほぐす全6編を収録!
佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 1巻

江戸は浅草・竜泉寺裏。下っ引の佐武(さぶ)と、その相棒で盲目の居合い斬りの達人・市(いち)との名コンビによる、名作大江戸捕り物絵巻。初期、「少年サンデー」に不定期連載された、シリーズ名『縄と石』時代の少年向けバージョンを収録した第1巻。後の青年向け版に比べ、アクションが痛快な全7編と、朝日ソノラマのソノシート版も収録!小学館漫画賞受賞、アニメ化、テレビドラマ化、小説化も果たした大人気シリーズ!!

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 2巻

市が出会った凄腕の若武者は、幕府転覆をはかった由比正雪の隠し子だった!?芽生えかけた友情が不幸な生い立ちに潰える「こいのぼり」ほか、シリーズ名『縄と石』時代の全6編を収録。著者自らが、「同一主人公、同一主題の作品が、読者層の変化によってどう変質するか、ビッグコミック版と比較するとよくわかって面白い」と語った少年サンデー版!西武百貨店広報誌「ふぁみりぃ」掲載の『SFサブとイチ番外狐火』も収録。

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 3巻

佐武と市の捕物控は「ビッグコミック」に掲載誌を移し、様々な人間模様を織り込んだ大人向けドラマへと深化を遂げる!名刀の鞘だけを抱いた武家の妻女ふうの斬死体が大川に上がる。唐竹割にされた本堂の阿弥陀像など謎に次ぐ謎の裏に浮かび上がる人間の悲哀とは?柴田錬三郎の『眠狂四郎』を原作とした「端午の節句」ほか、手術次第で市の目が見えるようになると診立てる長崎帰りの名医の事件「氷の朔日」など、全4編を収録!

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 4巻

助けを求める男を斬った侍。業深い男の言い分は「ただ斬りてぇから殺した」──?(「狂い犬」)島抜けをした3人の罪人「鬼道組」が、逆恨みから佐武を狙う。舞台は佐武の故郷・甲州へ。水不足に苦しむ村での佐武の辛い生い立ちと、付け狙う鬼道組との戦いを描く「刻(とき)の祭り」。そして、市となじみの遊女、佐平治の娘・みどりと佐武との関係をからめ、人間の表裏を描く「闇の片脚」の3編を収録した第4巻!

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 5巻

冬の出稼ぎ衆“椋鳥(むくどり)”の一人、気のいい茂平が働くのは酒問屋。ある夜、この問屋が売った酒に毒が混じり、14人もの死者が出る。蔵では問屋の娘と船頭が死んでおり、大男の茂平に疑いがかかるが、佐武は……。(「椋鳥」)大晦日の夜、女道楽で有名な伊勢屋の若旦那が殺された。裏には、一人の美しい武家の妻女の存在が?(「年の関」)町人・浪人・大奥の女中──。市井の人々の流す血と涙を描く全4編を収録。

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 6巻

遊び人とその仲間が相次いで殺された。伝手を辿ると浮かんできたのは、あぶな絵描きの町川浪春。だが、浪春もやくざ者と刺し違えて死に、残された美しい妻女と下男が何かを知っている……?(「春の絵」)島抜け人にまつわる殺しの下手人を探るうち、浮かんだ人物。それは市の居合い斬りの師匠・荒木玄斎だった。市が、恩人に刃を向ける!?(「狂い水」)複雑に絡む江戸の人間模様を、佐武と市が解きほぐす全6編を収録!

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 7巻

居合いの名人と評判の市に、斬り合いだけが生きがいの同じく盲目の剣士が真剣勝負を申し込む。男は市をしのぐ使い手らしく、佐武は勝負を止めるが……。(「熱い風」)赤ん坊が毎月一人ずつ消える神隠しが続く。裏には、屋敷付きのふしだら娘を上役に押し付けられた足軽の男が……。(「神隠し」)顔は瓜二つだが派手な姉と地味な妹。姉が大店の若旦那との婚儀を控える中、妹は殺され……?(「蝉しぐれ」)全8編を収録。

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 8巻

やくざ者が3人殺された。が、残された凶器は怪力の大男でもなければ持てない丸太で……?(「裸虫」)人気役者が顔見世の日に行方不明になった!怪しいのは、人気を二分する役者だが……。(「暫(しばらく)」)市の住むお歯黒長屋で、正月早々泥棒騒ぎが起きた。消えた大金に長屋の住人たちは……。(「お歯黒長屋」)旗本、町人、妻女に役者……大江戸界隈の人情の機微を鮮やかに描く全7編を収録した第8巻!

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 9巻

佐武の身柄をかどわかし、市を投げ文で呼び寄せた若い侍の一群。彼らの剣と、市の剣、その違いとは?(「群狼」)お稲荷さんから度々出る不審火。巷では、八百屋お七のような振袖火事との噂があった。(「稲荷火」)春の楽しみ、花見の席で、“落花狼藉斬り”と名乗る見事な居合いの見世物があった。気のいい侍で佐武と市とも打ち解けるが、事件は起きて……。(「花祭り」)佐武と市が、怒り、涙し、含み笑う全7編を収録。

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 10巻

雨の夜に駕籠かきが運んだ、3人の大店の旦那衆。彼らは、それぞれの駕籠の中で毒を盛られて死んでいた。さらに3人が訪れていた旗本屋敷の主人が割腹自殺して……?(「雨駕籠」)ある日横丁で倒れていた女を助けると、彼女は帰り際に黒猫を見て悲鳴を上げる。話を聞くと彼女の家には黒猫が怪異を連れてきたと語り……。(「怪談呪いの黒猫」)しがらみ、情念、思い出、憧憬──事件の背後の哀切を鋭く描く全7編!

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 11巻

秋の夜の名月が見ていた草紙作家の首なし死体。容疑者は男女5人。互いに互いがやったと押し付け合うが、そこに、当の首なし死体になったはずの草紙作家が現れる。縄をかけられるべき真の下手人とは……?(「名月や池をめぐりて夜もすがら」)他、紅葉狩りを建前にした吉原詣でで有名な正燈寺の武士殺し、菊人形に仕立てられた娘など、人々の寂しさが呼んだ全7件の大江戸捕物控を収録。奥深い人心の闇と希望を描く第11巻。

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 12巻

正月明けの江戸で連続密室殺人、発生!七福神の木像を持つ者4人が、戸締りをした家の中で次々殺される。布袋像を持つ易者に、5人目の仏はあんただと詰め寄り、佐武が聞き出した真相とは……?(「七福神」)下働きの娘の髪に挿された高価な簪(かんざし)。分不相応だと不審を抱くみどりだが、ある夜、塀にその簪が突き立っていた。それは何かの合図なのか?(「紅い捕縄」)色と欲と情の深淵に漂う捕物控、全7編を収録。

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 13巻

ごうつく爺が後妻と称して囲った女には連れ子がいた。女中代わりにこき使われ、苛まれる母を見ていた5歳の娘。身勝手なやくざ者の実の父に、彼女が張った小さな意地が悲劇を呼ぶ。(「地獄門」)市の腕を聞きつけた剣士がまた一人、勝負を挑む。かの佐々木小次郎は“心の弱さ”で敗れた、自分は剣の理と心を極め小次郎をしのぐ“新巌流”を完成したと語る男。勝負は思わぬ展開に?(「燕返し」)心揺さぶる全8編を収録。

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 14巻

病床にあった岡っ引の親分・佐平次がついに息を引き取った。跡を継ぐように岡っ引に上げられた佐武は、弔い手柄にしようと下手人を追うが、白骨死体の陰にはからくりがあった。(「鈴虫」)下手人が名のある武家の出だったことを理由に、上から下った“探索打ち止め”。悔しさから十手をたたき返した佐武は、手慰みに佐平次の残した未解決捕物控を紐解く。(「屏風の女」)佐武とみどりの仲も進展する、全7編収録の第14巻。

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 15巻

とある大店の主人が、突然妻と幼い息子を刺し、自らも喉を突いて死んだ。残されたのは、妙齢の一人娘と、全財産を町の遊び人に譲るという証文。佐武はこの遊び人が怪しいとみるが……。(「うしろの正面だあれ」)夜な夜なすすり泣くという噂の榎(えのき)の大樹。誰もがこれを恐れるが、屋敷の主人が頑なに伐ってはならぬと言う訳は……?(「夜泣き榎」)意気地と張りのある江戸っ子たちの悲恋や、心の闇を切り取る全7編。

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 16巻

十手捕り縄に、情けは禁物──。助けた娘にだけは打ち明けられぬ、佐武と市の旅の目的とは?(「追跡」)真っ白な雪上に、凶器も犯人の足跡もない死体が次々発見される。真相は大きな闇に繋がっていた。(「凍った血」)ベースとなるビックコミック連載作の他、増刊少年サンデー、月間少年ジャンプ、フォアレディ掲載作など、掲載誌によって異なる作風が楽しめる第16巻。コマ割り漫画でない、絵+文字形式の画劇版も収録。

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 17巻

死体は謎の絵師・写楽!?見習い時代の佐武が挑む大舞台!読者自身が推理に参加できる、斬新なミステリーブック形式の名作「死やらく生」を収録!「岡っ引になるなら、この死体(ほとけ)からどれだけ読(わ)かるかやってみろ」。大川端に揚がった死体は“東洲斎写楽”なのか?特徴と遺留品から分かるのは?下手人は、そして動機は?──他、ビッグコミック増刊掲載の「二十年め」「女殺しの夏」「青大将」を収録。

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 18巻

地獄を見ても大人のようにごまかして生きられない子ども。荒んだその目に映るのは……。(「賽の河原のわらべ唄」)「ビッグコミック」と、「ソノシート」掲載の『佐武と市捕物控』2編の他、明治時代、墓文字屋稼業の傍ら、悪徳代議士等を相手にスリをする“さぶ”の、大人のウィットに富んだ冒険譚『墓文字屋さぶ』7編、歌舞伎役者に並ぶ江戸の大スター・力士たちの重厚な人間ドラマを描いた『大江戸相撲列伝』3編を収録!

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】

天よ、私を自由にしてください。嘲笑われない為に、脅かさない為に。誰かの支配からではなく己の底から行えるように。

佐武と市捕物控 【石ノ森章太郎デジタル大全】 石ノ森章太郎
阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)
阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)

 江戸時代は遥かに自由な時代だった。下手人は指紋やDNA、目に見えない血痕や油脂、デジタルデータのような生理的、物理的な物証からすら自由だった、取りも直さず、犯行の証拠の所在は現代に比べると(拷問などは有れど)ずっと内心の自由に委ねられていた。  そして、その自由は放置と表裏一体だった。『佐武と市捕物控』に於いては多くの身障者、精神的な苦悩を抱えた下手人が出てくるが、彼らが福祉や行政に救われる事は殆ど無く、それ故に犯罪に追い込まれる様が一種同情するように描かれている。殺人者らの境遇は人間の業に纏わる必然として江戸の花鳥風月と混然一体と物として映る。  然し、主人公の一人、(松の)市はそのような状況における盲人でありながら剣技、頭脳、人柄、どれをとっても申し分無い傑物として終始活躍し続けている、ある意味迫害や無理解により憎悪と貧窮を募らせ零落するという「自然」に逆らうような人物だ。では、何故他の犯罪者と違って市は差別する社会に対する憎しみなどを乗り越え、あれほどの人物と成れたのか。  この答えは市の心理を追った一遍「刻の祭り」にあるように思える。詰り、粗筋の紹介はここでは省くが、残虐な盗賊として集う身体障碍者に対する叱咤「盗みや人殺しが悪いことじゃない……?笑わせるな!!(中略)あたしだって…、目が見えないことを、笑われたことは何度もある。そりゃあその時はくやしい そいつも盲人にしてやりたいとも思った。し、しかし、…いちいちそんなことをしていたら……、世のなかに五体満足はいなくなっちまう……。苦しむのはあたしたちだけでたくさんだ」に隠されてる。  ここで市は率直に世の中への憎悪を語る。しかるに、その憎悪の炎を自然生成され、自然に他人を傷つけるべき物と彼は捉えていない。即ち、それが自然である以上に「盗みや人殺しはどんな場合でも正義にはなり得ない」と言う社会の掟こそを優先すべきと見做している節があり、それで己を律する事で憎悪の炎と向き合わせる。  そしてその格率が彼の憎悪のはけ口に単なる暴力や略奪ではないより高度な技法や思想に彼を追いやっている、それが市の人格の秘密である(余談であるが、このような精神のプロセスをフロイトは防衛機制の内の昇華と定義した)。これはある意味では精神の枷であるが、昇華により市の身心は飛躍し、憎悪と貧窮と言う自然の漆喰から自由になる事が許されたと言う側面もある、パラドキシカルな物言いだが、人を憎まないと言う倫理的な枷が寧ろ彼を自然のままの運命から解き放ったのだろう。  私はそこに「自由主義者」石ノ森章太郎の姿を見た。彼は、どの作品でも身体の桎梏を抱えながらも自由を希求する主人公を何度も描いてきた。そして彼にとって自由は単に与えられる物ではない、寧ろ人間を縛っているのは環境が影響することは有れその人間の憎悪や強迫観念であり、自由はそれとの内なる煩悶の繰り返しでしかないと言う事を、石ノ森は描いてきたのだ。  然し、それは何処までも己で闘い勝ち取ると言う世界観の称揚な以上、ややもすると現代的な福祉への批判に結び付きかねない。実際『仮面ライダー』では国家と言う概念≒ショッカーと言う公式がこそがライダーより弱者を生存させ得たかもしれないと言うアイロニーで幕を閉じている。そのような描写は常に存在し、『仮面ライダーBlack』でそれは極北に達した。その作品はゴルゴムと言う無形で無限大の、グロテスクなオカルトとナーバスな陰謀論の沼にヒーローを引きずり込んでいった。そこにある種の苛烈さを見出さない事は許されない。  上記を踏まえて幾らか不謹慎な発想をするならば、石ノ森の自由主義は戦後日本のリベラルを超えて、どこか今のシリコンバレーの大物に通底するより徹底した自由主義と一脈通じているのではないか?石ノ森章太郎が政府の調整効果を強く敵視していた訳はないだろうが、作品に於いてはそれに近い不信感や抵抗が見られない事の方がむしろ少ないように感じられる。それは市のような確固とした自己を形作るが、同時に『仮面ライダーBlack』の魔王のような存在に人を変えかねない。そのような可能性の光と影が石ノ森の作品には渦巻いており、その二元論的な世界観が彼の作品の基調となっている部分もあるように思える。尤も、単なる自由主義的なヒーロー像だけでは彼の作品が今でも注目を浴びることは無かっただろう、そのような自由の希求と危惧の狭間でそれでも善を求めて戦い、己を擲つ事さえ時には厭わずが欲を否定せず認める、そのストイックさがあって初めてヒーローが暴力的なイデオロギーの奴隷の身分から解放されること事を石ノ森は知っていた筈だ。  そぞろな文章を長々と書いたが、江戸に仮託した人間の自然状態からの脱却による自由を希求した『佐武と市捕物控』は正しくその自由の希求により確かに石ノ森章太郎的なのだと繰り返してこのレビューを閉じさせていただく。 余談: ・実際読んだのは90年代に出た小学館文庫版と笠倉から出た『縄と石捕物控』の文庫版だ。文庫をかなり探し回り、最終的に通販を使った都合上こっちの方が入手自体は簡単だと鑑み、このバージョンでレビューさせてもらった ・『佐武と市捕物控』に関しては、夏目房之介の文章(「『佐武と市捕物控』―青年マンガの革命児」-『別冊NHK 100分de名著 果てしなき石ノ森章太郎』収録)が大変すばらしかったので一読をお勧めします。正直、「刻の祭り」に着目したのは夏目に倣ったからです。私は同じ主題の描かれた珠玉の掌編として「北風のみち」もおすすめします。 ・このレビューのタイトルは吉田拓郎の『今日までそして明日から』の一節のパロディですが、今気に入ってると言うだけで、大した意味は無いです