私的漫画世界|小山ゆう|おーい! 竜馬
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「お~い!竜馬」は幕末の激動期に大きな足跡を残し,31歳の若さで暗殺された坂本竜馬(1836-1867年)の一生を描いた作品であり,1986年から1996年かけて「ヤングサンデー」にて発表されました。原作は武田鉄矢,作画は小山ゆうです。
原作者の「武田鉄矢」は大の竜馬ファンとして知られています。武田鉄矢は福岡県出身のミュージシャンですが,バンド名は「海援隊」でした。竜馬の大ファンの考えた竜馬像ですから,自由奔放かつ非常に魅力的な人物として描かれています。
作画の「小山ゆう」は代表作の中に「おれは直角」,「あずみ」のように江戸時代を題材に,型にはまらない人物や特異な才能をもつ人物を描いている実力派の作家です。この二人の組み合わせが,竜馬漫画の最高傑作を世に送り出しました。
歴史上の人物の物語を作るときには,史実をプロットし,そこに作者独自の脚色による肉付けをすることが常道です。坂本竜馬を題材にした小説でもっともよく読まれているのは司馬遼太郎の「竜馬がゆく」でしょう。この小説は上記のような手法で創作されたと推測します。
しかし,仮にこの「竜馬がゆく」を原作としてそのまま漫画化したら,「お~い!竜馬」の半分の面白さも出せないかもしれません。逆にいうと「お~い!竜馬」は最初から漫画に適した原作となっており,史実と多少の齟齬があっても竜馬の人物像を生き生きと描き出し,そして読者を退屈させないような演出が盛りだくさんとなっています。
もちろん竜馬に関する歴史上の重要なポイントは変えるわけにはいきませんが,登場人物との関わりについては多くの脚色を加えています。そのため,この作品だけから幕末の歴史や坂本竜馬の正しい人物像を学ぼうとするのは避けるべきです。
正しい歴史や人物像を知るためなら,まず「竜馬がゆく」あるいは他の著作物を先に読むべきです。そうすると,どの部分がどの程度の脚色であるかを理解した上で,この作品の面白さを味わうことができるでしょう。参考までに竜馬の時代の史実を整理すると下表のようになります。