俺は篠田賢吾、32歳。体験を生かしたリアルな小説を書こうと、大学を卒業と同時に探偵事務所に就職し、そのまま10年が過ぎた。付き合っていた恋人には「会社員をやりながらだって推理小説は書ける。呆れた夢想家ね。もうあなたの夢にはついていけない」と愛想をつかされてしまった。確かに初めの頃は好奇心も手伝って結構楽しくやっていたが、10年も浮気調査ばかりやっていると、いい加減嫌になる…。橋本史緒、19歳。大学2年、東京で一人暮らし。彼女の身辺調査及び素行調査が今回の仕事だ。期限は1週間。依頼主は片山興産の坊ちゃん。彼の32回目の見合い相手だ。今の女は裏で何をやっているか分からない、と見合いの度に相手の調査を依頼してくる。勝手に結果に失望して断念する。事務所を出た所で、その片山とバッタリ。相変わらずお高い車にキザな格好だ。理想ばかり高いお前じゃ100回見合いしてもダメだろうよ、という言葉をグッと飲み込み愛想笑い。仕事とはいえ、あんな野郎のために靴底をすり減らして歩き回らなきゃならないなんて情けなくなる。張り込み先で思わず寝込んでしまう。起こされた時、なぜか目の前に酔っぱらった史緒が!? そのまま部屋に連れ込まれて…!?
胸の大きく開いたドレスにパールピンクのマニキュア。けだるく切ない声。バスタブの中で煙草を吸い、夜毎のパーティーにシャンパン。多くの男達とのスキャンダル。そして…宙に舞ったキャデラック。惚れっぽくて気まぐれで陽気で、それでいて脆くて、後3センチ細いウエストよりも、1センチ高い鼻よりも、愛を欲しがった女。それがマーシィの母親、女優シェラ・ウッドワードだった。母親としては最低の女だったが女優としては最高の女だった。シェラは10年前、名門キャラダイン家の御曹司リチャード・キャラダインを同乗させた車で事故を起こし死んだ。マーシィが最後に見た母親の姿は、濡れたブロンド、ちぎれたネックレス、血に染まったハイヒール…。身寄りが無くなったマーシィはリチャードの弟アンソニーに育てられた。だが未だにシェラを崇拝しているアンソニーの事をマーシィは自嘲気味に「私の飼い主ってだけよ」と語る。いつまでも自分の事をシェラの娘で、まだ子供だという扱いをするアンソニーに反抗するマーシィ。だが2人の心の裏には自分でも気が付かない別の想いがあった…!?
離婚したばかりの女性専門のカメラマン、キースは、11歳の1人息子アーウィンと新しい街に引っ越してきた。通りすがりの可愛い女性を見つけたアーウィンに「あの娘、どう?」と乗せられ思わず品定めしてしまうキース。「足がいい。ヒップも小さい割にセクシーだし」「髪は?」「いいねえ、あのクシャクシャしたとこが。顔が見たいな」オープンカーに乗って真横を低速で走りながらボソボソ言っているので会話が丸聞こえ!? 当たり前だが失礼な話なので彼女は怒りでヒクヒクしている。アーウィンが笛を吹いて「ヘイ!! いいけつしてるよ、ねーちゃん!!」なんて声を掛けたから、もう大変!! キースは思いっ切りビンタされて車の中でひっくり返ってしまう。新居に着いたキースは、すっかり落ち込んでいるがアーウィンは意に介さず早速、両隣の部屋に挨拶に行こうと言う。右隣が19歳のスーザン・コーツ。左隣が33歳のジョーン・マティス。双方ともに独身。そんな情報どこで仕入れたんだ!?「むろん右だ!! 右にしよう!!」立ち直りが早いキースは当然のように右を選ぶ。アーウィンが挨拶用の花束を持ってノックすると出た来たのは、なんと先程キースに平手打ちを喰らわせた女性、スーザンだった…!?
離婚した元夫が出ているドラマを見ている娘、ジョスリンにヒステリーを起こすママ。ママは若気の至りでダグラス・ルックスなんて言うふざけた名前の顔しか取り柄のない俳優志望の男と結婚して、すぐに認められたのはいいもののスターになってからは周りに群がる女性やスキャンダルに心を痛め、あっという間も無く落ち目になってからは幼い娘と甘ったれの夫を抱えて貧困の日々と闘った愚痴をこぼす。でもその貴重な経験があったから離婚して3ヵ月でルパートみたいないい男を獲得できたわけよね、と言い返される。パパと会えるのは2週間に1度なのに毎日のようにパパの所に行っているのが気に食わないらしい。一人ぼっちになった父親の事を娘が心配してどこがいけないの? と正論を言われて閉口する。ルパートはママの上司であって恋人じゃないらしい。ルパートが仕事のパーティーに出席するためにママを迎えに来た。彼はまるでハーレクイン・ロマンスから抜け出してきたようないい男。おまけに独身で1年に3本もヒット作を飛ばした敏腕プロデューサー。そういう男性を上司にしとくだけっていうのは惜しいと思う。仕事も順調でいい男も側にいるっていう華やかなママの生活に比べ、余りにも悲惨なパパのこの姿を私はなんとかしたいの!!
私は、とある山奥のひなびた無人駅で降りた。恋人の圭が闇金から借りた金を踏み倒したまま逃げ回っているため、私の勤める店にまで取り立てがやって来て暴力を振るうようになったからだ。身の危険を感じた私達は圭の会社で扱っていた山奥の別荘に隠れる事になった。駅を降りると、うっそうとした森に囲まれ、暗くて人気も無い。なんだか不気味で寒気がする。突然カラスの群れが大きな鳴き声と共に羽ばたき飛び交う。余りの恐怖に思わず悲鳴を上げ、一緒に来ていた圭の弟分の準也にしがみつく。ちょうど到着した圭の車のヘッドライトに驚いたようだ。私達は圭の車でさらに山と森の奥に入り、ぽつんと立つ豪勢な屋敷にもぐり込んだ。翌朝、目を覚ますと準也の姿が見えない。夜には気が付かなかった沼が屋敷の近くにあった。その岸に準也が来ていた上着が!? 準也がいなくなっても気にもしない圭。彼は私が準也に魅かれているって知ってるんだわ…。まさか圭が準也を…。でも、もし私と準也が肉体関係を持ってしまった事に気が付いていたら…!?
秘書課のマドンナだった杏子の夫、神村が浮気相手のマンションで転落死した。事故か、それとも自殺か…!? 神村の同僚、広瀬は焼香に行った帰りに神村の自宅の近くで1人の女を見掛ける。どこかで見た事がある。神村の浮気相手は課で良く接待に使っていた銀座のカトレアという店の矢崎麻美というホステスだった。そうか、あの時どこかで見たと思ったのは麻美だったのだ。だが、どうしてあの女があんな所に…。再び杏子を訪ねた広瀬は麻美を見かけた事を話した。すると杏子は激しく動揺し、コーヒーポットを落として割ってしまう。カケラを拾い集める杏子。「痩せましたね。杏子さん」と声を掛けると杏子は静かに涙を流した。その姿を見ている内に思わず広瀬は杏子に口づけてしまう。そして2人はリビングで、そしてかつての夫婦の寝室で互いを求め合ってしまう。広瀬は杏子の事を愛していた。なぜ神村を押しのけて名乗りを上げなかったのかと後悔していた。やすやすと杏子を手に入れた神村をずっとうらやんでいたと杏子を抱きながら語った。広瀬が帰ろうとした時に杏子は「私を救ってくれる?」と不思議な事を言った。あれはどういう意味なんだ…!?
東海建設の社長夫人、尾高燿子が殺害されてた!? 駆けつけた妹の尚美が遺体を見ようとするが、あまりにもむごい殺され方に燿子の夫、正剛に止められる。警察は強盗殺人にしては殺し方がひどすぎるので怨恨か変質者の犯行ではないかと見ている。初七日の日、母親と叔母が尚美が大学を卒業したら正剛と再婚して貰いたいと提案する。会社と尾高の財産を婿養子である正剛に独り占めされたくないのだ。混乱する尚美だが正剛は異存ないと言う。正剛は事件の日の行動を不審に思われ連日のように事情聴取を受けていた。義兄にあんなひどい事が出来る訳がない。だが刑事から、燿子が従兄の貴志と深い関係にあった事や複数の男性と関係があったと聞かされ…!?
デザイン事務所に勤める志帆子は、まだどこのショップにも出していないはずのサンプルと同じデザインの服を着た女性を見かける。一昨日の展示会で見たばかり。それをどうして着て歩いている人間が…。だめだ、見失ってしまった。翌日、カタログの打ち合わせの帰りに、同じ服を着たあの女性を見かけ後を追う。事務所の管理はきちんとしているから盗まれたはずがない。誰かが持ち出してきている? でもあんな背の高い女性がいたかしら。彼女は事務所のデザイナー、桐島のマンションに入って行った。恋人? 一番妥当な線よね。だがその女性は女装した桐島だった!? 彼はオーナーの恋人だったのだ。桐島には哀しく悲惨な過去が。それは悲劇を巻き起こし…!?
ピンク映画に出演し続け、ついに一般作の主演を掴んだ絵理。人気に拍車を掛けるため写真集を出す事になる。カメラマンは国際的な賞も取っている露木征彦。顔合わせの日に初めて会うと、これから付き添いも無しで2人だけで撮影すると言う。絵理が連れて行かれたのは森の奥深くにある豪奢な別荘だった。少し怖いけど好奇心をかきたてられる。別荘のリビングに綺麗な女性の絵が飾ってある。画家だったという露木の父が描いたのだろうか。見とれていた絵理は近くの花瓶を落として割ってしまう。すると中からピストルが…!? それは露木の父が自殺した時に使ったものだった。次第に露木に惹かれていく絵理だが露木には狂気ともいえる過去の秘密があった…!?
水村久美子が殺された。事件を知った探偵事務所の尾崎は先月行った素行調査を思い出す。仲田曉子という女性から夫、仲田正弘の素行調査を依頼されたのだ。妻に送った調査報告書には久美子が不倫相手として出ていた。死亡推定時刻直前に仲田が彼女の部屋を訪れ、帰宅後、車で出たまま現在まで行方不明。久美子の死因はネクタイによる絞殺でネクタイは仲田のものだった。現場の状況と言い仲田の取った行動と言い犯人は仲田以外に考えられない。だが曉子は久美子が夫の不倫相手だという事を事件の前に知っていたはず。曉子への疑惑を抱いた尾崎が家を訪ねると、曉子は抱いてくれと言う。ずるずると関係を続ける尾崎。これでは俺はまるで共犯者だ…!?
人気アイドル、緒田公人の付き人になった佐野葉子。テレビや雑誌では優しくて好青年というイメージだったが、実際には言葉も態度も粗暴な公人に振り回されてしまう。撮影現場では見惚れてしまうほどカッコ良いが、終わった途端にスタイリストの女の子と消えてしまう。かつては事務所社長の片桐女史がマネージャーをしていたが、彼女が事務所立ち上げと同時にマネージャーを降りてから、どのマネージャーも長続きしなかったらしい。公人は片桐社長と愛人関係にあったのだ。片桐との関係を断ち切りたい公人は強引に葉子を抱き辛い思いを打ち明ける。それを知った片桐は陽子をクビに。片桐に別れを告げに行く公人。それが全ての悲劇の始まりだった…!?
縁の名を語り俺の横で満ち足りた顔をして眠っている、この女は一体誰なんだ。縁が旅行に出かけたのはゴールデンウィーク直前の事だった。それから10日。俺の知っている縁は、まだ帰って来てはいない。全く面識の無い人間の名を名乗る事は出来ない。俺を訪ねて来たあの夜も迷いもせずに俺の名を呼んだ。臆する事も無く俺の腕に飛び込んで来た。まるで以前からの恋人の様に。まるで縁が乗り移ったかの様に。一体何時からこの女は自分を縁と思い込むようになったのだろう。俺は時々、縁は眼の前にいるこの女じゃないのかと錯覚しそうになる。俺は貪るように何度も何度も女を抱く。俺は何をしているんだ。この女からは縁の血の匂いがすると言うのに…!?
2カ月前、俺はこの小さな漁師町の突端にある岬で頭から血を流して倒れていた所を山根寛子によって発見され一命をとりとめた。10日後に病院のベッドで意識を取り戻した時には自分がどこから来たのか何者であるのかも忘れてしまっていた。身元が分からないまま行く当ても無く病院を退院する事になった俺を受け入れてくれたのは、この町立病院で事務の仕事を始めたばかりの寛子だった。俺は一体何者なんだ? 一体あそこで何があったんだ? 何をしたんだ!? 昼間1人でいると不安でたまらなくなる。あの夢。俺が女の首を絞めているあの岬。あれは俺が倒れていた場所だ。警察は事故か自殺を図ったのではないかと言うが寛子を抱く度にあの夢を見てしまう…!?