人生は灰色。パリ郊外在住のバンド・デシネ作家シモン・ミューシャは、ここしばらくスランプに陥り、生きる意味を失ってしまっている。あるフェスティバルに招かれ、ポルトガルで数日間過ごすことになったシモンは、長らく忘れていたことを思い出す。幼少期にかいだ匂い、夏休みならではの笑い声、そして家族のぬくもり。どうして自分には根なし草だという感覚がつきまとっているのだろう。どうしてひと言も理解できないポルトガル語を耳にして、その響きにこんなにも心が揺さぶられるのだろう。その秘密はミューシャ家の来歴にあった……。シモンは自ら蓋をした過去に向き合う旅に出ることで、進むべき道を再び見出す。はたして彼は、曇天の人生を抜け、雨上がりの空に虹を見上げることができるのか――。ある中年男の自己回復の旅を、自伝的要素も盛り込みつつ、自由な筆致とみずみずしい色彩で描いたシリル・ペドロサの代表作ついに翻訳。自分の居場所がわからなくなってしまった大人に送る物語。