【モーニング・ツー読み切り】『こびとのシイタと狩りぐらしの森』の樺ユキ氏がアーティストとAIを描く、超長編読み切り!
「THE GATE」、「ちばてつや賞」受賞の新鋭が描く、ハートウォーミングSF読み切り!!(モーニング2021年11号)
戦争の影が忍び寄る小さな国オートランド。若き画家モーリスは「やり方を見せれば、すぐに同じことができる」新種の生物ノームを手に入れる。ノームの能力に感激し、可愛がるモーリスだったが、他の画家仲間は「自分の仕事」を奪われるとノームの使用を禁止し、殺そうとする反対運動を起こす。モーリスは多くの可能性を秘めたノームを守るためこの運動を阻止し、ノームと画家たちとの共存の道を探すため、奔走していくーー。『こびとのシイタと狩りぐらしの森』の樺ユキが「芸術」と「AI」そして「戦争」を描く、超長編読み切り!
こびとたちが暮らす森の中の集落。そこに住む「シイタ」は、親友の「ナラ」と近くの森を庭にして、日々冒険をしながら過ごしている。危険な動物たちがいる森の中でも、集落にいれば安全で快適だ。ある日ふたりは、集落から遠く離れた場所に、人が出したと思われる煙を見つける。ナラは、大人が何を隠しているのか、森で何が起こったのかを確かめるため、集落を出ようとシイタを誘う。そこには、シイタの父親の命を狙う「イズナ」がいた。初めてのキャンプ、食料を調達するための狩り、謎の巨大な足跡、他の小人たちの集落… 身長8.5センチの小人シイタが、動物たちが棲む未知の森の中をサバイバル!
【第10回THE GATE】奨励賞受賞作
【2020年前期・第77回ちばてつや賞一般部門】奨励賞
以前に『モーニング・ツー』で「超長編読切」として発表された作品が、1冊の本となって電子でのみ発売となりました。 https://twitter.com/muukasa/status/1716108312281002167?s=46&t=S5wm4E-TmT39NBg4BgQsPA 電子単行本発売日に、作者が途中までの試し読みではなく全ページTwitterに公開というのはなかなか思い切ったことをされているなと。 最近、私は『サピエンス全史』から『ホモ・デウス』を経て『21 Lessons』とユヴァル・ノア・ハラリ氏の人類史にまつわる著作を読んでいるのですが、その中でも度々AIとその影響に関する記述が出てきます。 向こう20年ほどで、現存する多くの職業はAIに取って代わられていく。それと同時にまた新たな職業が誕生する。しかし、それは何も珍しいことではなく産業革命の前後などでも起こってきたこと。いわば「歴史は繰り返す」と。 特に私の観測範囲でも話題なのはイラストレーターや漫画家です。AIを使ったイラスト制作が飛躍的に簡便になり、まさにゲームチェンジャーと言えるでしょう。「私の絵をAIに学習させないで欲しい」という作家さんもいれば、AIを用いて背景やシナリオを作ることに挑戦する方もいます。さまざまな理由により新しい物事に挑戦するのが難しい人もおり、どうしたってそこには明暗が生じざるを得ません。変化に適応できる生き物が生存していくのが世の流れとはいえ、何十年も研鑽してきた技術が汎化し仕事が奪われてしまうのは個人としては厳しいものがあるでしょう。 本作は、そういった難しくデリケートな部分を漫画家である樺ユキさんが直々に描いているというところにまず構造的な面白さがあります。 自分の描画したものをそのまま模倣できるばかりか、更にその画風のまま応用的なものまで生み出せる小さなノームの出現により画家が仕事を失っていく世界。その中で、その新技術の台頭を素晴らしいことであると肯定していく画家・モーリスが主人公の物語です。 更に本作はAIに加えて戦争という現在の地球上で特に重大なテーマを扱いながら、芸術の意義や価値といった領域にも触れていきます。これだけ大きいテーマをひとつの作品の中で扱おうとすると普通は散逸してしまいそうなものですが、メインのストーリーラインにそのどれもが密接に関わってきており綺麗にまとまっています。 テーマも挑戦的で良いですが、何よりストーリーが、そしてそれを支える絵の良さが際立っています。議論の尽きないテーマですし、人によって各論に賛否はあるでしょうけれど、1冊という短い時間の中でありながら読めば何かを確実に残してくれる作品です。 無料で読めてしまうのがもったいないくらいの作品ですので、とりあえずこの芸術の秋の夜長に読んでみてはいかがでしょうか。
※ネタバレを含むクチコミです。
以前に『モーニング・ツー』で「超長編読切」として発表された作品が、1冊の本となって電子でのみ発売となりました。 https://twitter.com/muukasa/status/1716108312281002167?s=46&t=S5wm4E-TmT39NBg4BgQsPA 電子単行本発売日に、作者が途中までの試し読みではなく全ページTwitterに公開というのはなかなか思い切ったことをされているなと。 最近、私は『サピエンス全史』から『ホモ・デウス』を経て『21 Lessons』とユヴァル・ノア・ハラリ氏の人類史にまつわる著作を読んでいるのですが、その中でも度々AIとその影響に関する記述が出てきます。 向こう20年ほどで、現存する多くの職業はAIに取って代わられていく。それと同時にまた新たな職業が誕生する。しかし、それは何も珍しいことではなく産業革命の前後などでも起こってきたこと。いわば「歴史は繰り返す」と。 特に私の観測範囲でも話題なのはイラストレーターや漫画家です。AIを使ったイラスト制作が飛躍的に簡便になり、まさにゲームチェンジャーと言えるでしょう。「私の絵をAIに学習させないで欲しい」という作家さんもいれば、AIを用いて背景やシナリオを作ることに挑戦する方もいます。さまざまな理由により新しい物事に挑戦するのが難しい人もおり、どうしたってそこには明暗が生じざるを得ません。変化に適応できる生き物が生存していくのが世の流れとはいえ、何十年も研鑽してきた技術が汎化し仕事が奪われてしまうのは個人としては厳しいものがあるでしょう。 本作は、そういった難しくデリケートな部分を漫画家である樺ユキさんが直々に描いているというところにまず構造的な面白さがあります。 自分の描画したものをそのまま模倣できるばかりか、更にその画風のまま応用的なものまで生み出せる小さなノームの出現により画家が仕事を失っていく世界。その中で、その新技術の台頭を素晴らしいことであると肯定していく画家・モーリスが主人公の物語です。 更に本作はAIに加えて戦争という現在の地球上で特に重大なテーマを扱いながら、芸術の意義や価値といった領域にも触れていきます。これだけ大きいテーマをひとつの作品の中で扱おうとすると普通は散逸してしまいそうなものですが、メインのストーリーラインにそのどれもが密接に関わってきており綺麗にまとまっています。 テーマも挑戦的で良いですが、何よりストーリーが、そしてそれを支える絵の良さが際立っています。議論の尽きないテーマですし、人によって各論に賛否はあるでしょうけれど、1冊という短い時間の中でありながら読めば何かを確実に残してくれる作品です。 無料で読めてしまうのがもったいないくらいの作品ですので、とりあえずこの芸術の秋の夜長に読んでみてはいかがでしょうか。