永世乙女の戦い方

将棋で殺り合う女たちが見たいあなたへ

永世乙女の戦い方 くずしろ 香川愛生女流三段
兎来栄寿
兎来栄寿

最近また一気に将棋マンガが増えてきていて、小学生の頃に囲碁・将棋クラブに入ってNHK将棋講座を日曜午前の楽しみにしていた身としては嬉しいです(とはいえ、カバー下おまけの詰将棋を5分考えて解けなかったレベルです)。 作中で詳しく解説されますが、棋士と女流棋士には大きな違いがあり、それでも敢えてとある理由から女流棋士として強くなろうとする女子高生・香を中心に物語は展開していきます。 様々な百合マンガを手掛けてきたくずしろさんらしい人物造形と関係性が随所で見られ、エクストリーム百合痴話喧嘩マンガの『ラブデス。』を将棋でやっているかのような対局は特に見所です。 将棋指しは常軌を逸した人が多いので、そういう意味ではくずしろさんが描く女性として意外と相性が良い題材だなと感じました。 将棋が全く解らない人でも問題なく楽しめるであろう演出の派手さと構成となっています。個人的に、香の母親が「将棋のことなら止めない」と全力で(基本ルールも解らないのに娘の全棋譜を取るくらいに)応援してくれているというエピソードが好きです。 ちなみに、推しは勿論塔子さんです。

永世乙女の戦い方

スペリオールに強力なニューヒロイン誕生!

永世乙女の戦い方 くずしろ 香川愛生女流三段
mampuku
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 超好きな感じの新連載が始まったので(出遅れたけど)クチコまずにはいられなかった! 作者はこれまで数々の上質な百合漫画を世に送り出してきたくずしろ先生。「女子」特有の価値観や関係性などを下敷きにしつつ、将棋というジャンル、そして香という強烈なヒロインものとして極上エンタメに仕上がっています。  ヒロインのぶっ壊れたカッコよさや脇役たちの人間味など、同じスペリオールで連載中の「響」と共通する魅力を感じます。しかし「永世乙女」はそれだけでなく、とにかく絵が良いんです! 誌上で随一の華があります。線が美しく、構図やキャラの表情に力がある。  ちょうど最近「響」に登場した天才漫画家が曰く 「漫画の命はキャラクターでしょ。とにかくキャラがあってそいつらが次々に何かする。」 「キャラも作れない描きたいイベントも特にない。でも漫画に関わりたい。そんなアホがゴロゴロいる。そんな才能のない新人や枯れたじじいが行きつく先が情景描写に心理描写。」 「死がどうとか性がどうとかにいちいち葛藤するなんの内容もない話に背景だけ描きこんでうすら寒いポエムのっけて」  ……両手をあげて賛同はできないものの一理あるなと思いました。そして数週間後に始まった「永世乙女」を読んで「そうそうそれが読みたかったんだよ!」と笑。キャラが動き、絵が語る、これぞ漫画。

兄の嫁と暮らしています。

"日常"の中に想いのすれ違いの切なさが見え隠れするストーリー

兄の嫁と暮らしています。 くずしろ
sogor25
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両親を早くに交通事故で亡くし、兄夫婦の元で暮らしていた女子高生の志乃。しかし、半年前に兄も病気で失ってしまい、始まったのは兄の嫁"希さんとの共同生活。 1話で志乃のモノローグとして語られる「今は 兄の嫁と 暮らしています ただ それだけの話しです」という言葉の通り、彼女たちの"日常"が淡々と描かれる作品です。2人の周囲の人々も過度な心配を見せずに普通の"日常"として彼女たちに接しており、発生する事件も高校生や社会人であれば充分起こり得るもので、基本的には明るい作風で展開していきます。このあたりは元々コメディ寄りの作品を中心に発表されているくずしろさんならではという感じがします。 しかしながら、物語の中でときおり彼女たちが感じる「後ろめたさ」や「心のトゲ」のようなものが見え隠れします。志乃のほうは自分が居ることで希さんの将来を縛ってしまっているという罪悪感のような感情、希さんは亡き夫の影や理想の生活を志乃の向こう側に見てしまっていることなど、お互いがお互いの事を想っているからこそのすれ違い、それが"日常"の中に見え隠れするという繊細な作りの作品です。 「百合姫」等で百合作品を多数発表されているくずしろさんの作品ということで、この作品を百合作品として見る感想も見かけますが、私としてはこの作品は百合ではなくむしろ家族愛に近い、でもそれともどこか違う、もしかしたらまだ日本語には存在しない愛の形の物語なのではないかと思っています。 近作でいえば「違国日記」や「春とみどり」、百合作品との対比という意味で「たとえとどかぬ糸だとしても」などが好きな方には是非読んで頂きたい作品です。 5巻まで読了