君の大声を聞いたことがない

ジャケ買い大当たり!

君の大声を聞いたことがない くれよんカンパニー
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

1巻にして傑作の匂いがプンプンする! 生まれてこの方ずっと日陰を歩んできたような地味な女性が、30歳の誕生日に芝居のチケットを買わされ初めて観劇したことで、舞台上のキラキラ華やいだ世界に想いを馳せ、人生に光が差し始める。 「まぶしい・・・。 私も・・・私も、舞台に立ちたい! 私も、キラキラしたい!」 出てくるキャラクターが全員一面的でなく、ほどよく癖があって場面によっては良くも働き、ときとして悪くも映る。 かわいくて派手で嫌味なようで、実は素直でとても姉想いの妹。 娘の幸せを願ういい親であるようで、偏見まみれで視野狭窄的かつ前時代的な母。 他人を見た目で判断し、下に見ることで安心を得ようとする職場の同僚たち。 おじさんになるまで芝居の夢を追い続け、他人の心にズカズカ踏み込む押しが強い売れない舞台俳優。 絶世のかわいさでちやほやされ、地味なものに何の価値も感じなかった人気女優。 ただ悪いだけの人は登場しないし、同じように全くの善人もいない。 世の中、はっきり白黒つけられることの方が少ない。 とにかく人をすごくよく見て描かれているなと思わされる。 30歳にして初めて一歩踏み出し、ゆるやかに青春が始まっていく様がたまらなくワクワクするし、まだ何者にも染まっていないピュアすぎる主人公に「頑張れー」ってエールを送りたくなる。 一話のラストなんて最高だ。 ストーリーの進行具合にもよるだろうけど、すぐにでもドラマ化してもおかしくなさそう。 描写力がずば抜けて良くて、デフォルメされたかわいい絵でも感情がしっかり伝わってくるから、心の声がほとんどないにも関わらず何を考えているか手に取るように分かる。 ビッグコミックオリジナル2018年第17号に載っていた同作者の読切「特別読切『初恋』」も素晴らしかった。 早く2巻出てくれないかなー!

特別読切『初恋』

あっさりした中に深みを感じた

特別読切『初恋』 くれよんカンパニー
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

ゴリラに初恋をしてしまった女性の話。 動物園、ガラス一枚向こうにはゴリさんがいる。 この女性がゴリラに向ける視線は全身をなぞるようにとてもエロティックで、憧れの人に向ける目線のように熱く純粋だ。 そしてそこにゴリさんと気軽に挨拶を交わすライバル(人間の女性)が現れ・・。 すごくかわいらしいお話だった。 でもこの話って何かに置き換えられる気がするなーと思って、ぼんやり考えていたらハッとした。 「のぞき部屋」だ。 利用したことはないが映画などで描かれているのを見たことがある。 「万引き家族」で出てくるのも同じような形態だったかな? まさに、ガラス1枚隔てた向こう側に対象がいて、悶々として熱い視線を向けている。 同じ対象を複数人が見ている、いわばライバルだ。 男たちは目の前の女性の見た目に幻想を投影し、みっともなく泥臭く自分のものだと主張し取り合う。 だが、見られてる側からしたら多少のサービス精神こそあっても、ガラスの向こう側に気持ちがいくことはなく、プライベートでよろしくやっているのだ。 その関係性を男女逆転させ、風俗を動物園という設定に変えたのがこの作品と考えれば、立体的に見えてきて面白い。 女性に変えただけで(それだけではないが)、みっともなさを可愛らしさのオブラートに包むんでこうも可愛らしくなるのかと感動する。 オチなんかはまさに例で出したソレで笑える。 他の作品を読んだこと無いので読んでみたくなった。