女性向けファッション誌の編集部で日々激務をこなす緒野ひよりが主人公の本作。 いきなり枝葉の話なんですが、主人公が読んでいて非常にかわいそうなんですよ。メインの恋愛面ではなく、サイドの仕事面において。 ひよりは文芸志望で出版社に入ったもののまったく畑違いのファッション誌に配属されて、 「こんなところにいたって誰かの心を動かす仕事なんて出来るはずもない」 と思いながら仕事をしているんです。こんな悲しいことがあるでしょうか。 私が受け持っている連載の「となりのマンガ編集部」の取材やそれ以外でも、「本当はマンガ志望ではなかった」あるいは「本当はマンガ編集になりたかった」「マンガ編集にはなれたけど希望する雑誌ではなかった」という方に数多くお会いしてきました。結果的に上手くいっているパターンも多いですし、たとえば伝説の編集者である壁村氏なども元々マンガなど一切読まなかったといいます。ただ、それらは生存バイアスでしかないとも言えるかもしれません。 何十年も昔からずっとこのシステムが続いているのは、個人的にはすごく不思議です。どう考えても自分の好き・得意を活かせる部署に行ってもらった方が三方よしではないでしょうか。 作中で、編集長が主人公に ″文芸も女性誌も全くの別物ってわけじゃあないの 目の前の読者のために作るのは同じ 一度本気でやってみたらきっと面白さもわかるわ″ と諭す良いシーンがあり、また思い人にも ″きっかけ次第で変わることってあるよね″ と重ねて言われます。 しかし、しかしですよ。仮に本には年間で数十万円課金しているけどその分服飾代に年平均1万円もかけず「チュニックって何? シュミゼットって何?」というレベルの人間がファッション誌に行ったとして、まるで興味を持てない対象に対してどんな仕事ができるのかと。 逆も然りで、文芸やマンガにまったく思い入れがない方がその編集部に配属されて作家やアシスタントや関係者と揉めて大きな問題に発展してしまうケースも少なくない気がします。 どんな仕事も本気で取り組めば見えてくるものは確かに多いとは思いますし、さまざまな知見は別の場所でも生きるのは解りますが、それでも文芸に詳しい人には文芸を、マンガに詳しい人にはマンガを担当してもらった方が読者のためにもなるのではと。 同じマンガ編集部であっても、例えば『アフタヌーン』と『なかよし』ではまったく違いますしね。そういう点では、白泉社などは新人は必ず行きたい部署に行けるシステムがあるそうですごく良いなと思います。 ものすごく脱線しましたが、冒頭からスタイリストさんに朝まで詰められる主人公が本当に不憫でならないのです。 本筋は歳の差ゆえに破れた片思いが記憶喪失という事件を通して蘇り、ひとつの嘘をついて危ういバランスを保ちながら進んでいくハラハラ感と恋のドキドキの二重奏の引きが強いです。 また加瀬アオさんの絵がとても良くて、全体的にすっきりと読みやすくありながら女子はかわいく男子は格好よく、適度なデフォルメ部分も愛らしいです。文字が詰まっていても気にならないほどネームも読みやすくて、今後ますます人気を博していかれるでしょう。 シンプルにエンターテインメント性が高い恋愛ストーリーで、仕事面でも恋愛面でもこの先が気になります。
先日、かりんとうを気に入ったアメリカ人がその正体を砂糖たっぷりの小麦粉の生地を油で揚げたものだと知って友人に「これは日本のオールドファッションドーナツだ」と紹介したら「日本のドーナツは硬いな……」というコントが成立してしまっていたという笑い話があり、好きでした。 皆さんはドーナツはお好きですか? 私は大好きです。サクサクでシンプルな味わいに飽きが来ないオールドファッションも良いですし、香ばしいチョコレート系も美味しいですし、ソフトな食感のシュー系も魅惑的ですし、ふわふわのエンゼルクリームやもっちもちのポンデリング系も外せないですし、ヘルシーで優しい味わいの豆乳ドーナツも好きです。食べ過ぎには注意ですが、ドーナツ最高です。 そんなドーナツ好きが読むと、ドーナツを食べたくて仕方なくなってしまうマンガが本日発売されました。『かわうその自転車屋さん』のこやまけいこさんが描く新たなハートフルストーリーで、移動販売のドーナツ屋さんのお話です。 幼稚園の栄養士だった亡き母が作ってくれた思い出のドーナツが忘れられない赤髪の少年わたる。恩義ある園長の孫であるわたるのために、そのドーナツを何とか再現しようと奮闘する黒猫の黒鉄(くろがね)。 キッチンカーの外装のデコレーションや内装の設備などが整っていくさまにとてもワクワクします。食品衛生責任者の講習を受けに行く件などもリアルで笑ってしまいましたが、大事なことです。また、キッチンカーといえど好きな所で勝手に営業して良いわけではなく、その場所を見つけるためのやり取りの部分も好きです。 イーストドーナツとケーキドーナツの違いや、実際にドーナツを試作してみるところまでかなり詳細にドーナツ描写もなされていくのでドーナツ食べたい欲がモリモリ高まります。 そして何より良いのは、お店を通して関わる人々にドーナツを通して美味しさのみならない幸せを振りまいていくところです。例えば1話では、人と喋ることが苦手な引っ込み思案の美容師のエピソードが描かれます。彼女が、まわると出逢い彼らの作った温かみのあるドーナツを食べることで救われていく様子に心が和みます。 今日はホワイトデーでもありますが、ドーナツと一緒にこちらを楽しんでみるのも良いのではないでしょうか。
toi et moi。 フランス語で「あなたと私」を意味するこの作品。 女子校を舞台にした二組の「toi et moi」、凛然と咲く二輪の百合の物語です。 最初に登場するのは、クールで孤高で背が高くボーイッシュな緒河聖羅と白いレースの日傘を常に差しているかわいいお嬢様系の野瀬千草。彼女たちが最初にお互いを意識し出して関係し始めるようになるところを描いた第1話から、もう最高極まりないです。 この美しく咲く百合物語において、仲藤ぬいさんの画風はベスト。涼やかな聖羅の眼差しも、千草の可憐な表情や仕草も堪りません。 そして、2話から登場するもう一組の女の子同士。小説を書いている伊江島やえと、目立つ容姿が原因で過去に悶着があり役者をしている有栖川雪世。よりセンシティブな部分を縁に繋がる、やえと雪世の関係性がまた良いです。 そんな彼女たちに、クラスが同じであることもあって交流が生まれていくのも面白いところです。ふたりだけではそのままであったものが、外の風を入れることによって訪れる変化もありますからね。 繰り返しになりますが、仲藤ぬいさんの生み出すヴィジュアルがまずお強い。個人的に千草の外見が好みなのは言うまでもないですが、普段であればそこまで強くは惹かれないはずの雪世もまたかわいくて惹かれます。ひとえに絵力によるものでしょう。セピア調の表紙も絵の力があるからこそ映えます。 甘くもありほろ苦くもあり、1粒で2度美味しい百合です。読めばさまざまな滋養を心にもたらしてくれます。新しい季節が近づく今、読むのにぴったりかもしれません。
日経平均株価がATHを迎え一時は4万円を超えた今日この頃。ビットコインも1千万円を超えて話題になっておりますが、さくらインターネットの急落などもあり投資はあくまで自己責任で、大事なお金には手を出さないようにしましょう。 というわけでこちらは『電波教師』や『異世界シェフと最強暴食姫』でお馴染みの東毅さんの新作、異世界転生×株式投資の物語です。 天才投資家の大蔵雑華(おおくらさいか)24歳が、会社で億単位の損失を出して自殺を図った妹の命を救うために女神が課した「1年で2兆円稼ぐ」というミッションを果たすべく、異世界に杖の姿で転生するというストーリーです。 冒険者は皆ギルドで自らの株を発行してそれを活動資金としており、クエストの成否や将来性などに応じて変動する株価や戦利品の配当などが投資家の利益となるという世界設定にまず面白さがあります。 何で女神が人間界の貨幣を欲しがるのか、本気で2兆円稼がせたいならもう少し初期所持金を優遇してあげるべきではとか、言語・通貨・株のシステムなどは異世界でありながら日本仕様であるなど設定的には大雑把なところもありますが、一方でこの異世界においては魔物よりも飢饉や疫病で死ぬ人の数の方がずっと多いという設定もなされています。 その際に出るもうひとりのヒロイン・ソルスの母親である勇者ルーチェが呟く 「私の剣は、病も貧困も斬ることができない」 といったセリフなどは流石の味わいです。随所で東さんの良さが出ており、鍛冶屋のシーンなども好きです。 ソルスが5年で1000億を溶かしたというところから見ても世界にある富の総量はかなりのものであるように考えられますが、それでも飢餓や貧困が蔓延しているとなると極一部に富が集中しているであろうことが予想されます。そんな海千山千の世界で、雑華がどのように現実の投資テクニックを用いて無双し稼いでいくのかが見どころです。 PER、PBR、ROE、スキャルピングなど基本的な株式用語を楽しみながら学べるのは良いと思います。一方で、S級冒険者の名前が「ミズホクリミナル」であるなどの小ネタには笑います。 しかし、作者コメントによると何やら東さんの近況が穏やかでないようで心配になってしまいます。
舞台はかつて争っていた人間とあやかしが共存の道を歩み始めた世界。 蛇のあやかしであるカガチは人間の少女・八重波とともに、葬儀屋としてあやかしを弔う旅をしていました。 あやかしは亡くなるとその身体から“穢れ”を放ち、周囲を蝕んでしまいます。 葬儀屋はその“穢れ”を祓い死者を弔うことを生業としていますが、 実際に“穢れ”を祓う儀式は葬儀屋であるあやかしではなく、 その身に同じ“穢れ”を持つ罪人のみが行えるものでした。 この作品はその幼い身体に“穢れ”を受けることとなった八重波の過去を紐解きながら、 あやかしを弔う彼女とカガチとの旅の様子を繊細で美しい作画で紡ぎ出す和風ファンタジーです。 1巻まで読了
殺し屋のねずみちゃんに恋した、ちょっと冴えない青年・碧くん。 彼の強烈なアプローチに、こういった経験が初めてなねずみちゃんは戸惑うも、まさかの付き合いはじめてしまう。 しかし、殺し屋だから、当然裏稼業ともつながっているわけで、碧くんも捕まってしまい酷い拷問をうける。 そこでねずみちゃんが取った行動は・・・という展開。 殺し屋と恋。 冷静と情熱みたいな感情の対比が良い感じなのですが、なかなかエグイ内容。 だけど、2人のしょーもない掛け合い(イチャコラ)が緩衝材になって、緊張と緩和の緩急をつけてくるのも面白い。 バズっていたので読んでみましたが、先が気になる展開なのと、2人の関係がどう転んでいくのか予想つかなくて今後が楽しみな作品でした。
Xのタイムライン上で「いいね」「リポスト」の数が表示されなくなるというニュースが出てきて話題になっていました。蓋を開けてみればあくまでもタイムライン上での措置ということしたすが、個人的には「いいね」数や「リポスト」数という情報が本質を遠ざけているケースも多いのでまったく見えなくなってもそれはそれで良いのではないかと感じます。正確な情報や良識に配慮した投稿より、そうではないものの方がより拡散性は高いですし。 そんな折、このタカノンノさんの新作の『推し殺す』1巻が発売されました。 高校生にして「大森卓」というペンネームで漫画家デビューしたもののネット上での酷評を受けマンガを描くことができなくなってしまった主人公・小松悠が、大森卓作品のファンすぎて「殺す」と意気込んでマンガを描いている女性・三秋縁(みあきゆかり)と大学で出逢う物語です。 明らかに大森卓に影響を受けすぎており、またさまざまな点でこなれていない縁のマンガに対してつい的確なアドバイスをしてしまったことで縁から自分の編集者になって欲しいと懇願され、ふたりの奇妙な関係が始まっていきます。 悠が本当は相手から巨大な感情を抱かれる大森卓その人であるという秘密。それを隠したまま進行するところにストーリーとして引きがあり、また才能を持ちながら描けなくなってしまった主人公と、まだ原石ながら努力する才能はずば抜けており性格的には拗らせていてかわいい縁の主軸となるふたりのキャラクターと関係性もとても良く、どちらにも共感しながら読み進めました。タカノンノさんの描くこういう女の子は本当に良いです。 この作品には縁がSNSアカウントを作ってそこでマンガをアップロードし多くの人に見てもらおうとするエピソードがあります。その際、9万人以上のフォロワーを持ち在学中にプロデビューを果たしているminaruこと先輩の石黒成美に対して勝負を挑んでいくことになります。 ここが現代的で面白くもあり、SNSの功罪がよく表れていて考えさせられる部分でもあります。 良い面は、もちろん多くの人に見てもらえることです。一昔前、たとえば『バクマン。』などの時代はまず編集者に見初められて雑誌に載らなければ、たくさんの人にマンガを読んでもらうこともデビューすることもできませんでした。しかし、今はSNSでバズれば編集の方から声がかかることもありますし、何なら出版社を通さずとも個人で出版したりサブスク形式で配信したりといった手段もあります。作中でminaruが今は編集なんか要らない自己プロデュースの時代と言い放ちますが、そういう面も存在することは否定できません。純粋な作品を創る力とは別に、それを効果的に届けるための力もまた大事な時代です。 一方で悪い部分はといえば、SNSでの評価はあくまで指標にすぎないにも関わらずそれが目的化してしまいがちであること。また、それによって心を乱されることです。「いいね」「リポスト」「フォロワー数」などにこだわり過ぎると、やがてしんどくなる時が来ます。なぜなら最初は1つの「いいね」でも嬉しかったはずなのに、やがて「100いいねしか来なくてあまり伸びなかった」という風に感じられてしまうからです。何なら万バズが日常化していれば1000いいねでも少なく感じる人もいるでしょう。本来は1000人に良いと思ってもらえるなんて途轍もないことなのですが。 そもそも、まったく同じものを投稿したとしてもタイミングや運によってどれだけ拡散されるかは全然変わります。バズったから良い作品、バズらなかったから悪い作品、そんなはずはないのですが潜在的にはそう捉えてしまいがちです。良いマンガがまったくバズらなかったり、それが後日に驚くほどバズっていたりする光景は何度も見てきました。 それでも、やはり多くの人に見てもらっているというのが数字で実感としてわかるのは作り手側として見れば嬉しい部分も大きいことでしょう。人間、承認欲求にはなかなか抗えません。そして、編集部側などでも数字が出ているということは上を説得する材料として非常に強力です。故にそこに頼ってしまいがちです。 ただ、バズりやすさだけを求めると作品が類型化していきます。ちょうど先日『ビッグコミックオリジナル』の編集長がこのように仰っていました。「編集者は流行に乗っかるのが仕事ではなく流行を作り出すのが醍醐味である」と。研ぎ澄まされた作家性の原液を浴びるようなその人にしか描けない味がする作品を、自分の好きな気持ちや負の感情を煮詰めたものを読ませて欲しいと、贅沢な一読者としては常に願っています。 だからこそ、縁がわかりやすくバズるための手法を安易に使わず正統派なマンガを描いて勝負していこうとする姿勢を見せたとき、私は心の中で拍手喝采でした。 縁たちのまんが道はこの先どうなっていくのか。 悠が再びペンを握れる日はくるのか。 楽しみに見届けていきたいです。
定時制を描いた作品に名作が多いのは、そこに通う人々が多くの困難や苦しみなどそれぞれに込み入った事情を抱えているからでしょう。 この『仲宗根くんが前を向かない』も、王道のボーイミーツガールではありながらも出逢いの場所が定時制かつ舞台が沖縄ということで独自のスパイスが効いています。 一見、怖いヤンキーでありながら気さくで優しい仲宗根くんと、東京のしんどさから逃れて思い出のある沖縄の地へとやってきたヒロインの紗夜。クールで消極的な紗夜の心の卵の殻を仲宗根くんが少しずつ砕いて行きます。 同じクラスだけど2歳差というのも、普通の学園恋愛マンガではないシチュエーションが生み出す趣深さのひとつです。しっかりとふたりの考え方や良さを描いた上で距離が縮まっていくので、彼らふたりともを好きになり応援をしたくなります。 紗夜がとても良い黒髪ロングストレートヒロインなので(ツヤベタも美しいです)個人的な大加点が入るのはさておくとしても、モー子さんの絵が良くて主軸となるふたりはもちろん他のクラスメイトなどのサブキャラクターも魅力的です。 バイトをするときに笑顔を作ろうとして作れない紗夜や、桃香のTシャツに描かれたゆるキャラなどの細かい笑いどころも好きです。 沖縄に行ったときの熱気と喧騒、そこから離れてクールダウンしたときの何とも言えないような心地を思い出す作品です。 今後、彼らが美しい海を始めとする素晴らしいロケーションの下で更に絆を深めて行くのが楽しみです。
※ネタバレを含むクチコミです。
ポメラニアン飼いとしては、読まずにいられませんでした。 『こんにちは、いぬです』のじゅんさんが描く、実際にじゅんさんと一緒に暮らしている若いポメラニアンのむっくくんとの生活の様子を描いたフルカラーエッセイ4コマです。 ゾウボールに夢中だったり、「〜する人」という言葉に敏感に反応したり、ドッグランでみなに挨拶して全速力で駆け出したり、前からくる人の買い物袋やキャリーケースをいぬだと思ったり、さまざまなむっくくんの仕草がとてもかわいく和みます。幕間で、時折実写のむっくくんの写真も掲載されておりただただかわいいです。 我が家のポメはポメにあるまじき大人しさでおもちゃ類にもまったく興味を示さないし、食に対してもそこまで執着がないので同じ犬種であっても全然違うなと思うところも多いです。 けど、それでもやはり同じポメラニアン。 ・人間の間に挟まろうとしてくる ・まるいふわふわベッドを与えてもはみ出す ・舌をしまい忘れる ・喜びが限界突破して高速回転しCDになってしまう ・食べ物を少し離れた場所に持って行って食べる ・時々日本語を理解している ・玄関の「ピンポーン」には反応する ・うれしいと耳がなくなる(アザラシ化) などなど、「あるある!」と深く頷いてしまうところが盛りだくさんです。 飼ってない人には伝わらないと思うんですけれど、本当にポップコーンやパンの匂いがするんですよね。肉球の汗腺から出るにおいのようなんですけど、外見も声もかわいいのに匂いまでかわいいってどういうこと? といぬかわいすぎ宇宙にいざなわれます。 「ポメラニアンには″猿期″がある」 というのも、犬が好きな人でないとなかなか知らないことですよね。他の犬種でもこういうことはあると思うので、無限に読みたいし知りたいです。 「ニトウシンフワフワザウルス」などの豊かな語彙力とかわいい絵柄でとても楽しませてくれますが、92ページからの ″「いぬ」それは神秘に満ちた存在 「愛」そのもの″ というフレーズから始まる、いぬという存在そのものを褒め称える件は真理に他なりません。 番外編にじのはしは、いぬはもとより他の動物と暮らしている人や暮らした経験がある人は涙なしには読めないでしょう。 いぬ、いてくれてありがとう。 ときどき大変なこともあるけれど、今のこの穏やかな一分一秒を大事に大切に一緒に生きていきたいです。
「『週刊少年ジャンプ』史上最高のスポーツマンガ」 と言ったら、あなたは何を想像するでしょうか? 『侍ジャイアンツ』、『アストロ球団』、『プレイボール』、『キャプテン翼』、『スラムダンク』、『超機動暴発蹴球野郎 リベロの武田』、『ペナントレース やまだたいちの奇蹟』、『テニスの王子様』、『ホイッスル!』、『ライジングインパクト』、『アイシールド21』、『Mr.FULLSWING』、『黒子のバスケ』、『ハイキュー!!』、『火ノ丸相撲』、『背すじをピン!と〜鹿高競技ダンス部へようこそ〜』etc... 上記以外にもいろいろな作品が思い浮かぶことでしょう。 この『最強の詩』は、それら超名作ジャンプスポーツマンガに確実に連なっていく物語です。 『テニスの王子様』、『アイシールド21』、『黒子のバスケ』、『ハイキュー!』など近年で2500万部を超えるような特大ヒットを果たしたジャンプスポーツマンガの主人公は、共通して背が低いという特徴が挙げられます。スポーツにおいてはフィジカル面で劣るというのは明確な弱点ですが、しかしそんな弱さを抱えた主人公が誰にも負けないパフォーマンスを発揮するからこそカタルシスが生まれます。 しかし、この『最強の詩』の主人公・金山は近年のそういった流れにおいては異端な、恵まれた体格から生まれる(タイトル通り「最強」の)フィジカルを持った主人公です。ただし、本作で描かれるラグビーというスポーツに関してはまったくのど素人という、いわば桜木花道のようなタイプです。 ただ、この金山の無双っぷりが非常に爽快極まりありません。それは従来の『ジャンプ』スポーツマンガではあまりなかった快感です。飛び抜けた才能はあっても、それだけでその競技に精通する猛者には通じない。故に努力して強くなる。それが正道です。しかし、金山はアマゾンの奥地から突然出てきたナトゥレーザのように、田舎から出てきて持ち前のフィジカルだけで最初から日本代表クラスの選手と互角以上に渡り合っていきます。 「完璧な一団(パーフェクト・スカッド)」という、U-15ラグビーW杯優勝チームのメンバーが本作において非常に重要かつ魅力的なキャラクターとなっているのですが、彼ら相手に金山がどこまでやれるのか。何ならその先まで行けてしまうのか。ひたすらにワクワクします。 努力せずに強くなるのは近年の主人公のトレンドとも言えますが、この無双状態は『ジャンプ』で言えばあたかも藤原佐為を宿したヒカルが、名人の子を倒して名だたるプロ棋士相手にどこまで戦えるのかドキドキするような感覚です。 一方で、弱い者が歯を食いしばって立ち上がり強者に対峙して成長するストーリーはサブキャラクターの方に用意されており、そちらはしっかりと濃厚な王道を堪能させてくれます。 選手はもちろん監督にも非常に味があり、ラグビーを全然知らなくてもまったく問題なく楽しめる作品です。 1話を読んで「最高の王道が来た」と感じさせてくれて、毎週読むたびに盤石に良さを積み重ねて行っています。 『ジャンプ+』はおよそ旧来の『ジャンプ』らしくない作品も読切を含めて多数載っているのが特色ですが、逆にこれ以上なく本誌に連載されていてもおかしくない王道スポーツマンガが来てしまいました。 1巻分読めば、この作品の1000万部を余裕で超えていくであろう面白さを感じていただけるでしょう。 そして、未来には「『最強の詩』を読んでラグビーを始めました」という子が日本代表として活躍してくれることでしょう。それくらいのパワー漲る作品です。
夫ですが会社辞めました。から読むのが良いかと思います。続いているので。 バリキャリ母、主夫の父など、それぞれ色んな立場での視点で日常の大変さ、悩み、苦しさ、幸せな時が分かる。 いやー違う環境で育った人が一緒になって、ほぼ365日一緒にいて、価値観擦り合わせながら思い遣って喧嘩しても許し合ってまた前を向いて共に歩いていくってとてもとても大変なことなんだなと再認識した。 子供ちゃんが居て家族の話だけど夫婦の話でもある。 そう、終盤、理恵さんの気づいた通り、気張らなくても無理しなくても良いのだと。 だけど単純なことほど難しく考えがちだな〜。 色々な場面で自分と重ね合わせて読んでしまいました。 また次巻は違う夫婦、家族のお話かな。 #1巻応援
何者かになりたくて何者にもなれない人。 報われないと解っている恋をしてしまっている人。 そうした人を優しく刺し穿つ力のある作品です。 貝塚道子29歳、通称カイちゃんは一流企業の食堂で最低賃金で働くフリーター。絵を描くのが好きで、他に取り柄はなかったけれど褒めてくれる人がいたから自分が存在していいと思えたという原体験を持っている女性。そんな彼女が心の支えにしているのが、その企業で働くイケメンの白鷺洸27歳。彼のSNSの裏アカウントを特定すると、 自分と同じ高円寺住まいであることが解り、こっそり遠巻きに眺めていた日々から、あるとき大きく運命が動き出します。 29歳で体験する初めての恋。すべてが行動力に結びついてしまうような無尽蔵のエネルギーが生まれるのも、ほんの少しの関わり合いが生まれただけで世界がまるで別次元のように輝きに満ちるのも、痛いほど解ります。それらを絵で演出したシーンは最高です。 とにもかくにもカイちゃんがあまりにも等身大の主人公で、弱い部分も狡い部分もたくさん見せてくるんですが、それでも愛して応援せずにはいられないんですよね。多くの人はどこかしらカイちゃんと自分が重なるところがあるのではないでしょうか。この絶妙なキャラ造形でもう勝ってると思います。 好きなシーンやエピソードはいろいろとありますが、特に好きなのはカイちゃんの新たな勤め先の同僚である、29歳の千林くん。彼は音楽の道を諦めずにいて、ある種自分と似た境遇にいる人物。そんな彼に対してカイが口にする言葉。それに付随する想いや感情。人間的な、あまりにも人間的な言葉と心で堪りません。 単純な画力の高低では表せない魅力も絵にあって、何よりマンガが上手いってこういうことだろうと思わせてくれます。こんな素敵な作品を描ける方が、どうして初単行本を出すまでに十数年もかかってしまったのか不思議でなりません。 かわいい絵柄ですが、深奥まで響く鋭利さを持った作品です。2月を代表するのはもちろん、2024年一押し作品にも数えていくことになりそうです。 あとがきマンガの中野ローカルな小話もすごく共感できて好きです。失われゆくものでもマンガの中にだったら永遠に残しておけるという感性が素敵です。
胸に圧迫感を感じてとある診療所を訪れた少女。 しかしそこは片白という医師と謎の黒い布を被った助手が営む、**人ならざるもの専門の診療所**でした。 その診療所で働くことになった少女は、片白先生の診察を通して、様々な異形の存在と出会うこととなります。 この作品はそんな彼女たちの不思議な日常を描く作品です。 岩飛猫さんは『透明男と人間女~そのうち夫婦になるふたり~』や『人間のいない国』など、人間とはちょっと違う存在を描くことが多い方ですが、この作品、特に第1話はこれまでの作品とは少し違う驚きのある展開を魅せるので、まずは第1話だけでも見てみてほしい作品です! 第1巻まで読了
ドラマ化もされた『初恋、ざらり』で一躍有名になったざくざくろさんのマンガは、血を流しながら描かれている印象を受けます。 目を背けたくなるようなしんどさにしっかりと真摯に向き合って、触れると痛みが走るそれをもがき苦しみ叫びながら掴まえて、芯を捉えてくり抜き提示してくる。そうして身を削り魂を削るようにして描いたものだからこそ、読む者の心にも鋭利に爪を立てて掻き傷を残す。そんな作品です。 詳細は違えど、この作品で描かれるうららと似たような状況に立ったときの記憶が否応もなく蘇りました。その子にとって、自分しかいないのは解る。好きでいてくれるのも解る。でも、それに応えてしまうとより深い依存となってその先は底無しの沼が待っているのも解る。そこで適度に距離を取れれば良いけれど、その選択肢は有り得ない。それによって他の繋がりも犠牲にすることも含めて無限にどこまでも受け入れるか、この瞬間に離れるその子を再び孤独に追いやるかの二択。 今ははっきりと問題とされていても一昔前なら顕在化しにくかった父親の行為の気持ち悪さや、それを看過してしまう母親の在り方、それによって家族に味方がいなくなり孤立し傷つく様なども非常にリアルで流石です。 暗澹たる部分が縁となりながら、ある種の美しい煌めきを見せるように結びついていく寧々とうららの関係性。しかし、その最中に寧々の心の中からもたげてくる激しい情動。寧々はそれをどのように扱っていくのか。それを受けるうららは果たしてどうなっていくのか。 心と魂にたくさんの火傷や切り傷を負いながら描かれた重みを味わいたい方にお薦めです。 余談ですが、今日はポケモン28周年だとか。初代ゲームボーイが描かれる1997年という舞台設定が懐かしさを催します。
主人公は高校2年生に進級したばかりの有本あいり。 彼女はギャルのような見た目をしていますが、実は中学生の頃はただのコミュ障なオタクでした。 そのせいで友達が全くできなかった彼女は**「オタクに優しいギャル」に自らがなって“ギャル”としてオタク友達を作る**という作戦を思いつき、 高校入学からキャラ作りを頑張ってついに作戦を実行しようとしているところでした。 しかし、オタクそうな男子に話しかけてみたところ、ギャルへのなりきりに必死過ぎて最新のオタク文化を追えていなかったために中途ハンパな会話しかできずあえなく玉砕。 「オタクに優しいギャル」に自分がなるという斬新なアイデアで果たしてあいりは友達を作ることができるのか、彼女の奮闘を描くスクールコメディです! 1巻まで読了
逃げグセのせいでバイトが長く続かず、ちょうど20件目のバイトを無断欠勤してしまったばかりの「久々原亜久里」(くぐはらあぐり)は、 そんな自分を変えようと、試しに普段と違う方の足から靴を履こうとした次の瞬間、目の前の世界が崩れ始め、気づいたら謎の異空間に飛ばされていました。 そこで彼女が出会ったのは、“時空探偵”を名乗る少女、そして、それぞれ別の時空から同じく飛ばされてきたという6人の“久々原亜久里”でした。 同じ“久々原亜久里”だけど自分とは明らかに違う存在である彼女たちは、何者にもなれずにいた「久々原亜久里」にとってはそれぞれが“自分がなり得た可能性”たちでした。 そんな“久々原亜久里”たちと元の世界へ戻る術を探す「久々原亜久里」を描く作品です。 “久々原亜久里”たちとの接触で「久々原亜久里」の自己同一性が揺らぐと世界が崩れ始めるというSF的な描写も織り交ぜつつ、絵の情報量も格別に多く、1ページ毎の密度の濃さで圧倒しつつそれでも全力でエンタメをしている、1度読めば忘れられないインパクトを残してくれる作品です! 1巻まで読了
カドコミがリニューアルされ、とても見やすく使いやすくなった今日このごろ。アプリのBOOK WALKERもこの調子で使いやすくして欲しいです。 そんなカドコミで短期集中連載されていたこちら。 作者のあらやかわいさんは「絶対天使」や「ゾンビは走らねえんだよ」などでも感情を迸らせる女子高生たちを描いていましたが、この『スーサイドエイジ』も、まさに自身が高校卒業する際に同人誌として描いたもののリメイクだそうです。 第1話 天真爛漫な合田さん 第2話 陸上部の松田さん 第3部 惰性に生きる田嶋さん 第4話 優等生の真田さん 第5話 学校嫌いな金子さんと刈谷さん 第6話 卒業式 という目次を見ていただければ解る通り、概ね1話ごとにメインでフィーチャーされるキャラクターは変わりながらも、同じクラスで共に過ごす女の子たちを描いた群像劇です。 まず、シンプルに絵に惹きつける力があります。スタイリッシュな作画で描かれる女の子たちが魅力的で、特に三白眼になりがちな眼力の強さが良い。個人的な好みで言うと、4話でチラシを配っている金子さんの横顔と、6話の包帯の子が特に好きです。 そして、「女子高生」という特別な3年間が終わるに際して生じるさまざまなものが入り混じって消化不良を起こしそうな感情を若々しさを迸らせながら表現しているのも良いです。人生において、その瞬間にしか湧かないものというのがありますが、この作品にはそれがしぬかりと込めてあります。普通の人であれば、記憶の中から時と共に少しずつ薄らいでいくであろうものがこうして作品として永遠に残る形で留められている。それは、他者が触れれば自身の記憶に呼応して何かしらを呼び覚ます契機にもなり、またいつか歳を重ねて自分で読んだときにはその貴重さを噛み締める類の素晴らしい営みであろうと思います。今の私には、この昏さが眩しいです。 作品の構成もまたとても良く、1冊で綺麗に完成しているのも美しいです。あれだけ楽しい時間を一緒に過ごした友人でも、その裏にあるものをまったく知らないこともあります。努力していた人。怠惰な人。真面目な人。奔放な人。他者に行っていたさまざまなラベリングのその裏は、もしかしたらこんなだったのかもしれないと思わせてくれます。 ウクライナやパレスチナにいる同い年の子の存在を思えば日本に生まれて毎日食べるものや水に困らず今この瞬間に命が消されることに怯えなくてもよく、さまざまな権利があるだけでも幸せなはずです。しかし、たとえひとつひとつ大きな不幸を消していっても残った小さい不幸の大小が隣の人と比べてほんの少しでも大きければ結局不幸だと思ってしまうのが人間。難儀なものです。人間はどこでも幸せになれるし、どこでも不幸になれる。若いころなんて特に今の自分が宇宙のすべてであるのもよく解ります。ああ、苦い。 キャラクターで言えば、容姿的にも関係性的にも金子さんと刈谷さんのエピソードなどはどうしたって好きです。ここを煮詰めたものなども一回描いてみて欲しいなと思うくらいには、短い中に良さが溢れていました。 あらやかわいさん、瑞々しくて初期衝動に満ちていて、これからますますたくさんの傑作を描いていくであろうことを確信できる1冊で今後が楽しみです。
Twitter(現X)で掲載した読切が大反響を呼び、連載化された異色のラブコメです。 40歳の会社員伊丹は、婚活サービスに登録して1年ほど頑張っているもののなかなか良い相手に巡り会えずにいた男性。そんな伊丹に密かに思いを寄せる28歳の部下の園田さんがかわいくて仕方がありません。 園田さんは、自分の友達を紹介するという体で自身が虚無僧の天蓋を被ってコミュ症の「野田」と称して伊丹とのお見合いを断行します。そうして12歳差+相手の顔を見れない状態での不思議なお付き合いが始まっていきます。 『光る君へ』で『源氏物語』が盛り上がっている昨今ですが、かつては滅多に顔を見せることがない状態が普通だったわけで、今の慣習からすると特異には見えますがある意味では回帰的であるとも言えるのかもしれません。 普段会社では常にクールな佇まいである園田さんですが、ひとりになると思考も言葉もヒートアップして暴走していくさまがたまりません。何なら、この作品はそのシーンを見るために読んでいるようなところがあります。がんばれ園田さん、負けるな園田さん! 君に明日はある!! また、そんな園田さんが惹かれる伊丹の優しさと健気が応援したくなる感じで良いです。なぜ好きになっていったのか、どこに愛情が湧いてくるのかという部分のエピソードが良いですね。伊丹はいわゆる子供部屋おじさんではあるのですが、おじさんというものが女性からあまねく嫌われる存在であることを自覚して常に一歩引いたところにいようとする姿に親しみを覚えます。 ただ、母親と同居している家を手放せないなどの事情もあって婚活難易度が高くなっているところがあるのはリアル。もし結婚しても、一回りの年齢差があり特に男性側の年齢が高い場合は老後も気がかりになるのはその通りです。男性も40を超えてくると妊活もなかなか大変なこともあるでしょう。それでも、園田さんと無事に幸せな家庭を築いていって欲しいです。 余談ですが、4話で登場する虚無僧にやたら詳しい主婦が好きです。
ドラマ化もされ大人気を博しながら先日最終話を迎えた『明日、私は誰かのカノジョ』ですが、いわばNEXT『明日カノ』となりそうな風格を感じる作品がこちらです。 女性向け風俗をメインテーマとした群像劇で、最初は小説家の女性・晴海の物語から始まります。中学時代の経験から恋愛に向いてないことを自覚しその時に死んだと思っていた感情が、女性向け風俗を利用することで想像もできなかったほど劇的に蘇っていくさまが描かれていきます。 サブタイトルが「アポトーシス」ですが、晴海の父親が元化学教師であるというところから夜職のマンガでしっかりとネクローシスとアポトーシスが語られるのは面白いです。そうした育ってきた家庭環境を含め登場人物それぞれにあるバックボーンが詳らかに語られていくことで、現実にもありふれていると感じるようなエピソードでも独自の色が生まれて深く入っていけます。 また、晴海を担当するセラピストのアキトはその次の章ではまた別の立ち位置で違う側面を見せてくれます。仕事では誰かの支えになりながら、プライベートでは自分も他の誰かに支えられて生きている。この群像劇ならではのそれぞれのキャラクターの多面性を見せてくれる構成が、夜職などの華やかな面と現実の対照性とも非常にマッチしていて面白みを感じさせてくれる部分でもあります。さまざまな利用者やセラピストを始めその周囲の人物たちを通してそれぞれの物語を見せてくれます。 人間はつくづく幻想に生きているし、それでも幻想によって生きられるのならそれでいいと思います。ただ、幻想を追い求めすぎて幻想を見せてくれる現実の人間に縋り過ぎるようになってしまうと破滅の足音が忍び寄ります。それでも追い求めてしまうのが人間というものですが。強く共感できる部分もあり、共感はできないけど理解はできるという部分もあり。 近年は女性向け風俗がマンガで扱われることも急増してきたと感じますが、この『東京宵街シンデレラ』は最大手の「東京秘密基地」への取材も行いながら丁寧に描かれていることもあってリアリティがあります。 あとがきマンガにその取材の様子も描かれていますが、そこの元オーナーさんの浮世離れしたコメントの数々だけでも面白いです。 東ねねさんの絵もアシスタントの方が描く背景も非常に美しくヴィジュアル的にも人気を得やすいと思いますし、今後実写化などしてブレイクしていくことが大いに期待される作品です。
『ダンジョン飯』や『葬送のフリーレン』や『俺だけレベルアップな件』といった大人気作品のアニメ版でダンジョン攻略が現在絶賛放映中で、先日は弐瓶勉さんの最新作『タワーダンジョン』も1巻が発売し、いまだにTLでは『シレン6』が盛り上がっている世間がダンジョンに湧く今、最高のタイミングで満を持して発売されたこの『冒険者絶対殺すダンジョン』。 昔テクモの『刻命館』というゲームのシリーズが好きでした。普通のゲームは冒険者としていろいろな場所を旅するのですが、『刻命館』シリーズはそうした冒険者のような者たちを含めて侵入者を罠に嵌めて殺していくゲームです。罠によるコンボを作るのが非常に楽しかったですね(第1作はメモリーカードを9ブロックも使うので大変でしたが)。 本作は、まさにそんな『刻命館』シリーズのような楽しみを味わえる道満晴明さんの最新作です。 トラック事故で死ぬと冒険所に、落ちてきた飛行機のエンジンに潰されるとダンジョンのフロアスタッフに転生するという世界で、見事に飛行機のエンジンに潰されてしまったナハトとアイネのふたりが主役となり、毎回さまざまな方法で冒険者を待ち受けたり逆に自分たちが死んで復活(リスポン)したりする物語です。 道満晴明さんらしい、あっけらかんとした下ネタ(サキュバスに前立腺の位置を教えてもらったり、MM号が出てきたり)やメタさ(冒険者がエリクサー症候群で使わなかったエリクサーを回収して保管していたり、「ここだけSNSに拡散されたらやべえ奴〜〜」というセリフだったり)が随所に出てくるのも流石で好きです。マンドラゴラの描き方や設定ひとつとっても、これぞ道満晴明さんと膝を打ちます。 また、特に6話や14話などは短編で設定を活かしながら巧く落とすのが得意な美点もよく出ています。最後にブレイバーンのような最新のネタまで放り込んでくる辺りも流石です。 かわいい絵柄でありながらそこそこエロスとバイオレンスが盛られていますが、その辺り込みで美味しく食べられる方にはお薦めです。
『グリーングリーン』、『私立アキハバラ学園』、『CARNIVAL』、『グリザイアの果実』などのフロントウィング作品や『神様家族』、『南青山少女ブックセンター』などでも知られる桑島由一さんが原作、『オヤマ!菊之助』の瀬口たかひろさんが作画を担当する作品です。 昨シーズンは『16bitセンセーション』が放映されさまざまな郷愁に駆られていましたが、昨日は『同級生2』のリメイク発売が発表され『夜勤病棟』リメイクが発売。『ヘブンバーンズレッド』は『Angel Beat's』との第二弾コラボで盛り上がっており、往年の界隈の熱が現代にも感じられることに目を細めます。 田中ロミオさんや丸戸史明さんなど強い作家性を持った方々もマンガ原作という形でも活躍する昨今、桑島由一さんも参戦してきたのは熱いです。 1ヶ月前に天からの啓示を受けて、悪と戦う正義のヒーローとなった3人の少女たち 「シールド」の渚楓花(ふうか)。 「スピード」のジュリ。 「パワー」の奏音(かのん)。 そして、彼女たちを統べるアルペジオ。 しかし、悪の組織"髑髏団"のボス・ダークスカルの圧倒的な力に完敗した後、名前や衣装にダメ出しされ説教を受けてしまいプロデュースされることとなります。 ダークスカルがなぜ、敵である彼女たちに手を掛けて強く鍛え上げるのか? その裏には確固たる使命と目的があり、さらにその部分にもさまざまな裏がありそうで、類似する要素を持つ他の作品群との差異化が図れています。この辺りはやはり別の畑で長年経験を積んできた方々特有のセンスと地力を感じさせてくれるとことで、大きな見どころとなっています。冒頭にとんでもないカットバックがありますが、それが夢オチ的なものでないとするならそこに至る関係性の変遷などの過程、その前後も楽しみです。 また、細かい掛け合いにも味があります。 「神話からの引用はもうお腹いっぱいなんですぅうぅう!」 「七つの大罪もだ」 「タロットカードとチェスからの引用もな」 「不思議の国のアリスもです!」 というメタい会話など、好きです。 なお、キャラで言うと私は当然奏音ちゃん推し。世界の半分を敵に回すことを覚悟で言うと、奏音ちゃんには常にメガネを外して髪を下ろし黒髪ロング状態でいて欲しいです。ひとりだけ効果音にやたら「むち♡」「むちちっ…」と付けられる彼女の体の描き方は、瀬口たかひろさんの精髄を感じます。一方で、彼女たちの能力を発動する際などの気合の入った作画は迫力満点です。 巻末で「続巻は怒涛の展開」と言及されており、今後のストーリーがとても楽しみです。
普段は意識せずごく当たり前のものとして享受していることが、少し時や場所が変われば当たり前ではないということはままあります。本作は、日本でデビューを目指すBL作家を通してそういった当たり前の大切さを気付かせてくれる作品です。 小6で男性同士の恋愛シーンに出逢って目醒めた主人公・夢言(ムゲン)。26歳になった現在もBLを愛好し漫画家として活動しているものの、中国国内において表向きBLは禁止されている状況で、担当編集にもBLを描けないとダメなら切ると言われ本当に好きなものを堂々と描けない苦しみを受けます。 かつては好きなようにマンガを描いてpixivにアップロードしていたものの、国の規制でブロックされてしまいVPNを使っても繋がらないことが増えてしまったという現状。 しかし、そこに日本の編集者からのメッセージが届きます。それと同時に、かつて自分の描いたマンガを破り捨てた幼馴染の致遠(チエン)との縁談が持ち上がり、夢言の運命は一気に加速していきます。 日々さまざまなマンガやアニメ、ゲームや小説、映画やドラマなどに触れている私たちですが、日本に住んでいると政府による検閲や表現規制、インターネット規制がごく当たり前に行われている社会がすぐ隣にあるということは忘れてしまいがちです。アジアを見渡しても、まだまだ各種表現への規制は厳しいところが多いです。 それらは決して対岸の火事ではなく、一歩間違えれば日本もこれから同じようになっていってしまう可能性があります。さまざまな理由で表現を規制しようとする人と、たとえ自分が嫌いなものであったとしても表現の自由は守ろうという人が日々鬩ぎ合っています。 街の書店でBLマンガを買って読んで、同じものを好きな人とネット上で知り合い語り合う。日本人なら当たり前のようにできるそのことが、どんなに難しくて稀有なことなのか。逆に言えば今この日本における状況がどれだけ恵まれたものなのか、ということを改めて思い出させてくれます。 この作品は、作者の史セツキさんが自身の体験も基にして描いているので、日本の作家ではなかなか出せないであろうリアリティが随所から滲み出ています。 興味深かったのは序盤の「双親角」。子供を結婚させたい親同士が互いの子供について情報交換をする場所のエピソードです。そこでは年齢・身長・卒業大学・仕事・年収が訊かれる様子が描かれているのですが、こういう場でも身長が特に重要なステータスとして出されるのだなぁと。中国人は面子を重んじるので身長も高いことが尊ばれ男女問わず身長が低いと侮られやすいとは聞いていましたが、特に女性に関してはそこまで身長を気にすることはない日本人からするとなかなかの文化の違いを感じさせられます。 『魔道祖師』などのように、国境を越えて大人気を博していく作品がこれからますます生み出されていくことでしょう。しかし、この作品の夢言のようにそれが叶わず苦心している人も世界にはまだまだたくさんいるはずです。そうした人たちが堂々と自身の才能を世に発していけるような世界を作る一助になるために、より一層仕事を頑張りたいと思わせてくれた作品です。
『私の愛した母の恋人』の須野ゆき子さんが描く、クーデレ女子と冷え性男子のオフィスラブです。 早い、強い、かわいい。 三拍子揃っている理系女子の日向こはるは、いわばクーデレ界の吉野家です。 まず、早さについて。本作は展開がとても早いです。自分にはない社交性を持っていて周りを明るくすることのできる蒼井涼介への秘かな憧れが結実して、1話からこはるはデレを見せてきます。友人・同僚以上恋人未満の期間特有のもだもだ感を長く楽しみたいという方には向かないかもしれませんが、その分熱いイチャイチャを長く楽しむことができます。 次に、強さについて。27歳化学メーカー勤務のこはるは、昔から一人で勉強や研究に没頭していたタイプで人とのコミュニケーションに難があるタイプです。それ故に、恋愛についても疎い。理系女子として面倒くさい思考もしがち。しかし、だからこそ距離感がバグっていて強ムーブをしてしまうこともあります。通常だと女の子が冷え性で男の子がそれを温めるのが定番ですが、逆であるのも面白いです。1度燃え上がると実は激しいこはるの強火のデレをたくさん味わうことができます。中学生のような恋愛でありながら、大人なので健康的にやることはやる熱々さが良いです。 そして、かわいい。シンプルに須野ゆき子さんの描く女の子がかわいくて、ここぞという決めシーンでの表情が好(ハオ)なのはもちろんなのですが、社内でのイメージと実際のこはるのギャップはクーデレの真骨頂。おまけマンガなどでも非常に積極的ですが、不器用さも残したこはるの様子がたまりません。初々しくも大好きムーブを連発するこはるのかわいさを堪能してください。 クーデレヒロインが好きな方、理系女子の恋模様を見たい方にお薦めです。
女性向けファッション誌の編集部で日々激務をこなす緒野ひよりが主人公の本作。 いきなり枝葉の話なんですが、主人公が読んでいて非常にかわいそうなんですよ。メインの恋愛面ではなく、サイドの仕事面において。 ひよりは文芸志望で出版社に入ったもののまったく畑違いのファッション誌に配属されて、 「こんなところにいたって誰かの心を動かす仕事なんて出来るはずもない」 と思いながら仕事をしているんです。こんな悲しいことがあるでしょうか。 私が受け持っている連載の「となりのマンガ編集部」の取材やそれ以外でも、「本当はマンガ志望ではなかった」あるいは「本当はマンガ編集になりたかった」「マンガ編集にはなれたけど希望する雑誌ではなかった」という方に数多くお会いしてきました。結果的に上手くいっているパターンも多いですし、たとえば伝説の編集者である壁村氏なども元々マンガなど一切読まなかったといいます。ただ、それらは生存バイアスでしかないとも言えるかもしれません。 何十年も昔からずっとこのシステムが続いているのは、個人的にはすごく不思議です。どう考えても自分の好き・得意を活かせる部署に行ってもらった方が三方よしではないでしょうか。 作中で、編集長が主人公に ″文芸も女性誌も全くの別物ってわけじゃあないの 目の前の読者のために作るのは同じ 一度本気でやってみたらきっと面白さもわかるわ″ と諭す良いシーンがあり、また思い人にも ″きっかけ次第で変わることってあるよね″ と重ねて言われます。 しかし、しかしですよ。仮に本には年間で数十万円課金しているけどその分服飾代に年平均1万円もかけず「チュニックって何? シュミゼットって何?」というレベルの人間がファッション誌に行ったとして、まるで興味を持てない対象に対してどんな仕事ができるのかと。 逆も然りで、文芸やマンガにまったく思い入れがない方がその編集部に配属されて作家やアシスタントや関係者と揉めて大きな問題に発展してしまうケースも少なくない気がします。 どんな仕事も本気で取り組めば見えてくるものは確かに多いとは思いますし、さまざまな知見は別の場所でも生きるのは解りますが、それでも文芸に詳しい人には文芸を、マンガに詳しい人にはマンガを担当してもらった方が読者のためにもなるのではと。 同じマンガ編集部であっても、例えば『アフタヌーン』と『なかよし』ではまったく違いますしね。そういう点では、白泉社などは新人は必ず行きたい部署に行けるシステムがあるそうですごく良いなと思います。 ものすごく脱線しましたが、冒頭からスタイリストさんに朝まで詰められる主人公が本当に不憫でならないのです。 本筋は歳の差ゆえに破れた片思いが記憶喪失という事件を通して蘇り、ひとつの嘘をついて危ういバランスを保ちながら進んでいくハラハラ感と恋のドキドキの二重奏の引きが強いです。 また加瀬アオさんの絵がとても良くて、全体的にすっきりと読みやすくありながら女子はかわいく男子は格好よく、適度なデフォルメ部分も愛らしいです。文字が詰まっていても気にならないほどネームも読みやすくて、今後ますます人気を博していかれるでしょう。 シンプルにエンターテインメント性が高い恋愛ストーリーで、仕事面でも恋愛面でもこの先が気になります。