デビューから散々なプロ棋士は実は神様に勝ちたい
※ネタバレを含むクチコミです。
【デジタル版限定!「少年ジャンプ+」掲載時のカラーページを完全収録!!】世間では上方五段の連勝記録で盛り上がる中、自らの将棋に自信を無くしてしまった大刀遥一郎。念願だったプロデビュー戦での敗退で何かが変わってしまった。調子が上がらず負けも続き、更にはプロ棋士引退の可能性も出てしまうが…!? 『本当は誰にも負けたくない』 自らを“凡人”と決めつける棋士と、目の前で燦然と輝く“神様”。そして彼らと同じ時代を生きる人々の物語が始まる。
『バンオウ―盤王―』を激推ししている私ですが、『ジャンプ+』でまた新しい将棋マンガが始まったときは驚きました。
題材が被っているけど大丈夫かな? と私含め多くの人は思ったことでしょう。しかし、そんな杞憂を一瞬で払拭する面白さがこの作品にはありました。
要素としては色んな作品のエッセンスを感じますが、総合するとかなり独特な読み味です。とにかく1話から主人公の大刀がゆるい。
「スマートスピーカーのやること少なくね⁉️︎ 電気消す仕事ってなんだよ……
お前一日中家にいるのに仕事それだけかよ
オレだって電気消す仕事のほうがいいよ……!」
などの独特のセンスによるギャグパートが分量的にもかなり割かれているのですが、面白くて好きです。その後、更に発展するスマートスピーカーのやり取りは声を出して笑ってしまったほど。
チョコチップも大納言あずきも食べたい気持ちを抑えられず、翻訳サイトみたいな喋り方になる田原先生なども好きです。
一方で、そんな笑いと並列にゾクっとするような棋士の狂気や、対局の熱さも描かれます。
2,3話まででも読めば、この作品の上手さは存分に伝わるでしょう。
「一番を目指す気持ちが無ければ
こっちに来ちゃいけないよ」
と田原先生が桜吹雪の下で語るシーンの
「一番になれないと苦しい
なるまでも苦しい」
という言葉。そこまでは、そうだろうと納得できるでしょう。しかし、それに加えて
「なれたとしてもずっと苦しい」
と言い切ります。そうまでして、何のために一番を目指して指し続けるのか。
その件を受けての3話。
他者を見下す村井が、「奨励会という箱の中」で苦しんだ末にいつしか将棋のことがただの仕事になってしまい、最後に大刀との差異をはっきりと自覚して吐露するシーン。
それぞれ単体のシーンとしても良いですし、2話からの3話という構成としてとあまりにも綺麗で、そこからはもうずっと大好きな作品です。
その後の老練な棋士とのプライドのぶつけ合いも熱いですし、異能ひしめく棋界の魅力的な登場人物もどんどん出てきて盛り上がりを見せてくれます。しかし、そんな強者たちの中にあっても主人公が埋もれない魅力を持っているのもすごいです。
笑えて、滾れて、震える。
毎回、次を早く読みたくて仕方なくさせてくれる注目の将棋マンガです。