その町は川の流れのように
明治時代の作家、国木田独歩は、その昔より、壮麗な原野として、ひろく「武蔵野」と呼ばれ、伝聞されてきた、東京とその近郊の一帯をみずからの足で練り歩き、いまや生活と自然とが一体となり、雑木林のそこここに生い茂る、その当時現在の武蔵野の地をみずからの目で再定義し、その美しさを随筆『武蔵野』に書き記しましたが、どうやら、古地図大好きガールちづかのやっていることは、独歩にずいぶんと近いのではないでしょうか。 ちづかは古地図という飛び道具を使い、みずからの目で、あの街やこの町から、些細な、でも、とっても喜ばしいちょっとした出来事を発見します。古代人のみた武蔵野も、独歩のみた武蔵野も、ちづかのみている現在の東京も、そして、これから先のあの街やこの町も、それらの風景は川の流れのように絶えず変化をして、あとには残らないけれど、それでもひとつ変わらないことがある、それはみずからの目でものをみて、そこから些細な、でも、とっても喜ばしい何かを感じとることのできる人間の心だとおもいます。
『講談社無印版』の続編がこちら『小学館版全三巻』。古地図を愛するちづかは、祖父や友人に触発されて、東京+αを歩き、その土地の記憶と共に、色々な世界を知ります。
若干、講談社版のちづかより積極的かな?彼女独特の『面白がる』能力で、どんどん新しいものを吸収するようになります。
美大の先輩、元気な犬、古典芸能+甘味好き同級生、相撲好きの親友、イケメンスイーツ同級生、天文台好き小学生……彼らの専門性にちづかの提示する土地の記憶を掛け合わせると、互いにとっての新発見が生まれます。
特に複数回登場する従姉妹のりんちゃんの、小学生離れした勉強量と、ちづかの地形感覚が合わさると、そこには古の風景が広がり、心踊ります。
一方、隣人とのドライブのナビでは、地図作りとリサーチで徹夜した結果、失敗してしまったりもします。
そういった経験の集大成として、ちづかが後輩の為に、来日ミュージシャンの東京観光を特定・再現する時……あれ、これって『尋ネ人探偵』じゃん!となるのです。
講談社版で一度手放した試みが、復活する驚き!
ここに至るまでのちづかの積み重ねを、様々な東京+琵琶湖、高野山、坂越(兵庫)の発見と共に、楽しみたいところです。